11.フランケン
ー1ー
盗賊団エクリプスの本部、その最深部。
そこにある部屋にエクリプスのボスが待ち受けている。
目の前には巨大な両開きの扉。
城門のような造りでいて堅牢な出で立ちをしている。
近付くと扉は自動的に開かれ、客人を招く。
扉の先は暗闇に包まれており見通すのが困難だ。
見えなくても進まなくてはならない。
仲間達を引き連れて城門のような扉をくぐり抜けて、部屋の中に足を踏み入れる。
部屋に入ると扉が静かに閉まり、天井と壁に備え付けられた灯りが次々と点灯していく。
魔石を動力にした灯りが天井と壁の至る所に備え付けられており、それはかなりの数がある。
そのため先程までの暗闇は一切感じられず、むしろ眩しいとさえ思えた。
灯りによって部屋の全貌を明らかになる。
部屋は広大であり広間といった方が正しい。
広間には灯り以外の物が見受けられない。
だけど、何もない広間の奥にそれは居た。
広間を進み、奥を目指す。
中央を過ぎたあたりで足を止める。
話すのならこれくらいの距離がいいだろう。
相手が何を仕掛けてくるのか分からないのだから。
広間の奥は壇状になっており、せり上がった壇の上に車椅子に腰掛けた男性が待ち構えていた。
「よく来たな、我が目に適った勇者候補よ」
車椅子に座っているせいかその姿は小さい。
だが、異様な雰囲気と鋭い眼光によってその存在感は大きく、巨大な化物に対峙しているかのような錯覚に陥ってしまう。
恐ろしいと思った。
それでも怯むわけにはいかない。
「お前がエクリプスの親玉だな」
「如何にも。儂がエクリプスの長、フランケンだ」
フランケンと名乗った男性の風貌は、一言で言えば車椅子に座った老人だ。
頭髪は一切無く、深いシワが刻まれた顔に鋭い目つき。
痩せ細った体の上半身は素肌に上着を羽織っただけで、その胸には皮膚の下から浮き彫りになった心臓が雷を帯びながら脈を打っている。
「大したもてなしは出来ぬが、お主を歓迎する」
「何を勘違いしているんだ。エクリプスに入るなんて願い下げだ」
「ふはははは、そう強がるな。お主も知っておろう、勇者候補の真実を」
「……」
「お主の後ろにおる神官。そやつは同行者を名乗っておるが、実際は勇者候補の監視役。自らの意に沿わない、害になるものを即刻処分する。それが神官の正体」
「……」
「他の連中もそうだ。儂らを騙し欺く。表面上は笑って協力するが、それは嘲笑が浮かぶ欺瞞の仮面に過ぎん。我が身の可愛さがために勇者候補を死地に追いやる。傍観を決め込んでおきながら邪魔な勇者候補を処分するには手間を惜しまない外道共だ」
「……」
「知っておるか? 勇者候補は王都に入ることすら許されておらん。数々の実績を積み重ね、最強の勇者候補と謳われておるアダチですら王都に入れなかった。この世界の連中は勇者候補を微塵も信用しておらぬのだ」
「……」
「分かったであろう、この世界の住人が何を行っておるのか。さあ、儂の傘下に加われ。儂らの手で王国を救ってやろうぞ」
「……」
「そもそもこの王国に未来などない。リッチーの影響で他国はおろか異種族とも交流できない。政治にも国民にも興味がない王族、私腹を肥やすことしか頭にない貴族、何があっても傍観を決め込む民、生者を死に誘うアンデッド。これらが要因で王国は破滅する」
「……」
「魔石の発見は革新的ではあるが時間稼ぎに過ぎぬ。アンデッドが存在する限り、魔石は無限に採取できると言われておるが、供給が追い付いておらんのが実状だ。王都から離れるにつれて、魔石の供給量は減り、辺境の民にまで行き届いておらぬ。僻地より徐々に衰退していき、その衰退の波はやがては王都にまで達する」
「……」
「王国が滅びるのは歓迎する。だがな、儂は滅びるからといって、この国の連中を許す気など毛頭ない」
「……」
「一矢報いるだけではなく、連中が授けた勇者候補という称号にあやかってこの国を救ってやるのだ。儂なりのやり方でな」
そこまで聞いてようやく口を開いた。
「……国を救う? 復讐しか考えていないように見えるが?」
「言ったであろう、儂なりのやり方でだと。そのための手筈も整えつつある。だが、まだまだ足りないものが多くてな。まずは戦力が欲しい。そこでお主だ。儂と同じ勇者候補で、尚且つ勇者補正の能力も申し分ない」
自分の勇者補正を無闇に話した覚えはないのに知っているかのような口振りだ。
この場に居る仲間達には伝えてある。
皆が情報を流したとは考えられないし、他に知っているのは地球にいるルナくらいだ。
それなのにフランケンが知っているのはおかしい。
仲間に引き入れるための嘘である可能性がある。
「万物を捉える右眼、それがお主の勇者補正」
「……っ!?」
「図星だろ。驚いたであろう。お主の勇者補正を見破るなど造作もない」
「なぜそれを……」
どこで知り得たのか気になったが、フランケンは不敵な笑みをこぼすだけで語ろうとはしなかった。
「さて、お主に再度問おう。儂の傘下に加われ。勇者候補はあるべき姿に戻り、悪しき王国を滅ぼす。そして新たな王国を築こうぞ」
フランケンは枯れ枝のように細い腕を差し出す。
問われるまでもない。
答えなどここに来る前に決まっていた。
「お前の誘いなんてお断りだ」
「ほう……」
「お前のやろうとしているのは復讐という名の当てつけに過ぎない。そんな方法で王国は救えない」
「そう、最初は復讐したかったであったな。だが、今やこの国を救う計画に昇華されておる。今の王政を崩し、新たな統治者が国を興す。それが儂らエクリプスの計画」
「新たな統治者がお前だと、今の王政よりも早く国が滅びそうだな」
「安心せい。統治者は儂ではない。計画においては儂はあくまで協力者。お主も驚くぞ、あの方がこの計画を主導していることに」
「あの方だと?」
「ふはははは、名前は言えぬな。この計画には応じてくれるのなら答えるのもやぶさかではないがな」
「別に知りたいとも思わないな。フランケン、今日はお前を倒すためにここに来た。お前の計画もあの方の正体も墓に埋めてやる」
「倒す? この儂を? お主が?」
「そうだ」
「ふっ、ふはっ、ふははははっ! ほざけ、小童が。お主如き儂の敵ではない」
「……確かに、一人なら勝てないかもしれない。でも……」
背後に視線を向けると頼もしい仲間達がいた。
アマテルと目が合い、力強く頷く。
「仲間と一緒なら、お前に負けはしない!」
「仲間だと? 下らぬ。実に下らぬ。この世界の住人など信用に値しない。エクリプスに加わらないにしても命乞いに来たのなら命だけは助けてやらんとも思っとったが、そうか……死を選ぶか」
「お前を倒せばエクリプスは瓦解する。計画も頓挫する。ここで全てを終わらせる」
「ふんっ! 女神官の色香に惑わされたか。まったく、お主には失望したぞ。この世界の住人にとって勇者候補は使い捨ての駒でしかないのだ。それがお主には分からぬか」
フランケンは静かに瞼を閉じて呟く。
「エクリプスに迎え入れたかったが、どうやら時間の無駄だったようだ……」
