Record:28 目覚め
「会いたかったぜ、ショートぉ〜!」
旋風俥のイアロ。
平和維持軍による特殊リストコード、『列強』に番付される指名手配の男だ。
その犯罪歴、数百人の辻斬りを楽しみとにかく「斬る」ことを愉悦としているキチガイ野郎だ。
こいつとはジン帝国バンラエン城尖塔で戦ったことがある。いや、ただ一太刀受けただけだが、腰の入っていない片手だけの大振りな一太刀におれはまともに返すことができなかった。
「旋風俥のイアロ…連合幹部ね!」
ここに来て列強、イアロが来るか………!
「イヘハハハ! このオレが来てやったからには何もかも斬り尽くしてやるぜェ〜―――ハァッ!」
イアロが素早く動いた。判断も動きも速すぎる! 間に合わない―――あっ。
「邪魔をするんじゃねえ!」
ガギィインッ!
誰かがイアロの振るった大太刀を受け止め弾いた。
レッドだ。
あの速度の大太刀を弾き返したのか………!
「テメェ…その赤髪に糸目、そしてその左目の傷〜!」
暗がりの中でその姿を視認したイアロはこれまた嬉しそうに笑った。
「オメェまだ生きていたのかよ! 泣けない赤鬼のレッドぉ〜!」
「黙れ、今度こそそのだらしねえ舌を引きちぎり落としてやる! カーボン、援護しろ!」
「了解!」
レッドの要請に即座にカーボンがつなげこのイアロに相対する形となった。
「クルーガー、ジダゴ、援護しろ!!」
「合点承知!」
アレックスをぶっ倒したジダゴと雑魚たちを殲滅していたクルーガーが急遽後ろを詰める。
「イヘハハハ、すげえ、すげえよお前ら。こんな綺麗に役割分担できるなんてえらいじゃないか!」
「今日こそ引導を落としてやる…レッドさんの片目を奪ったお礼をしてやるよ!」
おれと同じように、レッドにもまたコイツに対して因縁があるようだ。
「良いぜぇ、良いぜぇ〜!」
イアロは大きく口角を上げて嬉しそうに目を歪ませた。
「楽しい殺陣の時間といこうじゃねえかぁ!」
そうして服を脱ぎ上半身裸になり、イアロは大太刀を肩に担いで構えた。奇しくもこの場での戦闘において三人の剣士が斬り合う形になった。
「生き血をたっぷり浴びようぜ、皿斬ィ…!」
あの大太刀、サラキリと呼ぶらしい。聞いたことのない名前だが、何かのレプリカか、それとも歴史の浅い新参者の一振りか。
「オラァッ!」
とてつもない速度でおれたちとの距離を詰める。ヤツの大太刀の軌道を予測しながらおれは真月を構える。
おれの真月は神器として造られたもので、その特徴は折れず曲がらず。ただこれだけ。
折れない上に曲がらないっていうのはむちゃくちゃな性能だが、困ったことに普通の刀剣ならできるある一つの技ができない。
ガキィイインッ!
まずおれへ振るわれたその大太刀―――皿斬を真正面から迎え撃つ。互いにぶつけ合ったその刃がガチガチとお互いに噛みつき、強烈に火花を散らせる。
「イヒヒ………良い刀使ってるじゃねえか。」
その散りまくる火花の様子を見てイアロはさらに笑みを深める。刀の特徴はお互いにその刃をぶつけ合えばよく分かる。
真月はその特質から切れ味が落ちることはない。そしておれのこの膂力をもってすれば、二、三回の打ち合いで相手の刀剣をズタボロにできる。うまくすれば武器破壊ができる。
その代わり、真月の刃には一切の傷ができないため、互いに刃を食い込ませてその刀剣を止めることができない。するりと刃が逸らされてそのままおれの懐へ入られかねない。
おれはそれで黒葛原にやられた。
「オラァッ!」
皿斬を片手で器用に振り回し、巨大な大太刀をまるで羽のごとく振り回す。それで後ろから斬り込もうとしたレッドを弾き飛ばした。
「ぐぅっ!」
「もっと残って戦うべきだったんじゃねえかぁ!?」
わかってて言いやがって、この野郎が!
