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16.カニアス


 ー1ー


 「さて、共命者システムだが。偶然とはいえ、その事が証明された。お前はこれからどうする?」


 スケルトンマーダーの被害者である男魔法使いと、地球のコンビニでバイトしていた大学生。

 その二人が共命者であり、奇しくも同じタイミングで命を落とした。


 「どうするって、何が?」

 「死神から頼まれたのであろう。リッチーの共命者を殺して欲しいと」

 「ああ、その件か。リッチーの顔が分からないから探しようがないよ。死神と会う機会なんてこれからもないと思うし諦めているところだ」

 「死神は神官の女と話したのだろ。神官の女に何か伝わっていないのか?」

 「情報が伝わっていたら、とっくに話してくれているはずだ。わざわざ隠すような話でもないし、何も情報を得ていないのだろう」

 「なんだ。せっかく共命者システムというリッチーをラクに倒せる方法があるのに勿体ないな」

 「それはそうだが、こればかりはどうしようもない。諦めて当初の目的どおりに旅をするよ」


 やはりこの旅路に近道はないのだろう。

 ラクができる方法などなく、地道に目標に向かって歩むしかない。


 「さて、そろそろ戻るよ」

 「そうか。それでは戻すぞ」


 別れの言葉を告げて地球を去るのだった。




 ー2ー


 残されたルナはしばしの間考える。


 「何か考えごとですか?」


 考えるルナに奈々は問い掛ける。


 「……戻ってすぐで悪いが、一つ調査を頼みたい」


 ルナが調査の内容を伝えると、奈々は怪訝な顔をする。


 「それって必要なことですか?」


 普段ならルナの言に何も聞かずに従う奈々でも問わずにいられなかった。


 「必要になるかもしれないことだ。別にあいつのためではない。共命者システム。それを上手く利用出来ればセイヴァーハンドを相手に優位に立てる」

 「それなら神官の女を……」

 「それ以上は言うな」


 ルナは奈々の言葉を遮った。


 「……分かりました。わたしの方で調べておきます」

 「ああ、よろしく頼む」




 ー3ー


 翌日。

 ルナと奈々はいつも通り登校する。

 二人の通う高校は進級してもクラス替えがないため、二年生になってもクラスメイトは変わらなかった。

 クラス委員を務めていた委員長は引き続きクラス委員を引き受けたりと一年生の頃と何ら変わりはない。

 そんな委員長はルナと会話している。

 奈々はその光景を少し離れた位置から眺めていた。

 去年までは挨拶する程度の仲だったのに、最近はよく会話をしている。

 奈々は言葉に出さないでいるも、ルナと委員長が仲良くしているのを好ましく思っていなかった。

 別にルナの交友関係が広くなるのは悪いことではない。

 委員長は悪い人ではないし、それどころか良い人である。

 それでも二人が仲良くするのは素直に歓迎でない。

 理由はいくつかある。

 一つは会話内容。

 基本的に世間話をする程度なのだが、委員長は何かと恋バナをしてくる。

 一つの話題が上がれば、どこかしらルナの彼氏の話を絡めてくるのだ。

 ルナの彼氏というのが、文化祭の時に行われた彼氏彼女のフリをしたあれだ。

 あれが今日まで消えずに残っている。

 その時から委員長は事あるごとに恋バナをしてきた。

 別段、委員長は恋愛話が好きというわけではなく、ルナの恋愛に興味があり、しかもそれを応援しようとしている。

 奈々からすれば迷惑この上ない話だ。

 さらにその相手が委員長の兄である。

 認識阻害の魔法で委員長は自身の兄であると認識していないが、その恋路を応援していた。

 文化祭が終わったのだから別れたことにすればいいのにルナは中々それをやらない。

 内容がどうであれ、委員長と会話出来るのが嬉しいと思っているのが奈々にも伝わって来るので強く言えない。

 気に入らないのが、ルナは委員長に聞かれたことに正直に答えていることだ。

 最近どんな感じかと聞かれれば、こんな会話をしたとか答えていた。

 流石に彼氏の正体やら、言ってはいけないことは言葉を濁しているが、それでもそんな馬鹿正直に話さなくていいのにと思っている。

 大分前にも喧嘩して数日間会っていないという話をわざわざ委員長に話していた。

 それを聞いた委員長はルナを取りなして、仲直りするように誘導した。

 バレンタインにチョコをあげるように勧めていたのも彼女だ。

 まあ、バレンタインに関しては茜も口を挟んでいたようだけど。

 何にしても奈々からすれば、ルナが彼と仲良くするのは頂けないというわけだ。

 それを誘導する委員長にもう少し自重してもらいたい。

 委員長と仲良くするのはいいのだ。

 だけど、せめて恋バナは止めてもらうように言っておかなくては。

 ルナの知らない所で奈々は密かに決意するのだった。




 ー4ー


 スケルトンマーダーの一件が解決し、マイカ達と分かれて数週間経った頃、とある街を訪れる。

 その街では最近ある問題が発生していた。


 「盗賊団が出る?」

 「そうなのよ。この辺りで最近盗賊団が出るの」


 宿屋の女将が言うには最近盗賊団が出るようになったとか。


 「盗賊団といえばエクリプスだけど……」


 エクリプスのボスであるフランケンはすでに死んでいる。

 となると別の盗賊団だろうか。


 「そうそう、エクリプス。エクリプスよ。そう名乗ってたって聞いたわ」