閉じていた瞼をカッと見開き、こちらを射殺さんと鋭い眼光で睨む。
「後ろにいるゴミ共々、ここで朽ちるがいいっ!」
フランケンから魔力が溢れ出る。
敵が臨戦態勢に入ったのを悟り、剣を鞘から抜き放ち構える。
「お主の勇者補正の能力は分かっておる。所詮はよく視える眼でしかない。適切に対処すれば遅れは取らん」
事前に聞いた情報が確かなら、フランケンの勇者補正は無限の魔力、魔力が尽きることがない能力だ。
魔法に特化した戦い方をするのが予想できる。
「出でよっ! メカニカルアーマー!!」
地面が揺れる。
エクリプスの本部全体に大地の唸り声が響き渡った。
フランケンの周りの地面が捲り上がって鋼が生える。
鋼が車椅子ごとフランケンを包み込み、新たな体を構築する。
やがて、巨大な鋼の塊となった。
敵の大きさに後ろにいる仲間達に動揺が広がる。
「ねえ、キミ……。あれって……」
後ろに待機していたマイカが前に出て声を掛けてきた。
「ロボットだな……」
「ロボットだね……」
フランケンが呼び出した巨大な鋼の塊、兵器と呼ぶべきなのだろうか。
それは巨大な人型をした機械であった。
現れた人型兵器は上半身だけで地面に根を生やしているが、その大きさとインパクトは凄まじいものだ。
右手には鍔の部分に大きな水晶玉のような物が装飾された巨大な剣を持ち、左手の甲には大砲が備え付けられている。
さらに両肩には射出機のような物が備え付けられていた。
もしかしたら、これ以外にも何か兵装を備え付けているのかもしれない。
「お二人とも、あれが何だかご存じなのですか?」
マイカとの会話が聞こえていたのだろうかアマテルが質問してきた。
地球から来た自分とマイカはともかく、この世界の住人である他の仲間はロボットがどういった物なのかを知らない。
「こういうのは男子の方が詳しいんじゃない?」
「うーん。……あのメカニカルアーマー自体は知らないけど、地球に似たような物があって……いや、違うな。実在はしないけど見たこと……ってアレ? これも違うか? なんて説明したらいいか分からないな」
自分もロボットには詳しくないので説明に困る。
仮にロボットに詳しくてもアレがどんな物なのか全く予測できないとは思う。
「勇者様も詳しくは知らないと?」
「うん……。申し訳ないけどそうなんだ。だけど、仕掛け、装備、兵装。色々な物が積んであるのは間違いない」
「そうですか。注意が必要ですね」
「ああ、何があるかは分からない。皆も気を付けてくれ」
アマテル以外の仲間にも注意を促す。
「アレ、どうやって倒すの? 正面から行っちゃう?」
なんとも頼もしい意見だが、相手のメカニカルアーマーは巨大な人型兵器だ。
あの鋼の巨体に剣が通るか疑問がある。
「マイカ……」
ニーナも呆れている。
レンダーは溜息を吐くも次には苦笑していた。
相変わらずの苦労人のようだが、どこか楽しげでいる。
「ここはわたしとニーナの魔法で」
ポニィはニーナとの魔法で様子を見るべきだと提案する。
悪くない提案だ。
「あたし達はキミの言う通りにうごくよ。キミを信頼してね」
レンダー達もマイカの意見に同調するように頷いている。
「魔法による遠距離攻撃はポニィとマイカとニーナに任せる。ただポニィとマイカは防御の方を優先して状況に応じて切り替えて欲しい。レンダーは魔法による防御を頼みます。テルとダインは後方で回復を頼む。ローゲンはテルとダインに付いてくれ。傷を負ったらすぐに治療を受けるように……こんなところか」
特に異論は出ずに全員了承の意を示した。
ー2ー
「命乞いの算段はついたか? 今更そんな事をするはずもないだろうがな」
メカニカルアーマーには拡声器が搭載されているのだろうか、フランケンの声が響く。
各々が加護の魔法を発動する。
そして、
ポニィは火球を生み出し、
マイカは作り出した氷の三日月刀を風に乗せて、
ニーナは炎の鳥を羽ばたかせて、
三者三様の魔法がフランケンを強襲する。
火球は真っ直ぐに。
氷の三日月刀は弧を描き。
炎の鳥は飛び交う。
フランケンはメカニカルアーマーを操作して、右手の大剣を自身の胸の前に鍔に付いた水晶玉を前面に見せる形に持っていく。
その水晶玉を中心に雷が蜘蛛の巣状に広がる。
雷に触れた火球は爆炎を上げ、氷の湾刀は砕け散り、炎の鳥は霧散した。
「なっ!?」
雷の盾によってこちらの魔法攻撃を全て防がれてしまう。
これには流石に驚く。
まさか全部防がれるとは思いもしなかった。
「ふははははは。どうした、その程度か」
フランケンがこちらを馬鹿にするように笑う。
「ど、どうしようっ!?」
この状況にマイカも慌てている。
「……剣を持って特攻しなかったのが幸いだな」
無闇突っ込んでいたら今ごろ黒焦げだった。
そうならずに済んだのはよかったが、どうする。
あの雷の盾がある限りこちらの攻撃は通じない。
どう行動すべきか迷う。
「なんだ? 今ので怖じけついたか。ならば、次はこちらから仕掛けるとしよう」
フランケンの攻撃が始まった。
メカニカルアーマーの両肩に備え付けられた射出機から炎が上がる。
「おいおい、マジかよ……」
炎は球状になる。
あれはポニィの使う魔法と同じものだ。
驚いている間に射出機より火球が放たれた。
「皆、急いで退避しろ!!」
二つの火球が飛来する。
退避するにも時すでに遅し。
躱せないと判断したポニィが前に出て氷の壁を出現させた。
飛んできた火球は氷の壁に当たり爆炎を上げる。
「ポニィ!!」
一発だけなら防げたが、二発目が当たった瞬間に氷の壁が砕け散った。
その衝撃でポニィは吹き飛ばされて地面に転がる。
「まずは一人目だな」
倒れているポニィに向かってメカニカルアーマーの左手に装備された大砲を突きつけられる。
「ポニィ、逃げろ!」
ポニィは立ち上がろうとするが、怪我をしているようでふらついている。
そんなポニィの前にローゲンが盾を構えて遮るように立つ。
「そんな盾で儂の攻撃は防げんぞ。二人まとめて死ぬがいい!!」
「くそっ……!」
二人の元に駆け寄ろうとするが、マイカに止められる。
「待って。あたしに任せて」
マイカが魔法で氷の剣を作り出す。
さっき作っていた三日月刀とは異なり、真っ直ぐで幅広い。
その氷の剣を一度上空に打ち上げて、地面目掛けて落とした。
身構えるローゲンの前に無数の氷の剣が交差して幾重にも重なっていく。
そこで大砲から風の砲弾が発射される。
風の砲弾は氷の剣を次々と砕いていくが、砕く度にその威力を減衰させていった。
「くうっ……」
風の砲弾はローゲンの盾を捉えるが、威力は弱まっていたため軽く後退させるだけに留まった。
ローゲンはポニィを担ぎ上げて急いで避難する。
「逃がすか」
再び大砲がローゲンとポニィを捉えようとする。
しかし、レンダーが放った石の礫がメカニカルアーマーに襲い掛かった。
「小賢しい!!」
フランケンは雷の盾を発動させて石の礫を防ぐ。
その隙にローゲンは距離を取り、アマテルにポニィを預ける。
