外伝04.革命の旗印・後編「王都に羽ばたく銀翼」
外伝四作目の最後の話になります。
最後まで読んで頂ければと思います。
ー1ー
王都の周辺は外壁で囲まれており、入るためには各所に設けられた門を潜らなくてはならない。
誰でも入れるわけではなく、門にて衛兵から審査を受けて合格した者のみが中に入れる。
とは言え、審査はそこまで厳しいものではなく、自国の民なら田舎者であろうと王都に入ることができた。
入れないのは、ならず者か勇者候補くらいだ。
その日、王都の入り口に一つの荷馬車が訪れた。
衛兵は審査するために荷馬車へと近付く。
毎日繰り返す、いつもと変わらない仕事。
だが、これが衛兵の最後の仕事となった。
メキメキッと木が折れる音がしたかと思ったら、巨大な鋼の腕が馬車の荷台から伸びて来たのだ。
「はっ?」
衛兵は何が起きたのか理解出来ないまま鋼の腕に潰された。
そして、この日は王都に暮らす者にとって忘れられない日となる。
民は見た。
外壁の向こう側から巨大な剣を持つ鋼の腕が生えてくるのを。
剣を地面に突き立てて、鋼の頭部が現れる。
鋼の巨人の上半身が顕になった次の瞬間、鋼の巨人の両足が外壁よりも高く上がり、踏み砕いた。
外壁が崩れる轟音と共に鋼の巨人の姿を掻き消す程の土煙が舞い上がる。
その土煙の中を鋼の巨人が突っ切って王都に侵入した。
鋼の巨人は上半身が鎧を着た人のような姿で、下半身は鋼の獅子の四足であった。
ー2ー
フランケンの陽動が始まった。
大量にあった魔臓石を元に魔石を作り、その魔石を不足分の魔力の代替えとして用いる。
そうすることでフランケンの作るメカニカルアーマーは力を最大限まで引き出すことが出来る。
半人半獣の巨大兵器が王都を襲う。
兵舎を重点的に破壊して回り、少しでも多く敵の数を減らす。
両肩の射出機から放たれる火球が街を燃やす。
左腕に備え付けられた大砲より発射された風の砲弾が主要施設を撃ち抜く。
混乱に包まれる中、王都の出入り口たる門からエクリプスの部隊が侵入する。
目指すは貴族街、さらにその先にある王城。
メカニカルアーマーが王都の美しい景観を破壊して回り、エクリプスの部隊が王都に侵入するが、それを黙って見過ごすほど王都の兵、軍は甘くない。
「巨大兵器は第一部隊を主戦力として迎撃。第六、第七部隊はその援護に回れ。第二から第五部隊は貴族街の防衛及び避難誘導を。指揮は第二部隊に一任する。第八以降は侵入者の迎撃を。部隊を各区画ごとに割り振り、指揮は部隊ごとに任せる。連絡は密に取り合い、連携を取れ」
軍内部ですぐに指示が下され、動き始める。
崩れた瓦礫が蠢き、積み重なるように積み上がっていく。
瓦礫は人型の巨人、ゴーレムとなり、メカニカルアーマーに対峙する。
ゴーレムはゆっくりとした歩みでメカニカルアーマーに近付く。
その動作は遅く、四本の足で地を駆けるメカニカルアーマーに近付くのは至難と言えた。
メカニカルアーマーは左腕の大砲を構えながらゴーレムを中心にして円状に走る。
次々と風の砲弾を撃ち込んでいく。
風の砲弾に晒されて、ゴーレムの体は表面から削られる。
一方的な攻撃。
順調に思えた。
このままゴーレムを倒せるかと思った矢先、すぐ脇にあった建物が爆ぜた。
何かの直撃を受けたのだ。
直撃したのは砲弾。
砲弾が飛来し、建物に当たった。
フランケンはすぐさま発射元を探す。
それはすぐに見つかった。
外壁の上に備え付けられた大砲から発射されたものだ。
大砲は一つではない。
一定間隔に備え付けられており、その全ての大砲がメカニカルアーマーに向けられる。
この大砲は最近になって王国が開発したものである。
配備されたばかりの最新兵器だ。