 別の盗賊団かと思いきや、エクリプスだと言う。


 「エクリプスは壊滅したんじゃ……?」

 「そうなの? でも、そう名乗っていたって警備の人達が話していたわよ」


 エクリプス自体は壊滅していない。

 もしかしたら、そう名乗っているだけで偽物の可能性があるが、エクリプスの残党の可能性もある。


 「お話ありがとうございました。自分達も少し調べてみます」


 女将にお礼を告げて宿を後にした。



 街の警備兵に直接話を聞き、盗賊団の情報を集める。

 集めた情報を元に仲間達と話し合う。


 「どうやら、カニアスがエクリプスを率いているようだ」


 カニアス。

 かつてはエクリプスの幹部であったが、今はフランケンに代わり、エクリプスのボスとなっているそうだ。

 カニアスとは以前に一度だけ会ったことがある。

 エビータを倒した後にフランケンの招待状を届けに来たのが彼だ。

 あの時に一戦を交えたが、中々の強敵だった。


 「それで勇者様。どうするおつもりで?」


 こういった決めごとは最終的に自分に委ねられる。

 なぜならリーダー的な役割を与えられているからだ。

 そういった役はローゲンがやればいいと思っていたが、当初よりローゲンからやるようにと勧められた。

 理由はローゲンが死んだ時の場合を考えての事だ。

 万が一に備えて。

 もちろん、ローゲンが死ぬような展開にはさせない。

 だけど、どんなに備えていても起こるのが事故である。

 なのでリーダーの役割を引き受けたのだ。


 「エクリプスのボスが変わるに伴って、活動場所も変わったのだろうな……」


 以前ならこの辺りはエクリプスの活動場所からかけ離れていて被害を受けていなかった。

 だが、最近になって被害を受けるようになったらしい。


 考える。

 自分がどうしたいのか。

 自分達が何をやるべきか。


 「ここで見過ごすのは簡単だが、エクリプスに変化が生じた原因は自分達にある。ここは手を貸すべきだろう」


 仲間達は頷き、賛成した。




 ー5ー


 「一度やられて再び現れたのか。まるでゾンビだな」


 それが今のエクリプスに対してのルナの感想だ。


 「本物のゾンビの方が相手をしやすいのだけどな」

 「まだ人間相手に躊躇しているのか。甘ちゃんだな」

 「今さら躊躇はしない。気持ちの問題だ」

 「躊躇しないのも色々と問題がある気がするが、お前に平和な日常などもう訪れない。人間性は捨てても、人間は捨てるなよ」

 「今の殺伐とした日常も案外気に入っているし、これで人間を捨てたら勿体ないと思っているから安心しろ」


 殺伐とした日常の中でこうしてルナと過ごしたり、アマテル達と過ごすのは嫌いではない。


 「そのエクリプスは今どんな事をしているんだ?」

 「略奪だ。フランケンが健在だった頃は色々とやっていたようだが、今は完全に盗賊団になっている」

 「盗賊団を名乗っていた武装集団が本当に盗賊団になったのか。まあ、なるべくしてなったといった感じだな」

 「一度崩壊した組織だ。略奪行為は基盤を安定させるまでの前座という可能性もある」

 「だろうな。それで、手伝うと言ったからには何かやるつもりだろ。何をするんだ?」

 「大したことはやらないよ。ただ迎え討つだけだ。定期的に街を襲撃しているようだから。それを返り討ちにするつもりだ」

 「なるほど。そこで指揮官となる敵を捕らえれば、情報を引き出せる。それから本丸を叩くというわけか」

 「さすがルナ。察しがいいね」


 全部言わずとも理解してくれるのは、彼女も今まで奈々達を率いてきたからだろう。


 「ただ、敵も馬鹿じゃない。いつまでも同じ行動を取るとは限らないぞ」

 「ああ、気を付けるよ」


 略奪の先に何を求めているのか。

 そこが問題である。

 もうすでに目的に向けて動き始めているかもしれない。

 次の襲撃の際には敵の動きを注意しておこう。


 「話はそれだけか?」

 「そうだな。向こうの出来事はあらかた話したかな」

 「そうか。奈々」


 ルナは黙って話を聞いていた奈々を呼び掛ける。


 「お前に話があるそうだ」

 「話? 何の?」


 奈々から話があるとは意外だな。


 「外で話そうか」


 奈々は立ち上がり、扉に向かう。

 ここで話せない内容とは何だろうか。

 疑問に思いつつも、とりあえず奈々の後を追い掛けた。




 ー6ー


 奈々は歩きながら昼間の出来事を思い返す。


 それは四時限目の体育の授業中、バスケを行ったのだがその片付けの時だ。

 奈々が一人になるのを見計らって委員長が声を掛けてきた。


 「河合さん。ちょっといい?」


 ルナの方を窺いながら小声でだ。

 その態度からルナに聞かれては困る内容だと奈々は察した。


 「いいけど。どうしたの?」

 「うん。実はさ、後で時間くれないかな? 二人きりで話がしたいの」

 「校舎裏でかな? いやー、委員長に告白されるなんて嬉しいなー」

 「ち、違うよ!? そういうのじゃないからねっ!」

 「冗談だよ。お昼休みでいい?」

 「うん、大丈夫」


 そうして奈々と委員長は二人きりで話すことになった。



 約束の時間になり、奈々は待ち合わせ場所に行くと委員長はすでに来ていた。


 「早いね、委員長。待たせちゃったかな?」

 「ううん。今来たところだから気にしないで」


 それから委員長は居住まいを正してから切り出した。


 「話は望月さんの事なんだ」


 ルナについて話すのは奈々はある程度予測していたので驚きはしなかった。


