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Legend of Star Night  作者: パインティー
第二章 革命のための戦い
39/147

Record:4 夕き龍燐族、夕鱗竜


「だからよぉ、俺達ジン帝国に用があるんだよ! てめえの都合なんか聞いてねえのよ、船出せやコラ!」

「いや、だから船は出せねえって……何回言わせるんだよ!」

 近くまで来ると、その場の状況がよく見えてくる。ジン帝国へは船は出せないと断っていた船乗りのいるあの船着き場だ。

 今、その船乗りが二人の男に絡まれていた。

 一人はチンピラ風な背格好の細いオッサン、もう一人はかなり大柄で赤い肌が見える。

「あれは……あの鱗……!」

「うぬ? 貴殿は見覚えがあるのか?」

 ジダゴがその赤い肌―――もとい、赤い鱗を見て戦慄している。どうやらあの大柄なやつがだれだかわかるらしい。

「あれは……龍燐族だ。赤い鱗……まさかな?」

「龍燐族!?」

 

 最果ての町で戦った、あの牙獣族の黒獅子バントーラも含め、この世には高度知的生命体……もとい、多種多様な人種が存在する。

 まずはおれやテルシアみたいないわゆる「ヒト」にあたる人族。二本の手足、150~200センチメートル前後の身長で、他の種族に比べて貧弱な肉体だが、手先が器用で歴史的にも発明・開発などが得意な人間が多い。

 次におれたちが最果ての町でコテンパンにのしたバントーラのような牙獣族。基本的に人族より一回り大きく体毛がほぼ全身を覆い、獣耳や尻尾など特定の部位が陸上動物の特徴を表していることが多い。総じてタフネスに優れ、平均身長は2メートル前後と大柄な人間が多数派だ。

 その他にも紋様族、甲蟲族、鬼角族、魚鱗族、風詠族、妖精族、妖魔族、始天族と多数の種族がいて、その種族のなかさらに分けられる―――この世の人種とはそういうものらしい。

 その中で、龍燐族とは特に優れた身体能力と知性を併せ持つ「竜人」だ。魚鱗族より厚く固い鱗を持ち、頭部には一対、または二対の角を生やす。顔の造形は魚鱗族とは異なり爬虫類のような厳つい見た目で、彼らはこの世に存在する全種族のなかでもっとも優れた身体能力を発揮する。

 そして、名前の通り彼らはいわゆる「ドラゴンブレス」を吐くことができる。それが彼らの分類された「龍燐族」たる所以だ。

「間違いねえ。こりゃちょっと怪しくなってきたな。」

 ジダゴのいう言葉の意味は、おれが考えてる通りだと思う。

「他のやつらを嫌って山から降りてこないような奴が、なんだってこんなところにいるんだよ。」

 龍燐族の人たちは、その歴史的背景から第一大陸の彼らの国―――竜王国ナルガリアから一切外に干渉しようとせず、また干渉されることを極端に嫌うようになった。彼らがおれたち他の種族との交友を断ち切って既に1000年が経つ。

「たぶん『例外』だと思うんだけどよ……。」

 ジダゴは真剣な顔で数ある可能性のうちのひとつを考慮した。

 いくら彼らが正式に交友を断ち切ったとて、すべての龍燐族がそういうわけではない。本国は鎖国したが、当時他の国で暮らしていた種族のうちいくつかの部族は本国に戻らずに定住した。それがジダゴのいう『例外』だ。

「そんな龍燐族がなんだってこんなところに。」

「ジダゴくん、赤い鱗っていってたけど何か関係あるの?」

「あぁ、赤い鱗ってのは夕鱗竜せきりんりゅうってやつの特徴でな。その夕鱗竜は『本国』に住んでて決して外にでない竜なんだよ。」

「そうなのか?」

 つまり、あそこにいるやつは、その赤い鱗をもつ夕鱗竜ってやつの例外だったりするのか。ジダゴもいまいち理解できていないようで、さっきからずっと眉間にシワを寄せている。

 ……いつもの嫌な予感だ。

「……なんか、里を出てからいろいろとおかしいな……。」

「あぁ、さすがに嫌な予感がする。」

「とにかくほっておけねえ、いくぞ!」

 

「……うん?」

 近くに駆け寄るおれたちに、まず夕鱗竜が気づいた。わずかに顔を横に回し、その爬虫類のような縦に長い瞳孔でおれたちを視認する。

 からだ全体が非常に赤く、まるでルビーのような光沢を放つ。近づいてみてわかったが……でけえ!