まさか配備されてすぐに実戦に使われるとは誰も思っていなかった。
フランケンはメカニカルアーマーを操り、右手に持つ大剣の鍔に嵌められた巨大な水晶玉を見せるように構える。
それと同時に全ての大砲が火を吹いた。
大剣の鍔、水晶玉を中心に雷が蜘蛛の巣状に広がる。
無数の砲弾は雷の盾に防がれていく。
しかし、防いだ砲弾よりも外れた砲弾の数が遥かに多い。
外れた砲弾は逸れたというより的外れな方向に飛んでいった。
的外れな所に当たって住民の悲鳴を轟かせて、さらに一発はゴーレムに当たってしまうという始末。
エクリプスが大砲を奪取して用いたのではないかと思うくらいの命中精度の低さ。
命中精度は悪いがその威力は凄まじい。
本来は外敵用に使うものであって街に向けて撃つものではない。
なので、命中率は多少低くても問題はない。
今回の事態が想定外であったのだ。
メカニカルアーマーの背面装甲が開き、小型ミサイルが放たれる。
小型ミサイルは全部で十二発。
それぞれが大砲に向かって飛来し爆発、炎上する。
外壁の所々が崩れて、火の手が上がる。
全てではないが、一部の大砲を破壊した。
その時、背後で火が灯る。
ゴーレムの口が開き、灼熱の炎が煮えたぎっていた。
左腕の大砲を口に向けて放つ。
頭は弾け飛び、溶岩が飛散して街を燃やす。
だが、頭部を失ってもその胴体にも灼熱の炎が灯っていた。
内側より灯るそれは胴体に赤い線となって現れる。
嫌な予感を覚えたフランケンは距離を取った。
その直後、ゴーレムは小さな火山となって噴火した。
街を巻き込んだ自爆攻撃。
ゴーレムの破片、溶岩が街に降り注ぐ。
メカニカルアーマーは予め距離を取っていたので被害は受けていない。
自爆攻撃にてゴーレムは消えた、そう思った矢先、自爆攻撃の被害を受けた地点で瓦礫が蠢く。
積み上がり、形となって新たなゴーレムとなる。
その数は三体。
三体全てが先のゴーレムと同様の姿をしていた。
ー3ー
ステラは炎上し、黒煙が上がる街を王城の自室から見つめる。
部屋の外は慌ただしいが、誰一人としてステラを気遣う者はいない。
実際はいるかもしれない。
だが、王に、王子達に、貴族から嫌われているステラの味方をすれば、それらを全てを敵に回すことになる。
誰だってそれは避けたい。
実際に、彼らを敵に回して一族心中にまで追い込まれた者までいた。
使用人達は、表面上は世話をしてくれるが、それは仕事であるからだ。
仕えているのはステラではなく国、国王だ。
非常時になればステラは真っ先に切り捨てられる存在。
それが王城に居る者全員の共通する認識だ。
ただ、色々と束縛がされない分、動きやすいので王都の外には出やすかった。
さすがに年がら年中外に居るわけにはいかないので、度々王都に帰るがその度に嫌な顔をされる。
母が生きていた頃はこんな事はなかった。
一体いつからだろう。
王や兄達から嫌われて、自分も彼らの事を嫌いになったのは。
ステラは感傷を振り払う。
動きやすいのは今も変わらない。
自分が為すべきことをしなくては。
部屋の出入り口まで向かい、扉を開ける。
「あっ……」
ステラは言葉を失った。
なぜ彼がここにいる。
王国には最強と呼ばれる騎士が二人いる。
二人の騎士は戦ったことはなく、どちらが最強かで王国内で二つの意見に分かれている。
その最強の騎士の一人は「グレン」。
燃えるような紅い鎧を纏い、魔法を得意としている。
軍の第一部隊の隊長を務めており、炎と土属性の魔法を操る。
そしてもう一人の最強の騎士は「ブルー」。
蒼銀の鎧を纏い、軍とは独立した近衛騎士団の団長を務めている。
グレンとは違って、剣技に秀でている。
ステラの部屋の前に立つのは蒼銀の騎士。
ブルー。
なぜ彼がここに?