イアロ、こいつは列強。
同じ番付を持っている「夕鱗竜」グラムと同格。おれひとりならまず死ぬ。
おれ、レッド、カーボン。この三人でようやく勝ちの目が見えてくるってほどには強いんだ。
その上でイアロ単身でここに来たとは思えない。他にもイアロ級に強いやつがいるかどうか、たとえいなかったとしても最低限の戦力は残さなきゃまずい。
「ショート、合わせろ!」
レッドがおれへただそう一言伝える。
おそらくここにいるメンバーでいちばん強いのはレッドだ。生半可じゃない力で弾かれたが、それでも体勢はすぐに立て直し再び懐へ踏み込む。柄の長いブロードソードを両手で巧みに操り、その大太刀の暴虐を危なげなくさばく。
「レッドォオオッ!」
受けるので精一杯なおれを思いっきり弾き飛ばし、イアロはレッドへターゲットを向ける。
合わせる―――とても難易度の高いことだが、それをしなければイアロを止めることはできない。おれたち全員生きて帰るためには、合わせなきゃならない!
おれはレッドの動きといっしょに、カーボンの動きにも目を配る。
カーボンは立ちながら常に狙撃銃を構え、イアロの隙を見逃さぬようスコープを付けていた。あの距離ならそうそうやられることはない。後ろでカーボンがサポートしてくれることを祈っておれは前に突っ込む。
肉を斬らせなきゃ骨は断てねえ!
おれはイアロの剣の間合いに入って楯無を全展開する。
「うぉあらぁっ!」
そして両の手で握りしめた真月をイアロへ振るう。
「ォオオッ!?」
ガギィインッ!
イアロが凄まじい速度でこちらへ振るってきた皿斬を、肩の装甲板で受け止めカウンターで全力でぶち込む。
八岐式剣術、打た喰み返し!
ズバァアアンッ!
「ゲヘェアッ!?」
薙ぎ払い一閃。イアロの横っ腹へ斬り込む。
だが、その手応えは肉を切ったものじゃない。障壁を張ってやがる。流石に無防備なワケがないか!
「おぉ〜びっくりしたぜぇ〜!」
カウンター後の隙を、イアロは逃さず上から皿斬を叩き込もうとした。今度は腰が入っている。受け止めきれるかっ………!?
「オラァッ!」
ガゴォオン!
自分の鎧と刀を信じて、楯無の肩板と真月でその質量を真っ向から迎え撃つ。流石に押し通られることはなく、ただただその重い衝撃を受け止める。
重いっ………肩が外れちまう!
「くぅ~、まるで戦車みてえに固えなオイ!」
少しの焦りがその表情に滲むのが見える。イアロの力量ではこのフル装甲を通すことは難しいみたいだ。よし、ならいける!
このまま押し通る!
「ふんっ、ぬぅあぁっ!」
超重量の楯無で鈍くなりつつも、おれは真月を振り回す。視線は常にレッドとイアロを交互で回っていた。
レッドは常にイアロの後ろへ回り込み、おれの攻撃の合間合間に死角から斬り込んでくる。それをイアロがいなし、しかしその追撃をおれが阻む。
おれとレッドの連携に少しでも乱れが出た時、そこをカーボンの狙撃がサポートする。そのサポートも不発した時、ジダゴとクルーガーその隙を埋める形になる。短時間ながらおれたちの間に連携が生まれつつあった。
楯無がある。耐久だけならおれが一番だ―――ならおれが前に出るべきだ。
だからレッドには合わせずにタンク役を買って出て必死こいて食らいついている。それをレッドとカーボンが見て察し、おれのフォローに回ってきてくれている。
「イヘヘ………!」
超速攻で組み上がった連携にイアロは深く笑みを浮かべた。焦りからの表情だと思いたいが…!
