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02.ネクロマンサー


 ー1ー


 この地球とは異なる世界で最初に目が覚めた時、自分はとある街にある神殿に居た。

 そこで勇者候補やらリッチーやらと、この世界に関する説明を一通り受ける。

 最初は話の内容も半信半疑どころかほぼ疑っていたが、後に全て本当のことだと理解したのであった。


 勇者候補の旅の目的であるリッチーの討伐を補佐する『同行者』。

 この世界で最初に目にした神官の少女が自分の同行者になって、以後面倒を見てもらっている。

 この世界について右も左も分からない自分にはありがたいことだ。

 それに可愛いし、一緒に居てくれるってだけで舞い上がってしまう話である。


 「初めまして、私は勇者様の同行者を務めさせていただきます。名前をアマテルと言います。どうか今後ともよろしくお願いします」


 それが最初に聞いた言葉であり、自己紹介であった。


 金色の長い髪に青空の色をした瞳を持つ神官の少女。

 歳は十七歳らしく自分よりも一個下である。

 年齢の割に礼儀正しく、年下とは思えない程だ。


 勇者候補には必ず神官が一人、同行者としてリッチー討伐に同行する決まりがあるらしく、自分の場合はアマテルが同行者になってくれたのだ。

 今はアマテルの家に下宿させてもらっており、そこで旅の準備をしている。

 このアマテルの家というのが彼女の伯父の家であり、元冒険者である伯父から旅に必要な知識、特に剣の扱い方について教えてもらっているところだ。

 アマテルの伯父の名はローゲンといい、艶を失った白髪混じりの茶色の髪を生やしており、長身でがっちりとした体格をした齢が五十になる男性だ。

 やや無骨なところがあるが、教え方は丁寧で指摘することはどれも的確である。

 旅に出る際はアマテルの他にローゲンも同行してくれるらしい。

 雰囲気的に姪であるアマテルが心配で同行する感じがするが、そこはまあ、しょうがないって感じがするし、彼女を見ていれば心配して同行したいという気持ちも分かる。

 とりあえず、旅には勇者候補である自分に神官のアマテル、戦士のローゲンの三人旅になる。

 旅には不安がある。

 それも大きな不安だ。

 だけど、大きな不安を掻き消すほどの期待もある。

 期待というよりも好奇心だろうか。

 地球とは違う世界。

 魔法が存在してアンデッドや、まだ見たことないがモンスターがいる世界。

 この世界を見て回りたい。

 地球とは違う文化や景色がここにはある。

 そして何より、地球では目標もなく、ただ漠然と過ごしていた自分に目標や役割を与えられたのが嬉しかった。

 自分が必要とされている。

 それだけでも気持ちが浮かれて、昂ぶる自分がいた。




 ー2ー


 「そろそろ日が暮れますし、今日はもう終わりにしましょうか」


 ニ度目のスケルトンとの戦闘を終えた頃には空が橙色に染まっていた。


 「ああ、今日はこれまでだな」


 アマテルの提案にローゲンも首肯する。


 「勇者様、お疲れ様です」

 「ああ、うん。お疲れ」


 なぜだかは知らないがアマテルは勇者様と呼んでくる。

 理由を尋ねてみると、


 「勇者様は勇者様だからです」


 といった具合で、要領を得ない返答をされる。

 実際は勇者ではなく、勇者候補なんだけど。

 リッチーを倒せた者が真の勇者になれる。

 それについて指摘すると、


 「勇者様は勇者様と呼ばれるのが嫌なのですか?」


 眉根を寄せるて、どことなく寂しそうに言われる。

 そんな顔を見せられたら何も反論できない。


 「……もう好きに呼んでいいよ」

 「はい! 好きに呼ばせてもらいますね、勇者様!」


 とびっきりの笑顔だ。

 満開の花を思わせる笑顔を前にこれ以上文句は言えなかった。

 呼び方については諦めよう。


 「ところで勇者様」


 今度は神妙な顔つきになって話す。

 表情がころころ変わるな。


 「今夜も……向こうに行くのですか?」

 「あーうん、多分召喚される、かも」

 「そうですか……」


 残念そうにシュンとしている。


 「えっと……何かあるの?」

 「いえ、特に何もありませんよ。ただ少し寂しいなと思いまして……」

 「そう……」


 寂しいと言われて申し訳ないという気持ちが湧く。


 「晩御飯はどういたしますか?」

 「こっちで食べるよ。向こうじゃ食べられるか分からないし」


 食べさせてくれるかも怪しい。


 「分かりました。用意しておきますね」


 やがて、アマテルの家がある街に帰り着く。

 街の出入口である門を警備している門番に挨拶を交わしながら門を潜り抜けて、街の中に入る。


 「それでは私は食材の買い出しをしてから帰りますね」

 「ああ、魔臓石の換金はこちらで済ませておく」


 アマテルと別れて、ローゲンと共に魔臓石の換金に向かう。


 「換金はどこでやるんだ?」

 「神殿だ。街によっては例外もあるが大抵は神殿でやってくれる」


 そういえば、自分がこの世界で最初に目覚めたのも神殿だったな。

 勇者候補と神殿は何かしらの繋がりでもあるのだろうか。


 神殿に辿り着き、今日討伐したスケルトンの魔臓石を換金してもらうも大した金額にはならなかった。


 魔臟石は魔力の塊であり、アンデッドの動力源でもある。

 今日戦ったスケルトンは最弱の部類に入るアンデッド。

 魔臟石に宿る魔力量は少なく、そのせいで安価になってしまう。

 強いアンデッド程魔臓石に宿る魔力量が多く、その分価値も上がる。

 強くなれば、強いアンデッドを倒せるようになって、その分儲かるという事だ。

 自分もいずれそうなるのだろうけど、そんな自分の姿は全く想像できない。

 一番弱いスケルトンにすら手こずっているし、まだまだ先の長い話だろう。


 神殿での用事を済ませて、ローゲンと共に帰宅する。

 アマテルはまだ帰っておらず、ローゲンの妻、アマテルの伯母に当たる女性に迎え入れられた。

 少ししてからアマテルも帰宅し、伯母と共に夕飯の準備を始める。

 夕食までゆっくり休もうと思っていたが、そうはいかなかった。