 「ルナ様についてだね。何でも聞いてよ。身長も体重もスリーサイズも全部知っているよ」

 「そ、そうなんだ……。それはいいかな、また今度で……」

 「そう?」


 遠慮しなくていいのにと奈々は思った。


 「それで河合さんはさ。どうして、どうして望月さんのことが嫌いなの?」


 委員長がそう問い掛けると時が一瞬止まった。


 「……」

 「……」


 しばしの間、二人は黙ったまま見つめ合うも先に奈々が口を開いた。


 「えっと……それはどういう意味? わたしはルナ様が大好きだよ。どうしてそんな話になるのか理解出来ないのだけど……」

 「河合さんが望月さんの事が大好きなのは知っているよ。でも、それと同じくらいに望月さんの事を嫌っていると思うの」

 「……委員長が言っていることは矛盾しているよ」

 「それは分かっている。自分でも何言ってんだろうとも思う。でも、河合さんが抱いている感情が複雑なのは間違っていないと思うよ」

 「……」


 奈々は考える。

 どうして気付いた。

 ルナと比べれば奈々と委員長が会話をした時間は短い。

 それでも奈々の心を見透かされた。

 奈々がルナに対して抱く相反する感情。

 それを気付かれた。

 委員長は思いつきで言ったわけではない。

 はっきりと断言した。

 奈々は委員長にどう返事をするべくか迷う。


 「委員長……。委員長が言いたいことは分かったよ。それでわたしにどうして欲しいの? わざわざそれだけを言いに来たわけではないでしょ?」

 「望月さんと昔何があったかは知らないけど、少しはいいんじゃないかなーと思うんだけど」

 「許してあげてって事?」

 「うん」

 「許したところで、それではい終わりっていう問題じゃないのだけど……」

 「そうなの? まあ、事情は詳しく知らないし、これに関しては外野がとやかく言う問題じゃないね」

 「その外野がとやかく言う問題じゃないことをわざわざ言うために呼んだの?」

 「違う違う。今のは前置き。本題はこれから」


 内容的には今のが本題でも差し支えない気がする。


 「それで本題なんだけど、望月さんとその彼氏の関係を認めて欲しいの。ううん、認めるまではいかなくてもいいから、見守ってくれないかな」

 「それは無理。誰かがルナ様に手を出すのは見過ごせない」

 「でも別に望月さんが彼氏と何をしようと河合さんには関係ないよね? いちいち許可を取る必要ないでしょ」

 「大いに関係ありますよ。だってルナ様はわたしのルナ様なんですもの。それを横取りするなんて誰だろうと許せない」


 委員長は呆れた顔をするも、すぐに得心がいった顔に変わった。


 「……そっか。そうなんだ。望月さんは河合さんにとって憧れなんだね。清純でいて神々しくあってほしい。一縷の穢れもなく、気高く、理想のままであって欲しいと願う。だからこそ反対しているんだ。変わらないで理想のままで居続けて欲しい。そうなんだよね?」

 「……」


 恐ろしい。

 奈々は委員長に対して畏怖を抱いた。

 観察眼に優れ過ぎている。

 兄とは違って目に見えないものまで視えている。

 そして今、奈々の心を見透かしている。

 仲間に加えたならどんなに頼もしいだろうか。

 当然ながら、どんなに優れていようと仲間に加える気など毛頭ない。


 「ねえ、河合さん。変わらなければ一生そのままだけど、そこで終わりになっちゃうんだよ。そこで終わり、お終い。それ以上は良くならない。むしろ時間の流れで風化していく。劣化しちゃう。変わらないのは悪いことじゃないけど、退屈だと思う」

 「だからと言って二人の関係は認めたくない。それに、わたしの考えが変わったところでそれが良い方向になるとは限らないし」

 「うん、そうだね。その通りだよ。だからこそ見守ろう。悪くならないように。それにさ、二人の関係を認めたからといっても上手くいくかどうかは結局二人次第なんだよ。周りがどんなに口を出してもしょうがない。せめて何かがあった時のために傍に居る、見守っているのが最善だと思うよ」




 ー7ー


 マンションを出て、近くのコンビニまで移動し肉まんを二つ購入する。

 それからコンビニの脇にある公園に移動した。

 以前もここで奈々と一緒に肉まんを食べたのを覚えている。


 「はい。冷めないうちにね。言っとくけど、わたしの奢りだからありがたく思ってよね」


 肉まんを一つ受け取って、前回と同じようにブランコに並んで座る。

 お互いに無言のまま肉まんを食す。

 先に食べ終わるも、奈々が食べ終わるまで待ってから切り出した。


 「それで話って? この前みたいに釘を指すために呼んだのか?」


 問われた奈々は口を噤むも、意を決したかのように口を開いた。


 「……君にとってルナ様はどういう存在なの?」


 似たような質問をかつてアマテルからもされた気がする。


 「主と従者の関係って聞いているわけじゃないよな?」

 「当たり前でしょ」


 答えは出ていた。


 「大切な人。そういう存在だよ」


 自分にとってそれが一番しっくりくる答えだ。


 「大切な人……。ありきたりだね」

 「他に言いようがないだろ」

 「まあ、今はそうだよね」


 奈々は空を見上げる。

 夜空に浮かぶ月を眺める彼女は一体何を考えているのだろうか。


 「……決めたよ」

 「何を?」


 どうせ碌でもないことだろう。


 「ルナ様を頼んだよ」

 「言われなくても分かっている。……ん?」


 言ってから気付く。

 ルナを頼む?