「雷の盾を出現させている間は、自身もその盾が邪魔で攻撃できないようだね」
レンダーは冷静に敵の能力を分析して、その情報を寄越してくれた。
「ただ、こちらはあの盾をどうにかしないと攻撃が一切通じない。どうする?」
「……相手の魔力切れを狙うか」
メカニカルアーマーなる巨大な兵器を呼び出し、高火力の魔法を行使しているのだ。
魔力が尽きるのは早いはず。
「それは難しいね。フランケンは勇者補正によって無限の魔力を持ってる。魔力切れは望めない」
「そうだったな……」
フランケンは無限に魔力があるからこそ、魔力を存分に使う戦い方をしてきているのだ。
シンプルな能力だが強い。
どう対処すべきか考えたくても、フランケンは時間を与えてくれなかった。
メカニカルアーマーの両肩より再び火球が放たれる。
火球が放たれるのは一発二発ではなく、連続で次々と放たれた。
どうやらあの火球を主体に攻撃を仕掛けて来たようだ。
動き回ってそれらを回避する。
火球は爆炎を上げて広間を炎上させて、あっという間に辺りは火の海に包まれた。
回避や防御にも限界があり、全てを対処できない。
仲間達が攻撃の余波を受けて怪我を負い、その度にアマテルとダインが治療を施す。
さらに不意をつくように風の砲弾も放ってくる。
メカニカルアーマーに向けて魔法による攻撃をするが、その全てが雷の盾によって防がれてしまう。
「左腕の大砲にも気を付けろ! 射線上に入るな!」
仲間達に注意を促す。
「ゴキブリのように這いずり回りおって、これでバラバラにしてやろうぞ」
メカニカルアーマーの背面装甲が開き、そこから小型ミサイルが上空へと次々と射出される。
「ミサイルまであるのか!? マイカ、頼む!!」
「いいけど、全部はムリ!」
右眼で捉えて数を数えると、小型ミサイルは全部で十二発。
マイカが同時に操れる剣の数にも限界はあるので、その全てを撃ち落とす事は出来ない。
「防げるだけでいい!」
指示を受けたマイカは小型ミサイルを撃ち落とすための氷の三日月刀を作り出す。
一度上空へと打ち上がった小型ミサイルは軌道を変えてこちらに飛来する。
マイカが作り出した氷の三日月刀は正確に小型ミサイルを捉えて撃墜させていく。
普段フザケているわりに、やる時はやってくれるのだな。
撃墜した小型ミサイルは六発、さらに運の良いことにその時に生じた爆発に巻き込まれて他の二発が爆発する。
残るはあと四発。
小型ミサイルの先にいる仲間を確認する。
三発がニーナとダインに、一発がアマテルのいる方へと向かっていた。
ニーナとダインはすでに魔法を発動していた。
それぞれが炎の鳥で一発、迸る電撃でニ発撃ち落とすことに成功する。
しかし、攻撃魔法も防御魔法も使えないアマテルは撃ち落とす術を持ち合わせておらず、逃げるしか対処出来ない。
今も必死に逃げているが、あれでは間に合わない。
全速力でアマテルの元へ向かう。
今からでは間に合わないかもしれない。
辿り着けたからといって何を出来るかも分からない。
それでも駆け出さずにはいられなかった。
アマテル。
彼女の命だけは絶対に守ってやる。
助けたいという願いが届いたのか、氷の壁がアマテルを守るように築き上がる。
小型ミサイルが氷の壁に着弾するのと同時に辿り着く。
「テルっ!!」
アマテルを庇うように抱えて地面に吹き飛ばされる。
小型ミサイルは氷の壁を粉砕し、爆発の威力はその周囲に襲い掛かった。
「くぅっ……」
左腕に激痛が走る。
熱にやられたのか、何かが刺さったのかは定かではないが、とにかく痛い。
「勇者様! 大丈夫ですかっ! すぐに治療を」
アマテルに助け起こされると、すぐに治癒の魔法を掛けてくれた。
「テルの方こそ怪我してないか?」
「私は平気です。勇者様のおかげで助かりました」
さすがに無傷とまでいかなかったが、アマテルは軽傷で済んだようだ。
そんな彼女を見て庇ったかいがあったと思った。
「まったく勇者様は……無茶しないでくださいね」
「それは難しいな。無茶をしなくちゃこの状況を打破できない」
「それでも気を付けてください」
「努力はするよ」
「おーい。イチャイチャしてないで、こっちを手伝ってよー」
なかなか戦線に復帰しないことにしびれを切らしたマイカから呼び出しが掛かる。
「行きましょう、勇者様」
ー3ー
急いで戦線に戻ってマイカ達と合流する。
「まったくキミは、今戦闘中だよ」
「すまない」
「お礼のキスでももらったの?」
マイカがニヤニヤしながら聞いてきた。
「治療を受けていただけだ」
「テルちゃんに抱きついたときに胸とお尻に触ったら、叩かれて治療を受けてたってこと? ダメだよ、女の子にそんなことしたら」
「してない。普通に怪我しただけだから」
そんな事している余裕も考えもなかった。
「テレなくていいのにー」
マイカが肘で小突いてくる。
正直に言うと女の子の体って華奢なんだなとは思った。
そのせいかマイカに強く言えないでいる。
口に出さずに堂々としていればいいのだが、こんな状況で虚勢を張れる余裕はない。
「すまない、うちのマイカが」
マイカの態度を見兼ねたレンダーが謝罪してきた。
「今はいい。それよりもフランケンだ」
「許すとは言わないのが、なんか怖いね。それにしても、さっきのみさいる?と言いましたか? あれの威力は危険ですね。ポニィさんの魔法で防ぎ切れていなかった」
「あの攻撃は魔法ではなく、物理攻撃だ。氷属性の防御魔法はどちらかというと魔法防御に優れている魔法だ。ミサイルを防ぎ切れなくても不思議じゃない」
ミサイルの存在を知らないこの世界の住人なら勘違いするのは仕方のないことだ。
「言われてみればミサイルからは魔力が感じ取れなかった。ということは土属性の魔法で対処した方がよさそうだね」
レンダーは土属性の魔法で物理防御に優れた防御魔法を使える。
ミサイルを防ぐならポニィよりもレンダーの方がいいだろう。
だけど、小型ミサイルの数が多いのが問題だ。
「レンダーの防御魔法でもミサイルをニ発防げればいい方だ。それよりも撃ち落とした方がいい」
行く手を阻む雷の盾、火球に風の砲弾、さらに小型ミサイル。
その全てが厄介だ。
このままでは為す術もなく殺られる。
何か状況を打破できる策はないだろうか。
自分にできるのは風と雷の魔法と剣を振り回す事だけ。
風と雷。
そういえばこの二つの魔法属性は、たしか――
今までの戦いを思い返す。
――そうだ。
このやり方ならいけるんじゃないか。
雷の盾も自分なら防げるはず。
問題があるとすれば小型ミサイルの存在だ。
あれは対処できない。
「流れを変える。協力して欲しい」
「もちろんだよ」
「ついに攻めるんだね」
マイカが待ってましたとばかりに歯を見せて笑った。
「ああ、ここから一気に攻めるぞ」
細かい打ち合わせをやっている暇はないので要点だけを伝えた。
ー4ー
「行くぞ、フランケン。目にもの見せてやる」
先行するように前に出てメカニカルアーマーを見据える。
「一人だと? 愚かな」
風の加護を発動させる。