 身長はおそらくおれが一人と半分くらい。俺よりゴツくて背の高いジダゴがまるで息子のように見えるほどだ。

 体は非常に大きいながらぎしっと引き締まっており、分厚い鱗におおわれた筋肉がその力強さを補強している。

 種族全体がそういう気質なのかは知らんが、この夕鱗竜は下半身しか着ていない。衣服に隠された下半身からも非常に安定した姿勢を隠さず、しっかりと立ち上がっている。

「だから早く船を出せっつってんだろうが!」

「ふむ、エースよ。恫喝はそこまでにしてくれないか。客だ。」

「あぁッ!? ンダコラ、何の客だよ!」

 夕鱗竜に声をかけられたチンピラ、もといエースは怒りの矛先をこちらに向けた。

「おい、いったいなんなんだよ。」

 おれの問いかけにエースが逆ギレしてきた。

「あぁッ!? てめえがなんだコラ! 人様になんか聞くときはまず自己紹介しろって親に習わなかったのか!?」

 怒濤のキレっぷりにおれは困惑する。いや、なんなんだよこいつ! なんでこんなに怒ってるんだよ。

「……おれは硝斗っていうんだ。」

「ハァ? ショート!? ふざけた名前だなコラ。そののっぺりした顔、そのみょうちくりんな名前、さてはオメー、キュペルの猿か!」

 キュペル……紅津あかつくにのことか。

 こんなところでそんな国の名前を聞くとはな。しれっとカスみてえな発言しやがる。

「そうだよ、おらこっちは答えてやったんだから、お前が答える番だぞ。」

 キュペルっていうのは、おれたち雷神の里と関わりの深い国、≪紅津国≫の世界中での呼び名だ。

 おれは別に紅津国の人間じゃないけど、このまま勘違いしてくれた方が雷神の里に気づかないでいてくれそうだと思ったので、おれはこの勘違いを放置しておく。ジダゴとテルシアが今の問いかけに反応しなきゃ良いけど。

 ジダゴはともかく、テルシアは立て続けに起こる不穏な状況をすっかり警戒しており、おれのとった判断もうまく汲んでくれているようでスルーしてくれた。

「フン! オレはエースってんだ。」

 エースは不服そうながらも改めて紹介。

 続いて隣に立っている夕鱗竜も紹介した。

「フム……我輩はグラムと申す。……その眼差し、なぜ≪夕鱗竜≫がここにいると言いたげであるな。」

 夕鱗竜―――もとい、グラムはすっと目を細めておれたちを……。

 いや、おれの瞳を覗き込むようにして見ていた。

 おれたちの考えていたことを、グラムは見抜いていた。

 ……警戒だけはしておいた方が良さそうだ。

「夕鱗竜ってか、龍燐族がなんで外に出てるのか気になっただけさ。っと自己紹介がまだだったな、オレはジダゴだ。」

「ふむ、ジダゴ殿。グラムである、よろしく頼む。龍燐族は初めて見るかね。」

「一生の間に一人出会えれば多い方って聞くぜ。もちろん初めてだ。」

「フ、ハハハ。そうか。……して、ここへは何用で?」

 グラムは軽く笑ったあと、すっと表情を戻しておれたちへ質問を投げ掛ける。何用でって、そりゃ……

「ジン帝国には船を出せないって言われてんじゃないのか?」

「アァン!? そこに船があるだろうがよ!」

 エースは逆ギレし、船頭のおっちゃんは首をすくめた。

「あんちゃんからもなんとかいってくれよぉ……さすがに命が惜しいって……。」

「ふん! とんだ腰抜けがよぉ。なら使わないその船を寄越せってンだ!」

「あんちゃんそりゃ商売あがったりだぞ! 船だけは渡さねーぞ!」

 横暴なことをいっているエースに反発するおっちゃん。こいつら、何のためにジン帝国に行くんだ?

「別にいまじゃなくても良いんじゃないのか? 落ち着いてからまた船が出るんだからそれまで待ってりゃ良いんじゃねえか。そんなにいそが―――」

「うるっせぇなあ! おれたちゃ今すぐ行かなきゃならねえ用事があるんだよ! ガキはすっこんでろタコナスが! 」

 やっぱりそうか、今すぐ行かなきゃいけない用事があるか。

 通常なら何も思わず、へーそうなのかで終わるところだったが、いましがたこっちも早いところジン帝国に行かなきゃいけない理由がある。

 そのための燃料を買いに来たんだけどな……。

「エース、お前はすこし横暴が過ぎるぞ。別に船がなくとも我輩は泳いでいけるぞ。」

 !? あの距離を!?