 奈々が?

 茜の口から言われたのなら違和感がない。

 だけど、奈々の口からその言葉が出てくるのは違和感しかない。


 「熱でもあるのか?」

 「ヒドいなー、君は」

 「悪気があって言ったんじゃない。ただ驚いたんだ。奈々の口からそんな言葉が出るとは思わなかったから」

 「まあ、それは色々あったんだよ。わたしにも心境の変化があってね」

 「ふーん」


 一体何があったのだろうか。


 「言っておくけど、別に君を認めたわけじゃないからね。これは……そう、試用期間。試用期間だからね。問題があればすぐにでもゴミクズに逆戻りだから覚悟しといてよ」

 「ゴミクズって、今までそう思っていたのかよ」

 「ゴミクズじゃなければなんなの? うじ虫?」

 「うじ虫もやめてくれ。そうだな、イケメン従者とかでいいじゃないか」

 「やっぱ君はゴミクズだね」


 笑顔で言われてしまった。

 冗談で言ってみただけなのに、そんな風に言わないでくれ。


 「試用期間は終わりだね。用も済んだし帰ろうか、ゴミクズ君」


 奈々はブランコから下りて出入り口に向かう。


 「冗談だからな。冗談で言ってみただけだからな。だからゴミクズに戻さないくれよ」

 「はいはい。いいからいいから。帰ろ」

 「いやいや、よくないから。訂正してくれよ」

 「分かった分かった、訂正するよ。それよりも明日燃えるゴミの日だけど、時間まで残ってく?」

 「全然分かってないじゃないか」


 どうでもいい会話をしながらマンションに帰るのだった。



 その翌日、エクリプスの襲撃を警戒するも、襲撃は起こらずに終わる。

 元々毎日襲撃をしているわけではないので驚かなかったが、気を張っていたので拍子抜けしてしまった。

 さらに翌日も何もなく、そのまた次の日も何も起こらずに終わる。

 おかしいと思った。

 まさかと思うが、何か企んでいるのではないかと不安になる。

 街に滞在して数日、何も起こらないまま夜を迎えて地球に召喚されるのであった。




 ー8ー


 「見つけたぞ」


 開口一番にルナはそう告げた。


 「何を見つけたんだ?」

 「マイカ。お前が向こうの世界で出会った勇者候補。その彼女の情報を掴んだ」


 マイカの情報?