 「剣を持って来い。手入れの仕方を教える」


 今日使った剣を取り出して、ローゲンに手入れの仕方を教わる。


 「お前の使っている剣は錬金術によって強度が増している。だが、それでも手入れを怠れば、使い物にならなくなってしまう。定期的に手入れしておけ」

 「了解」

 「特に生き物を斬った時は注意しろ。血や脂がつくからな」

 「了か……生き物?」

 「旅をしていればモンスターに遭遇する時もある。それとゾンビ系のアンデッド。肉体が残ったままのアンデッドもいる。あとは食料調達。現地で動物を狩る時もある」

 「なるほど。そういうことか」


 てっきり人を斬るのかと思ってしまった。

 ある意味アンデッドも人ではあるのだけど、あれは元人間ではあるが人ではないか。


 武器の手入れが終わる頃には夕飯が出来上がっており、皆で頂くことになった。

 夕飯を食べながら、柱に掛けられた時計で時間を確認する。

 まだ少し時間があるな。

 夜にはアマテルの心配していたある事が起きる。

 そのある事について思い返す。


 それは、この世界で目覚めて一日目の時の話だ。

 神殿でアマテルと出会い、勇者候補といったこの世界についての様々な説明を受けてから、アマテルの家で下宿することが決まる。

 アマテルの家に着いた時にはすでに陽が沈んでおり、家に着くなり夕飯をご馳走になった。

 その際にローゲンとその妻の紹介を受ける。


 ここまではいい。

 そう、ここまではよかったのだ。


 夕飯の後にアマテルが空き部屋に案内してくれた時に異変が起きた。

 部屋に入るなり酷い目眩に襲われる。

 足元がふらつきながらも、なんとか意識を保とうと気を強く持つ。

 やがて目眩が治まり、顔を上げると一緒に居たはずのアマテルの姿は消えて、周囲の景色が変わっていたのだ。




 ー3ー


 地球の日本。

 そのとある街にて、少女は追われていた。


 テナントビルやマンションが立ち並ぶ通りの裏路地を走りながら少女は舌打ちをする。


 「チッ……、今日は厄日だな」


 追われているキッカケは些細なものだった。

 指輪。

 夏休みの終わりに友人と出掛けてその帰り道、突然女性が道の真ん中で指輪を落としたのだ。

 探知の魔法を込められた指輪は地面にぶつかるのと同時に魔力の波を周辺一帯に拡散させた。

 常人では感知できない魔力の波。

 だが、常日頃から魔法を扱っている者なら話は別だ。

 少女は魔法を普段から扱っている身であり、魔力の波を感知する事ができる。

 落とされた指輪から拡がる魔力の波に少女は反応を示してしまったのだ。


 いつもなら、こんなミスをしない。

 だが、今日は浮かれていたからだろうか、反応を示してしまった。


 指輪をわざと落とした女性は少女が反応を示したのを探知の魔法で気付く。

 女性は即座に方向転換し、少女の方に足を進める。

 周囲には気取られない自然な動作。

 ゆっくりとだが、着実に距離を詰めてくる。

 落とした指輪を拾うのを忘れるくらいに、気持ちが昂ぶっているようだ。

 獲物を見つけたという鋭い目つきに不気味な笑み浮かべる女性の顔は、正直言って気持ち悪い。

 周りには一般人がいるので、即座にこの場で襲われる心配はないが、捕捉をされたため何かしらの対策を講じなければならない。


 少女は裏路地に入る。

 ひとまずは人目を避けなければ。


 そして魔法を発動する。

 あの女性の連絡を阻止するための空間を閉じる魔法だ。

 この辺り一帯は外部と遮断され、女性は外部と連絡が取れなくなる。

 一般人にも影響はあるが、電波障害程度だ。

 こっちは命が懸かっている。

 どうか寛大な心で許してもらいたい。


 次に人払いと認識阻害の魔法を発動する。

 これで一般人は遠ざけられ、こちら側で起こるであろう出来事を認知することは出来なくなった。

 問題は指輪を落とした女性だ。


 曲がり角を曲がる際にチラリと確認してみると一人の男性と合流していた。


 仲間がいたのか。

 どうやら、空間を閉じる前に呼ばれていたようだ。

 せめて一人なら対処がラクだったのだが仕方がない。

 二人まとめて始末しよう。

 見た感じではあるが、これ以上敵が増えるようには見受けられない。

 楽観的な考えではあるが、これまで幾度となく奴らと戦ってきた経験から、そう結論を出す。


 男女二人がこちらに向かってくる。

 当然ながら少女は逃げる。

 裏路地を走り、工事現場の脇を通り過ぎていく。


 人払いの魔法の影響か、工事現場に人の気配が感じられない。

 来年にはショッピングモールが完成するらしいが、今は来年の事など気にしていられなかった。

 後ろを確認すると、ちゃんと二人は追い掛けて来ていた。

 ここまで来ると表通りは、少女が発動した魔法の効果はなくなっている。

 術者である少女を中心に発動しているのだ。

 移動すれば魔法の効果範囲も移動する。

 裏路地は外界との空間が閉ざされ、人払いと認識阻害の魔法によって一般人には認知も侵入もされない。

 この裏路地で何があっても大事にはならない。


 行き止まりに差し掛かり、少女は足を止めた。


 「ここまで来れば、誰も来ないだろう」


 振り返ると男女二人が追いついたようである。


 「嬢ちゃん。もう逃げられない。観念するんだな」


 一歩前に出た男性は大柄で、その彼が喋り出す。


 「悪く思わないでくれ、これも仕事だから」


 そう言いながら斧を手にした。

 魔法によって亜空間に収納された武器を取り出したのだ。

 今回の元凶である女性は細身で、彼女は懐より拳銃を取り出して構える。

 こちらも無防備でいるわけにはいかず、魔法でナイフを作り出す。


 「……お前達は『セイヴァーハンド』の者か? だとしたら随分と間抜けだな。外部に応援を出さずに追い掛けて来るとは」


 情報を引き出せればラッキー程度のものだが、どう答えてくるか。


 「間抜けはこんな所に逃げ込んだ、嬢ちゃんの方だろ。それにな、俺様をあんな腰抜け共と一緒にされちゃ困るな。群れなきゃ何も出来ない情けねぇ連中に頼らずとも、ガキ一人始末することなんて俺様だけで十分だ」