おれは再びイアロのふところへ潜り込む。
「またバカの覚えひとつみてえに来るかよ!」
おれのカウンター攻撃を警戒し、イアロはおれから距離を取る。やつの身体に傷は見えないが、さすがにあの威力の打ち込みは堪えるようだ。
ガウンッ!
「うぉおっ!」
だがその動きを阻むようにカーボンの狙撃が狙い撃たれる。
あの戦いを生き延びたおれだからこそわかる。狙撃手が後ろにいるっていうのはクソ厄介極まりないってことがな!
「当たり前のように撃たれてから躱すのはいい加減止めて欲しいもんだぞ!」
ボルトアクションで素早く薬莢を吐き出し次弾装填を完了させまた狙撃。次の射撃までの時間がよく訓練された兵士よりも遥かに短い。ほぼ半自動装填式と変わらねえ。
そんな高レートなカーボンの狙撃を、イアロは普通に撃たれてから回避する。
弾道確定後の回避なら確かに確定で外れるだろうが、それでもこの至近距離でそれができるのはな………さすが列強、その番付は伊達じゃねえってことだ!
「褐の狙撃手、カーボンめ! 噂に聞いた狙撃の腕がこれかよ!」
イアロはどうやらこの程度造作もないらしいが、だからといってうっとおしくないわけじゃない。
「つまんねえなぁ〜!」
そろそろ苛立ちが限界に達しつつあったイアロは、うっとおしい狙撃をしてくるカーボンへロックオンする。
「死ねや!」
イアロはおれたちとの斬り合いからノーモーションで大太刀を振り払った。あまりにも速すぎて反応さえできなかった。
振り払われた皿斬の刀身から細かい結晶の刃が形成され、それが飛ぶ斬撃となってカーボンへ向かう。
「カーボンッ!!!」
「ぐぁあっ!」
凄まじい速度で放たれたそれはカーボンに直撃し、赤い血しぶきが派手に飛び散った。くそっ!
「まずは邪魔モンひとりィ〜エフハハハッ!」
カーボンの傷が気になるがそっちに目を取られて斬られたら元も子もねえ! おれが抑えなきゃ!
「レッド! ここはおれが抑える!」
楯無の耐久を信じておれはイアロへインファイトを仕掛ける。
声が届いたか知らんが、とにかくこいつのヘイトを稼いでこっちに向かせなきゃいけねえ!
「うぉおおおっ!」
「イヘヘヘハハハッ!」
おれの渾身の打ち込みを、イアロは片手握りの大太刀であしらう。クソ、地力が違うってのかよ!
「なかなかいい踏み込みだがよぉ!」
片手で振るわれるそれは、明らかに両手で握り打ち付けるおれよりも重い。
「腰が入ってねえんだよ腰がぁ!」
ガァアンッ!
再び弾かれる。全展開したおれの体はより重くなっており、さっきよりはふっとばされなくなったが、それでも衝撃を殺しきれず大きくのけぞる。
「ぐぅ〜! 何だ今の重さは!?」
思い切り吹っ飛ばすつもりで弾いたイアロだが、突然重くなったおれに目を丸くする。
「クソッ、まじで何なんだお前は!」
こっちの台詞だよバカ野郎が!
「何しにここにきやがったんだ!?」
イアロは笑みを崩さないまま答えた。
「んなもん決まってるだろうが。石だよ石っ! ここにあんだろう?」
「そんなことだろうと思っていたよ!」
後ろからレッドが斬り込んでくる。カーボンはどうなったんだ!?
「ショート、カーボンは離脱した。このまま残りでやるしかない!」
「っ…了解!」
くそっ、終わりが見えねえ!
どうやればこいつを倒して帰れる!?