 「春原舞花。それが彼女の本名だ」

 「へー。わざわざ調べてくれたのか。でもなんでまたマイカの情報を?」

 「気になることがあって調べたんだ」


 何について気になったのかが気掛かりだが、ルナはマイカについて教えてくれた。



 春原舞花。

 彼女は両親と姉、弟の五人家族。

 家族仲は良好。

 明るい性格にポジティブさで多くの友人に囲まれて、楽しい学校生活を送っていた。

 そんなある日、家族揃って出掛けたのだが、居眠り運転の車がマイカの家族に突っ込んで来たのだ。

 一人反応に遅れた弟を庇ってマイカは車に撥ねられてしまう。

 両親は軽傷、庇った弟も軽傷、姉は重傷を負うも命に別条なし。

 しかし、マイカは頭を強く打ち、意識不明の重体。

 すぐさま病院に運ばれ、懸命な処置を施すもそのまま命を落とした。


 「それが去年の七月の出来事だ」


 たしかマイカは自分よりも一ヶ月前に勇者候補になったと言っていた。

 時期的に考えてマイカ本人で間違いないだろう。


 「さて、行くぞ」

 「行くって、どこに?」

 「決まっているだろ。墓参りだ」



 転移の魔法を何度か行使して目的の場所、その付近まで移動した。

 何度も転移の魔法を繰り返したのには理由がある。

 まず、転移の魔法を使うには行き先に予め、魔法を施さなくてはならない。

 それ故に行き先には一度出向かなくてはいけないのだ。

 さらに転移の魔法には効果範囲が定められている。

 使用者の力量によって多少の差異はあるものの県一つ分を転移できるのがやっとだ。

 なので長距離を移動したい時は一度に転移するのではなく、複数回に分けて転移する必要がある。


 「私が周囲を警戒しておくのでルナ様に付いての護衛を頼みます」


 茜の言葉に頷き、ルナの傍に侍る。

 ルナと茜と一緒にやって来たのは墓地。

 その中を迷いなく進んでいくルナに付き従う。

 やがて、一つのお墓の前に辿り着いた。

 春原家と墓石に刻まれている。


 「ここにマイカが?」

 「そうだ」


 ルナは墓を背にして向き直る。


 「ここに眠っているのが向こうで勇者候補をやっているというマイカなのだが……おかしいと思わないか?」

 「おかしい? 何が?」

 「これはお前の時と共通していたが、その時は特に疑問に思わなかった。思い至らなかったと言った方が正しいか」


 ルナはそこで一旦言葉を切り、墓を静かに見つめる。


 「……マイカがここに眠っているとしたら、向こうの世界に居るマイカの体は誰の体なんだ?」

 「あっ」


 マイカがこの地球で命を落として、向こうの世界に飛ばされたと考えていたが違う。

 彼女は遺体は火葬され、遺骨はこの墓の中に眠っているはずだ。

 それにも関わらず向こうの世界にマイカは存在している。

 これではマイカの体が二つあることになってしまう。

 ルナはそれについておかしいと言っていたのか。


 「奈々に調べさせたが、ここにマイカの遺骨が眠っているのは間違いない」

 「マイカが二人居ることになるな」

 「向こうの世界のマイカが共命者の体を使っている可能性も考えた。だが、先日の一件でマイカは自身の共命者のアンデッドと会っている」

 「じゃあ……向こうの世界に居るのはマイカであってマイカではないのか?」


 口に出して言ってみるも、何を言っているのか自分でも分からなくなる。


 「……これに気付いたのは偶然だ。マイカを探したのはお前みたいに地球に呼び出せるのか試そうとしたからだ」


 そんな事をしようとしていたのか。


 「だけどダメだ。ここに眠るマイカにネクロマンサーの力を使っても低位のアンデッドにしかならない」


 マイカの体ではあるが、それは意思のないただのアンデッド。

 それはもはやマイカではない。


 「以上の事を踏まえて、私なりに仮説を立てた」



 勇者候補。

 まず彼らの正体は地球人だ。

 地球で死に、向こうの世界に飛ばされる。

 この時、飛ばされるのは魂だけなんだ。

 これは便宜上、魂と言っているだけで実際に魂かどうかは分からない。

 魂、要するに心、中身だ。

 外側の体は地球と向こうの世界の狭間で新しく作られて、その新しい体に魂が宿って向こうの世界に行き着く。

 その時に不具合か仕様か何かで勇者補正、異能が付与される。

 無理やりではあるが、これで体が二つあってもおかしくはない。

 それにしても、地球人、勇者候補、共命者。

 この三つを踏まえると神様というものはいい加減だな、体はコピペで、中身は再利用。

 一体何をさせたいのだか……。

 まあこれはいい、話を戻そう。

 それでネクロマンサーの力は死体をアンデッドに変えられるのだが、その中で高位アンデッドを作るにはいくつか条件がある。

 その条件の一つが時間経過。

 死亡から長時間が経過した死体は高位アンデッドにならない。

 その理由は今まで分かっていなかったが、今の魂の話で説明がつく。

 つまり、死後まもなくなら死体に魂の断片が残留している。

 意思があるアンデッドが存在しているのは、その魂が関係しているのだろう。

 そして、お前の存在だ。

 お前は例外の立ち位置にいる。

 私と初めて会ったあの夏の日、お前は死んだ。

 魂は体から出て行き、新しい体を得て、向こうの世界に至った。

 死体は私が回収していた、護衛となる高位アンデッドを作るために。

 お前の死体を使った黄泉帰りの魔法、それで高位アンデッドが作られるはずだった。

 だけど現れたのはお前自身。

 あれは死体に残留していた魂の断片、欠片に呼応し、お前の魂が死体に受肉、もしくは新しい肉体と死体が一体化したんだ。



 「それがお前というイレギュラーな存在の正体だ」


 仮説だがな、とルナは最後に付け足した。


 「正直言って……自覚はない。新しい体とか言われても、この体が自分としか思えない」

 「仮説だと言っているだろ。だけど、思い返してみれば気になるところがある。魔法が使えなかったお前が地球のやり方で魔法が使えるようになった。他の勇者候補は魔法が使えるのにお前だけ使えない。それは地球の体が関係していたのではないか?」


 所詮は仮説である。

 それでも仮説とは思えない信憑性があった。

 そしてその仮説に対して、自分は少なからずショックを受けている。

 自分だと思っていたものが自分ではない。

 言ってしまえば形が同じの他人の体。

 嫌悪感や不快感とは違うがそれに近い感情を抱く。


 「とは言え、だから何だという話だな」


 ルナはそこで話を切り上げて、お墓に向けて手を合わせる。


 「花と線香は手向けられない。見つかって不審がられたら厄介だからな」


 自分もルナに倣って手を合わせる。

 ここに眠るのはマイカのかつての体、そして彼女のご先祖様。

 せめて、彼女が元気でいることを伝える。

 それが何になるかは分からない。

 でも、何かをせずにはいられなかった。


 「……さて、ここでの用は済んだ。行こう」


 ルナと共に墓場を後にした。


 「ああ、そういえば」


 道を歩きながらルナは何かを思い出す。


 「お前はたまに自分はかっこいいだとかイケメンだとか言っているが外面なんてどうでもいい。私はお前の中身にしか興味がない」

 「つまり?」

 「……実力。護衛としての力があればそれでいいと思っている」

 「それって褒めて……まさか慰めてくれているのか?」

 「さあな」


 相変わらずルナは素っ気ないので、その真意は分からない。


 それからしばらく歩いたところでルナは足を止めた。

 一見にして何の変哲もない車道に面した歩道。

 ただルナの視線の先、電柱の傍らには花が手向けられていた。


 「もしかして、ここでマイカが?」

 「そうだ。……そろそろ時間だ」


 少しすると、中年の男性が姿を現した。

 スーツを着て、通勤用の鞄を手にしている。

 鞄を持つ手の反対の手には一輪の花が握られていた。

 男性は花を電柱の傍らに手向けて手を合わす。

 その光景を離れたところから見つめる。


 「マイカの父親だ。毎週欠かさずに訪れているそうだ」

 「……」


 あの男性がマイカの父親?

