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Legend of Star Night  作者: ILLVELG
序章 約束
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Record:4 我が家


 テルシアがうちの家に来た。

 事態を鑑みてくれたじいちゃんが、父さんと母さんに事情を話し、この子を家に住まわせてやってほしいと連れてきたんだ。

 なんでこの家に連れてくるんだ? と子供心に思っていたけど、一方でテルシアと毎日会えるのかと思うとワクワクしてたのも事実。

 新しい家族が増えたような、そんな嬉しさ。

 だけど、テルシアはそうじゃない。

「よろしく、おねがい、します。」

 テルシアはぎこちない挨拶をする。

「まぁ、なんてかわいいのかしら。私は硝斗のお母さんの凜よ。よろしくね。」

「おれは雅斗だ。よろしく頼むよ!」

 母さんはテルシアと同じ目線まで腰を下げ、笑顔で挨拶する。父さんはテーブルの上からそのまま笑顔ではきはきと伝えた。

 テルシアはお行儀よくぺこりと頭を下げる。

「はい、まさとさん、りんさん、よろしく、おねがいします。」

 おれも改めて挨拶にいくべく、テルシアの近くへいく。

「しょうと、くん。」

「テルシア。これから、よろしくな。」

 おれはテルシアの手を握って笑って出迎える。

 テルシアはほっとしたように微笑む。

「よろしく、おねがいします。」

 

 あの日おれとテルシアは帰って速攻じいちゃんたちに見つかり―――それはもうめちゃくちゃ、しこたま、こってりと怒られた。

 

 

 

 

 

 

 

『こぉの大馬鹿者!!!』

 

