Record:32 対決!始龍スタルドラ
スタルドラ。よくやった。
お前のお陰で、ヴェルニトリアを滅ぼすことができた。
たった一機で数十隻の軍艦を沈め、数百の戦車を正面から粉砕し、数千の爆撃にも耐え、百万の命を血の海に沈めた。
お前は最高傑作だ。実によくやった。
だがまだまだ人間は生きている。
お前にはもっともっと殺してもらう。
よりもっと洗練させ、よりもっと多く殺せる武器を載せる。
人間どもも学習してきているようだが、俺の子のほうがもっと賢い。
お前のほうが、さらにもっと賢い。
眠れ。お前の傷を癒し、また戦場に連れて行ってやる。
すべての人間どもを。十億を超える人間どもを。
人族、妖精族、紋様族、呀獣族、魚鱗族、風詠族、甲蟲族、龍燐族、妖魔族、そして始天族。
もっともっと…たくさん殺そう。
一人残らず、すべて、何もかも殺し尽くそう。
たとえ何年かかっても、何十年かかっても、何百年かかっても。
千年が経とうとも、奴らが生きている限り―――
安寧は永遠に訪れないことを教えてやれ。
それがお前の存在価値であり、
魔竜スタルドラの名を冠するお前の役目だ。
『ヴォルルルドララァァァッ!!!』
黒い機巧兵が大地を震わせ吼える。
そのカメラアイが雪原の間から顔を出したおれを認識した途端、ギラリと輝いたような気がした。
「―――っ!!」
ただの機械のはずの奴のカメラアイからは………明確な殺意が込められていた。
あの瘴気とともに、奴はこちらへ完全にターゲットを変える。
「!?」
それまで戦っていたレッドやクルーガーたちに完全に目にもくれなくなり、ガンギマリでこっちを睨んでいる。
やはり明らかにあの機巧兵はおかしい。
奴の頭上に浮かぶ輪。あんなものは原初の機巧兵にもなかった。
しかしそこから放たれる瘴気。それをおれはよく知っている。
………あれは、呪いだ。
あの大穴の向こうで水の真理石をその檻に閉ざしていた―――
【闇の王】の腕だ。
偶然じゃない。もしそうならおれにだけあれほどに反応する理由、辻褄が合う。
なぜならおれはここにいる人間の中で奴の瘴気を目で見ることができて、そして太古の邪神【破壊神】の残穢を体感していた。
あの機巧兵とおれが触れてきた【破壊神】の残穢。
そのルーツに関係がないわけがない。
奴はひとりで起動したんじゃない。
あの【闇の王】の腕によって起動させられたんだ!
おれは深呼吸をし、蒸気の立ち上る雪原の上に佇む奴を睨む。
「―――うぉおおおっ!!!」
『ゴァアアッ!!!』
おれと機巧兵は互いに互いの方向へ向かい合って走る。
「ショート!?」
「もう回復したのか…しかしなんだ、突然奴の動きが変わったぞ!」
周りの人達も突然行動のルーチンを変えた機巧兵の動きに困惑しつつ、現れたおれの動きに合わせて体勢を立て直してくれる。
まだ痛みも怠さも残っている。おれの身体は万全じゃない。
そんなおれが奴に対してどう動くか。おれの目はアレを捉えている。
そう、あの機巧兵が有効打を持たない―――リバティを!
『ゴァアッ!』
その恐ろしく早いキックが放たれ、再び命を刈り取ろうとする。おれは全力で加速させた思考で、その動きの軌道を読む。
「ぬぅおおお―――!!」
キックを外した機巧兵は即座に迫撃砲で撃ち出す。
全力で回避に意識を注ぐおれは、おそらくおれの直前の動きから偏差射撃をしてくることを見越して急制動を掛けて反対方向へ飛び込む。思った通り、奴は超正確な偏差射撃を行い、おれが直前まで移動していた方向へ的確にその砲弾を撃ち込んだ。
最適なタイミングで回避に成功したおれは、回避に跳躍したその勢いを使ってカメラアイの方へ肉薄する。
10メートルの高さにあるカメラアイは、しかしおれの直前の動きに一切惑わされずガッツリとこちらを捉えている。
カメラアイ前方についている機銃がこちらへ弾をばらまく。空中にいるおれは回避機動を取ることができず、障壁を張ってそれを防ぐ。
ドガガガガガガッ!!
