表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/13

8 カイ・クサナギ

 海賊討伐。

 俺は望まぬ形で、殺人という方面での童貞を卒業してしまった。

 気が付けば、そのことに慣れていた自分が怖い。


 前世(にほん)だと、もうまともな人間じゃないな。


 ただ、そんな俺と違って、我が姉は相変わらずぶっ飛んでいる。

 ぶっ飛びまくっている。


 お眼鏡にかなった海賊を、仲間という名の手下にしていた。


「君たち、これからはうちの艦隊でキリキリ働くんだよ」


「へえっ、姐さん!」

「姐さんのためなら、粉骨砕身いたしやす」

「これからは心を入れ替えて、誠心誠意お仕えいたしやす」


 可憐なイザナミが笑顔で語りかければ、殺人だってやっていた強面の海賊たちが、揉み手をしながらイザナミの前で平伏した。

 皆いい歳したオッサン連中なのに、完全にイザナミの舎弟となり果てている。



 あと手下にした元海賊が、俺のことを兄貴扱いしてくるようになった。


「兄貴、姐さんのことをよろしくお願いいたしやす」

「姐さんに変な虫が付かないように、頼みます兄貴」

「兄貴、姐さんとの結婚はいつですか?」


 俺はイザナミの近くにいる(正確にはイザナミがいつも俺に擦り寄ってくる)だけなのに、ドウシテコウナッタ?


 結婚もしないから。




 しかし、俺はこれでいいのだろうか?


 我がオノゴロ伯爵家は元々は武門であり、それゆえに男子は幼い時に実戦を一度は経験させておくという、過激な家風がある。


「俺は普通に働いて、平凡な生活をしていければそれでいいんだけどな」


 転生してこの世界に生まれ変わったけれど、俺は基本的にサラリーマン思考。

 転生ファンタジー物よろしく、冒険者になってモンスターと戦おうとか、成り上がって一国を支配するとか、内政チートしてやるなんて野望も野心もない。

 せっかく転生したからと、自分の命を使って、ギャンブル染みた危険な生活を送るつもりは全くない。


 当然海賊討伐をしたり、軍人になって危ない橋を渡ろうなんて考えもない。



 転生したのが貴族の家なので、一般的な平凡とはいかないかもしれない。

 それでも将来は官僚になるか、オノゴロ伯爵家の領地経営に、内政官として携わることができればいいと思っている。


 そんな俺の人生設計をつまらないと思われるかもしれないが、安定して生きていくことができれば、それでいいと思う。



「ええーっ、それじゃあつまらないよ。イザナギも海賊退治をもっとすれば、きっと良ささが分かるようになるよ。まだまだ海賊狩りをしないといけないね。それに私の手下たちの働きぶりも見たいし」

「イヤだよ……」


 俺は平凡でいいのに、イザナミは無茶苦茶なことを宣う。


 姉の思考方式が怖い。

 昔からぶっ飛んだところがあったけど、今回の海賊退治でさらにぶっ飛んでしまった。


「よーし、それじゃあ提督、次の海賊狩りに行こう。ぜひ行こう、今すぐ行こう、レッツゴー」


 超ノリノリで、イザナミは女提督に海賊狩りの催促をするほどだった。


 我が姉は、海賊退治の何に目覚めてしまったんだ?