 呆れたものだ。

 情報をペラペラと喋り出して馬鹿なのだろうか、それとも自意識過剰なのだろうか。

 言っていることが嘘だという可能性もあるが、あの態度を見る限り、それはないだろう。


 「まあ、腰抜けでも俺様の隠れた実力を見抜いた観察眼だけは認めてやってもいいがな」


 なんでこうも上から目線なんだろうか。

 何にしても、セイヴァーハンドの一員のくせに連携を取らないという馬鹿なのは確定した。

 本当に救いようがない馬鹿だ。

 ここでコイツを始末すれば外部に情報は洩れない。

 予想はしていたが、確証が得られた。

 これで憂うことなく始末できる。


 「俺様があの連中に教えてやんだよ。誰が一番強くて、誰が世界を支配するのに相応しいかを。この俺様が最強なのをアイツらに、全世界に教えてやるんだ」


 大柄な男性の演説が終わり、裏路地は静かになる。


 「俺様の力を証明するために死んでくれ。……殺れ」


 大柄な男性が合図すると拳銃を構えた細身の女性が発砲した。

 放たれた銃弾は少女に当たる寸前で見えない何かによって弾かれる。


 「何やってんだ! ちゃんと狙え!」


 斧を持った大柄な男性が怒鳴り散らす。

 何が起きたか理解出来てないようだ。


 「やはり、その程度か……」


 その後も何発か撃ってくるも、その全てが見えない何かに弾かれて、少女に当たる事はなかった。


 「ねえ、これって防がれてない?」


 拳銃を撃っていた細身の女性が疑問を口にした。


 ようやく気付いたか。

 まったく持って気付くのが遅過ぎる。


 「ったく! そうならそうと早く言え!」


 細身の女性に吠える大柄な男性。

 あんな男と一緒に居るとは、あの女性も大変だな。


 「あんだぁ? バリアか? ケッ、一丁前にバリアを張りやがって生意気な。俺様がやる、お前はどいてろ!」


 そう言うと大柄な男性は掌を上に掲げる。

 掌から火の玉が生じ始めた。


 「くらえっ!!」


 火の玉を投げるように放たれた。

 拳銃よりは威力が高い。

 だが、無駄が多い。

 魔法自体は悪くないが、魔力が周囲に拡散している。

 圧縮すべき所なのに周囲に散らしてどうするんだ。

 あれでは威力が半減してしまう。


 先程の銃弾と同じように見えない何かによって防がれて、少女の目の前で小さな爆発を起こす。

 爆風に晒されるも少女は怪我も火傷も負う事はなかった。


 「バカな……」


 大柄な男性は唖然としていた。

 それも当然だろう。

 弱いと思っていた相手が自らの一撃を軽々と防いでみせたのだから。

 この程度の相手ならば一人でも勝てるが、万全を期すためにも奈々の到着を待つべきだろうか。

 そんなことを考えている間も敵の攻撃が続く。

 細身の女性が大柄な男に魔力を注ぎ込む。

 魔力の補助を受けながら、先程と同じ要領で火の玉を作り出した。

 火の玉のは、さっきよりも大きい。


 「ふはははっ! これで、どうだっ!」


 大きくなった火の玉を放つ。

 今度は防がずに躱す。

 火の玉は後ろの壁に当たり、爆炎を上げる。

 炎はすぐに消え去るも、壁面に焦げ跡を残す。


 「さすがに今のはバリアでは防げないようだな」


 再び火の玉を作り出す。

 実を言うと、あの強化した火の玉も防げるのだ。

 彼の言うところのバリア、守護の魔法で難なく防げる。

 あの程度の攻撃は障害になり得ない。

 だが、守護の魔法は攻撃を受けると、その攻撃の威力に比例して魔力を消費する。

 万が一を考えれば、魔力の消費は出来る限り抑えておきたい。

 攻撃を避けた理由などその程度のもの。

 それを勘違いして粋がっているとは、哀れな男だ。

 幾度も火の玉を撃ってきたが、それら全ては少女に当たることはなく、壁に当たって爆発を起こしては消えていく。


 「くそっ、すばしっこい……!」


 大柄な男性が少女を睨みつけながら吐き捨てた。

 せっかく斧を出したのに一度も使ってこないが、あれはただの飾りなのだろうか。

 それともファッションか?

 だとしたら斬新なファッションだなと思う、とても真似したいとは思わないが。

 それと気になるのは、大柄な男性に付き従う細身の女性。

 魔力操作をしていることから、彼女も何かと契約を結んでいるはずだ。

 今は大柄な男性に従っているが、どのような力を保持しているか未知数である。


 「っ!」


 ふと、人の気配を感じた。

 自分達が通ってきた道。

 そちらから誰かがやって来る。

 奈々ではないと確信できた。

 気配をまるで隠そうともせずに、この場に近付いて来る者。

 自分の知る奈々なら気配を出さずに行動できる。

 以前にこっそりと背後から忍び寄って来て、いきなり胸を触られたことがあった。

 スキンシップをしたいにしても度が過ぎている。

 あそこまで完璧に気配を消せるのなら、もっと別な事で役立てて欲しいものだ。

 それはともかく、近付いて来る者は間違いなく素人。

 この二人の仲間だろうか。


 この場所に至る最後の角を曲がって、招かれざる客が姿を現した。


 「ねえ、誰か来てるよ」


 向こうも気付いたようだ。

 その場に居る全員の視線が来訪者に注がれる。

 来訪者は男性。

 見た感じだと若い。

 私服を着ているがおそらく学生、高校生に見える。


 学生が何でここに? まあ自分も学生なんだけど。

 高校一年生の自分より年上だろうか、そんな感じがする。

 セイヴァーハンドの関係者にも見えないが、絶対に違うという確証もないし、どうする。

 こいつらと一緒に始末するか。

 でも、本当に一般人だったら……。

 勘違いで殺すと後々面倒だし、夢見が悪い。

 ならば生け捕りにするか。


 男子学生について色々と思案していると、ある事に気が付いた。

 来訪者である男子学生がこちらをジッと見ているのだ。

 武器を持った男女二人ではなく、こちらをだ。


 なぜこっちを見る。

 如何にも怪しい二人は眼中にないという事か。

 それともやはりこの二人の仲間なのだろうか?

 だが、それにしては大柄な男性もどこか落ち着きがない。

 突然の来訪者に戸惑っているように見える。

 そうしている間にも男子学生はこちらを凝視していた。

 もしかして知り合いか?

 いや、見覚えがない顔だ、これが初対面のはず。


 男子学生は他人のくせして無遠慮にジロジロと見てくる。

 失礼な奴だなとも思ったが、何か理由があるのだろう。

 顔に何か付いているとか?

 顔に付いている……頭? 髪?

 髪に何か付いているなら一つ心当たりがあった。

 寝ぐせだ。

 もしかしてだが、朝の寝ぐせが付いたままなのでは?

 だが、寝ぐせは朝のうちに茜が直してくれたから大丈夫なはず。

 頭ではなく服装が変なのでは?

 だけど、着ている服は奈々と茜が選んでくれたし、二人共似合っていると言ってくれたから問題ないはず。

 やっぱ服装ではなく頭じゃないか?

 頭にゴミでも付いているのかもしれない。

 さっき動き回ったからその可能性もある。

 動き回ったから、髪が乱れている可能性もあるのか。

 顔、髪、服装、頭、髪……。

 どこかが変なのだろう。

 どこだ?