機銃の弾幕すべてをなんとか弾き逸らすことに成功する。
おれは空中に床を作り、空気を蹴って飛び込む。原初の機巧兵との戦いを経た経験をフルで活用し、そのカメラアイへ真月を打ち込む。
八岐式剣術、弌閃!
ガキィイインッ!
火花が散り、おれはそのまま奴の攻撃範囲から全速力で走って逃れる。
効果はどうだ…くそっ、ダメだ! 全然効いてない!
真後ろにまでグリングリンと元気よく回り込んでおれを見逃さないカメラアイ。
奴はジャンプして超高速でその身体を回転させこちらへ向き直る。
そしてバカリとその顎を開き、巨大な黒い目玉を見せた。
またビームだ!
機巧兵はほんの一瞬だけ黒い光を溜め、即座に小さな黒いビーム砲を4回連続でぶっ放す。
パパパパウッ!!
うぅっ!
なんとか回避し全て直撃を免れたが、爆風をもろに食らう。まだ治りきっていない傷が痛みを訴える。
くそっ…今は痛がってる場合じゃねえんだよ!
「ショートを援護しろ! 突っ込め!!!」
「うらぁああっ!!」
後ろを見せた機巧兵へ、レッドが強烈に打ち付け、そこへクルーガーが槍で突き刺し爆破する。
しかしよろけはするものの、一切その装甲にダメージはない。そして奴も馬のようにふたりとも後ろ向きで蹴り飛ばした。
「がぁあっ!」
「ぐぅあっ!!」
あまりにも凄まじい速度で放たれた蹴りを彼ら二人はまともに回避できず、もろに受ける。
「レッド! クルーガーっ!!」
今の入り方はマズイ、確実に戦線離脱確定だ…!
ふたりとも勢いよく吹っ飛んでいき、雪原の向こうへ消えていく。
「ハリスさん!」
「ヤバイよショートくん、もうだめかも知れない!」
場に残る前衛はこれでおれ、ハリスさん、ジダゴの三人のみ。こんな布陣じゃ、10分も保たねえ。
「ハリスさん、ジダゴ、ふたりとも後ろに下がってくれ!」
ハリスさんはともかく、ジダゴは後ろにいてもらなければ確実に死ぬ。いくら頑丈でタフなあいつでも一瞬でミンチになる!
「ショート、オレだって―――」
「ゴタゴタしてる場合じゃねえ、早く離れろ!」
『ヴォオオオッ!!!』
奴が再び顎を開き、黒い光を溜め込み始める。さっきの4連発より長い…大技だ!
「早く離れろーっ!!!!」
おれはジダゴを蹴って後ろに吹っ飛ばし、ハリスさんの腕を引っ張って後ろへ倒しそのまま前へ駆ける。
「ショートっ!」
「ショートくん!!!」
くそっ、間に合うか!?
奴の溜め込んでいる黒い光が完全にあの目玉の中に収まる。
来る!
「―――うぉおっ!!!!!!」
腰を大きく落とし、脱兎のごとく大きく跳躍し超速で奴の攻撃予測地点から全力で回避する。
その直後、おれがいたところを奴の放ったビームが襲う。
ズドオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!!
駆逐艦を貫いたときのものより遥かに高い出力の黒いビームが、雪原に直撃し、凄まじい水蒸気爆発を起こす。
強烈な衝撃波がその一帯を襲い、おれたちみんな勢いよくふっとばされた。全力で回避を取ったおれも、ビームの着弾地点から数十メートル以上も離れていたジダゴたちも、一気にみんな吹っ飛んでいく。
あんな短い溜め時間で放ったビームが、なんて威力をしてやがるんだよ…!