 それじゃあ彼は……。


 「マイカの両親は離婚したそうだ。マイカの死をキッカケに色々とすれ違いが生じたらしい。子供は母親に引き取られて……どうした?」


 マイカの父親の顔を凝視していたのをルナは訝しむ。


 「……運命はどこまでも残酷なんだな」


 その呟きを受けてルナは察した。


 「……向こうでマイカの父親に会ったのだな?」

 「ああ、この前話しただろう。エクリプスを新しく率いているカニアス。彼がマイカの父親の共命者だ」


 カニアスを始末したら、マイカの父親も死ぬ。


 「そうか……。では、ここでマイカの父親を殺すか?」

 「殺す? なぜ?」

 「共命者ならこっちで始末しておけば、向こうでそのカニアスとやらは死ぬ。合理的だろ」

 「それは……」

 「出来ないだろう。お前には出来ない。第一、本当に共命者なのかも怪しいところだ。殺しても向こうの奴は死なないかもしれない。お前はそういったリスクは避けたがる。それに知り合いの身内を殺せる程、人間は捨ててないだろ」

 「……よく分かっているな」

 「見ていれば分かる。お前は分かりやすいからな」

 「……」

 「……お前が向こうでやるのは盗賊団のボスを殺すこと。深く考えなくていい。やるべき事をやればいい。人々のために、勇者として、成すべきことを行え」

 「……ああ、もちろんそのつもりだ」


 返事を聞いてルナは翻す


 「用は済んだ。帰るぞ」

 「ルナ」


 歩き出そうとするルナを呼び止めると顔だけこちらに向けてきた。


 「ありがとう」

 「……お礼言われるようなことは何もしていない。行くぞ」




 ー9ー


 翌日になり、エクリプスが動き出した。

 おそらくまた略奪のために街を襲撃を始めたのだろう。


 「タイミングがいいな」


 昨夜にカニアスの共命者と思わしい人物に出会った翌日に動き出すとは思わなかった。


 「ここ数日、何も音沙汰がなかったのが気になるな」


 頻繁に襲われていると聞いたが、最近はそれがなかった。

 街の警備兵達もそれについておかしいと口々に言っていた。

 普段とは違う何かを用意してたのかもしれない。

 警戒して行動しよう。


 「これは……どういう事だ?」


 エクリプスを迎撃しようと行動に移そうとしたが、とある問題が生じた。

 襲撃に備えて街の至る所に鐘が設置されている。

 鐘は襲撃が起こると鳴らされ、位置を報せるのだが、肝心の鐘が街全体で鳴らされていた。


 「全方位から攻められているのでしょうか?」


 鐘が鳴らされているのを素直に受け取れば、アマテルの言う通りになる。


 「鐘を鳴らすこと自体は誰でも出来る。例えば、予め潜入して鳴らすとか。おそらく撹乱させるのが狙いだ」

 「じゃあ、どうするの?」


 ポニィが尋ねる。

 今自分達が居るのは街の中央付近。

 分かれて行動するのは論外だ。

 行くなら全員でだ。

 なので行ける場所は一箇所のみ。

 ここで決断しなくては。


 「……最初に鐘が鳴ったのは東側だったな」


 東側に視線を向けると煙が上がっていた。

 それ以外の方角からは煙は上がっていない。


 「ローゲン。この街の重要な施設はどこにある?」

 「……中央から西寄りに市政を行う施設があったはずだ。それと併設して警備兵をまとめている統括施設がある。他にも主要な施設はその周辺に集まっている」


 問われたローゲンは一瞬戸惑うも教えてくれた。

 それを受けて考える。

 彼女のように、順序を立てて導き出す。


 「……そうか。仮説の域を出ないが、エクリプスが何をやろうとしているか分かった」

 「目的が分かったということですか?」

 「そうだ。とりあえず西に向かう。話はそれからだ」

 「ですが、煙が上がっているのは東側ですよ?」

 「あれは陽動だ。わざと襲われているように見せているんだ。いや、実際に襲われているんだろうな。煙は遠くからでもよく見える。派手に暴れ回っているんだろう。あれなら人を集めるには申し分ない」


 以前にも似たようなやり方をやっている者がいた。

 エビータ。

 アマテルとポニィが捕まったあの日だ。

 あの時と同じ事が起きている。

 だけど、今日やろうとしているのは、規模が違う。


 「エクリプスがやろうとしているのは、街の占拠。これまでちょっかいを出していたのは、警備兵を中央から誘い出すためだ」


 駆けつけたのは市政を行う庁舎。

 建物内では職員が慌てふためきながら、駆け回っている。

 併設する警備兵の施設は多くが出払っているせいで人気が少ない。


 「街を占拠するにはここを落とす必要がある。待ち構えていれば現れるはずだ」

 「ホントに来るの?」


 ポニィの疑問はもっともだ。


 「来る」


 人に聞かれると不安になるが、それは態度に出さないように努める。


 「ここは裏口とかはあるのでしょうか?」

 「非常口があるはずだ。それ以外にも探せばあるかもしれない」


 正面入口を隠れて見張っていると、仲間内から不安を煽るようなことが次々と出て来る。


 大丈夫なの?