これで俊敏性が増す。
「ルナ……、お前の力も貸してくれ……」
誰にも聞こえないように小さな声で呟く。
「よしっ!!」
メカニカルアーマーに向かって駆け出した。
「正面から来るか。面白い、受けて立とう」
フランケンの言葉に応えるようにメカニカルアーマーの背面装甲が開き、再び小型ミサイルが発射された。
発射された小型ミサイルは全部で十二発。
さっきと同じ数が上空へと打ち上がった。
そして、その全てが自分の方に向かうように軌道を変える。
先程の攻撃で予想していたが、やはりミサイルには追尾システムが搭載されていたようだ。
一発でも当たれば即死亡。
肉片残らずに死ぬだろう。
恐怖で足を止めたくなるが、ここで止まれば確実に死ぬ。
当たったら死ぬ、止まったら死ぬ。
迫りくる死を目前にしても自分は進むしかなかった。
もちろん恐怖はある。
だけど、この世界を否定している奴を認めるわけにはいかない。
ここで不利な形勢をひっくり返してやる。
「一旦横に避けて!!」
後方のマイカから声が掛かった。
小型ミサイルを迎撃しようにも、後続からでは小型ミサイルを撃ち落とすよりも早くに小型ミサイルが自分に辿り着いてしまう。
マイカの言葉に従い、進行方向を変えて横に移動する。
その直後に氷の三日月刀や炎の鳥、石の礫、電撃が次々と小型ミサイルを撃ち落としていく。
小型ミサイルの爆発によって生じた爆風の影響で体が吹き飛ばされる。
爆風に逆らわずに地面に転がり、そのまま勢いを利用して即座に立ち上がった。
すぐに走り出そうとするが、眼前にメカニカルアーマーの左腕に備え付けられている大砲が自分に向けられているのが視界に入った。
今の自分は起き上がったばかりの不安定な体勢。
雷の加護を発動し、足に加護を集中させる。
加護を受けた足を動かして横に跳ねるように飛ぶ。
横に飛ぶのと同時に風の砲弾が発射された。
不安定な体勢で尚且つ通常の跳躍では風の砲弾を躱せない。
だけど、この雷の加護を受けた今の状態なら……。
真横を風の砲弾が通り過ぎる。
不安定な体勢で即座に行動できたのには理由があった。
雷の加護の効果である筋力強化を足に集中させて加護の恩恵を一箇所に集約する。
それで無理な体勢ながら、普段よりも大きく跳躍することができたのだ。
不意の攻撃でも対処できるようになるが欠点もある。
それは体への負荷が異常に大きい事だ。
本来なら出来ないはずの挙動を強制的にやらせるのだから負荷が大きくなるのは当然だろう。
実を言うと、これは以前カニアスが使っていた技術である。
敵が使っていた技術ではあるが、有用なものは取り入れるべきだ。
足がつりそうになりながらも、なんとか体勢を整えてメカニカルアーマーの元を目指す。
風の砲弾の次は火球。
メカニカルアーマーの右肩より火球が放たれる。
これには仲間が、正確にはポニィが先に気が付いてくれたので対処してくれた。
背後より飛んできた氷柱に火球が衝突し水蒸気と爆炎が上がった。
一瞬にして蒸気が辺り一帯を支配し、白く視界が霞んで蒸し暑くなる。
皮膚が爛れる、肺が焦げる、目が灼ける。
灼かれた目から無意識に涙が溢れてきた。
それでも立ち止まらずに蒸気の中を駆けて行く。
視界が遮られて見えないが、こちらの動きに合わせるようにメカニカルアーマーが動いている気配が伝わってきた。
炎が灯る。
火球がもう一度来る。
それが分かっていても足を止めずに突き進む。
メカニカルアーマーの左肩から火球が放たれた。
さっきやった雷の加護を応用した技は連続して行えない。
避けるのは難しい。
この位置からでは仲間からの援護も期待できない。
自分で対処しなくては。
剣に風属性を付与する。
蒸気を掻き分けて迫りくる火球。
風を纏った剣で火球を捉える。
剣に付与された風に乗せて火球の軌道を逸らす。
少しでも手元が狂えば、眼前で爆炎が上がる。
そんな危険な作業をぶっつけ本番で行った。
逸れた火球が後方に飛んでいき、床に直撃して爆炎を上げる。
背中に爆風受けるが、その爆風を推進力に変えて一気に距離を詰めた。
「儂の攻撃を悉く対処するとはな。誉めてやろう。だが、ここまでだ」
フランケンはメカニカルアーマーの右手に装備した大剣を自身の前に持っていく。
大剣の鍔に装飾された水晶玉を中心に雷が蜘蛛の巣状に広がった。
「来たか……。あまりこっちの世界で、もっと言えば人前で使いたくなかったが……」
状況が状況だ、やむを得ない。
それにこっちで使うのは初めてではないし、何か聞かれたらテキトーに誤魔化しておけばいいだけだ。
ルナに教えてもらった守護の魔法を発動する。
周囲に不可視の防御壁が鎧のように形成される。
雷が襲い掛かって来るが、守護の魔法がその全てを防ぐ。
「やはりキツイか……」
守護の魔法の外側から徐々に削られていくのが感じ取れた。
長くは保たない。
早いところやるべき事をやらねば。
地面を蹴って大剣に向けて跳躍した。
「この雷の中を何故動ける!?」
この事態にさすがのフランケンも動揺する。
雷の盾に自信があったフランケンは焦り、対応が追い付かずに動きが遅れる。
動きが鈍っている今がチャンスだ。
「そこだぁぁぁぁぁぁ!!」
跳躍し大剣の鍔に装飾された水晶玉に剣を突き刺した。
水晶玉はヒビ割れて崩れ落ちる。
それと同時に雷の盾は消滅していく。
「危なかった……ギリギリだったな」
あともう少し雷の盾の破壊が遅かったら、守護の魔法が破られて自分は黒焦げになっていた。
「と、まずい」
すぐにこの場から離れなくては。
メカニカルアーマーの大剣の鍔に装飾された水晶玉を破壊できても、大剣そのものは普通に使用する事ができる。
「盾を破壊した程度でっ!」
案の定、フランケンは大剣で攻撃してきた。
振り下ろされた大剣を紙一重で躱す。
大剣が床を割る。
割れる、亀裂が走る床を尻目に離脱する。
メカニカルアーマーに近付くのは苦労したが、離れるのは簡単に出来た。
一連の出来事が祟ってか息苦しい。
「キミ、スゴイじゃない!」
「さすがです、勇者様!」
「まさか本当に雷の盾を破壊するなんて」
仲間達が褒めちぎってくれて恥ずかしさもあったが、それ以上に嬉しくもあった。
「それにしても、雷の盾を防いだあれは何だったんだ?」
「わたしも知らない魔法」
レンダーとポニィが守護の魔法について疑問に思ったようだ。
「……そんなことよりも、フランケンだ。雷の盾を破壊したからといっても、まだ高い攻撃力は健在している」
守護の魔法について色々聞かれたら面倒なことになるため誤魔化す。
「テル、治癒を頼む」
「分かりました、勇者様」
無茶をし過ぎた。
体中が火傷と擦り傷だらけだ。
「キミはしばらく休んでていいよ。ここからはあたし達の出番だから。さあ、レン君、みんな、あたしについて来て」
マイカは皆を引き連れて、フランケンに立ち向かうのだった。
ー5ー
予期せぬ形でアマテルと二人きりになってしまった。
さっき無茶をしないようにって言われたのに、早速やらかしてしまったけど怒ってるだろうか?