レッドと二人がかりで前衛をやってようやく膠着状態に持ち込めるか否かってくらいだ。あまりに速い展開にジダゴもクルーガーもなかなかおれたちのところに割り込めない。少しでも気を緩めれば終わりだ。
「ぐっ………どこ突っ込めば良いんだよ………!」
「おらおらおらぁあ〜!」
「ぐぅうっ!」
無造作に振り払い、おれたちを圧倒しようとするイアロ。
「イアロぉおーッ!!」
が、その流れを断ち切るべく、レッドが大きく踏み込んで皿斬に大きくその剣を叩きつけた。
「ゥッ!?」
「いい加減にしやがれ…俺は疲れているんだ!」
そのままぐんと踏み込み、さらに懐へ潜り込むレッド。
「貴様の顔を見るのももううんざりだ!」
「ウッォオッ!?」
レッドの剣が幾重にも残像を重ね、苛烈な連撃を舞った。
「赤百咲!」
滅多斬りだ。イアロの防御速度より遥かに早く振り回しぶった斬る。
ガガガガガガガガガッ!!!
「ぐぅおおあっ!?」
防御してもしきれないほどの斬撃が着実にイアロへ与えられる。あのブロードソードをこんなに早く振るうことができるのかよ! 加速している思考速度で手元を見ているが、わけのわからねえ動きをしている。
「さっさすがに士兵団のナンバーツーだけはっあるな―――痛ぇえっ!」
「黙れカスが!」
レッドの怒涛の押し込みがイアロを威圧し、祭壇の方向へ押し込んでいた。イアロの焦りようにレッドがシンプルな罵倒をしつつ畳み掛ける。
そのレッドの動きを見て、おれも次にどうすべきか思案を巡らせる。動きを読め、読むんだ!
「芽砕!」
たまらず反撃をしようとしたイアロの動きを先読みしたレッドは剣先を地面に突っ込み、恐ろしい速度でそれを掘り上げて相手に叩きつけられた。
爆速で繰り出される泥かけにイアロは怯む。
「うがぁっ!?」
「その汚え黄色い歯もこれで白くするんだな!」
口と鼻と目にピンポイントで飛び込んできた泥にイアロはとっさに反応ができず、畳み掛けてくるレッドの攻撃をまともに受ける。
「死ねッ!!!」
思い切り腰の入った突き刺しがイアロの土手っ腹にぶっ刺される。
ズドオンッ!!
「おぐぅゔっ!!」
汚い悲鳴が迸り、イアロはさらに奥へ吹っ飛んでいき、建物の残骸の方向へ消えていく。あまりにも鮮やかで苛烈な剣戟に、おれはほうけていた。
とんでもねえ剣士だ。
「まだだ、ショート。やつはこれじゃくたばらない。」
いやいや。いまのは確実に急所に当たってたぞ。
「いまの一撃で死なねえのか?」
「ヤツの体は特殊だ。」
特殊………。
その説明が入るのが速いか否か、煙の向こうからやつが現れる。一切傷がない。障壁を考慮してもあの傷のなさ………おかしい。
少なくとも人族じゃねえ。
「何なんだあいつは?」
「解説なんかしてる場合じゃねえんだ。構えていろ!」
イアロは余裕綽々の表情でこちらに来る。
「さすが赤鬼………イヘハハハ、なかなかやるじゃねえか。それとそこのサムライのガキ。てめぇもなかなかやる………相手に不足なしよ。」
イアロは服を脱ぎ、上半身裸になる。そこから現れたのは灰色のタトゥーまみれな肌だった。
「ここからが本番だぜェヘヘヘヘッ!」
イアロは獰猛な笑みを浮かべ、片手で振るっていた皿斬を両手で握り込んだ。
何をする気だ………!?
「武器ってのは―――」
イアロは腰を低くし刀を横向きで上段に構えた。
おれはとっさに前に出る。
「両手で持ったほうが強えんだよ!」
ブンッッ
ヒュバッ!
ガギィイイインッ!