「……ど、どうしましたか?」
ステラは出来るだけ平静を取り繕うも上手くいかない。
落ち着くんだと自分に言い聞かせる。
ブルーは王国に対して絶対の忠誠を誓っている。
なので、王国の頂点に君臨する王、王族に従う。
それは周囲に嫌われているステラに対しても変わらない。
守る時は守ってくれる。
実際にステラの暗殺を何度も未遂に防いでくれた。
その光景を王と兄達が忌々しげに見てきたのをステラは知っている。
城下町の路上で暗殺者に襲われた時に、王城から剣を投擲して暗殺者を仕留めた時はさすがにステラも驚いた。
そういった出来事から、この王城にてステラが唯一信用している人物と言っても過言ではない。
誰にも媚びずに贔屓もしない王国を守る絶対の守護者。
ステラが今まで暗殺されなかったのはひとえに彼の存在が大きい。
但し、ブルーが守ってくれるのは王都に居る時に限る。
なので、王都の外に居る時をよく暗殺者に狙われた。
その度に、自力で撃退したり、逃げたり、通りすがりの勇者候補や冒険者が助けてくれた。
何より嬉しかったのが、戦う力を持たない国民が匿ってくれた時だ。
危険を顧みずに助けてくれたのをステラは嬉しかった。
王都の内部は腐敗しているが、国民はそうではない。
ステラはこの国に明るい未来が残されているのに気付き、国民のために立ち上がったのだ。
「街が騒がしいようですが、お父様の方は大丈夫なのですか?」
「……」
ブルーは何も語らずステラの顔をジッと見てくる。
そういえば彼は無口であった。
ブルーの声を一度も聞いたことがないし、兜を取った素顔を見たこともない。
それは王城に暮らす者全員が同じで、誰も聞いたことも見たこともないのである。
一部では中身がアンデッドではないかと噂される程だ。
「私の方は心配いりません。お父様や兄を頼みます」
王国の絶対の守護者である彼はステラの安否確認に来たのだろう。
ノックもせずに部屋の前に立っていたのは、不器用で無口な彼らしい。
安否が確認できて、ステラにそう言われては彼は引き返すしかない。
案の定、ブルーは翻して去って行った。
ステラはそれを静かに見送る。
革命で一番の障害になるのが彼だろう。
だけど、彼は革命が成功すれば大人しく従うとステラは知っていた。
新しい王に従い、何事もなかったかのように過ごす。
変わり身が早いと言ってしまえばその通りだが、彼が忠誠を誓うのはのは王国であって王ではない。
個人ではなく王国そのものを尊重しているのだ。
ブルーはそういう人物である。
ー4ー
メカニカルファルコンの光学迷彩で姿を消し、上空から王都を見下ろす。
侵入したエクリプスの部隊は順調に進み、貴族街にまで進んでいた。
王城まで辿り着くのは時間の問題だろう。
だが、問題はそちらではない。
フランケンとゴーレム。
巨大なゴーレムが噴火して、さらに数を増やしていた。
その数は全部で九体にまで増えていた。
フランケンは苦戦している。
高い機動力を活かして何とか立ち回っているが長くは保たない。