 気になる。

 早く帰って鏡を見て確認したい。

 気になる。

 ……。

 …………。

 ………………。

 ……話が逸れてる。

 今はそれどころじゃないだろ。


 状況を見るに、男女二人も男子学生もこの状況に戸惑っている様子だ。

 完全に膠着状態に陥ったなと思ったが、事態はすぐに動いた。

 斧を持った大柄な男が拳銃を持つ細身の女性を肘で突いている。

 そして、顎をしゃくって合図した。

 男子学生を処分する気だ。

 やはり男子学生と男女二人は無関係のようだ。


 大柄な男性に指示された細身の女性の眼に魔力が宿るのを感じた。

 魔眼だ。

 あれに見られたら、もしくは見たら魔法が発動する。

 細身の女性の視線は男子学生の眼に向けられていた。

 どんな効果かは分からないが、見たら発動するタイプの魔眼。

 幸いにしてだろうか、男子学生の視線は右往左往としているも基本的にはこちらに向けられていた。


 「恨むなら、ここに足を運んだ自分を恨むんだね」


 その言葉に反応した男子学生が細身の女性の方に顔を向ける。


 「そいつの眼を見るな!」


 無意識の内に叫び、男子学生の元に駆け出していた。


 「メデューサ! 私に力を!」


 メデューサ。

 たしか石化の魔眼を持つ蛇女だったな。

 それがこの女性の契約モンスターか。


 男子学生が細身の女性の顔、眼を捉えようとした瞬間、男子学生に体当たりして押し倒す。


 「ぐぇっ……!?」


 背中から倒れ込んだ男子学生から苦しそうな声が漏れる。

 その男子学生に跨がるような体勢になってしまう。

 異性とこんなに密着したのは初めてだが、それよりも魔眼の影響がないか気になった。


 「うっぐああああぁぁぁぁ!」


 突如、男子学生が右眼を抑えて悲鳴を上げ始めた。

 少女の下で悶え苦しみながら暴れる。

 やはり魔眼の影響を受けていたようだ。

 なんとか対処しようにもこうも暴れられると何も出来ない。

 両手で男子学生の顔を挟み、動かないように固定する。


 「じっとしていろ!」


 そう言い聞かせると、意外にも素直に従い大人しくなる。

 男子学生の体を確認するも、異常があるのは右眼だけだった。


 「大丈夫。これならまだ助かる」


 そう言って右眼を押さえる手をどかして、堅く閉ざされていた右瞼に手を伸ばす。

 その間、男子学生にまじまじと見つめられる。

 先程といい、なんでそんなにも見つめてくるのかが分からない。


 静かに開いた瞼の中にあるのは石化した眼球。

 一瞬ではあったが、やはり魔眼を目にしていたか。

 石化した眼球に触れても、男子学生は何ら反応を示さない。

 感覚がないのだろう。

 視力も失われているはずだ。

 一瞬だけ受けた魔眼の影響がどれ程に及ぶかは不明だが、石化はまだ進行している。

 収まっていない。

 男子学生の瞼をさらにこじ開けて、指をその中に侵入させる。


 「ぐがああああああああああああああ!!」


 男子学生が悲鳴を上げるも無視する。

 石化を止めるにはこれしかない。

 眼球を掴み、引き抜く。

 ぶちぶちと嫌な音が耳に入る。

 石化していない部分が千切れたのだ。


  「ぐぅっ、ああぁぁああぁぁぁぁっ! うっくぅううっあっ!」


 引き抜いたのと同時にのたうち回る男子学生から離れる。

 抜き取った眼球は石化していない部分まで石化が進行していく。

 あと少し眼球を抜き取るのが遅ければ、右眼だけでなく全身の石化が進行していただろう。

 だが、彼はそんな事を知る由もない。

 血が噴き出す部位を手で押さえ、声にならない悲鳴を上げながらのたうち回る男子学生を見下ろす。


 「悪いな。今すぐにでも治療してやりたいところだが、向こうがそれを待ってくれないようだ」


 血に塗れて石化した眼球を男子学生に押し付けて、再び魔眼の力を行使しようとする細身の女性に向けて駆け出した。

 あの魔眼には他にも効果があるのかもしれない。

 女性の眼を見ないように接近し、その脇腹目掛けて足を叩き込む。

 攻撃を受けた細身の女性は転がるも受け身を取って即座に立ち上がった。

 それを見て、一度後方に跳躍して距離を取る。

 その際に魔法でナイフを作り出す。

 さっき作っておいたナイフに加えて二本。

 それを男女二人に一本ずつ投擲した。

 細身の女性はナイフに反応出来ていない。

 斧を持った大柄な男性は反応したが、何が飛んで来ているかまでは理解ておらず、テキトーに斧を振り回す。

 偶然にもそれがナイフに命中して弾いた。

 弾かれたナイフは少女の脇を通り抜ける。

 その行く先には男子学生が居た。

 しまったと気付いた時にはもう遅い。

 ナイフは男子学生に辿り着き、その胸元に深々と突き刺さった。

 崩れ落ちる男子学生。

 男子学生には悪いが、これはもう運が悪かったとしか言いようがない。

 ちなみに女性に投擲したナイフは喉元に刺さり、彼女を仕留めていた。


 「何をした? 何が起きた?」


 唯一生き残った大柄な男性は状況を理解しておらず、一人狼狽えている。


 「まったく来るのが遅い」

 「何を言って……っ!?」


 ポツリと呟いた言葉に反応するが、その言葉通りもう遅い。

 斧を持った大柄な男性は瞬時に氷漬けになり、己の身に何が起きたのか理解できないままその生涯を終えた。




 ー4ー


 茶色掛かった髪を後ろに束ねた少女。

 彼女は斧を持った大柄な男性の背後に突如として現れ、その首元を後ろから掴んだ。

 掴んだその瞬間、大柄な男性は氷漬けになった。


 「ルナ様! ご無事ですかっ」


 髪を後ろに束ねたの少女、彼女は奈々。

 自分と同い年で幼馴染でもある少女は慌てた様子でルナに駆け寄った。


 「見ての通り無事だ」

 「よかった……!」


 そう言いながら奈々はルナに抱きついた。

 突然抱きつかれてもルナは驚かない。

 常日頃より奈々は体を密着させてくる。

 抱きつかれるなど日常茶飯事、いつもの事だ。


 奈々はルナの髪、母親譲りの銀色の髪を撫でる。


 「本当に無事でよかった……」


 奈々はルナの無事に心から安堵している。

 さすがにずっと抱きつかれたままだと苦しいので引き剥がす。

 奈々は名残惜しそうにしているが、これもいつもの事なので気にしない。


 状況が状況だけに、奈々は咳払いをして気持ちを切り替える。


 「すみません、ルナ様。少し目を離した隙にこんな事になってしまって……」

 「奈々が謝ることではない。これは私のミスが招いたことだ。一時はどうなるかと思ったが、この通り無事だ。取るに足らない相手だったからな」


 むしろ相手の弱さと馬鹿さ加減に驚かされた。

 こんな奴らが居てセイヴァーハンドは大丈夫なのかと逆に心配になったくらいだ。

 大柄な男性のあの傲慢な態度。

 もしかしたら力を身につけて間もないのかもしれない。

 常人にはない力を得て、自分は選ばれた者だとか特別だとか勘違いしたのだろう。


 「まったくルナ様に手を出すなんて不敬な輩ですね、死んで当然です」


 男女二人の死体を一瞥して奈々は毒づいた。


 「そちらの学生さんでしょうか? ルナ様のナイフが刺さっていますし、彼もセイヴァーハンドの一員なんですか?」


 確かに刺さっているナイフはルナが魔法で作ったものではあるが、それが刺さったのは事故である。


 「違う、と思う。偶然ここに迷い込んだ感じがしていた」

 「人払いの魔法が発動していたのですよね? 契約を結んでいるようには見えませんし、かと言って魔力量が多いというわけでもなさそうですし。彼みたいな魔力があるかどうかも分からない微弱な魔力の持ち主が迷い込むなんてあり得るのですかね?」


 奈々の疑問を受けて、ルナは改めて死体を観察する。

 それである事に気が付いた。


 「左手の指を見てみろ。指に嵌めてあるのはセイヴァーハンドの指輪だ。おそらくだが、こいつは偶然指輪を拾って、それを指に嵌めた。ここに迷い込んだ理由もそのせいだろう」


