4 機動騎士は男の子のロマン
11歳になった。
「凄い、ロボットだ」
この世界はSFの世界。
なのでロボット……二足歩行で動く人型戦闘機が存在した。
高さは5メートルほどで、2階建ての住宅よりやや高いと言ったところ。
それでも下から見上げる姿は、感動ものだ。
男の子だったら、ロマンを感じずにいられない。
「イザナギ様、貴族たるもの時として決闘を行うことがあります。その際はこの”機動騎士”を用いた一騎討が決まりとなっています。貴族の子息であるイザナギ様も、機動騎士の扱いを覚えなければなりません」
俺がロマンを感じる傍で、剣術の師であるアワジが言ってくる。
人型戦闘機のことを、この世界では”機動騎士”と呼んだ。
「いくら何でも古臭い伝統じゃないか?」
しかし銀河系に進出している文明なのに、今更決闘なんてひどく時代錯誤な話に聞こえる。
「確かに古臭く感じられるかもしれません。ですが貴族家同士の争いでは、時に両家の軍事力が直接衝突することもあります」
「それって、戦争ってこと?」
「はい、国家同士の戦争とは比べ物になりませんが、それでも両家の有する艦隊同士の戦いとなります。家の規模にもよりますが、その戦争で億単位の乗組員が死傷することもあります」
億単位の人間の死傷。
まるで世界大戦並の惨事……いや、それすら超える人間が死傷することになる。
銀河に進出した文明故に、人口も多いが、それに比例して戦争の被害も増えていた。
前世のように惑星一つの中で起きる争いとは、比べ物にならない。
「戦争とは、莫大な人命と金の損失です。なので、戦争に発展させるくらいならば、あえて決闘で片を付けるケースもあるのです」
「だから貴族は決闘の仕方を覚えなければならない……ってことか」
「左様です」
とてつもない話だが、億単位の人間の命が関わるならば、確かに貴族同士の一騎討の方が被害が格段に少ない。
最悪、一騎討を行った両人が相打ちになっても、犠牲はそれだけで済む。
「それでは、これから機動騎士の乗り方についてのレクチャーを……」
決闘のことを話した後、アワジがいよいよ機動騎士の操縦の説明に入ろうとした。
なんだけど……
「このレバーをこうしたらいいのかな。そりゃっ!」
「この声は、イザナミ!」
いつもは俺にベッタリのイザナミだが、今日は別行動。
てっきり、機動騎士に興味がないのかと思っていたら、機動騎士のコックピットから声が聞こえてきた。
「おっ、これで足が動くのね。ふむふむ、こっちのレバーが腕で……」
「イザナミ様!」
慌てるアワジ。
だが、アワジの声が聞こえてないようで、イザナミの乗り込んだ機動騎士が動き始めた。
「退避!イザナギ様、ここは危険なので直ちに逃げてください!」
近くでイザナミの操る機動騎士が動き出す。
全長5メートルの巨人をただの素人が操るため、その動きが予測できない。
「イ、イザナミ、なんで勝手なことを……急いで逃げよう」
姉の奇行を一瞬止めようかと思ったが、機動騎士が1歩踏み出しただけで地面が振動した。
2階建ての家が、目の前で動き回るようなものだ。
大型トラック相手に、生身で突っ込むくらいの危険度だ。
勇気と蛮勇は全く別物。
俺とアワジは動き出した機動騎士から、逃げることにした。
「おおっ、ここをこうすればいいのね。ヤッホー、イザナギー!」
だけど逃げる俺の背後で、機動騎士を動かしながら操縦方法を覚えていくイザナミ。
俺の方に向かって、機動騎士が腕をぶんぶん振ってきた。
「……アワジ、おかしくないか?」
「イザナミ様は、操縦のレクチャー受けてないはずでは?」
「ああ」
俺とアワジは、イザナミが普通に機動騎士を操っていることに、唖然とさせられる。
「ホップ、ステップ、ジャーンプ」
さらに俺たちの前で、機動騎士がスキップをし、ジャンプまでしてみせる。
着地した瞬間、地面が大震動する。
普段鍛えているおかげで、俺は転ばずに済んだが、地震並の揺れだ。
「ゆけー、大空に向かってゴー」
さらに機体の背面にあるスラスターを吹かして、機動騎士は空に向かって飛んで行った。
「……」
「いかん、イザナミ様に何かあっては一大事だ。直ちに機動騎士を取り押さえろ!」
この訓練のために、パイロットが乗り込んだ機動騎士が複数あった
それらが大慌てでイザナミ操る機動騎士の後を追いかけて、空へ飛んで行った。
「イザナミ、いきなりロボットに乗って空を飛ぶとか、チートすぎだろ……」
そんな光景を眺めながら、俺は唖然とするばかりだ。
双子の姉が剣術だけでなく、機動騎士の操縦までできて、チートすぎる。
「ぬおおおー、早すぎる。追い付けん!」
「な、なんて低空を飛ぶんだ。俺たち以上に操縦がうまいぞ。エース並だ!」
「た、隊長、質量を持った残像です。イザナミ様の機動騎士が、質量を持った残像を残しながら飛んでいます!」
追い掛け回されるイザナミの機動騎士は、6機の機動騎士をあっさり振り切って、空を自由自在に駆け巡り続けた。
通信機から聞こえてくるパイロットたちの声が、最初は絶叫だったが、次第に称賛の声に変っていく。
てか、質量を持った残像ってなんだよ?