ゴーレムを倒すために参戦するのではなく、あのゴーレムを作り出した術者を探す。
あのゴーレムはどんなに倒しても意味がないしキリがない。
術者を見つけ出して倒した方が手っ取り早い。
地上より火球が打ち上がる。
ゴーレムと戦うメカニカルアーマーに気を取られて、火球が打ち上がっているのに気付くのが遅れる。
気付いた時には間近まで迫り、メカニカルファルコンの体を捻るも左の翼に被弾してしまう。
爆炎を上げて左の翼を破壊される。
「くっ……!」
片翼が破壊され、飛行が困難になっただけでなく、姿勢制御が上手くいかない。
それでも何とか墜落は免れようと奮戦する。
緩やかに高度を落とす中、ある異変に気が付いた。
被弾した左の翼が石化していた。
石化が機体を侵食していく。
このまま何もせずにいたら、機体全体が石化してしまう。
メカニカルファルコンの体を回す。
遠心力にて石化した部位を振り払うためだ。
何とか成功するも、片翼を失った状態での無茶だったため、落下速度が増してしまう。
そこに火球が再び打ち上がる。
躱せずに胴体に火球が直撃してしまう。
爆発する。
石化が再び始まる。
メカニカルファルコンはもうダメだ。
ならば機体を敵に突っ込ませよう。
さっきの攻撃で敵の位置は割れた。
そこにメカニカルファルコンを突っ込ませる。
炎上し、黒煙を上げ、火花を散らし、軋む音が響く。
コックピットを開放し、いつでも飛び出せる準備をする。
紅い鎧が見えてきた。
三撃目の準備をしていた紅い鎧は即座に魔法を解除し、飛び退る。
自分もメカニカルファルコンから飛び降りる。
着地するのと同時にメカニカルファルコンは地面に突っ込む。
地面に激突して滑り、やがて停止した。
メカニカルファルコンを背にして立ち上がり、視線を真っ直ぐに向けると紅い鎧の騎士が立っていた。
いち早く飛び退った紅い騎士は無傷でいた。
ー5ー
紅い鎧を着た騎士。
この容姿……ステラが以前話してくれたのと同じだ。
「お前……グレンだな」
「ワシを知っておるのか! どうやら大陸全土に王国最強の騎士として名を轟かせてしまったようじゃな!」
「……」
ガハハッとグレンは豪快に笑い声を響かせる。
「さて、姿を消しても魔力を駄々漏れにしていた馬鹿な侵入者よ! ワシ自らの手で殺される栄誉を授けてやろうぞ!」
グレンは自らの背丈程ありそうな巨大な戦斧を構える。
こちらも魔剣を構えて突撃した。
足に雷の加護を集中させて間合いを詰めるも岩の壁が目の前に現れて行く手を阻む。
大地を蹴り上げて跳躍し、岩の壁よりも高く跳ぶ。
「ほほう! 元気な若者じゃな!」
グレンはこちらに向けて戦斧を投げ飛ばす。
横に回りながら迫る戦斧。
魔剣を振り落ろす。
巨大な刃を捉え、そこを軸に戦斧の上をでんぐり返しをするように一回転してやり過ごす。
一回転した先にはグレンがいる。
グレンを狙って魔剣が振り落とされた。
だが、グレンの姿は掻き消えて魔剣は何も捉えられずに終わる。
どこに消えた?