「治療しますね、勇者様」
治癒の魔法の光に包まれて傷が癒えていく。
体の傷は塞がるが、治癒の魔法では体力は回復しない。
それに魔力も消耗している。
今は休んで回復に専念しよう。
「怒ってる?」
「はい? いえ、怒ってませんけど」
アマテルは首を傾げている。
否定したというよりも意味が分かってないようだ。
「どうしてそう思ったのですか?」
「どうしてって……さっき無茶するなって話していたのに早速無茶したから……」
「ああ、そうですね。しましたね、そんな話」
アマテルは少し考えから口を開いた。
「私が勇者様を危険な旅に連れ出しといて無茶するなって言うのも、なんかおかしいですよね」
言われてみると確かにそうだ。
どこか矛盾している気がする。
「そうだな、おかしいな」
「ふふっ、おかしいですよね」
戦いの最中なのにどこかほっこりとした空気が流れる。
「一つ気になっていた事があるのですが、聞いてもいいですか?」
「ん? 別に構わないよ」
「勇者様はその……何のために戦っているのですか?」
何のために?
質問の意図が読めない。
何故、アマテルはいきなりこんな事を聞いてきたのだろうか。
「今日勇者様がしていた会話を聞いていて思ったのです。勇者様が何を思って戦っているのかを」
フランケンとの会話を指して言っているようだ。
それを聞いてアマテルは疑問を抱いたのだろう。
「今すぐに答えなくてもいいです。勇者様がじっくり考えて答えを聞かせてください」
「いや、今答えるよ」
「いいのですか?」
「時間を置くと恥ずかしくてまともに答えられないと思うし」
「そういうものですかね?」
「そういうものだよ」
仲間達が奮戦している姿を見つめながらアマテルの問いに答える。
「……ローゲンもポニィもテルについて来て旅をしているんだよな」
「そうなんですかね?」
「そうなんだよ。二人共、テルを心配してついて来てくれたんだから」
「……二人はそうかもしれませんけど、私は神官だからではなく、勇者様について行きたいから一緒に居るのですよ」
「別にそういう事を言いたくて言ったわけじゃないよ。自分でも思ったんだ、テルだから一緒に居るんだって。テルに導かれて旅をしているんだって気が付いたんだ」
「……」
「皆、テルについて来た。目的であるリッチー討伐も言ってしまえばテルの目的でもあるし」
「……」
「何のために旅をしているか、それはテルのため」
「私のため……」
「そう、この旅はテルの旅である。君が旅の主役なんだ。だからテルのために旅をしている。……こんな答えじゃダメかな?」
「そうですね……。いいと思います。それと、ありがとうございます」
ー6ー
仲間を引き連れたマイカはフランケンと対峙する。
「ねえ、レン君、どう攻めたらいいかな?」
「……何も考えてなかったのか……」
レンダーは呆れる。
「基本方針はさっきと同じでいいと思う」
無策のマイカのためにポニィが助言する。
「さっきと同じ?」
「敵の攻撃を迎撃、又は防ぐのを優先。手の空いている人は攻撃するってことだね」
レンダーがポニィの助言を言い直し、ポニィはその解釈を頷いて肯定の意思を表した。
「なるほどねー」
マイカもうんうんと頷いている。
そこへローゲンが注意を促す。
「奴は雷の盾が使えなくなった分、今度は剣を振り回してくるだろう。そこだけは注意した方がいい」
「よし、あのバカップルが帰ってくる前にちゃっちゃと倒しちゃおうか」
マイカの言葉に仲間達は苦笑を浮かべながら同意した。
メカニカルアーマーの右肩より火球を放たれた。
それをポニィが氷の壁を作り出して防ぐ。
「さすがだね、ポニィちゃんは。それにしても威力は大きいけどワンパターンだね。こういうのは芸がないって言うんだっけ?」
マイカの声が聞こえたかは定かではないが、今度はマイカに向けて左肩より火球が襲い掛かる。
迎撃のために氷の三日月刀を六本放つ。
だが、狙いが逸れたのか、氷の三日月刀は火球の横を通り過ぎ、後ろにいたメカニカルアーマーにもかすりもせずに脇をすり抜けていった。
「あれれー。おっとっと、危ない危ない」
風の加護を受けているマイカは俊敏性が増している。
着弾地点から急いで離脱して、火球の上げる爆炎から逃げおおせた。
「気持ちが昂るのは分かるよ。だけど、少し落ち着いて」
レンダーに注意されてしまう。
「ごめんごめん。それよりもレン君は攻撃に専念していいよ」
「それではミサイルが飛んで来ても防御魔法を展開できなくなる」
「だいじょーぶ、あたしに任せて」
「また、そんなことを言って……」
呆れる。
しかし、レンダーは気付いていた。
マイカが軽い気持ちで言っているわけではなく、何かがあると。
「……タイミングを見て攻撃するよ」
「うん、まかせたよー」
ー7ー
ダインの横を風の砲弾が通過する。
余波で生まれた突風にダインが吹き飛ばされて地面に転がった。
「あまりギリギリで回避するな。余裕を持って躱せ」
「はいはい、気を付けますよ」
ローゲンの助言を聞き入れたかどうかはっきりしない返事をされてしまう。
舌打ちしたくなるのを堪えて、ローゲンは敵を見据える。
中距離、遠距離攻撃が主な攻撃手段である敵。
容易に近付くのは難しく、雷の盾が消失しても事は簡単に運ばない。
仮に近付けても大剣で牽制してくる。
あの大剣の一太刀でも受けたら致命傷どころでは済まない。
ローゲンの持つ盾では攻撃を防ぎきれず、剣は敵に届かない。
ただ見ている事しかできず、ローゲンは歯痒いを思いをする。
敵の攻撃は仲間の援護がなければ防ぎ切れない。
なんとも情けない老いぼれだと心の中で自虐する。
それでも、ただ突っ立っているわけにはいかなかった。
共に旅をしているのは、未来を担う若者達。
それぞれが悩み苦しみつつも旅を続けている。
十年前に妹から託された姪。
孤立する姪に寄り添い続ける少女。
地球からやって来た少年。
彼らがより良い未来に歩むために、ここで何もしないわけにはいかない。
たとえここで命が果てようと彼らの未来だけは切り拓いてやる。
そうでもしなければ、死んでいったかつての仲間達にも妹にも顔向けできない。
一人で出来ない事でも仲間と一緒なら成し遂げられる。
己の心情を胸に剣と盾を携えて仲間の援護に向かうのだった。
ー8ー
「はあはあ……」
走り回って息切れしたポニィは息を整えながら戦況を窺っていた。
ポニィの魔法は攻撃と防御の両方に優れている。
今までの旅の中でポニィは自信を持つことができた。