怒涛の圧力の変化による二重の衝撃と、蒸気をまとった熱風がおれたちを襲う。
くっ熱いっ! 息できねえ…!
このクソ寒い北極の大陸雪原の雪を一気に水蒸気にまで変え爆発を起こす熱量だ。その圧力や温度の変化も普通の爆発とはまるで違う。
こんなのとまともに戦えるわけがねえよ。
バチャッボチャン!
完全に融け尽くし、泥濘化した大地におれたちは叩きつけられる。ぐっしょりと濡れて泥とともに雪を吸った服が急激に重くなる。
うぅっ…痛え…!
癒えてない身体に何度も何度も叩きつけられる衝撃。それに身体は悲鳴を上げる。
それでもあのまま寝ている場合ではなかった。
あのまま寝ていたら、おれもろともテルシア、ウルも一緒に爆殺されている。
くそっ、援軍はまだ来ないのか!?
あと何分で来るんだ!?
思考速度を高めている都合上、何十分にも及ぶ時間の中で戦闘しているように感じるが、現実ではウルの回復で目覚めてからたった数分しか経っていない。
ダメだ、どうやったってあと数分が限界だ!
このままじゃ…!
ドォンッ!
!
こちらへ歩いてくる機巧兵のカメラアイが突然爆破する。
違う、なにか爆発物がぶつかって爆発したんだ。
「あっ―――!」
その方向を見れば、リバティが雪原の丘の上から砲身のみを覗かせているのが見えた。隠れていたのか!
煙の中から奴が現れる。カメラアイに直撃したはずだが、有効打になっていない。戦車砲弾の直撃でも無理なのかよ!
貧弱なアームでカメラアイを支えていた原型機とは違って、こいつのカメラアイを守っている装甲は凄まじく分厚い。
原型機になら通じたであろう弱点が、こいつにはない。
本当に戦艦の主砲による攻撃に賭けるしかない。
「あれに―――賭けるしか……!」
おれは真月を握り、もう一回相対する。
ジダゴとハリスさん、あのふたりもさっきの衝撃から戻れていない。
この場にはもう、おれと………スカリスしかいないようだ。
おれたちが生きてこの閉ざされし北の大地から帰れるか。
それが、この一瞬で決まる。
最後まで戦え、抗え。
諦めるには、まだ早い!
「うぉおおおおっ!!!」
戦車の砲撃を食らってなお、そのカメラアイはずっとおれを捉えて離さない。
なら、おれは回避に専念する。
大丈夫だ、直撃さえもらわなければ良い!
『ヴォルルルルァッッ!!』
ライフル砲が火を吹き、高速の貫徹弾がこちらへ撃ち込まれる。当然、狙撃銃による弾丸なんかよりずっとずっと速い。
それでも、発射の予兆を捉え、撃たれる前に全力でその軌道を先読みして回避する。爆発しない分迫撃砲弾よりははるかにマシだ。
続いて迫撃砲弾と機銃による弾幕がおれを襲う。それもおれは全力で回避に集中し無事に成功する。
おれは奴の股下に飛び込んでくぐり、その間際真月を脆そうなところに打ち込む。当然傷はつかないが、それでもやらないよりマシだ。
奴の後ろ蹴りを予測し、急いでその場から離れる。思った通り後ろ蹴りが発動するが、ギリギリその範囲からの脱出に成功する。
そして、それで隙が発生したそこをスカリスの戦車砲弾が狙い撃つ。煙の中から奴は無傷の姿で現れる。
向こうを倒せる手立てはこちらにはないのに、向こうはこちらを瞬殺できる。ほんの一瞬でも気を抜けば死ぬ。そんな鬼畜な泥沼攻防が永遠とも思われる程に続いた。
それでも、それでも!