一番あり得るのは背後。
振り返るよりも早く、その場から駆け出した。
雷の軌跡を描いた場所に火球が通過する。
「チィッ! 今のでくたばってくれれば良いものを」
予想した通りの位置にいたグレンは投げたはずの戦斧を持って悪態をつく。
「グレン、お前があのゴーレムを操っているのか?」
「当たりめぇだろ。あんなスゲェ魔法をワシ以外に使えるわけなかろう!」
「なら、お前を仕留めればゴーレムも消えるということか」
「全く若い連中はすぐに調子に乗るから困りおる。英雄だか最強に憧れんのは構わねぇが、もうちっと現実を見ねぇとな」
「生憎と英雄にも最強にも興味がない」
「なんでぇ、若いクセに夢がないのぉ。ワシに憧れるとかあるだろ」
「……」
このグレンという騎士。
面倒くさいな。
その場その場で感情が変わるし、うるさい。
サッサとケリをつけたい。
「ほぉれ、次なる一撃だ」
グレンがそう言うと王都全域を揺るがす程の爆音が轟いた。
フランケンが相手するゴーレムが再び噴火したのだ。
九体だったゴーレムがさらに数を増やす。
グレンが街に気を取られている間に魔剣に雷を付与し、斬りかかる。
今回もグレンを捉えるも陽炎のように消えてしまう。
剣を振った勢いを乗せて後方へ付与した雷を飛ばす。
雷の龍は後方に居たグレンを補足し、真っ直ぐに飛ぶ。
「ほっ! さすがに二度目は通じんかの。じゃが、まだ甘い」
グレンは戦斧に炎属性の魔法を付与して床に叩きつけた。
爆炎を上げて跳躍し、雷の龍を躱す。
上空に上がったグレン目掛けて魔剣を投擲する。
魔剣をグレンは戦斧にて弾こうとするが、その前に魔法を発動した。
「落ちろっ!」
天より落ちる稲妻が魔剣を狙う。
さらに魔剣より上空にいるグレンを捉える。
だが、またしてもグレンは陽炎の如く消え去る。
そう何度も同じ手は食らわない。
魔力による遠隔操作を発動する。
そして、グレンが居るであろう位置の近くにはメカニカルファルコンがある。
まだ完全に石化していない。
あの荒廃した街を焼け野原にした程の威力は出せないが、この周辺を破壊するのは出来る。
「散れっ!」
地に墜ちたメカニカルファルコンに灯った真っ赤な光の球体が爆発を起こした。
ー6ー
爆発に巻き込まれたグレンが姿を現す。
「クッソがぁぁ! あのガキァはどこにおるっ!」
グレンは地を這う。
唯一残った四肢の右腕を用いて器用に這いずり回る。
彼は叫び続けるも、この場に居るのはグレンだけであった。
二十七体に増えていたゴーレムの動きが鈍り出した。
ゴーレムを作った者に何かあったのであろう。
だが、今更ゴーレムの動きが鈍くなったところで意味はなかった。
メカニカルアーマーはゴーレムの生み出した溶岩、マグマの中に体を沈めていたから。
数が増えた事により動きを制限され、足を破壊された。
そこから火球やら風の砲弾やら小型ミサイルで応戦するも、数の暴力には勝てずに武装を破壊されていった。
さらにマグマを流し始めて、動けなくなった機体は高温に晒される。
残った武装は右腕の射出機と大剣とのみ。
それらで奮戦するも牽制にしかならず、死ぬことには変わらない。
一応はフランケンの無限の魔力でメカニカルアーマーを再び作れる。
だが、それには今あるメカニカルアーマーを解除しなくてはならない。
解除すればフランケンの体はマグマに沈む。
もはや負ける以外に道はなかった。
「ここまでかの……。長年掛けた悲願がこんなにもあっさりと終わるとは……」
フランケンは王城を睨みつける。
憎悪の対象。
せめて一撃だけでも与えたかった。
ー7ー
爆風を受けて火傷した部位を魔剣の力で治す。
それから王城を目指す。
地下から貴族街を抜けて、王城の近くで地上に出る。
王城への侵入は簡単に出来た。
ステラが予め侵入経路を用意してくれたからだ。
しかし、兵の動きまでは完全に予想出来なかったので何度か遭遇しては戦闘になった。
兵を倒し、さらに進む。
まずはステラと合流しなくては。
合流地点であるステラの自室まで行くも誰もいなかった。
「いない? まさか何かあったのか?」
部屋の中をくまなく探すも、やはりステラはいなかった。
不測の事態が起きて部屋を出たのか?