 あの指輪には魔除けの効果があったはずだ。

 指に嵌めると効果が発動し、魔力が弱い者でも人払いの魔法を受けなくなる。

 人払いの魔法の防音効果も指輪を嵌めることで無効化にできるはずだ。

 あの指輪は魔眼の女性が落としまま拾わなかった。

 この男子学生が指輪を偶然拾い、理由は分からないがそれを指に嵌めた。

 それで戦闘の音が聞こえるようになり、音が気になった男子学生は裏路地に入る。

 そして戦闘の現場に鉢合わせ、こんなところだろう。


 「念の為、こいつの身辺を調べといてくれ」

 「了解しました、調べておきます」


 敬礼のポーズを取って、了承する奈々。


 「茜さんと榊さんがこちらに向かっているところです。死体とかの処分はやっておきますので、ルナ様には現場の修復をお願いしていいですか?」


 現場とは今いるこの場所を指している。

 あの二人が魔法と拳銃を好き放題に放ったせいで、現場は酷い有様だ。


 「今回も派手にやってくれたな」


 そう言いつつ、修復の魔法を発動する。

 欠けた壁は欠ける前の状態に戻り、壁面に付いた焦げ跡は消え去った。


 「お見事です、ルナ様。あっ、ちょうど茜さんと榊さんが到着したみたいですね」


 奈々は通路の先に視線を向けていた。

 その視線の先にはルナの見知った人物、二人の姿があった。


 茜と榊。


 茜。

 彼女は腰の辺りまで伸ばした黒髪が特徴の真面目な大学生といった感じがする女性。

 実際は大学生ではないが見た目年齢は大体それくらいだ。

 普段は炊事、洗濯、掃除といったルナの身の回りの世話をしてくれている。

 時に優しく、時に厳しい彼女はルナにとって頼れるお姉さん的存在だ。


 榊。

 彼は厳つい顔つきに無精髭を生やし、サングラスに黒スーツと、いかにもという風貌の男性。

 というより元々危ない感じのことをやっていた。

 見た目は怖いが気心知れた相手には非常に紳士的であり、そうじゃない相手にはそれ相応の対応をするが、それもルナの身の安全を思っての対応だ。

 主に資材の調達や今回のような荒事の後処理を請け負ってくれている頼もしい存在である。


 「全員揃ったし、一応状況の説明をしておく」


 そうして今日あった出来事を三人に話した。


 夏休みの終わりにクラスメイトに誘われたルナは、奈々と共に外出する。

 夕方になりクラスメイトと別れるが、そのクラスメイトの忘れ物に奈々が気付いて届けに行った。

 奈々を待っている間、外は暑いので涼しい所に移動しようとしたルナはセイヴァーハンドの女性と遭遇する。

 それからなんやかんやあって今に至った。


 「申し訳ありません、ルナ様。護衛のわたしが目を離している間に危険な目に……」


 奈々はしょぼんと申し訳なさそうにする。


 「さっきも言った通り、これは奈々のせいじゃない。だからそんなに落ち込むな」


 いつもならあんな手には引っ掛からないのだが、普段誘われない自分がクラスメイトに誘われて浮かれていた。

 その気の緩みが今回の出来事に繋がったのだ。


 「ルナ様は優しいのですね」


 奈々はそう言ってはにかんだ。

 今ので完全に気を取り直したわけではないが、奈々の気持ちが少しでも軽くなってくれたようだ。


 「さて、とりあえず現場の処理は榊に任せたいが、いいか?」

 「問題ありません」


 榊は静かに首肯する


 「奈々はその男子学生の身辺調査と今回の件についてのセイヴァーハンドの動向を探ってくれ」

 「了解しました」

 「茜は……」


 どうするか、今回はさせる事がない。


 「私の役目はないようですし、ルナ様と共に帰宅しましょうか」


 一緒に帰るとは言うが、要は護衛をするという事だ。


 「そうだな、頼む」


 ルナは倒れた男子学生の死体を一瞥して、茜と共にその場を後にした。




 ー5ー


 翌日も夏休みなので当然ながらルナは休みだ。


 自宅であるマンションの一室にルナは居た。

 朝早くから奈々が調査に出掛けていって不在であるため、家に居るのはルナと茜、榊の三人だけ。

 ルナと奈々は同居しているが、茜と榊は一緒に住んでいるというより、ルナが住んでいるマンションの一室、その両隣の部屋にそれぞれ住んでいる。

 護衛兼身の回りの世話をするために部屋に出入りしているため、寝る時以外で自室に戻ることはほとんどない。

 ちなみにルナも奈々も高校一年生ではあるが、二人とも部活には入っていないため、夏休みに学校に行くことはほぼない。

 今は自宅にて、奈々の報告を待っているというわけだ。


 「ところでルナ様、昨夜の話は本気なのですか?」


 茜は寝ぐせでハネているルナの髪を櫛でとかしながら尋ねてきた。


 「もちろん、本気だ。不服か?」

 「そういう訳ではありませんよ。私としても、ルナ様の身を守れるのならそれに越したことはありませんし、それが最善……と言い切れるかは分かり兼ねますけど、良い案だと思います。ただ……」