自身の魔法が友人の力になるのを知った。
自身の魔法が仲間の助けになるを知った。
自身の魔法が他者よりも優れているのを知った。
自身の魔法が誰かの役に立てる、その事を理解したポニィは自信を身に付けた。
魔法の撃ち合いでは誰にも負けないと自負することができた。
だけど、魔法の扱いに長けて魔力量が多いポニィでも今回は相手が悪い。
無限の魔力を持つフランケンは無限に魔法を使える。
それに対して、ポニィはいかに魔力量が多くても有限である。
無限に対して有限では到底敵わない。
魔法の撃ち合いになれば魔力が尽きて敗北する。
フランケンに負けているのは魔力だけでなく、魔法の威力も負けている。
ポニィの魔法ではフランケンの魔法を完全には防ぎ切れない。
唯一の取り柄であった魔法。
誰にも負けないと自負していた魔法。
だけど、目の前に立ちはだかるのは、自分よりもさらに格上である魔法の使い手。
敵わない相手。
勝てない敵。
そんな強敵を相手にしても、ポニィの心は折れなかった。
その理由はアマテル。
幼馴染であるアマテルは気弱なポニィにいつも一緒に居てくれた大切な親友だ。
いつも明るく太陽のように眩しい彼女はポニィにとって憧れの存在だ。
ポニィを優しく照らしてくれる親友、そんな彼女の力になりたい。
しかし、太陽のような親友が先日見せたのは悲嘆。
自身の復讐のために勇者を騙し、心を傷つけてしまったことを後悔し泣き崩れる姿。
そんな親友の姿を見て、抱きしめて共に涙を流すことしかできなかった。
勇者の元へ行くのを見送ることしかできない無力さを痛感した。
その後、勇者との間にどんな会話があったかは知らないが親友は元気を取り戻した。
いつもの……いや、以前よりも明るく眩しく輝きだした。
もう無力な自分でいるのはイヤだ。
もっと親友の役に立ちたい。
彼女を応援したい。
強敵を前にした今もそれは変わらない。
アマテルは諦めていない。
ならば、自分も諦めるわけにはいかない。
この気持ちは他の皆も同じはず。
ポニィは杖を片手に戦場を駆けずり回った。
魔法使いであるポニィは体力がないため、走り回るだけでも一苦労だ。
「ポニィさん、大丈夫ですか?」
ポニィを気遣うように声を掛けてきたのはニーナ。
ニーナは水属性の加護である体力向上の影響を受けているため、大して息切れしていなかった。
「はあ、はあ……だいじょぶ、です……」
「あまり、大丈夫には見えませんよ。私がポニィさんのカバーに入りますから少し休んでください」
ありがたい申し出だ。
ポニィは返事をする前にチラリとアマテルがいる方を見やる。
「……多少の……ムリはっ、承知のうえ、ですっ……!」
攻撃と防御、その両方に長けたポニィがここで下がったら、せっかくこちらに傾き始めた形勢が再びひっくり返ってしまう。
「……戦いますっ!」
ポニィは息を切らしつつも力強く言い切った。
「なんかいつものポニィさんと違いますね。普段からそうしているとカッコいいですよ」
ニーナの褒め言葉にポニィは思わず顔を赤くしてテレてしまう。
「テルさんのためですか?」
「うん……」
ポニィは自身の心情を見透かすニーナに気恥ずかしさを感じてしまう。
「テルさんは幸せ者ですね、親友からこんなに思われているなんて。それに好きな人からも慕われているようですし」
ニーナは神官の少女から治療を受ける勇者候補の青年の姿を見つめながらそう言った。
二人の関係がどうなのか曖昧なところなのでポニィは反応に困る。
「それよりも今は敵を倒さないと」
「そうですね、行きましょうか」
ポニィとニーナは爆炎と暴風が入り乱れる戦場を駆け回るのだった。
ー9ー
レンダーの放った石の礫がメカニカルアーマーに直撃し、表面を軽く歪ませた。
「硬い。直撃しても大したダメージにはならないか」
「続けて攻撃していれば、なんとかなるよ」
難しい顔をするレンダーに対し、マイカは前向きな言葉を掛けた。
「塵も積もればってことだね」
マイカは普段から気楽でいて常に行き当たりばったりで困ったものだが、どんな状況でも前向きでいる。
そんなマイカの前向きさにいつも救われる。
「がんばってねー」
能天気であまりにも人任せな台詞に思わずズッコケそうになった。
「マイカ……いや、いいよ。それよりもそっちは大丈夫?」
「維持するのはきついけど、なんとかだいじょーぶだよ」
レンダーの隣に立つマイカの周りには氷の三日月刀がなかった。
武器は手に持っている鋼の刀身をした三日月刀のみである。
「……そろそろ仕掛けて来るだろうね。準備は?」
「バッチリだよ。いつでもオッケーって感じ」
本当にいつも元気だな、彼女は。
「……そうですか。頼もしいです」
「でしょー」
その時メカニカルアーマーよりフランケンの声が響いてきた。
「どうした、小娘。動きが止まっておるぞ。魔力切れか?」
「ふふん、さてどうかな、おじいちゃん」
「おじい……。人を年寄り扱いするのなら礼儀を見せたらどうだ」
「おじいちゃんこそ、年上ならみんなの模範になるようにしないとダメだよ」
「……生意気な小娘め。灰にしてくれようぞっ!」
メカニカルアーマーの背面装甲が動き始めた。
小型ミサイルが発射される前触れである。
マイカとレンダーが待ち望んでいた瞬間でもあった。
「マイカっ!!」
「うん!」
マイカはメカニカルアーマーの死角である背面側の上空に待機させていた氷の三日月刀をメカニカルアーマーの開いた背面装甲に向けて一斉に突撃させた。
発射寸前だった小型ミサイルは爆発し、メカニカルアーマーの背面装甲部分を破壊する。
メカニカルアーマーは背中から黒い煙を上げるもまだ動けるようで、追撃が来ないように大剣を振り回して牽制する。
「ずっとミサイルを撃つタイミングを待っていたんだよね。これでもうミサイルは撃てないよ」
「さすがだね、マイカ」
レンダーは素直にマイカを褒めた。
策はないと言っておきながら、こんな奇策を思いつくとは。
マイカ本人からすれば策を思いついたつもりはなく、ただなんとなくやっただけだろう。
いつも良い意味でも悪い意味でも驚かしてくれる。
本当に、一緒に居て飽きない存在だ。
「向こうの勇者には負けてられないからね」
マイカはウィンクしながら自身の右手を挙げた。
レンダーもそれに応えるように右手を挙げてマイカとハイタッチを交わすのだった。
ー10ー
メカニカルアーマーは背面装甲での爆発の衝撃で前のめりになっている。