イアロはこの世の全てを薙ぎ払う勢いでそれを振り抜き払った。
大太刀皿斬の刃に無数の結晶が生成されるのが見えた瞬間おれは前に出て全力で防御の構えを取った。
そしてそれをすべて受け止める。
「ぐぅぁあっ!」
もちろんその衝撃を御しきれるはずがなかった。
おれは一瞬にして弾け飛び、多数の結晶による飛ぶ斬撃攻撃をもろに受ける。鉄壁の防御性能を誇る楯無が貫徹され、おれの体にまで届く。
「ショート!!!!」
イアロの振り抜き攻撃をなんとか防ぎ切ったおかげでレッドたちは無傷だ。レッドたちが吹っ飛んでいくおれを案じたが………。
「いけぇえっ!」
おれは激痛を堪えながら構わず行けと叫ぶ。
たしかに楯無の鎧が押し徹されたせいでダメージは受けたが、それでもその楯無の黒い鋼があらかたその衝撃を受けてくれたので少し切れただけに留まった。
もし楯無がなかったら………死んでいた。
「硝斗くん!!!!」
そのことをテルシアだけが理解しており、彼女だけがまっさきに来る。
前にいるレッドたちは即座にイアロへ突撃する。
「おおおおおおっ!」
「ショートが守ってくれた隙を無駄にするな! 突っ込め!!!」
「うらぁあっ!!」
クルーガーが爆走しその槍の穂先をイアロへ突き立てた。
「爆ぜやがれっこのクソッタレがぁーっ!」
「うっ―――甘えな、そんなもん突き刺したくらいでこのオレが」
ズドォンッ!!!
「ゴホォアッ!?」
穂先の爆発の魔術式で爆破が発動し、それを予期できなかったイアロはもろに顔に食らう。衝撃を殺しきれず吹っ飛んでいく。
「もう一発ぶち込んでやる!」
「畳み掛けろ! いけ、いけ、いけ!」
クルーガーの攻撃を繋げるべく、ジダゴとレッドが全速力で駆けて飛び込む。
「かぁ〜うぜえ! 今のはうぜえ―――がぁっ!?」
内側から機巧兵を破壊した、あれほどの衝撃を顔面に受けてもなおイアロには致命打とはならなかった。奴は即座に身体を起こし憤慨した。
そこをウルの光の矢が直撃する。光弾、とでも言うべきか、物理的な衝撃のある光の玉がイアロの顔に炸裂しひるませた。
「うぉらあぁ!!」
「ふん!!!」
そこへレッド、ジダゴ二人の打ち込みが炸裂する。強烈な打ち込みだ。そこにレッドがさらに剣を振るった。
ジダゴは攻撃後にクールタイムに入り次の動作ができない間、レッドは何度も何度も手加減なくその剣を叩きつけた。凄まじい速度で、ゴリゴリの殺意を乗せて何度も。
その様はいっそ恐ろしく、イアロが評した「赤鬼」の形相たるものだった。
「ウラァアアアッ!」
その連撃は、しかしやがて止まる。
レッドの息が上がったのかわからないが、剣撃が突如止まる。
「いてぇなぁレッドぉ! いてえんだよコラ!」
「うっ!」
バガァアンッ!
あんなにめためたに打たれたはずのイアロは、皿斬でレッドをはじき飛ばし、また立ち上がる。
だが流石に堪えたのか、その体には緑色の体液らしきものを流していた。初めて怪我したようだ。
「いてえ、マジで痛えな…! クソが! クソックソッタレが!」
その顔は怒りの形相を浮かべていた。
「つかよぉ、なんでテメェらこんなにワラワラ湧いてんだよ! 船奪ってすぐ来たってのに、なんで今回だけこんなに多いんだよ!」
イアロが憤慨し、皿斬を振り回す。それをクルーガーとジダゴが必死に防ぐ。
今回の調査は連合が駆逐艦でここに来ているという情報を得て護衛の数を増やした。そういえばそもそも最初からこの調査は連合が来ることを見越していた。
情報の出所は………クラウン。
「こっちは何でもお見通しなのさ! もうじき援軍も来る。大人しくお縄につきやがれってんだよイアロ!」
「チッ…どっか情報が漏れやがっていたか………!」
形勢の不利を悟ったイアロ。食らいつこうとしているクルーガーとジダゴを思い切り弾き飛ばし、後ろへ急速に下がった。
「おい船出せ! ずらかるぞ!」
イアロはその軽い身のこなしで即座に撤退し駆逐艦の方向へ戻る。あまりにもその動きが速く、おれたちの誰もがそれを追うことができない。
「なっ―――くそ!」
イアロの命令を受け、駆逐艦は即座に浮遊を開始。着底でボロボロになった船底が、斥力発生装置による燐光で覆われるのが見えた。
「おいコラ逃げるんじゃねえ!」
レッドが激昂して追わんとするが、あまりにも速すぎて追うことができない。すでに船はもう数十メートル上空まで浮かび上がり、燐光を伴った下降風がこちらへ叩きつけてくる。
「あぁ~……逃げ足だけはいつも速いね、連合の野郎どもは。」
もう誰もが追うことができない。
そう思った時、事態は急変した。
ズドォーーーーンッ!