 昔から一緒にいるが、未だにイザナミの思考方式が分からない。







 ただ、このようなわけで俺の願いと関係なく、さらに海賊退治が続くことになった。


 もっともオノゴロ伯爵領は比較的安定していて、海賊被害も少ない。

 そのため、次に海賊を狩る場所は、オノゴロ伯爵家の寄子である、クサナギ子爵領でとなった。


 貴族社会では、寄親と寄子と呼ばれる制度があり、寄子が困っていれば寄親が助けることは当然であり、逆の場合も寄子が集って寄親を助けるのが当たり前とされている。

 要は、ヤクザの親分と子分の関係の、貴族版といっていいだろう。


 オノロゴ伯爵家が寄親、クサナギ子爵家が寄子となっていて、この関係は先祖代々続いているそうだ。

 どちらも歴史ある貴族家なので、この関係は俺たちのご先祖様の時代から、ずっと続いている。


 そのような間柄にあるクサナギ子爵領が、宇宙海賊に困っているということで、次の海賊狩りの場所として選ばれた。


 とはいえ、寄親寄子の間柄とはいえ、他領での海賊討伐となる。


 そのため、まずはクサナギ子爵家の現当主に挨拶をしてから、海賊退治の手順となった。




 そして俺とイザナミは伯爵家の子弟なので、子爵との挨拶には出席しなければならない。


「イザナミ様とイザナギ様におかれては、ご機嫌麗しく」


 場所は空母アシュラの艦内。

 子爵とは社交辞令を交えつつの挨拶だった。

 ただ挨拶の際、子爵は自分の息子を連れてきていた。


「カイ・クサナギ、クサナギ子爵家の四男だ」


 そう名乗るのは子爵の息子で、黒髪に黒い目をした少年。

 年齢は12歳とのことで、俺とイザナミと同年齢だった。


 ただ、子爵(ちちおや)に言われて無理やり連れて来られたようで、不愛想な態度をしている。

 この年齢で貴族の子弟ならば、多少わがままな感じでも仕方ないだろう。


「よろしく、カイ。俺はイザナギ・オノゴロだ」


 とはいえ、俺はにこやかに挨拶して、手を差し出す。

 俺の場合は12歳でも、前世有りなので中身は大人だ。

 社交辞令くらい普通にこなせる。


「……」


 だけど、胡乱な目をして、俺の差し出した手を見るだけのカイ。


 もしかして俺、嫌われているのか?

 そう思いたくなってしまう。



「カイ、イザナギ様の差し出された手を握りなさい」

「……イヤだよ。こんな奴」

「カイ!」


 カイはソッポを向いてしてしまう。


 俺、嫌われてるなー。

 初対面なのに、どうしてだ?


 そう思う前で、子爵がカイに怒鳴った。



「申し訳ありません、イザナギ様。私の躾が出来ていないばかりに、愚息が無礼を働いてしまいました」

「いえ、気にしてないのでいいですよ、子爵」


 息子の態度に、親として謝る子爵。

 大人の子爵に子供である俺が謝られているけど、両家の立場を考えると、こんなことになってしまう。

 貴族社会は年齢でなく、実家の力がものを言う。

 身分が高い相手に対しては、へりくだる必要のある社会だった。


「子供のすることなので、気にしてないですよ」

「そう言っていただけると助かります。ですがイザナギ様もカイと同い年なのに、ご立派ですね」

「そうですか?」


 その後は、大人の対応をしてカイの無礼を不問にした。



「私イザナミ。よろしくねー、カイくん」


 ところで、俺が子爵と話している間に、イザナミもカイに挨拶をしていた。

 にっこり愛想よく笑いながら、手を差し出す。


「お、おうっ……って、女の手なんか握られるか。バーカ!」


 イザナミの手を見て固まったと思ったら、突然バカとか言い出した。


 なんだ、このガキは?

 俺のことはいいが、この歳で既に美人なイザナミにバカと言うとは、このガキは頭がおかしいのか?


「ええっ、バカってヒドイよー」

「っ、うるせえ。バカはバカなんだ!バーカ」


 子供の喧嘩か?