おれは何度も何度も回避し、その間際に奴の脚に何度も攻撃する。
『ゴァアッ!』
「うわっ!」
執拗に脚を攻撃されていることにイライラしたのか、地団駄踏みを連発し始めた。くそっ、こいつにもレッドの言う通り学習機能がついてやがる。
巨大な脚が何度もおれのいるところを執拗に踏み荒らす。撒き散らされる泥とそれに混じった融けた雪が著しく視界不良を起こす。
凄まじい速度で大地を耕す大脚を掻い潜り、その範囲から逃れる。さらに追撃として機銃と迫撃砲弾が飛び込んでくるが、それを予め予測していたおれはそれも回避する。
ズガガガドォオンッ!
痛っ…爆発の破片をもらった!
右足の太腿に迫撃砲弾の破片がひとつ食い込み、肉をえぐる。その強烈な痛みがおれの着地にタイムラグを生んでしまう。
ヤバい…ライフル砲がこっちを向いている!
さっきみたいに雑に照準して撃とうとはせずに、最後の最後まで予測を重ねようと狙いをつけた機巧兵。まずい、次はどう回避しても当たる!
うぉおおおおおっ!!
バガァッ!!
超高速で回避不可の弾丸がこちらへ撃ち放たれた。確実に殺すため、その弾道はしっかりとおれの首、胴体付近を狙っていた。直撃を食らえば俺の体は確実に木っ端微塵だ。
限界まで思考を加速させ、その弾道を解析しそいつを防ぐための手段を模索する。
それは即座に解へ導かれ、おれは真月の切っ先を砲弾へ向けた。刃の横腹で砲弾を切らずに逸らす。
超高速で放たれた砲弾の質量を受けた真月の刀身はぐにゃあ、と曲がり始めた。それでもおれは真月を信じ、全力で手首と腕に力を入れ、上へ弾き逸らそうとする。
凄まじい勢いで火花が大量に散り、砲弾は真月の刀身の形に沿ってその弾道を歪めた。
うぉおおお―――!!!
バギィイインッ!!!
ライフル砲弾を弾き、防御に成功する。超速の質量砲弾を弾いた衝撃が左腕全体を不能にする。くそっ、骨がまた折れた! 痛え!!
『ゴルラルルァッ!』
奴はもう一度顎を開き、また黒い光を溜め始める。
スカリス、頼む、今撃ってくれ!
ズガァアッ!
その溜め込んでいる顎の中へ、すかさずリバティの主砲弾が叩き込まれた。よし、これなら…!
『ヴルルルル…!!』
なっ―――チャージ攻撃を中断してねえ!
嘘だろ、開口部まで効かねえのかよ!
おれは痛む脚に無理矢理力を込め脱兎のごとく回避運動を取る。だが疲労も積み重なった足の動きが看過できないほどに遅くなってしまっている。
足が引きちぎれそうだ…!
それでも無理矢理走る。やらねば死ぬしかない。
「ハッ―――ハッ―――!!」
ダメだ、遅い。遅すぎる。
回避が間に合わない………!!
「硝斗くん!!!」
「ショート!!!」
最後の最後に、まだ戦える状態の人が立ち上がった。テルシアとウルだ。
テルシアは最大限に大きくした火球を、ウルは光の矢をそれぞれ機巧兵へ打ち込む。同時に、リバティも再度戦車砲弾を撃ち放った。
奇跡的にタイミングが一致した三者同時の攻撃により、奴は大きく仰け反った。
明後日の方向へ無理矢理向かされた機巧兵は、遥か空の彼方へ黒いビームをぶっ放した。
ズビュウウウンッッ!!!
黒い線が空を裂く。光線は完全に外された。
それにもかかわらず甚大なエネルギーによるその衝撃波は健在であり、空気を震わせ威圧し、おれたちを怯ませる。
雪原の方にでも直撃してまた水蒸気爆発を起こされるより遥かにマシだが、それでもこれほどの威力をスカでも放つとは…!
「はぁ、はぁ、はぁ、…!」
大きくよろけた機巧兵。おれはそれを見逃さなかった。
いまので奴の体の一部に火花が散った気がする。
股関節部分………そこを見ると、パイプが切れてぶら下がっているのが見えた。
………あんなものはさっきまでなかった。
ダメージだ。ダメージが蓄積している!
