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Legend of Star Night  作者: ILLVELG
第四章 蒼海の大海原の冒険譚
118/140

Record:19 海原激戦

 

「ソート!!」

 その喋り方は―――フェルナメス!

 黒いシュモクザメの魚鱗族、フェルナメスとその仲間たちがおれたちを窮地から救い出す。飛沫しぶきを捉え、ガブド・ボルドの攻撃から間一髪で抜け出す。

 

ブォオオンッ!!

 

 巨大な黒い腕から抜け出し、おれたちは無事に海面までたどり着く。ジダゴたちは………イグリが捕まえているか!

 おれとテルシアが掴まっているフェルナメスは凄まじい速度で海の中を泳ぎ、ガブド・ボルドの追撃を難なく回避する。くっ速すぎて掴まっているので精一杯だ!

 水上バイクどころかジェットスキーも真っ青の速度だ。巨体であるガブド・ボルドがなかなか追従できていない。体の割に俊敏ではあるものの、流石にこの速度で動き回る小さな敵には難儀するようだ。

「どういうことだ!? なぜ結界が消えてこんな化け物が現れるんだ!」

「話せば―――長くなる! と、とにかく奴をできるだけここに留めるんだ!」

「あんな化け物を!? ここに!? 正気か!」

「とびきり強い味方が来るの! 到着まで時間を稼げれば倒せるかもしれないよ!」

「何が何だか分からぬが、心得た…!」

 フェルナメスも大困惑の中、素早く自分のやるべきことを理解し、速度を落とさずに突っ走る。

「そっちの状況はわからんが、こっちはマズイことになっている! 結界がいきなり消えて外界と繋がっている! 見ろ、民間の船がそこにある!」

 げぇっ! よりによってこんなところにかよ!

「こっちに誘導するぞ!」 

 ガブド・ボルドの高層ビルのように大きく黒い腕がものすごい速度でこっちに向かってくる。それを民間の船に当たらないように誘導しつつ全力で回避するおれたち。

 黒い腕が海面をなで上げただけで凄まじい波しぶきが吹き上がり、視界を白く染めてこようとする。

 

ドッドドドドボォッ!!

ズドドドォーーンッ!!

 

「くっ!!」

「うわぁーーーっ!」

 規格外の巨体による攻撃も当然規格外。立ち上がる白い水柱が高層ビルかってくらいの高さまで跳ね上がる。すんでのところで腕の直撃を回避しても遅れてやってくる水の衝撃がおれたちを襲う。

 フェルナメスたちがいなければおれたちはこの腕に木っ端微塵にされただろう。

 荒れ狂う大波の上に、ガブド・ボルドは四つの腕で立っている。その接している海面の様子を見ると指先に魔方陣が浮かび上がっている。どうやら魔術か何かで浮き上がっているようだ。

「なぁ…あいつ魔方陣で浮かんでいるみたいだ! なんとかできないか!?」

「でもかなり複雑で頑強だよ! こっち見てるし潜り込むのは…!」

「近くまで行ければできそうか!?」

「―――近くならできるとは思うけど…!」

 魔術式の知識があるテルシアに聞いてみるが、かなり難しそうだ。おれはイグリたちを見てぱっと思いつく。

「イグリに乗ってるウルにヘイトを稼いでもらう! 化け物がそっちに向いたらすかさず突っ込んでテルシアが魔方陣を破壊する、これでいけるか!?」

 それを聞いたフェルナメスが難しい顔を浮かべる。

「イグリは泳ぎが速くない、そんなに猶予はないぞ!」

「やるしかねえ、このままだと追いつかれてやられるぞ!」

 化け物―――ガブド・ボルドは不利な体勢をやめ、完全にこっちを捕捉するべく向き直ろうとしている。このままではあの多腕にフルで振り回されて壊滅する。

「頼む! やられる前にやるしかない!」

「ヌゥ………!」

 フェルナメスは腹を決めたようで、口を開けてイグリの方に向く。魚鱗族特有のエコーロケーションによる会話でイグリに向けて指示を飛ばしている。

 それから少しして、ウルが弓を構え光を蓄えるのが見えた。おれはそれを見てテルシアに声を掛ける。

「テルシア、準備を!」

「わかった!」

 それと同時にテルシアも右手で魔術式を展開した。

 タイミングは一瞬だ。やるしかない!

 

バシュッ!

 

 ウルの弓から光の光線が鋭く放たれ、一条の閃光を描く。それがガブド・ボルドの眼を支える腕に当たり砕け散る。

 まるで効いてないが、こっちを見ていたその巨大な青い眼球が向こうへ向いたのを確認する。

「今だ、突っ込めーっ!!」

「ウォーッ!!」

 フェルナメスが飛沫を上げながら爆速で泳ぎ、ガブド・ボルドの足元へ潜り込む。その間テルシアはおれの身体を支えにして両腕で魔術式を構築し構える。

 奴の脚―――もとい腕の一つ、その魔方陣へテルシアは攻撃をする。

「えい!」

 テルシアの魔方陣から紫色の魔弾が飛び出し、ガブド・ボルドの足元に浮かぶ魔方陣へぶつかり干渉を起こして破壊した。

 

グォオオッ!?