何にしても、いないのならここに残っていてもしょうがない。
入れ違いにならないように書き置きを残して部屋を出る。
目指すは王の居る玉座。
あそこが最終目的地だ。
そこを目指している途中にステラと合流できるかもしれない。
それから少ししてステラが部屋に戻ってきた。
「まさかブルーに二回も出会すとは思いませんでした……」
一回目は部屋の前で、二回目は王城に侵入するための経路を確保している最中で。
色々誤魔化すも中々納得してくれずに立ち去ってくれなかった。
ようやく納得してくれたのか、警備に戻ってくれたがえらく時間が掛かってしまった。
「まだ来ていないようですね。あれ? これは……書き置き?」
書き置きを読んだステラは部屋を飛び出して行った。
ー8ー
遠回りをしながら玉座を目指す。
ステラ曰く、非常時は玉座に王を匿い、守りを固めるらしい。
普通は逃げるのではと思ったが、この国は亡命が出来ないのでここで死ぬか野垂れ死ぬかの二択になってしまう。
惨めに死ぬくらいだったら、最後は王らしく玉座でふんぞり返って死ぬ方がいいと考えがあってのことだそうだ。
守りが堅いため正面から堂々と行けない。
なので多少遠回りになってでも戦闘を最小限に減らす。
度重なる戦闘に勝利し、扉を潜ると一本道になっていた。
侵入者を察知しやすいのに兵は配置されていない。
真紅の絨毯の上を進む。
「はあはあ……」
度重なる戦闘で呼吸が乱れる。
体力も魔力も大分消耗してしまった。
それでも、戦えないわけではない。
階段を上る。
見えた。
玉座に至る最後の扉。
あの先に王が居る。
さらに進むと、一人の人物が扉の前に陣取っているのが見えた。
蒼銀の全身鎧を着た騎士。
あの風貌、間違いない。
噂に聞く王国最強の騎士に違いない。
「ブルー……」
魔剣を構える。
まだ戦う力は残っている。
ここで勝利し、王を……殺す!
魔剣に雷を付与し、雷の加護を発動する。
地を駆ける稲妻となって斬りかかった。
渾身の一撃を叩き込む。
だが、弾かれた。
さらに流れるような動作で魔剣を持つ右手を斬り落とされる。
そこから刺突の構えを取り、心臓を狙おうとする。
「待ってください!」
突然の叫び声にブルーの剣は停止する。
後ろに倒れそうになったところを、誰かが支えてくれた。
「ステラ……」
ステラがそこにいた。
ブルーを真っ直ぐ見据えてステラは告げる。
「お願いです。これ以上は手を出さないでください」
ブルーは動かず、剣を構えたままだ。
いくら王族であろうと、城に侵入した者を庇ったらどうなるか分からない。
裏切りと判断されれば殺される。
ステラは懇願するようにブルーに訴えかけた。
膠着状態に陥ったかと思いきや、玉座の扉が開かれた。
「何を騒いでいる!」
兵士に守られた男性が姿を現す。
「お兄様……」
どうやら現れた男性はステラの兄のようだ。
兄ということは第一王子か第二王子のどちらかになる。
そして扉の先には王の姿が確認できた。
「下賤な妹め。この緊急時、非常時に置いても騒ぎを起こすとは。何度騒ぎを起こせば気が済む。まさか、今回の、此度の王都襲撃はお前のせいではあるまいな」
武装した兵士が取り囲む。
「いや、お前のせいだ。お前が悪い。お前が引き起こした。お前が手引きした。そうに違いない。そうに間違いがない。即刻、直ちにこの場で処分するべきだ!」
有無を言わさぬ勢いで男性は決め付ける。
実際にステラが原因の一つではあるが、こちらの言葉に耳を貸す気配すらない。
「侵入者。賊。そいつを庇うのが何よりの証拠。言い逃れは出来ん。言い訳は聞かん。大人しく。黙って死ね」
取り囲む兵士が詰め寄る。
「そういう事だ。お前は親父、王を守れ。ここは俺がやる。引き受ける」
男性がそう言うとブルーは剣を鞘に戻して翻す。
王の居る玉座へと向かう。
「お兄様! 待ってください! まず話を!」
「貴様の話など知るかっ! 殺れ!」
男性の命令を受けた兵士達が怯む。
何故なら、ブルーがすぐ傍に居るから。
これまで幾度となく暗殺者を殺してきたのを彼らは知っている。
そんな存在を間近に感じながら第三王女を斬りかかるなんて出来ない。
玉座の扉が閉まるまでは手が出せない。
その間にステラは考える。
現状を打破する手を。
兵士を一掃するか?