 そこで茜は一旦言葉を切って続ける。


 「らしくないなと思っただけです」

 「らしくない、か……。確かに言われてみればそうだな。いつもだったらこんな決断は下さないだろう。だけど……」


 生き延びるためだ。

 セイヴァーハンドの連中にやすやすと殺されるわけにはいかない。

 今までも何度か戦闘になることはあったが、奈々と茜と榊の三人と共にその全てに勝利し、生き残ることができた。


 だけど、昨日は今までとは違った。

 一人の時に襲われた。

 敵が弱かったからこそ良かったものの、強敵が相手だったらどうなっていたか分からない。


 「これまでが幸運だったんだ。昨日も幸運に救われて死なずに済んだ。だけど、これ以上幸運に期待するわけにはいかない」


 次も幸運が訪れるとは限らない。

 昨日の出来事を反省し、次に繋げるのだ。


 「今回は試しにやるだけだ。条件も揃っているし、やる分には損はないだろう」

 「ルナ様なりに考えがあってのことなんですね。では、これ以上私から言うことはありません」


 茜は深く問い詰めず、納得してくれた。


 昨日、セイヴァーハンドに襲われたルナは今後の対策としてある事を提案した。

 提案した内容とは、新しい護衛についてだ。

 昨日の出来事はルナのミスが原因ではあるものの肝心な時に護衛がいないのは問題である。

 いつ如何なる時でも呼び出せる護衛、それが必要だ。

 昨日巻き込んで殺してしまった男子学生の顔を思い出す。

 彼の死体は回収済みだ。

 悪いとは思うが、その死体を利用させてもらう。



 夜に奈々から連絡が入った。

 死んだ男子学生とセイヴァーハンドとの間に何の繋がりがないとの事だ。


 「決まりだな」


 セイヴァーハンドと繋がりがないのなら、なお都合がいい。

 男子学生の死体を利用して新しい護衛を作る。


 「ルナ様。準備はよろしいですか?」


 自宅であるマンションの一室で茜と榊が見守る中、儀式を始める。

 儀式といっても、別段大掛かりのものではなく、ただ魔法を使うだけだ。

 ちなみに奈々は引き続き、セイヴァーハンドの動向を探るため今日は帰ってこないそうだ。


 目の前に横たわる死体を見下ろす。

 昨日死んだ、ある意味ルナが殺した男子学生の死体だ。

 その死体に魔法を掛けるだけの話、それだけのすぐに済む話である。

 この日本に、ひいては世界に魔法の存在を知っているのは、ごく一部の人間だけだ。

 だが、魔法を行使できるのは限られた人間だけではない。

 向き不向きはあるが、条件が揃えば誰でも魔法を行使することができる。

 誰でも魔法を使える中で、特別な魔法の才能に目覚めた者がいた。

 ルナもその中の一人である。

 正確に言えばルナのご先祖様。

 ルナは母親から、母親はその親から代々引き継がれてきた魔法の才能。

 受け継がれた魔法。


 それは『黄泉帰りの魔法』。


 死んだ者を生き返らせる魔法である。

 とはいっても人を蘇させるのではなく、死体を依り代にしてアンデッドを作成する魔法だ。


 俗に『ネクロマンサー』と呼ばれる存在である。


 今回は男子学生の死体を使って、ルナの護衛となる高位アンデッドを作り出す。

 高位アンデッドとは、通常のアンデッドよりも高い知能と身体能力を有している。

 黄泉帰りの魔法を用いて高位アンデッドを作り出すにはいくつか条件があるが、幸いにして男子学生の死体はその条件を偶然にも満たしていた。




 ー6ー


 「始めるぞ」


 男子学生の死体に手をかざして魔法を発動する。

 死体は発生した光の粒子に包まれていく。

 作り出したアンデッドとは自動的に主従関係が結ばれ、魔力がある限りルナが好きな時に召喚できる。

 なので、昨日のように護衛がいない時でも守り手として召喚することが可能になるのだ。

 たとえ弱いアンデッドになったとしても、奈々や茜が来るための時間稼ぎ程度にはなるだろうし、作っておいて損はない。


 「……」


 胸に引っ掛ける嫌な感じ。

 やはり見ず知らずの他人の死体を使うのには後ろめたさがあるのだろうか。

 申し訳ないとは思う。

 男子学生に何ら非はない。

 だが、生憎とルナは死者を利用するネクロマンサー。

 目の前に使える死体があれば利用する。

 死者を蘇らせるという冒涜を犯す悪人だと言われようが関係ない。

 これはルナ自身が生き延びるために必要な事なのだから。

 それに死体には偽りの魂を宿らせるので、アンデッドに自我がない。

 魂だけは救われる。

 そう思うことで、気休め程度だが気が楽になった。


 奈々の報告では、この男子学生には家族がいる。

 父と母、それとルナと同い年の妹。

 彼らは男子学生の死を知ったら悲しむだろう。

 だけど、男子学生の死体はルナの魔法に使われ、死体は家族の元には戻らずに行方不明という扱いになる。

 帰ってこない家族を永遠に待ち続ける、それはある意味、死体を目の当たりにするよりも残酷なことかもしれない。


 男子学生とその家族に心の中で謝罪して、魔法に集中する。

 光に包まれた死体が徐々に形を変えていく。

 一度、人の形を失った死体は再び人型になる。

 光の粒子が消え、アンデッドが姿を現した。

 そう、アンデッドが現れるはずなのだ……。


 んんっ?

 あれ?

 あれれ?

 これは一体どういうことだ?


 ルナは驚いた。

 目の前に姿を現したのはアンデッドではなく、生きた人間だ。

 アンデッド特有の醜悪さがなく、朽ち果てた体をしているわけでもない。

 間違いなく命を持った生きた人間である。

 目の前に現れた人間の顔をよく見ると死んだ男子学生と同じだ。

 服装に差異はあるが、死んだ男子学生で間違いない。

 魔法が失敗した?

 でも、黄泉帰りの魔法で生きた人間が出てきたら、ある意味成功なのではないか?

 いやいや、でもでも、そんな事ありえるのか?

 男子学生も戸惑っていようで、間抜けな顔で呆けている。

 向こうもこちらと同様に状況を理解していないようだった。




 ー7ー


 目眩が治まり、揺れていた意識が定まる。


 「……ん?」


 さっきまでアマテルと一緒に居たはずなのに、その姿は消え去り、さらに周囲の景色が変わっていた。

 目の前に居るのはアマテルではなく銀色の髪と夜空のように黒い瞳をした小柄な少女。


 一体何が起きたんだ?

 アマテルはどこに消えた?


 何が起きたのか理解出来ぬまま困惑する。

 とりあえず何が起きたのか順を追って思い出すんだ。


 神殿で勇者候補やリッチーの話を聞く。

 リッチー討伐の旅の同行者になったアマテルの家に向かう。

 そして、アマテルの家に着いて夕飯をご馳走になった。

 ここからが重要だ。

 アマテルに使われていない部屋へと案内された時に強烈な目眩に襲われた。

 そしたらアマテルの姿は消えて、その代わりなのだろうか銀髪の少女が現れて、場所も変わっている。

 こんな感じか?

 ……違う気がする。

 場所が変わったのではない。

 アマテルが消えたというよりも、自分がどこか別の場所に移動したのではないか?

 普通ならあり得ないが、似たような経験をつい最近した。

 気が付いたら知らない世界にいたという経験をしたばかりではないか。

 最近どころか今日の話である。

 そのせいだろうか、自分が立てた荒唐無稽な仮説に自信を持つことができた。

 それにしてもこの銀髪の少女、見覚えがある。

 記憶を辿ってみると、すぐに思い当たった。

 自分が地球で死ぬ直前に会った少女だ。

 この少女と男女二人組が対峙していたところに偶然出くわし、少女が投げたナイフが弾かれて自分に刺さって死んだ。

 今思うとものすごく間抜けな死に方だ。

 我ながら情けない。

 情けなかったのはこの際仕方がない、というかどうしようもない。

 過ぎたことだ。

 それよりも、ここはどこなのだろうか?


 軽く周囲を見渡す。

 照明で明るく照らされた部屋の中央にはテーブル、その脇にソファが置かれている。

 壁際にあるキャビネットの上には電源が切られたテレビが置かれ、エアコンやカレンダー、時計が壁に掛けられていた。

 エアコンからは冷気が流れており、汗ばんだ体には心地良く感じられる。

 このリビングと呼ぶべき部屋の隣には台所が覗く。

 どこからどう見ても、紛れもなく、間違いようもなく、マンションの一室に見える。

 見えるというよりマンションだ。


 自分が立てた仮説を否定する形になってしまうが、ついさっきまで見ていたのは夢だったのではないかと思えてしまう。

 あの世界もアマテルも本当は存在していないのではないか。

 夢にしてはリアルだった気もするが、そもそも魔法なんて存在するはずがない。

 たまたま事故に巻き込まれて、目の前にいる銀髪の少女が介抱してくれた。

 そう考えると、無理やりではあるが納得はできる。

 だが、あの夢の世界のことを鮮明に覚えているのも確かだ。

 この眼で見て、この耳で聞き、この手で触れた。

 食欲をそそる香ばしい匂いを漂わせる夕飯を美味しく食べた。

 その全ての感覚を、五感が憶えている。

 あの世界が夢だったとは思えない。


 ダメだ、さっきから思考がループしている。

 自分の持つ情報だけでは結論が出せない。

 ひとまず結論を出すのを後回しにする。

 再び銀髪の少女の方を見てみると、彼女はこちらをじっと見つめたまま微動だにしない。

 観察されているようだ。

 どんな状況かは分からないが、挨拶ぐらいはしておかなくては。


 「あの……」


 口を開こうとした瞬間、突然後ろから腕を掴まれた。


 「えっ?」


 掴まれたと思ったら、引っ張られ。

 引っ張られたと思ったら、押し倒されてしまう。

 突然の出来事に思考が追い付かなかった。

 何者かによって押し倒されて、身動きが取れないように組み伏せられてしまう。


 「いつつ……」


 状況を確認しようとしたら、さらに状況が理解できないことになってしまった。

 何とか動こうと暴れて抵抗するが拘束を振りほどくことが出来ない。

 その時、見下ろす銀髪の少女が脅すように言い放つ。


 「大人しくしろ。余計な事をしなければ殺しはしない」


 殺しはしない?

 何かしたら殺すって事か?

 誰が誰を殺すんだ?

 殺すと言っているのは少女。

 殺すと言われているのが自分。

 自分が銀髪の少女に殺されるのか?