 いつもはよその子にはめちゃくちゃ甘いはずのじいちゃんが、おれだけでなくテルシアにも手をあげた。

 もちろん手加減されたものではあるが、それでもテルシアにとってはショックだった。おれもかなりショックを受けた。

 やっぱりテルシアは泣いた。頬を叩かれた痛みとショックで、ぼろぼろ涙をこぼしていた。

 じいちゃんの顔を見るとかなり苦しそうな顔をしていた。じいちゃんはじいちゃんで幼い女の子に手をあげることはとても辛かっただろう。

『軽はずみに外に出るんじゃないとあれほど口酸っぱく言っただろう! 二度はないぞ!!』

 それでもじいちゃんはテルシアに厳しいことをいう。

 テルシアは涙をこぼしながら嗚咽を漏らしていた。

 こっちまで苦しくなりそうで、おれは手をあげてしまったじいちゃんに猛抗議しまくった。

『やめろよじいちゃん! たたくことねーじゃん!!』

 これがだめだった。

『硝〜斗ぉ! お前にはまだ関係ないっ、すっこんでろ!』

 じいちゃんは猛抗議で暴れるおれを引っ捕らえ、軒先の柱にくくりつけて動けなくしてきやがった。

 しわしわの細い腕のくせに力がめちゃくちゃ強くて全くびくともしなかった。

『グゥエッ………てめぇ! このハゲじじい、はなせこら! ヒキョーだぞっハゲェ!!』

『このクソガキ、わしになんて口たたきやがる!』

 激しい口論をしていたらとうとうテルシアが声をあげて泣いた。

『あぁもうくそが!』

 じいちゃんは頭をわしわしかいておれをにらむ。

『たのむからだまってろ!!!』

 その覇気に強制的にお口チャックさせられ、おれは黙ってることしかできなかった。じいちゃんはそれを確認すると、テルシアに向き直った。

『おまえさんや、落ち着きなさい!』

『ふっふぇっえぐっひっぐっ』

『泣くほどに辛いのはわかる! おまえさんが家に帰りたいのもわかる!』

『ふぅえっ…えぅぐっ…うぅっ…』

『この一年間、閉じ込めて本当に申し訳なかった。だがもしもおまえさんが家に帰ろうとしてこのままこの里を出てしまったら本当に家に帰れなくなる。』

『ひっく………ぅっく………どうしてぇ…?』

『おまえさんをつけ狙う輩がいる。』

『えっ………』

『今は何も教えてやることはできないが。だが、待っていてほしい。おまえさんが大人に成るその時まで。今、若い奴らが、おまえさんが家に帰れるように頑張っとるんだ。』

『じいちゃん………。』

 じいちゃんはテルシアの小さな肩を撫でて落ち着かせ、それからこう聞いた。

『硝斗と約束をしたそうだな。』

 なんでもう知ってるんだよ、このじじいは。

 テルシアは驚きつつもゆっくりとうなずく。

 じいちゃんはゆっくりため息をはき、落ち着かせるようにしてこう言った。

『わしが今日までずっとおまえさんを家に閉じ込めていたのは、その約束を果たすためだ。』

 噛み砕いてゆっくりと、そう伝えてくれた。

『今はまだ、なにもしてやることはできないが―――だからこそ待っていてほしいのだ。』

 だいぶ落ち着いたテルシアの頭を撫で、じいちゃんはおれをみた。

『硝斗。おまえがこの子を支えるのだ。わしの言っている意味は今はわからなくても構わん。だが裏切ることだけはするな。この子の絶対的な心の支えとなるのだ。』

 じいちゃんはおれの目をまっすぐ見据えてはっきりと役目を示した。

 言われなくても―――そう言おうとしたけど。

 きっとおれが思う「支える」はじいちゃんの言う「支える」には足元にも及んでいないのだろう。

 なんとなくだけどそう感じてすぐには言えなかった。

『わかったな?』

『………うん。わかった。』

『………よし。さすがはわしの孫だ。』

 じいちゃんはそう言って立ち上がった。

『そう遠くないうちに、お前を強い大人にする。殺す気でしごくからな―――良いな?』

 じいちゃんの厳しい言葉と表情に、おれは息を呑む。半端な覚悟など許さない、そう言っているかのように聞こえた。

 

 じいちゃんの言う『しごき』とは修行のことを指す。

 テルシアとの約束を果たすために、彼女と一緒に里を出るためならこれは避けて通ることはならない。

 じいちゃんはおれが里の外に出て彼女との約束を果たすことを了承した。だからこそ「大人になるまで待て」と言ったんだ。

 おれは決意を新たに刻み、覚悟を決めた。

 


 

 そういうわけでそれから紆余曲折あり、じいちゃんの長男で次期当主として目されているおれの父さん、雅斗のところへ、テルシアがやって来たってことだ。

 急なことだったので、テルシアが寝る部屋はおれの部屋になった。

 里では親兄弟親族との距離を大事にする気質ってこともあって、親も異なり性別の違いがあっても子供は基本一つの部屋に住まわせることになっている。

 テルシアにとっては初めてのことであり、少しだけそれに抵抗感を示したようだった。でもそんなことに対する不満を一言も言わず、母さんの言いつけに従った。

 晩御飯を食べ、おれたちは風呂に入って一日の汚れを落として………それから寝る。

 

「お休みなさい。良い夢を。」

「うん、おやすみなさい!」

 母さんにそう返して、おれとテルシアは部屋に戻る。

 二人とも布団のなかに入ってしばらくしていたが、どうにも寝付けなかった。いつもなら目をつむって五秒で夢の中だけど、それができない。

 隣にテルシアがいるからだ。

 いつもなら一人で眠るのが、二人で眠る。それが妙な緊張感を生み出して眠れないのだった。

「なぁテルシア―――」

 なんだか気になっておれはテルシアに声をかけようとした。が、返事がない。

 テルシアはすでに寝入っていた。

 今日はいろいろありすぎた。屋敷から抜け出し、聖域で走り回っては泣いて、戻っておじいちゃんに怒られ、突然仮住まいをおれの家に指定され、今日ここで眠る。

 疲れるだろうなぁそりゃ。

「………ま、いっか。」

 まだ緊張感が残ってて眠れないので、おれはテルシアの寝顔をずっと見続けながら睡魔がくるのを待ってた。厠に起きたときのために常につけている小さな蝋燭の火がテルシアの寝顔をわずかに照らす。その白いまつげが小さく震えているのがわかる。

 よくみれば、少し苦しそうだ。

「テルシア………。」

 嫌な夢でも、見ているのだろうか。

 夢の中だけでも、おうちに帰れたらいいのにな、とおれはテルシアに布団をかけ直しながらふと思った。

 

 それにしても………。

 

 じいちゃんの言ってた、「つけ狙う輩」とは、一体どう言うことなんだろう。

 

 彼女の現時点での情報をまとまると、こうだ。

 彼女は何らかの理由であの聖域の社に封印されていた。

 それが、おれの手によって破られた。

 言葉遣いからして、外国の、それもかなり遠くの国の人間だと推測される。

 このへんの詳しい理由はきっとじいちゃんが知ってるはず。

 

「テルシア………。」

 

 おれの想像以上に彼女にはいろいろな運命と過去が待ち受けているのだろう。じいちゃんの彼女を支えろ、その言葉の重みが少し、実感できた気がする。

 

 せめて、せめて………。

 いつか、おまえの家に…帰れば………いいな。

 いつか………必ず、………………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おいで、テルシア! もうごはんはできてるわよ。』

『さぁ、一緒にごはんを食べよう。おまえの大好きなシチューだよ。』

『パパ、ママ! ―――大好き!』

『ハハハ………うれしいね。パパもテルシアのこと、愛してるよ』

『本を読んでほしいの!』

『まぁ、あの本ね? 本当に好きよね。』

『ママ、あったかい! エヘヘ……』


 


「…………パパぁ…………ママぁ……。」

 

 

 

 

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