どこの世界のモビルスーツだ。
「なあ、アワジ。機動騎士って、質量を持った残像なんて出せるのか?」
「パイロットがその手の能力を持っていれば可能ですが、あのスキルは大変レアなため、正規軍でも片手で数えられるほどしかいないのですが……イザナミ様は天才過ぎますな。ハハハ」
剣術に続いて、機動騎士の操縦でも、チート認定されてしまうイザナミだった。
なお、この世界には能力と呼ばれる力がある。
惑星から宇宙空間へ進出した人類は、長い年月をかけて旧人類から徐々に進化していき、新人類へ進化した。
外見的には旧人類と差異がないものの、旧人類では持ちえなかった超常的な能力を獲得するに至っている。
人よりも超速度で思考できる、”シンキングクロック”。
倍以上の速さで動くことができる、”アクセルドライブ”。
離れた空間を瞬間移動できる、”ショートテレポート”。
その他いろいろ。
ファンタジーでいう魔法というよりは、超能力と言った方がしっくりくるだろうか。
こういった能力は、基本的に貴族の血筋において強く顕現するため、グランノルス帝国の貴族は、平民に比べて特殊な能力を有していることが多かった。
今回イザナミが見せた質量を持つ残像は、そんなスキルの一つ、”マースオブミラージュ”だった。
「ヤッホー、イザナギー」
そんなチートを見せるイザナミは、機動騎士で空を駆けながら、地上にいる俺に向かって手を振っていた。
イザナミが男前すぎる。
俺の男としての矜持が、またしてもなくなってしまった。
その後、イザナミが操る機動騎士が戻ってきた。
地上への着陸も慣れたもので、きれいに着地。
初めて機動騎士に乗り込んだ素人とは、とても思えなかった。
「コラ、勝手に操縦したら危ないだろう」
とはいえ、俺は怒ってイザナミの頭をコツンとする。
拳骨ほどの力も入っていない、お仕置きだ。
「ごめんなさーい」
コツンとされたイザナミは、なぜか嬉しそうに笑っている。
「この2人、もう夫婦でいいんじゃないか?」
そんなことをしている俺たちをみて、アワジが何か呟いていた。
声が小さかったので、聞き取れなかったけど。
それはともかく、この後は俺もアワジから機動騎士のレクチャーを受けて、操縦方法を教えてもらった。
「では、実際にイザナギ様も操縦してみましょう」
「おおっ!」
機動騎士の操縦なんて、ロマンがあるな。
男の子のロマンだ。
俺はそう思いつつ、体のラインがはっきりするパイロットスーツを着て、機動騎士のコックピットに乗り込む。
「……イザナミ?」
ただし、当たり前のようにコックピットの中に、イザナミまで乗り込んできた。
どうして、乗り込んでくる?
「これ、1人乗りだぞ」
「分かってるよ。でも、私が手取り足取り教えてあげるね。まずは、このレバーが足の操作で……」
1人乗りのコックピットの中、女性用のパイロットスーツを身に着けたイザナミと、密着した体勢で乗り込むことになってしまった。
11歳は、まだ幼女の枠に入れていいだろう。
けど、パイロットスーツでボディーラインがはっきりしているイザナミは、既に胸が出ているし、体のラインはほっそりしていて、おしりはそこそこ。
密着していると銀色の髪が俺の顔をくすぐってこそばゆいし、女の子特有のいい匂いもしてくる。
「えへへっ」
イザナミは嬉しそうにしているけど、俺は……思考停止させてもらおう。
今はまだ大丈夫だが、あと2、3年したら大変マズイ。
イザナミはかなり美人になるだろうし、俺だって本格的に男になっていくからな。
「このレバーで、足を動かす。このレバーで、足を動かす。このレバーで、足を動かす」
「イザナギ、どうして片言なの?」
「気にするな」
イザナミに変な気を起こさないようにと、俺は単純作業を繰り返すマシーンなのだと思い込むことにした。
機動騎士を初めて動かしているロマンなんて、もはや感じる余裕がない。
あとがき
この物語におけるキャラの立ち位置。
イザナミ:主人公補正持ちのチート。
イザナギ:主人公の双子の弟?前世の記憶があるが、何の役にも立たない。(目指せ、脇役系主人公!?)