「さあ、みんな。今が好機だよ!」
マイカの合図と共に仲間達が一斉に攻撃魔法を放つ。
メカニカルアーマーは体勢を崩しながらも大剣を振り回して牽制する。
大剣だけでは遠距離からの魔法を防ぎきれずに傷を増やしていくが、装甲が厚いため見た目ほどダメージを与えられていない。
両肩から火球を。
左腕の大砲からは風の砲弾を。
それぞれを闇雲に放つ。
狙いは大雑把だが、威力は大きいため当たらなくてもその攻撃の余波は十分脅威である。
これではせっかくの好機を活かせないと判断したポニィは、残った魔力を魔法へと変換させていった。
ポニィの頭上に出現した氷柱が魔力を注ぎ込まれて徐々に大きくなっていく。
狙いは慎重に、暴れ回るメカニカルアーマーを捉える。
巨大化した氷柱をメカニカルアーマーの左肩目掛けて放った。
もの凄い勢いで飛翔する氷柱は、メカニカルアーマーの左肩に備え付けられた射出機ごと貫いた。
「やった……」
走り回って体力を消費し、さらに魔力を使い果たしたポニィは疲労困憊で倒れそうになるが背後から伸びてきた腕によって支えられる。
ポニィが振り返るとそこには親友のアマテルがいた。
「テル……わたし、がんばったよ」
「見てましたよ、最高の魔法でした」
終始動き回りながら魔法を使い続けたポニィは間違いなく今回の功労者の一人だろう。
「お疲れ様、ポニィ」
アマテルは体力と魔力を使い果たすまで戦った親友を労うのだった。
ー11ー
「前に出るぞ、ダイン!」
「おうよ、ようやく出番が来たな」
メカニカルアーマーの右手に握られた大剣が通り過ぎるタイミングを見計らってローゲンはダインを引き連れて駆け出した。
フランケンもその動きに気付いたようで、メカニカルアーマーを動かす。
大剣は振り回した直後で対応できないため、メカニカルアーマーの左腕で振り払おうとするが、ローゲンは躊躇わずに突っ込んでいった。
ポニィの魔法によってメカニカルアーマーの左肩が損傷しているため、動きは鈍く勢いが乗っていない。
ローゲンは足を止め、盾を構えて衝撃に備える。
メカニカルアーマーの左手の甲がローゲンの盾を捉え、振り払おうとするがローゲンは持ち堪えた。
衝撃が盾から全身に伝わる。
大剣を盾で受け。
衝撃を全身に分散し。
力強く踏みしめる足で体を支え。
全身の筋肉をフルに活動させ。
歯を食いしばって大剣を受け止める。
土の加護で物理耐性を強化しているとはいえ、壊れかけであろうと巨大兵器からの攻撃を完全には抑えられない。
全身の骨が軋み、悲鳴を上げる。
踏みしめている足が徐々に押されていく。
吹き出る汗が蒸気に変わるほど体温が高まる。
限界が訪れようとローゲンは押し返そうと踏ん張る。
「ぐっ、ううっ……! ダイン! 大砲を破壊しろ!」
「へいへい。任せろい」
ダインは動きが制限されているメカニカルアーマーの左腕に備え付けられた大砲に突撃していった。
そうしている間もローゲンは徐々に後退しているが何とか持ち堪えている。
「これしきの事で負けられるか!」
ダインは大砲に接近し、近距離から魔法を発動する。
「この至近距離。最大火力の一撃。くらえぇぇぇぇ!!」
杖の先端に圧縮された雷が宿り、その杖を大砲目掛けて思いっきり叩き込む。
大砲の一部が欠けるも一度の攻撃では壊れない。
「しぶてえな。なら、壊れるまでブッ叩いてやらあ!」
ダインは再び杖を振りかざし、圧縮された雷を宿した杖を叩き込む。
何度も何度も叩き込む。
やがて大砲に亀裂が入り、それが全体に拡がっていった。
「おらっ! おらっ! おらぁっ! これで、どうっだぁぁぁぁ!!」
度重なる攻撃に耐えられなくなった大砲は限界を迎え、砕け散った。
「ダイン、離脱するぞ」
「これからなのに?」
「深追いは禁物だ。下がるぞ」
メカニカルアーマーの大剣は健在している。
用心に越したことはない。
「りょーかい」
暴れ足りないのか、一度蹴りを入れてからダインは離れた。
ダインが離れたのを確認して、ローゲンも離脱する。
度重なる攻撃によって、メカニカルアーマーの左腕から装甲は剥がれ、中の導線が剥き出しになっていた。
中の導線が切れたのか、ショートしたのかは分からないが手首から先は機能しておらず、メカニカルアーマーの左腕の指は一本も動かない状態にまで損傷する。
これでメカニカルアーマーの右腕以外は破壊された状態になった。
ローゲンは全身の激痛に耐え切れずに離脱の途中で倒れる。
それでもなんとか立ち上がろうとするが、また倒れてしまう。
「ったく。無茶するなよ、年寄りのくせに」
先に離脱したダインがわざわざ戻ってきてローゲンに肩を貸す。
「年寄りには年寄りなりの意地があるんだ」
「そういうの頑固って言うんだろ? この頑固オヤジめ」
「こんな状況でも口の減らないヤツだ」
「はいはい。……それはそうとお疲れさん」
「お前もな。よくやった」
「……さっさと治療するからくたばんじゃねえぞ」
「ふっ……。まだ死ねないようだな」
ローゲンはダインに支えられながら戦線を離れ、治癒の魔法による治療を受けるのだった。
ー12ー
「あと一息だね、みんな頑張ろう。……って、あれ? キミ、帰って来てたんだ」
「なんだ、その残念そうな反応は」
アマテルに怪我を治してもらい、十分に休んだ。
いつまでも仲間に任せてばかりはいられない。
「それにしてもスゴイな。あそこまで追い詰めるなんて」
「でしょー。キミがいなくてもなんとかなったよ」
マイカは胸を張って自慢げに答えた。
「まあ、キミが雷の盾を破壊してくれたおかげなんだけどね」
「……もう少しで倒せるのは理解している。その上でお願いがある」
「お願い?」
「最後の役目を譲ってくれ。フランケン、奴とはこの手で決着をつけたい」
仲間達は顔を見合わせた。
「元々これはキミの戦いだし、自分でケリをつけなさい」
「マイカもこう言ってるし構わないよ」
「治癒の魔法以外に回せる魔力がないので、任せまーす。それよりもお宅のおじいさん、人使いが荒いッスよ」
「私もみんながいいのなら構いません」
マイカ、レンダー、ダイン、ニーナは了承してくれた。
「わたしは魔力切れだから、むしろお願いしたい」
「こっちもこれ以上は体が動かない。頼んだぞ」
ポニィとローゲンからも了承を得られた。
「勇者様ならきっと勝てると信じています。くれぐれも怪我だけには気を付けてくださいね」
アマテルからは激励の言葉を貰った。
「皆、ありがとう。感謝する」