 ねえ、大丈夫なの?

 大丈夫だよね?

 ホントに来るよね?

 むしろ来てください。

 お願いします。


 「なにか聞こえる……」


 ポニィがボソリと呟いた。

 それを聞いて耳をすませる。


 「来たか……」


 庁舎に通ずる道の先から、剣戟の音が聞こえる。

 どうやら、エクリプスがここまで攻めてきたようだ。

 よかったー、来てくれて、ホントによかったー。

 トンチンカンな推理を披露していたら、どうしようかと思っていた。

 場違いな安堵を抱くも、すぐに切り替える。


 「ここまで攻めて来たら他に陽動もないだろう。応援に向かうぞ」


 そう告げて、駆け出した。




 ー10ー


 鞘から剣を抜き放つ。

 駆ける速度を落とさずに、遠目から戦況を窺う。

 鎧を着込んだ警備兵とエクリプスの構成員が入り乱れながら戦闘が行われている。

 目的の人物を探すとすぐに見つかった。

 一際背が高い男性。

 大剣を振り回し、警備兵達をなぎ倒している。


 「カニアスっ……! 見つけたぞ!」


 奴を仕留めれば、今度こそエクリプスは瓦解するはずだ。

 風の加護を発動し、戦場と化した街中を駆け抜ける。


 「ほう。どこかで見た顔かと思えば、お前だったか」


 カニアスと対峙し、後方からアマテル達が追いつく。


 「お前には感謝しなくては。いけ好かない女だけでなく、老いぼれも殺してくれた。おかげでエクリプスは俺の物になった」

 「お前のためにやったわけではない!」

 「そうだろうな。だが、結果として俺の助けになった。ついでにもう一つ頼みがある。道を開けろ」

 「ふざけるな! ここは通さない」

 「以前戦った時は手も足も出なかったクセに粋がるなよ!」

 「いつの話をしている。相手を見誤ると痛い目を見るぞ」


 カニアスは大剣を構える。

 それに応えるように自分も剣を構えた。

 対峙する相手の顔を見ると、やはり昨夜の事が思い出される。

 同じ顔。

 カニアスを殺せば、地球で人が一人死ぬ。

 それは知っている人物かもしれない。

 だけど、それがどうした。

 自分はただ目の前の敵を排除するだけだ。

 地球でたまたま事故が起こるだけ。

 直接、手を下すわけではない。

 だから殺せ。

 目の前の敵を始末するのだ。

 お互いの準備は整っている。

 後は決着をつけるのみ。


 同時に大地を蹴り上げて駆ける。

 剣と大剣がぶつかり合う。


 「我が大剣を正面受け止められるまでに成長したか。大した膂力だよ」

 「この程度で驚いているようなら、決着は早くつきそうだな」

 「ふんっ!」


 体を両断しうる一撃が振るわれる。

 その攻撃を掻い潜り、カニアスの腕を狙う。

 稲妻が走った。

 いつの間にかに移動していた大剣によって剣が防がれてしまう。


 「遅い」


 カニアスは不敵な笑みを浮かべる。

 その余裕が命取りだ。

 風と雷。

 二つの魔法属性。

 自分にその使い方、戦い方を見せたのはエクリプス。

 あの時、技を見せて殺さなかったのは最大の誤算だ。

 敵から学び、取り入れる。

 そうして、これまでの戦いを乗り越えてきた。

 フランケンを倒せたのも、エビータとカニアスの技術があってこそだ。

 負けない。

 負ける気がしない。

 勝ってやる。

 そう意気込み、カニアスに立ち向かう。


 再び攻撃を仕掛けるも防がれる。

 さらに剣を振るう。

 それも防がれてしまうが、反撃を許さずに畳みかける。

 風を味方につけ、雷を纏った一撃。

 素早く力強く鋭い斬撃。

 それがカニアスを襲う。

 何度も何度も剣を叩き込む。

 時折、稲妻が走り、大剣が移動する。

 こちらの剣はまだカニアスの体に届いていない。

 けれど、相手は追い詰められている。

 カニアスは防戦一方だ。

 こちらにはまだ余力が残っている。

 このまま押し切る。


 「舐めるな!」


 カニアスが反撃に出た。

 稲妻のごとく繰り出された一撃。

 速い。

 でも、見切れる。

 カニアスの攻撃は誰にも当たることなく、風切り音だけが響いた。


 「遅い」


 さっき言われた言葉をその背中に送った。

 カニアスは声を追うべく振り返る。

 その際に大剣も振るわれた。

 しかし、それよりも早くにこちらの剣がカニアスに襲いかかり、右手首を斬り落とす。


 大剣は投げ出され、右手首が血を撒き散らしながら宙を飛ぶ。

 すかさず、心臓に狙いを定めて剣を突き刺した。


 「ぐぅはっ……」


 カニアスの口より血を零す。


 「お前が使っていた雷の魔法、その技術はすでに身に付けている。あの時に見せたのが運の尽きだったな」

 「はは……、まったく、恐ろしい奴だ。お前の能力を見誤っていたとはな……」

 「地味な勇者補正だ。派手さに欠けるし、視えるだけで何も出来ない。だけど、お前の動き、頭から足の先まで全て捉えることができる。自分はそれを真似しただけだ」

 「フッ……、万物を捉えるだけでなく、それを自らの力に組み込む。お前は、視たものを全て呑み込むつもりか、この化物め……」

 「化物? 残念ながら人間を辞めたつもりはない」