 カイがイザナミを、バカにし続ける。


「ムーッ、イザナギ、この子頭悪そう」


 カイの態度には、さすがにイザナミも参ったらしく、俺の方に助けを求めてきた。

 イザナミは、バカにされて怒るより、呆れてるって感じだ。

 ただ、どうしたらいいのか自分では分からないので、俺の方を見てくる。


「なんでそいつの方を見るんだよ!」

「なんでって、イザナギは私の弟だもん」

「そうじゃなくて……」



 ……

 なんだろう、カイの態度がおかしい。

 挙動不審になって、イザナミの顔を見たかと思えば、すぐに顔を逸らすけど、またすぐに見ようとする。

 お子様だから仕方ないのか、と思うところだが、ここで俺は気づいた。


「カイ、もしかしてイザナミに惚れたのか?」

「ハアッ、しょんなわけないだりょ(そんなわけないだろ)!」

「図星か、思い切り噛んでるな」

「んなっ!」


 一目惚れだな。

 イザナミが12歳でも、既に美人であることは俺が保証する。


 こうなれば、全て合点が行く。

 俺に突っかかってきたのは、イザナミの隣に俺がいたから。

 中学生くらいの年齢だと、初恋の相手に素直になれずに、仲良くしたいのになぜか逆の行動をするなんてのは、よくあることだ。

 カイの中では、イザナミの近くにいる俺を、ライバルとでも思っているのだろう。



「イザナミ良かったな。カイはお前のことが好きみたいだぞ」

「どうでもいいや。私はイザナギがいればそれでいいから」


 一目惚れされて、イザナミがどんな反応をするかなと思っていたら、なぜか俺に抱き着いてきた。

 手を握るなんて、優しい物じゃない。

 俺の背中に両腕を回して、全身で抱擁してくる。


「おい、イザナミ。人前でやるんじゃない!」

「じゃあ、人がいない所ならイザナギに抱き着いてもいいんだ」

「いや、それもダメだぞ」


 抱き着いてきたイザナミの顔が、俺の顔のすぐ近くにある。

 互いの吐息がかかる距離で、どこからどう見てもイチャイチャしているようにしか見えない。

 俺の姉は、相変わらず俺にベッタリで困る。


 いい加減、弟離れをしてもいい年なのに。



 ただ、そんな俺たちの姿を見て、子爵が呟く。


「お2人が非常に仲がいいと聞いていましたが、まさかこれほどだったとは……」


「い、いや、これはそういうのじゃなくて……」


 イザナミにベッタリされるのはいつものことだけど、子爵にこんな場面を見られては、あらぬ誤解をされかねない。

 俺とイザナミは双子の姉弟だけど、それ以上に特別な関係なんてないからな。



「ぬあっ、なんで男に抱き着いてるんだよ。おい、イザナミ。そんな男より、俺の方が、オ、オレ……」


 あと、俺たちのことを勘違いしたカイも、かなり挙動不審になっていた。


 最初は怒っていたのに、なぜか言葉が尻すぼみになっていってる。

 俺と付き合えとか、俺の方がふさわしいとか言いたいのだろうが、照れくさくて言えないのだろう。


「チ、チクショウ。こうなったら決闘だ。お前、イザナミを賭けて俺と決闘しろ!」


 そしてあらぬ勘違いをして、カイがそんなことを宣った。

 俺の顔に向かって、指先を突き付けて宣言してきた。


 なに言ってるんだこいつ?

 決闘なんてするわけないだろう。

 子供の喧嘩なんてゴメンだ。


「ダメ、私はイザナギのものだもん」


 そしてイザナミの行動は、もっと早かった。

 決闘の景品扱いされたイザナミは、突然俺の前から消えたかと思うと、カイの鳩尾を拳で抉っていた。


「ゴオフッ」

「ああ、完全に入ってる」


 イザナミの戦闘能力はチートクラス。

 海賊相手に無双できる力は生身でも健在で、カイでは全く反応できず、重たい一撃をノーガードで食らっていた。


 口から涎を吐きながら、地面に向かって倒れるカイ。

 白目を剥いて、床にぶっ倒れてしまった。



「ビクトリー。愛は勝つ!」

「愛は勝つじゃない、何やってるんだよイザナミ!急いでカイを医療室に連れていくぞ。衛生兵、衛生兵!」


 勝手に勝利のポーズをとるイザナミだが、そんなことより気絶したカイを早く助けないといけない。


「カイ、カイー!」


 慌てるのは俺だけでなく、子爵も一撃で倒された息子の名を叫んで狼狽えている。


「ふんっ」


そんなカイと子爵(ちちおや)を見下ろして、なぜかイザナミは勝ち誇っていた。



 お前は一体何に勝ったつもりでいるんだ!

 我が姉の頭は、今日も変わることなくぶっ飛んでいて危ない。

あとがき




 別の世界にいるドラゴニュートの影響か、イザナミの性格が暴力至上主義に染まってきている気が……


 別の世界にいる魔神族の影響なのか、ヒャッハーな手下たちが集結していってる気が……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