「いやだからなァ、おれが死ぬんだっつーの! いくらあんたが泳げてもおれが泳げないんじゃ意味ねーんだよ! だいいち何キロあると思ってンだよ、100キロ以上はあるんだぞ!」

「ふむ。そういうものか。」

 100キロの海中マラソン。そもそも海は泳げさえすれば渡りきれるわけもなく、道中サメとかそういう生き物だっているし、時化しけにでも遭えば死に直結する。

 それを当然のように泳いでいけると言うグラム。

 嘘だとは思うけど……嘘とは思いにくい雰囲気を放っている。

「泳ぐのもクソめんどくせぇのに、こいつら腰抜けがいつまでも船を寄越さねえしよ。」

「……でも、船を取られたら、その人だって困るよね。さすがにそれはダメじゃないの?」

 エースが自分勝手なことを言っているのにそろそろ嫌気が差したのか、テルシアが批難する。奇遇だな、ちょうどおれも同じこと考えててこの口から出ようとしてたところだ。

 

 ……それをテルシアから聞いたエースは明らかに表情を変えた。

 

「……おい、ガキ。」

 まるでその表情は、自分が見下していた女のガキがこのおれに生意気な口をききやがった……とでも言いたげだ。

「お前黙れよ。なにこのおれになめた口ききやがる。」

 エースはその頭ひとつ分下にあるテルシアを見下す。

 明らかに完全に敵意を持ってこちら側を威嚇し始めた。だがテルシアはちょっと冷や汗を浮かべながらもきっと睨み返した。

「んだテメー! その目は! やるってんのかコラ!」

「悪いことは―――ダメ!」

 テルシアは至極当たり前のことを、キレ散らかすエースにぶつけた。

 テルシア、いやいくらなんでも言動が反抗期の中坊臭いからって―――そんな正論ぶつけたら余計怒っちゃうぞ。

「―――ッッッ! イョオーシッおれは怒ったぞ! クソガキが正義振りかざして楽しいかコラ! 痛くて泣き言喚いても知らねーよ!」

「うるせぇなオッサン! 反論できないからって力で黙らせようったってそうはさせねーぞ!」

 おれとジダゴは完全に臨戦態勢に入り、得物に手をかける。

 

 その時、おれは肌がぴりつくのを感じた。

「ふむ、ここでやるか。」

「……!」

 夕鱗竜がおれたちの様子を見て一言、そう呟いたあとにただの棒立ちからほんのわずかに構えを取った。何のことはない、ただおれたちへ体の方向を正しただけ。

 ……この感覚が気にしすぎなだけならいいんだけどな。

「おいグラム、このクソガキどもしめるぞ。」

「上からもせっつかれておるし、たしかに早いに越したことはないであろうが―――ちとお前は幼稚すぎないか?」

 まさかグラムからたしなめられると思ってなかったであろう、エースはさらに眼光を鋭くした。眉間に凄まじくシワが集まっている。

「ここで争っても意味などない。次を当たるとしよう。」

 グラムはいきなりエースの首根っこを掴み、引きずって歩こうとした。

「グヘェ!?」

 まるでつぶれた蛙のような悲鳴が出た。グラムは気にせず歩いて別の方向へ向かう。

「なに。船など無くともしがみつけるものさえあれば向こうへ渡れる。小舟さえあれば充分だ。」

「ゴッォオッ! デッデメェ、マザガ、マジデオヨイデグヅボリッブェエッ!?」

 一触即発、そういう空気だった。

 グラムは一瞬にして気分を変え、この場では戦わないことにした。

 少なくともはじめはおれたちに対抗しようとしていた―――ただの気まぐれか?

「ふう……なんとか収まったか?」

 遠くに消える夕鱗竜の赤い背中を見たジダゴが胸を撫で下ろした。

「あぁ、あのまま戦ってたら多分また酷い目に遭ってたところかもな。」

「うわ、やっぱお前もそう思ってたのか。」

 

 夕鱗竜、グラム。龍燐族の珍しい種族。

 

 ―――やっぱりここで会うような存在じゃない。

 本当に嫌な予感しかしない。

 


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