かなり遠くから響いたであろう、轟音が聞こえる。
「今度は何だ!?」
船が飛んでいく方向とは違う。この方角は…ウヴェール遺構群?
イアロにやられた傷による痛みをこらえつつおれはその方向を見る。
「硝斗くん、動かないで!」
おれは視界に入ったそれが信じられなかった。
「テルシア…やばい………。」
「えっ?」
おれの見ている方向につられてテルシアもその方向を見た。
ウヴェール遺構群。その建物の上が吹っ飛んでいた。
小さな点がウヴェール遺構群の一番高い塔のようなものに乗っている。
「………あ、あれは………!」
それは、パカリとその顎を開く。
その中に光を吸い込むような黒い塊を溜め始めた。
ブゥウ―――ン
おれの中の危機感知が、激しくアラートを鳴らしたてている。
あれはヤバい、と。
「みんな! 伏せろ、伏せろーっ!!!」
「きゃあっ!?」
おれはテルシアを抱き自身の下へ押し込んで庇いながら全力で叫ぶ。
「!?」
「伏せろっ早く伏せろーっ!!」
おれの叫びにみんな状況は掴めていなかったが、ほぼ反射的に伏せた。
その直後。
黒い線が辺り一帯を薙ぎ払った。
シュッ
どおおおおおおおおおんっ!!!
何かヤバいものがすぐそばを高速で通り抜けた後の一瞬の空白の後、凄まじい衝撃がおれたちを襲う。
「うっ―――!!!!!」
この衝撃、これはっ………!
凄まじい衝撃に壊れかけの楯無を展開して必死に耐える。
まるですぐ近くで大質量の爆弾が爆破したかのような衝撃だ。
ごおおおおおおっ!!!
少しの時が経ち、やがて爆風による衝撃が収まる。
「うっ………!」
あまりの衝撃に響き続ける身体をなんとか抑え、おれは目を開ける。
そこには凄まじい光景が広がっていた。なんと地形が著しく変形している。
氷に覆われていた大地が露出し、氷は蒸気を発しながらどんどん液体へ変わり小さな湖が形成されていた。
はるか北の果ての大地から一転、まるで温暖地域に変わったかのような感覚がする。
「一体何が………!」
「し、硝斗くん…、大丈夫?」
「あぁ、おれは大丈夫だ。テルシアは? どこかやられていないか?」
「硝斗くんが守ってくれたから、大丈夫。どこも怪我してないよ。」
ふう、とおれは安堵の一息をつく。
そして、おれはウヴェール遺構群の方へ目を向けた。
「あれは………一体何なんだ!」
それはウヴェール遺構群の尖塔の上から跳び上がり、こちらへやってくる。ここからあそこまで数キロ程度はあるはずだが、その距離を一気に詰めるような大跳躍だ。
マズい、ヤバい!
「こっちに来るぞ!」
こっちに近づくにつれ、次第にそいつの容貌が露わになる。
「あれは………前期量産型………っ!」
ウヴェール遺構群の地下階層で眠っていた、最強の機巧兵。
前期量産型の一体、正式名称は【八四年強襲偵察弌型1号機】。
与えられた名は、【始龍】。
『ヴォオオオオオオオオッッッ!!!』