「みんな、脚だ! 脚の付け根を攻撃しろーっ!!!」
おれは全力で叫び、そこを攻撃しろと命令する。
「うてえええええ!!!」
真月に結晶による刃を纏わせ、それを放って叩きつける。
『ゴルルゥ…!』
明らかに大きく怯んだ。上手く脚が動いていないんだ。
「いける、いけるぞ!」
「みんな立ち上がれ!! ありったけの攻撃を叩きつけろーっ!!!」
それまで倒れていた仲間たちも、瀕死の重傷ながらも無理矢理立ち上がり、攻撃を行う。
「うぉおおおおっ!!!」
「うらぁああっ!!!」
「どりゃああああっ!!!」
テルシア、ウル、ジダゴ、レッド、クルーガーの攻撃が次々と炸裂する。そこにリバティもありったけの兵装をぶち込む。
『ゴァアッッ!!』
もはや立っていられないほどの衝撃にやつはまともにこちらを狙えず、ライフルや迫撃砲、機銃をフル稼働させるも姿勢が全く安定せずおれたちには一切当たらない。
そして、ついにおれたちは奴の片足を破壊することに成功した。
バキイイイッ!!!
『ガォアアッ!!!』
根本からもげてしまい、片足で支えることもままならず奴はとうとう倒れた。凄まじい焦りを表すかのようにカメラアイがぐるぐる回っている。
「やったぞ!!」
やっと倒した!
あのままならこちらをまともに狙うことなんかできねえ!
そして、そうなった機巧兵が取る手段はおそらく………ひとつしかない!
「自爆するぞ! 離れろーっ!!!」
おれとクルーガーは最後の手段として機巧兵が自爆の手段を取ることはすでに経験した。
「みんな逃げろ!!!」
全速力でおれたちはその場から逃げる。
『ヴルルルル……ゴルルルァアガァアーーッ!!!』
しかし奴は自爆という選択を取らなかった。片足だけで姿勢をなんとか整え、顎を再び開く。
くそっ、あの野郎………固定砲台化しておれたちを最後まで攻撃する気だ!
パウッ!!
パパウッ!!!
奴はビームを短く溜め、細いビームを連発する。不安定的な姿勢から放たれるそれは、全速力で距離をとって離れるおれたちにはなかなか当たらない。それでもその地点に巻き起こされる爆風だけは回避のしようがなく、みんな少しずつダメージを受けていく。
普段ならなんともない衝撃波だが、みんなもうボロボロの瀕死の重傷だ。少しでもまともに食らえば死ぬ。
「うぐぅ!」
「ハリス、馬鹿野郎早く走りやがれ―――ぐぁっ!」
「この野郎、まだ足掻きやがる…!!」
『ヴォオオオルルルルガァアアッ!!』
最後までその殺意の炎を絶やさず、機巧兵はカメラアイでおれたちを睨みつける。奴は連発をやめ、長いチャージに入る。くる、超絶威力の極太ビームだ!
もうかわしようがない。おれは全速力で泥濘化した不安定な地面を懸命に走る。はぁ、はぁ、もう体力が限界だ…!
『ゴルルルルルル…キュルルルルルルル…!!!!』
これまでにないほどにエネルギーを溜め込んでいる。唸り声にも似た駆動音が、凄まじいエネルギーを取り出そうとその音を高くしていく。
そして、限界が近いであろうその溜めが近づいたとき、奴はその身体を大きくひねった。
何だ、何をする気だ!?
『ヴガァオアッッッ!!!』
機巧兵は明後日の方向へビームを撃ち放った。
いったいどこに向けて撃って―――あっ!?!?
奴はビームを吐きっぱなしのままその首をグルリとねじ回した。
それに追随してビームもぐにゃりと形を曲げ、おれたちの方向へ向かっていく。
あの野郎………!!
広範囲をあのビームでの薙ぎ払いで焼くつもりだ!!!
だめだ、間に合わない!!!
『ガアアアアーーーーーッ!!!!』
ズドドドドドドドドドド―――ッッッ!!!