 銀髪の少女からは真剣味しか感じられない。

 嘘偽りを述べているようには思えなかった。

 本気で殺す気でいる。


 首を回して自分を組み伏せている相手を確かめる。

 長い黒髪の大人びた女性。

 彼女によって自分は組み伏せられているのか。

 女性と体が密着しているのに嬉しいとは思えないほどに自分は怯えていた。


 後ろにもう一人居たようで、その人物は前に出てきて銀髪の少女を守るように目の前に立つ。

 サングラスを掛けて黒いスーツを着た男性。

 無精髭を生やした厳つい顔つき、サングラスの奥から睨まれているのが容易に想像できた。

 怖い。

 銀髪の少女に脅されても可愛く思えたが、この男は怖すぎる。

 何か脅し文句を言うのではなく、黙って威圧してくる。

 よく見てみると、スーツの懐に右手を入れていた。

 拳銃でも持っているではないかと不安になってくる。

 ここは素直に従った方がいいと判断し、もがき暴れるのを止めて大人しく組み伏せられる。


 「それでいい。いくつか質問するが、言葉は話せるか?」

 「え? ああ、うん。話せる……」


 自分の声とは思えないくらいに声が震えていた。


 「そうか。まずは名前を何と言う?」


 最初に名前を聞かれ、その次に生年月日、住所や家族構成といった個人情報について聞かれた。

 個人情報だったので始めは言い渋ったが、拘束の力が強まり痛くて怖かったので正直に全て話してしまう。


 「ここまでは情報と同じか。嘘はついてないようだな」


 どういったわけかは知らないが、こちらの個人情報は予め知っていたようだ。

 嘘を言わなくてよかったと密かに安堵する。


 「以前……というよりも昨日なのだが、私とお前は会ったのだが憶えているか?」

 「男女二人に絡まれていたことだろ。憶えてるよ」


 あの出来事は昨日って事になっているのか。


 「お前はあの時死んだ。それなのに、なぜ……」


 なぜ生きている。

 少女は口を噤んだが、言わんとしていた事は容易に想像できた。

 やっぱ死んでいたのか。

 あの時、心臓にナイフが刺さって死んだ。

 では、なぜ自分は今ここに居る?


 「……その、逆に聞きたいが、いいか?」

 「なんだ?」


 ダメだって言われたらどうしようかと思ったがよかった。


 「ここは日本でいいのか?」

 「……そうだが、それがどうかしたのか?」


 やはり日本か。

 それじゃあ、あの世界は夢?

 いやでも、さっき死んだと言われたし……。

 もしかして、死んだって言ったのは個人情報聞くための方便なのでは。

 自分は何か犯罪に巻き込まれたのではないだろうか。


 「おい。それがどうしたのかと聞いている。黙っていたら分からないだろ」


 考え事に集中していたら、少女を無視する形になってしまった。

 そのせいで不機嫌そうにしている。


 「別に黙っていたわけじゃない。ただ、その……なんて言ったらいいか分からなくて……」

 「煮え切らない奴だ。もう少しはっきり喋ってほしいものだ」


 溜息をつかれながら呆れられてしまった。


 「このまま話していても先に進まない。茜、拘束を解いてやれ」


 いま自分を組み伏している黒髪の女性は茜という名前らしい。


 「よろしいのですか?」


 茜は確認のために聞き返す。


 「構わない。ちょっと実験をするだけだ」


 実験って怖い単語が聞こえてきたけど大丈夫なの?


 茜は静かに拘束を解いて後方に立った。

 これは起き上がってもいいのだろうか。


 「何してる、さっさと立て」


 さっきからどんどん口が悪くなっている。

 自分よりも背の低い、おそらく年下であろう少女から言われるがままにされているのは、傍から見たらどう映っているのだろうか。


 恐る恐ると立ち上がる。


 自分は一体何にビクついているのだろう。

 少なくとも銀髪の少女にビクついているのではない。

 上から目線だが、どう見ても小さい子供が偉ぶっている風にしか見えない。

 言葉がキツいのを除けば微笑ましいものだ。

 やはりというべきか、自分が怖がっているのはサングラスの男性だろう。

 見た目の怖さもあるが、さっきからちょくちょくと殺意が飛んでくるのが怖い。

 それと背後にいる茜という女性もなんか怖い。

 あの拘束は本当に身動きが取れなかったし、未だに体のあちこちが痛む。

 綺麗な見た目に反して結構力が強かったし、もう一度拘束されるのは御免だと思った。

 そんな心境の中、ビクビクと怯えながら身構えていると少女が静かに口を開く。


 「そのまま動くな」


 警告とは違う、命令するかのような口調だ。


 「体の調子はどうだ?」


 少女からの問いかけをきっかけに体の異変に気付いた。

 体が石像のように硬直し、指一本動かせない。


 「体が……動かない」


 辛うじて動いた口から声を絞り出す。


 「命令には服従するのか」


 服従ってなんだ。

 屈辱的な感じがしてなんか嫌だ。

 少女はサングラスの男性の脇を通り抜けて、こちらに歩み寄る。

 そして、白くて小さな手で胸元に触れてきた。


 「何を……?」

 「いいから、黙ってろ」


 立場が逆ならセクハラで訴えられそうな状況だ。


 「心臓がある。それに、ちゃんと動いている」


 少女は驚いている様子だが、それって当たり前の事じゃないか。

 手を離すと不思議そうにこちらを見上げてきた。


 「お前は何者なんだ?」


 銀髪の少女が上目遣いで尋ねてきた。

 少女は無意識のうちにやっているのだろう。

 距離が近くて、身長差がある。

 顔を合わせようとするだけで上目遣いになるのだ。

 闇夜のように黒い瞳に見つめられて、心が吸い寄せられる。

 少女にも聞こえるのではないかと思うほどに高まった心音が体中に響く。

 口と態度は悪いけど、見た目は――


 「黙ってないで答えろ。お前は何者なんだ?」


 やっぱ可愛くない。

 ただの生意気なガキだ。


 「何者と言われても人間としか答えようがない。それに今の状況がイマイチ理解できていないのが正直なところだ」

 「状況を理解できていないのはお互い様というわけか……」


 一拍置いてから再び口を開いた。


 「お前が知っている情報を全て話せ」


 また命令口調で告げられた。

 命令されるがままに自分に起きた出来事を洗いざらい話す。

 自分の意志に関係なく口が動いてしまう。


 命令。


 二度目だから理解できた。

 この少女の命令とやらに自分は逆らえない。


 死んだ後の事、地球とは別の世界の事、アマテルの事、その全てを話した。

 全て話し終わると、少女は指を口元に当てて考え込む。

 今した話はどれも荒唐無稽な話だ。

 疑いもせずに信じるわけがない。

 それなのに真剣な顔つき思案している。

 話しかけられる雰囲気じゃない。


 「ルナ様、一つよろしいですか?」


 背後に立っている黒髪の女性、たしか茜といったか。

 その彼女が口を開いた。

 今まで黙っていたので、いきなり喋りだしたのには驚いたが、それよりもだ。

 目の前にいる銀髪の少女はルナという名前らしい。

 そういえば、自己紹介をしたのって自分だけだったなと、今になって気付いた。

 まあ、こっちから聞けるという雰囲気ではないしな。


 「構わない。むしろ意見があるのなら、どんどん言ってくれ。榊も気付いたことがあれば言って欲しい」


 サングラスの男性は榊か。

 ようやく、ここにいる全員の名前を知る事が出来た。


 「それで茜、意見を聞かせてくれ」

 「はい、彼の話は全て彼自身の主観でしかありません。いくら正直に話せと命令しても、本人が嘘を真実だと思い込んでいたら、嘘を嘘だと認識せずに話してしまいます。全てを鵜呑みにするのは危険なのでは」