 「……」


 カニアスは何も語らない。

 ずっしりと重みが腕に伝わってきた。

 剣を引き抜くと、カニアスは地面に崩れ落ちる。

 動かない骸と成り果てた。




 ー11ー


 カニアスの死によって、エクリプスの士気は低下し勢いが削がれる。

 こうなってはこちら勝利は確定したも同然だ。

 エクリプスの作戦は失敗に終わった。

 事態は収拾に向かい、生き残ったエクリプスの構成員達は次々と投降し、捕らえられていく。

 多くの人々が殺されたのだ。

 軽い罪で済むはずもない。


 「カニアスが死んでも、エクリプスは残り続けるんだろうな」


 投降する者がいる一方で、逃げた輩もいる。

 負けたからといって、すぐに彼らが改心するとはとても思えない。

 きっと盗賊稼業を続けていくのだろう。


 「そうですね……。ですけど、今回の一件は無事に解決しました。頭目がいなくなれば、この街を襲う理由もなくなりますから」


 今日のお礼を言いたいということで自分とアマテルは庁舎に招待された。

 今はそれを終えて、庁舎の窓から覗く夕焼けに染まる街並みを眺めている。

 えらく感謝され、報酬を渡された。


 「いっぱい貰っちゃいましたね」


 その報酬の額から本当に困っていたのだというのが伝わってきた。


 「持っていても荷物になるし、今日はパーッと使おうか」

 「いい考えですね。夕飯が楽しみです」


 まずは夕飯をどうするか話し合う。

 次に旅に必要な物を考える。

 いつも買っている、もしくは持っている物よりも少し良い物を揃えようかと話しながら庁舎を後にした。




 「そうか。エクリプスの問題は解決したのか」


 地球にて、今日の一件をルナに報告する。


 「ああ、カニアスも始末した」

 「そうか」


 エクリプスの話はそれで終わった。

 まるで、敢えて昨夜の出来事に触れないでいるかのようだ。


 「そうだ。最近、セイヴァーハンドが慌ただしく動いているそうだ」


 ルナは話題を切り替える。


 「また誰かが派遣されるのか?」

 「そうだと思うのだが、動きがどこかおかしい。普段の動きと何か……そう、違和感がある」

 「違和感か……。ルナが言うなら間違いなさそうだな」

 「杞憂ならいいがな。ただ、今すぐに大々的に動くという感じでもない。その前準備といった感じだ」

 「何にしても気を付けろよ」

 「お前に言われるまでもない」


 そこで隣で話を聞いていた奈々が声を上げる。


 「そうだ、ルナ様。セイヴァーハンドで思い出しましたけど、ヨーロッパの方で暴れていた聖女が一段落ついたそうですよ」

 「また今回も派手に暴れ回っていたようだが、どうだったんだ?」

 「伝聞ですけど、皆殺しにしたみたいですよ」

 「相変わらず容赦がないな」


 ルナと奈々が会話を進めるも、気になることがあったので聞いてみる。


 「その聖女って何者なんだ?」


 そう尋ねると、ルナと奈々は顔を見合わせる。

 視線で会話を交し、ルナが口を開いた。


 「聖女はセイヴァーハンドのトップだ。その強さは何者にも追従を許さず、彼女が訪れた地に居る人類の敵は根こそぎ排除される」

 「恐ろしい相手なんだな」

 「恐ろしいで済めばいいけどな」


 セイヴァーハンドの不穏な動き。

 今すぐにというわけではないが、何か仕掛けて来るかもしれない。

 なぜだか不安が湧いてくる。

 何も起こらないことを切に願うのだった。


 他の話と比べると短い話になってしまいましたが、読んで頂きありがとうございました。


 執筆した当初は気付きませんでしたが、読み返した時に、

 あれ? 主人公の体が二つないか?

 となって、今回の話が生まれました。


 本編ではルナは仮説と言ってましたが、仮説ではなく真実です。

 作中では証明のしようがないので仮説ということにしてあります。


 いきなり世界の狭間とかが出て来て突拍子がないかもしれません。

 地球と異世界の狭間、その構想はあって、作品に組み込もうとしていました。

 しかし、それを思い付いたのは執筆の終盤、とても作品に組み込める段階ではありませんでしたので、泣く泣く断念しました。

 組み込もうとした努力が残っているシーンが別の話でありますが、対して作品に影響はないだろうと判断してそのままにしてあります。


 今回再登場したエクリプスのカニアスですが、主人公は以前に彼を相手に敵いませんでした。

 ですが、様々な困難や強敵と相対してきた主人公は成長し、カニアスを相手にできるほど強くなりました。


 カニアスは主人公の成長を見せるために登場したキャラになります。

 同じエクリプスの幹部であるエビータに一方的にやられるも、銃で制する。

 その後のカニアスとの戦闘では敵わず、フランケンは仲間と共闘。

 しかし、今回はカニアスを単独で剣だけで倒す。

 それだけ主人公が強くなったというわけです。


 さて、次回の話ですが、ポニィがメインの話になります。

 是非読んで頂ければと思います。

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