 

 その瞬間海の上に支えられていた巨大な腕が思いっきり沈み込み、ガブド・ボルドは体勢を大きく崩した。おれたちはそれに巻き込まれないように全速力でそこから抜け出す。

「良いぞ、この調子で次の脚もやるぞ!」

 四本のうちの一本を崩すことに成功したおれたちはそのままもう一つの腕へ突撃を敢行する。

「えーいっ!」

 激しい揺れにもかかわらずテルシアはしっかりと身体を押さえ込み、魔弾をもうひとつお見舞いする。少し狙いが曲がったが、うまく軌道を修正し、また魔方陣に当てて破壊した。


グァオオアアアッ!!

 

 ガブド・ボルドはさらにひとつの支えを失い、ついに大きく海の中へ沈む。間髪入れずに二つの足の支えを無くしたことで奴はその巨体を横に倒す。


どばっしゃあーーーんっ!

 

 どでかい水柱を上げてガブド・ボルドは倒れた。

「やった!」

「よし!」

 ダメージにはなってないが、これで大きく時間を稼ぐことに成功した! こんなにうまくいくとは思わなかった。

 残りの脚もさすがに体重をさえ切れず勝手に魔方陣が破裂し海中に沈む。これで少しの猶予が出来た。

 今のうちに立て直さないと―――地の真理石を奪い返さないと!

「急げ、近くに潜水艦がある! フェルナメス、テルシアをイグリに渡して潜水艦に向かってくれ!」

「硝斗くん!?」

「何を言っている、潜水艦だと!?」

「テルシアは水中で呼吸ができないだろ! おれは水の真理石の管理権限を与えられている、だから大丈夫だ―――はやく地の真理石を奪い返さなきゃならねえんだ!」

「―――!」

「わかった! すまぬテルシア、降りてくれ! イグリに回収を頼む。」

「………わかった、気を付けて!」

 テルシアはフェルナメスの背中から降りる。そのすぐ後ろへイグリたちがやってくる。

「任せたぞ、イグリ!」

「フェルナメス!? どこに行くの!?」

 イグリの声も聞かずにおれたちは海中に潜る。潜航を続ける潜水艦を、凄まじい速度で追う。

「あの船だな、ソート!?」

「ボゴボゴ………あぁ、そうだ、あの船だ!」

 おれは真月を抜き、構える。

 その間にフェルナメスが潜水艦へ肉薄する。かなり遠い距離だったのにあっという間に視認できる距離まで追いつく。

「まずはスクリューだ!」

 旋月の射程範囲まで来たのを感覚で捉え、片手でそれをぶっ放す。だが海中で放たれたそれは大きく歪みあらぬ方向へ飛んでいく。くそっ、やりにくい!

「俺がやろう、あれだな!」

 フェルナメスが二股の槍を構え、スクリューめがけ突っ込んでいく。槍の周りを光をまとった細かな泡が包む。

「ウラァッ!」

 フェルナメスのいきみ声とともに槍が突っ込まれ、スクリューへ直撃。

ボゴォンッ!

 想定外の方向から急激かつ大質量の水圧の直撃を受けたスクリューはあっさり破壊され歪む。

「次は舵だ!」

 逃げられねえようにしてやる、くらいやがれ!

 旋月をぶっ放し、大きな十字舵の上をぶった斬る。斬られた舵はすっぱり真っ二つになり、旋回性能を落とす。

「もう一丁!」

 そのままもう一発旋月を放ち、舵の右もぶった斬ってさらに機動性を落とす。潜水艦の後ろはすっかりボロボロだ。もう満足に動くことも出来ないだろう。

「フェルナメス、船の下に向かってこいつを上にぶち上げろ!」

「この船を!? さすがに重いぞ!」

「おれが力を貸す、やってくれ!」

 フェルナメスはおれの言葉に眉をひそめたが、すぐに理解し船の下へ潜り込む。

「ゾリャア〜〜ッ!!」

「うおおおおおお!」

 潜水艦の船底に両手を当て思いっきり押し上げるフェルナメス。その動きに合わせておれも周囲の水を操り、上方向へ押し上げる。

 千トン以上の重さのある潜水艦が、ぐぐっと持ち上がり海面へ向かう。

「ヌゥオ〜〜ッ!!!」

「だぁあ〜〜ッ!!!」

 

ドッパァアーンッ!

 

 ついに潜水艦を海面に押し上げることに成功した。舵も破壊し、バラストタンクもぶった斬って潜航出来なくした。

 これでもう逃げられねえぞ、ユンガ!

「よし、おれはもう大丈夫だ! イグリを、みんなを頼む!」

「ソート?!」

 おれはフェルナメスの背中から降りて潜水艦の上甲板へ乗艦する。すぐさま上部構造物セイルへ突っ込み、ドアを斬ってズタボロにして強引にぶち開ける。

「何故そうもやすやすと鉄を切り裂けるのだ…!」

 後ろでフェルナメスが驚いていたようだが、何のことはない。これが真月で、おれの力が有り余っているからこそできるだけだ。

 舵やバラストタンク、まがりなにも超高圧の水に押されて壊れないほどに強固な鋼鉄で出来ている。ただの鉄を斬るよりもずっと難しい。

「ユンガぁっ! 出てこい!」

 そんなことはどうでもいい。

 おれは普通にキレていた。

 こんな世界の滅亡の危機になるような大怪獣を解き放つだと!?

 何考えてるんだ、あのホネ助野郎は!

 

 


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