 言っていることは理解できるが、全部正直に話したのに疑われているのはあまり気分がいいものではない。


 「まあ、そうだな。クスリでもやっているのではないかと疑いたくなる話だ。だけど、魔力で繋がっている私には分かる、コイツは正気だ」


 言い方はあれだが、庇ってくれたようだ。


 「嘘だと疑っていないのか?」


 喋ると一斉に視線が向けられる……怖い。


 「……少しこちらの知っている事を話すか」


 ようやくか。

 今まで聞かれたことを答えてばかりで、向こうの情報は一切教えてくれなかった。

 会話の節々で知ったのは名前程度だ。

 さて、どんな話が出るか楽しみだ。


 「その前に自己紹介がまだだったな」


 一応はさっきまでの会話で名前だけは把握できたけれど、敢えて口にするまでもない。


 「私はルナだ」


 銀色の髪と黒い瞳を持つ小柄な少女、ルナは堂々たる態度で名前だけを告げた。

 名前の次に年齢や趣味などといったことは話すことなく、自己紹介は終わったのである。


 「えっと……」


 人には個人情報を聞いといて、自分は名前だけ名乗って終わりなのか。


 「なんだ、その不服そうな顔は、文句があるならさっさと言え」

 「……いえ、ないです」


 報復が怖いので口に出すのは止めておいた。


 「この男は榊だ」


 黒スーツにサングラスを掛けた中年の男性を指しながら紹介した。

 榊は挨拶どころか会釈もしない。

 サングラス越しで睨んだまま微動だにしない態度から察するに、全く信用されていないのがよく分かった。


 「それで、お前の後ろに居るのは茜だ」

 「よろしく」


 黒色の長い髪を持つ長身の女性、茜は短く挨拶した。


 「よ、よろしくお願いします……」


 未だにさっきの拘束のせいで怯えています。

 我ながら情けないが、この状況で強がれる程に肝は据わっていない。


 「本当はもう一人居るが、いないからまた今度でいいだろう」


 果たして今度があるかは疑問なのだが。


 「まず初めに私はネクロマンサーだ。魔法で死んだお前の死体を利用してアンデッドを作ろうとしたのだが、なぜか生きたお前が現れた」

 「えっ?」

 「ん?」


 コイツは何を言っているんだ。


 「何を言っているのか、さっぱり分からないのだけど……。ネクロマンサーだって? 死体を利用してとか、アンデッドだとか……」


 話がぶっ飛んでいて理解出来ない。

 中二病なのか?


 「疑うのは無理もないが、これは事実だ。それにお前の別世界がどうとかいう話よりは信憑性があると思うがな」


 信憑性……自分でいうのもあれだが、どっちもどっちだと思う。

 まさかとは思うが、自分も中二病だと思われているのだろうか。

 だとしたら、自分達は中二病同士のイタい会話を繰り広げているように見えているのか。


 「私がネクロマンサーかどうかは、お前を殺してアンデッドにするしか証明する方法がない。それは嫌だろ? 他の魔法なら見せられるのだがな」


 ルナは目の前で掌を広げる。

 その手の中で光の粒子が集まって形を成す。

 光の粒子が消えて現れたのはナイフ。


 「見覚えがあるナイフだろ?」


 自分の心臓を貫いたナイフと同じ造形だ。

 忘れるわけがない。


 「今のが魔法……」


 何もないところにナイフを作り出した。

 別の世界に行った経験がなければただの手品だと思っていただろう。

 だが、今のは紛れもなく魔法だ。


 「魔法の存在については信じただろう。次はネクロマンサーである証明でもしようか?」


 作り出したナイフの刃先を向けながら問うてきた。


 「それは止めてくれ。次は人間として生き返れないと思うから」

 「賢明な判断だな」


 ナイフは光の粒子となって消え去った。

 ルナは本当にネクロマンサーなのだろう。

 アンデッドを作るところは見れなかったが、ルナが嘘をついていないのはなんとなくだが分かった。


 その後は、ルナは自身の話をいくつかしてくれた。

 偶然、敵に見つかって襲われた事。

 そこに自分が居合わせた事。

 いつでも呼び出せる護衛が必要になった事。

 そして、護衛のアンデッドを作るために自分の死体が選ばれた事。

 本来ならアンデッドができるはずなのに生きた人間が現れたので、さぞ驚いたであろう。


 「さて、問題はこれからだ」


 今後どうするか、それは自分も気になっていた。


 「私の命令に逆らえないから、眷属であることに違いない。だが、どうしたものか……」

 「眷属?」

 「お前は私の下僕であり、従者であるということだ。言っておくが拒否権はない。お前に選ぶ権利などない。私に従ってもらう」


 ルナの言うことは本当であった。

 彼女の魔法によって地球に召喚された自分は、強制的にルナの配下に加わる。

 つまりは生きた人間でありながら、ルナが作り出したアンデッドと同じ扱いという事だ。

 ルナの命令に逆らえないのは、そこらへんの理由が起因しているのだろう。


 「生きた人間が現れたのは誤算だが、これは嬉しい誤算だったな。自我や意思がある分、アンデッドより融通がきいていい。これからはお前にも働いてもらうからな」


 覚悟しておけと、ルナは言った。


 「とは言え、それもお前次第だがな」


 自分がこれからどうなるか気になった。

 生殺与奪権は目の前の少女に握られている。

 不用意な発言は控えるべきであろう。


 「ルナ様の言うように、意思の疎通ができるようですし、このまま利用するのは何かと便利だと思います」


 茜がルナの意見を後押しする。

 利用とか便利とか本人の前では言わない方がいいのではないかと思う。

 物みたいな扱いでなんかヤダな。


 「榊はどう思う?」

 「始末すべきだと具申します」


 始末って殺すのか。

 それだけは止めて欲しい。

 というより、さっきから本人を前にして話すことじゃないだろ。


 「始末か。理由は?」

 「存在がイレギュラー過ぎます。良いか悪いか別として何かしらの影響を我々に与えるのは確実。ならば問題が起きる前に始末するのが無難かと」


 やはりと言うべきなのか、榊という男からは信用されていないようだ。

 初対面だから仕方ないけど、異様に敵視されている気がする。


 「ふむ、そうか」


 ルナは二人の意見を聞いて考え込む。


 「……お前にも聞いておこうか」


 こちらの顔を真っ直ぐに見つめる。


 「お前は生きたいか?」


 どんな事を聞かれるかと身構えていたが、聞かれたのはシンプルな内容だ。

 答えは迷うまでもない。


 「生きたい」


 もう一度死ぬなんて御免だった。


 前話に引き続き読んで頂き、誠にありがとうございます。


 さて、本編についてですが、長かったあらすじの部分が終わり、ようやく物語が始まります。

 物語は始まりますが、残念ながら次回の話では冒険は始まりません。

 本格的に始まるのは、次々回からになります。

 だからといって次回の話がつまらないというわけではないので、引き続き読んで頂ければ幸いです。

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