先に地面に触れたそこから、凄まじい勢いで爆発の連鎖反応が起きる。さっきのよりも遥かに凄まじい出力のビームが、雪原に残った雪や水溜り、泥さえもまとめて爆発させる。
それがどんどんと目の前に近づく。もう逃げられない速度で。
あぁ―――もうだめか………!!!
おれは死を覚悟し、それでもそばにいる大切な存在を守るべく身を張り出す。
「硝斗く―――!」
「テルシア―――!」
そして―――おれたちは光の中へ焼かれる。
ズドドドドォオオオオーーーーンッッッ!!
機巧兵の薙ぎ払いビームにより、辺り一帯がまとめて水蒸気爆発を起こす。数キロメートル先にまで轟く衝撃波が連鎖反応で起こり、その威力を増大化させさらに危害半径を広げる。
吹き上がった蒸気はさらに広範囲を巻き上げ、強烈な上昇気流を生み出し巨大な積乱雲を形成する。
氷に覆われていた大地が完全に融け、千年間もの間その凍土の下にあったその姿を顕にする。
その中心に立つ、巨大な機巧兵。黒い輪を浮かべ、片足を失ってなおその殺意を絶やさないカメラアイが確実に死んだかどうかおれたちのいた方向を睨んでいる。
顎を閉じて火花を散らし、自身の中に溜まった熱を背中から蒸気とともに吐き出す。片足が千切れてもう歩けないが、奴はそれでもまだ戦闘はできる。
本当に恐ろしい兵器だ。こんなものが千年前の時代に何千機も造られ、人々を恐怖に陥れてきた。
「はぁ…はぁ…。」
だが………形勢は逆転した。
おれたちは………勝った。
おれたちの目の前に、シールドが張られていた。
分厚い金属の盾が水色の燐光とともに浮かび、おれたちをその衝撃波から守った。
「はぁ、はぁ…来たよ!」
ハリスさんが笑顔を浮かべた。
突然目の前に展開されたこの大きなシールドは…!
戦艦スペリオルノーツの、自動防御衛星が展開する盾だ。
ならば、ここはもう危ない。
「みんな、離れろー!!」
目の前に現れたシールドから捕まるためのハンドルが出てきた。ハリスさんの声に合わせ、おれたちはそれに掴まる。
シールドはぶわっと浮き上がり、斥力機関による淡い燐光を撒きながら空中へ高く飛び上がった。
『ゴァア…!』
奴は空へ逃げるおれたちには何も出来ずただ駆動音を響かせ見上げるだけだった。
―――くる!
突如、機巧兵のいる場所が爆炎に包まれた。
ズドォオオンッ!
ドドォオンッ!
ドガァアンッ!
ついにやっと来た。
助けが………戦艦スペリオルノーツによる救援が!
『ゴルルルルルルァアッ!!』
戦艦による艦砲射撃、その火力は凄まじく、あの黒い機巧兵が何もできずにその装甲を剥がされ続ける。
ドゴォオンッ!
ズズドォンッ!
ボガガァンッ!
脚が破壊されまともに回避も取れずに、戦艦の投射火力をフルで浴びる。
『ガァアッ―――!!!』
何度もしぶとく立ち上がろうとするが、その度に大口径の砲弾と巡航、対地ミサイルの飽和直撃を受け何度も倒される。奴の装甲、兵装がどんどんと剥がされ落とされていく。
ドドォンッ!
ズドォオンッ!
ボガァアンッ!
三度目の火力投射により、ついに奴は爆炎の中へ消える。
それきり立ち上がることはなくなり、黒い光線が放たれることも無くなった。
シールドドローンにつかまりながら、おれたちは奴が本当に倒れたのか目で確かめた。氷原を覆う霧が晴れ、辺りがどうなったのかが見えるようになってきた時、おれたちは勝利を確信した。
戦艦スペリオルノーツの砲撃によって、奴は完全に木っ端微塵になった。
おれたちは…あの激闘をくぐり抜け、辛くも生き残った。