仲間が見守る中、一人で前に進み、メカニカルアーマーと再び対峙する。
二度目の対峙。
これが最後だ。
「フランケン、一騎打ちだ。これで終わりにしよう」
「お主一人で挑むか。どうやら、お主達を見縊っていたようだ」
傷はアマテルの治癒の魔法で癒えたが、体力や魔力が完全に回復したわけではない。
まだ体のあちこちに痛みの残滓が残っている。
万全の状態とは言えない。
それでも、一騎打ちを挑む。
「ここでお主一人倒せないようでは儂の悲願達成には遠く及ばない。一騎打ち受けようじゃないか。ここで儂らの戦いに終止符を打とうではないか」
フランケンは一騎打ちを受けた。
己の勝利を信じ、願いを成就させようとしている。
立派な心意気だ。
多少……というより大分私情が入り込んでいるが、フランケンはフランケンなりにこの王国を救おうとしている。
かつては勇者候補であり仲間達と共に旅をしていた。
その最中で真実を知り絶望した。
細かい経緯は不明だが、盗賊団を結成し王国への復讐を誓い、ここまでの規模にまで拡大させた。
今や王都でもエクリプスの名が轟いている……無視されているけど。
ここまでやって来た努力は認めよう。
だが、やり方が卑劣過ぎる。
目的のためならば手段を選ばない、そのやり方を認めるわけにはいかない。
何より許せないのが、アマテルに手を出した事。
それだけは絶対に許さない。
「フランケン、最後に言っておきたいことがある。お前の敗因は自分の仲間を信じなかった、頼らなかったから負けるんだ」
「この期に及んで仲間か。儂の仲間などとうの昔に死んだ」
「組織の頂点に立つ者が仲間を信じてないのは致命的な痛手だ。今まで組織を維持できたのはお前一人の力が他者を圧倒できたからに他ならない。だけど、今日お前よりも強い者が現れた。お前は負けて組織は瓦解していく」
「言いたいことはそれだけか、小僧。いや……勇者」
メカニカルアーマーが動き出し、大剣を構えた。
「……そうだ。もう一つあったな」
こちらも相手に応えるように剣を構えて突撃の態勢を取る。
「お前、剣の扱いが成ってないな。剣の扱い方を教えてやるよ」
そう言ってメカニカルアーマーに向けて走り出した。
「残った機構を総動員させて相手をしてやろう」
右肩から火球が放たれた。
当然、それは予想できた攻撃である。
予め風を纏わせていた剣で火球を受け流す。
火球はあさっての方向に飛んでいき、壁に当たって爆炎を上げた。
「やはり通用しないか。これは、どうだ」
大剣の横薙ぎが襲い掛かる。
フルスイングの斬撃。
直撃したら体はひしゃげ、肉塊になる一撃だ。
雷の魔法で強化した足の筋肉をバネに跳躍して、大剣を飛び越える。
「力任せな大振りだな。初撃は大事だぞ。躱されたり防がれたりするのを予測して、次の攻撃に繋げるのは基本なんだが……。まあ、その巨体を全力で動かしたい気持ちも解るよ」
大剣による次なる攻撃が来る前にフランケンがいると思われる胴体部分に辿り着いた。
走った勢いをそのまま剣に乗せて胴体部分を貫く。
分厚い装甲も仲間達の猛攻により、ボロボロに成り果てていた。
亀裂の隙間を縫うように差し込まれた剣の刀身を伝い、鍔から血が滴り落ちる。
メカニカルアーマーの動きが止まるのを確認して剣を引き抜く。
動きの止まったメカニカルアーマーの右手から大剣が滑り落ちた。
巨大な大剣が地面に落ちるだけで大地を揺らす。
それをきっかけにメカニカルアーマーが崩壊を始めた。
崩壊して落ちた部品が土煙を起こしながら、広間だけでなくエクリプスの本部全体を震わせる。
崩壊が収まると、徐々に土煙が薄らいでゆく。
貫かれた心臓から血を流すフランケンの姿を視認できるくらいに土煙が晴れた。
「お前の負けだ、フランケン」
「……」
フランケンは何かを喋ろうと口を動かすも声を発するは事なく、糸が切れたようにがくりと項垂れた。
「……憐れな。仲間を信じられていたのなら、もっと別の人生があっただろうに……」
今回も読んで頂きありがとうございます。
今回の話を一言で言えば総力戦。
主人公とその仲間達が持てる力を全て出し切って、強大な敵に立ち向かいました。
エクリプスのボスであるフランケンの力は強大で、主人公達だけでは敵いません。
そこで登場させたのがマイカ達一行。
彼女達と協力することでフランケンを倒すことに成功しました。
各キャラが活躍し、メカニカルアーマーを段階的に破壊していくのは、どことなくゲームっぽさがあって個人的に好きな戦闘です。
作中でも触れましたが、一番活躍しているのはポニィです。
今回の話だけでなく、これまでも活躍してきました。
さらにこれからも活躍していきます。
その強さは並の相手どころか手練を相手にしても引けを取りません。
設定的には初期の段階で彼女一人だけでもサラマンダーを討伐できるほどの力を有しています。
もっとも、引っ込み思案な彼女が一人で討伐に向かうはずがないので、村に多少なりとも被害が出ていたことでしょう。
親友のために旅に出て、体力の少ない魔法使いでありながら走り回り、攻撃魔法を行使し続ける頑張り屋さんな彼女の活躍を今後も期待してください。
作中では語られていませんが、エクリプスが高い魔力を秘めた物を集めているのには理由があります。
それはメカニカルアーマーの強化。
無限の魔力を有していようと、魔力量の最大値は変わりません。
メカニカルアーマーを作り出した際に、消費した魔力量に応じてメカニカルアーマーが強くなります。
フランケンの足りない魔力分を補うために高い魔力を秘めた物を使うのです。
そして、前回の話で登場したガネーシャ。
あれはエクリプスが死体をわざと放置することで生まれたアンデッドになります。
何故アンデッドを作るのか、それは魔臓石を手に入れるためです。
先に述べた通り、フランケンは高い魔力を秘めた物を欲していました。
高位アンデッドの魔臓石ならば、当然高い魔力を秘めているので、それはフランケンが求めている物になります。
要するに魔臓石の養殖をしていたのです。
アマテルが誘拐された時、死体をどうするか部下がエビータに聞いていたのはそこらへんが理由になります。
ガネーシャを本部に輸送中に暴れてエクリプスの構成員は殺され、偶然近くに居た主人公達に襲い掛かったというわけです。
さて、エクリプス関連の話が長くなりましたが、今回で一区切りが付きました。
次回は久し振りに地球サイドの話になります。
それでは、また次回の話も読んで頂ければと思います。