それは出来ない。
ステラの攻撃は遠距離の一点集中型。
周囲を囲まれては対応が追いつかない。
落ちている魔剣を握った右手を見る。
せめて二人なら対応出来たかもしれない。
でもそれは出来ない。
攻撃をするなら一撃のみ。
誰を狙うかだ。
玉座への扉が閉まろうとする。
支えてくれていたステラの手が離れた。
後方へと押しやられ、彼女の背中を見る。
ステラは光の弓と光の矢を作り出す。
即座に矢を番え、放とうとする。
狙うは扉の先、玉座にいる王。
今ここで革命を成功させるためだ。
王を殺せば、革命は果たされる。
ブルーをこちら側に引き込めば、助かる。
閉まろうとする扉の僅かな隙間を狙って、光の矢を引く。
視界が紅く染まる。
彼女の胸から背中にかけて剣が貫いた。
貫いたのはブルー。
一瞬の出来事だった。
扉の先に居たはずなのに、扉を破って一瞬で距離を詰めて貫いたのだ。
「ステラ!」
剣を引き抜かれて倒れるステラを残った右腕と左腕で抱き止める。
そこで投擲されたナイフが王子である男性を狙う。
ブルーは王子を守るため、そのナイフを弾く。
「こっちだ! 早くっ!」
残った魔力で雷の加護を発動し、ステラを抱きかかえて、声のした方に駆け出した。
声の主とすれ違う。
エリカだ。
「……」
エリカは何も言わずブルーに立ち向かった。
彼女の勇姿を背中に感じながら逃げる。
敗走。
完全なる敗北だ。
革命は失敗。
ステラの願いは叶わなかった。
ー9ー
「チクショウ……。チクショウがっ! クソったれ!」
何故だ。
どうしてこうなった。
どこで間違えた。
何を誤った。
「おいっ! 侵入者がいるぞ! こっちだ!」
衛兵に見つかるも、魔剣を失い、戦う手段がないので逃げるしかなかった。
「退けぇぇっ! 退くんだっ! さもなくばブチ殺すぞっ!」
行く先に誰がいようと突き進む。
斬られても、矢で射抜かれても、魔法で焼かれ、斬り裂かれ、貫かれても進んだ。
駆け抜けた。
いつしか追ってはいなくなり、王城の外にいた。
どうやって逃げたのか、記憶が曖昧だ。
そんなことよりも大事なことがある。
「ステラ! 目を覚ましてくれ! お願いだ!」
「……」
しかし、ステラは返事をしない。
僅かに唇を動かすだけだ。
「ステラ……死なないでくれ……。一人に、しないでくれ……」
足がフラつく。
自分も限界なのかもしれない。
そこへ火球が迫る。
辛うじて反応し、ステラを庇って背中で受けた。
爆炎が上がるも、威力は弱く、吹き飛ばされて転がる程度に留めた。
「ガッハハァ! よぉうやく、見つけたぞぉ!」
地を這うグレン。
彼が火球を放ってきたのだ。
「もおう、いち度ぉお……これ、でぇ……おわりだっ、ぁ、ぁ……」
しかし、次なる攻撃は訪れなかった。
糸が切れたようにグレンの体が沈み、動かなくなる。
死んだのだ。
助かった。
そう思ったが、これで終わりだった。
グレンの魔法による石化が始まる。
それはステラにも侵食する。
攻撃を受けた背中から始まり、やがて全身を、ステラを覆う。
抗う術はない。
ここで死ぬのだ。
頬にステラの右手が触れる。
「ステラ……」
「は、い……」
彼女の瞳は今にも輝きを失いそうな程に弱々しい。
「私の、旦那様……愛、して……いま、す……」
「……ああ、愛してる、ステラ」
「最後、に……キ……ス、を……」
口づけを交わそうとするも、頬から彼女の手が落ちる。
事切れた瞬間であった。
「あ、ああ……ステラ……、ステラっ!」
呼び掛けるも、もう彼女は答えることはなかった。
ー10ー
走馬灯のように彼女との思い出が駆け抜ける。
楽しかった。
助けられて。
褒められて。
笑って。
怒られて。
からかって。
からかわれて。
彼女との思い出は何もかも楽しかったはずなのに、後悔しかない。
楽しかったからこそ、後悔が湧き立つ。
こんな事ならあの時一緒にシャワーを浴びていればよかった。
こんな事なら責任とか婿とか何でもいいから、彼女を抱いておけばよかった。
馬鹿みたいな意地を張らなければよかった。
彼女は鳥が好きだと言っていた。
自由で、どこにでも行けるから。
王女として生まれ、国をよくするのが使命、責務だと彼女は語っていた。
銀色の翼を手に入れた時に、彼女を連れてどこか遠い場所に飛び立てばよかった。
誰も彼女を知る者がいない地で、王女という地位を捨てさせて、二人で暮らせばよかった。
彼女は嫌がるかもしれない。
それでも無理やりにでも連れて行くべきだった。
こんな結末を迎えるくらいなら、彼女に嫌われてでも生きていて欲しかった。
だが、全て過ぎ去った事。
もう何も変えられない。
ステラを失い、絶対と思われていた意志は潰える。
彼女が望み、彼女のためにと行動してきた。
だけど彼女はもういない。
導いてくれる鳥も失い、道標を失った。
もう一度彼女に会いたい。
今から会いに――
ー11ー
盗賊団エクリプスによる王都襲撃は終息に向かった。
王都に侵入した者の多くは貴族街にて殺された。
王城に辿り着いたのは僅か。
その中で玉座の前まで至れたのは二名。
一人は始末し、一人は王女と共に逃亡。
銀色の翼は地に墜ちた。
鋼の巨人はマグマに沈み、残骸となった。
少女の石像を抱きしめる青年の石像が燃える王都に残るのだった。
ーFinー
今回も読んで頂きありがとうございました。
今回で外伝の四作目は完結しましたが、終わり方としてはバッドエンドとなっています。
物語としてはバッドエンドですが、本編及び外伝一作目とは違って、アマテルとルナは生きています。
二人が生存する唯一のルートになっています。
一応言っておきますが、決して主人公と関わったから死ぬというわけではありません……多分。
ステラは革命を起こして国をよくしようとしていましたが、それは盗賊団の力を借りてです。
王都の中枢は腐敗していると彼女は言っていますが、彼女のやり方を見てみるとステラ自身も腐敗した者達に毒されている気がします。
エリカやエビータをもっと話に絡ませる予定でしたが、あまりグダグダとやる内容でもないので省きました。
まあ、この二人が絡んだからといって何かが起こるというわけではないですからね。
後から気付いたけど、サブタイトル詐欺になってしまいました。
「王都に散る銀翼」とかにしようかと思ったけど、それはそれでネタバレになるから止めておきました。
今後はあと2、3くらい投稿して本作品は終わりにしようかと思っています。
最後までお付き合い頂ければ幸いです。
また次回もよろしくお願いします。




