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2 遥か未来のジェダイ

 8歳になった。

 さすがにこの年齢になれば、寝る時間は男女別室が当たり前。


 そもそも伯爵家ほどの家なので、姉弟であっても一つの部屋に集まって寝るなんてことは、絶対にあってはならない。


 男女七歳にして席を同じゅうせず、だ。



「ううーん、イザナギー」


 あってはならないことだが、我が双子の姉にそんな常識は通用しない。


 寝た時は確かに別室だったのに、朝起きたらいつの間にかイザナミが俺のベッドの中にいた。

 俺の背中に背後から抱き着いていて、俺は抱き枕にされている。


 ただ8歳にして、イザナミの胸にちょっとした弾力を感じる。

 服を着たら分からなくなるが、連日抱き枕にされている俺は、イザナミの胸の成長に早くも気づかされた。


「イザナミの奴、成長が早すぎだろ」

「ンフフー、イザナギ大好き―」


 俺が呟くと、イザナミが俺の背中に頭をつけて、スリスリしてきた。


「ンヘヘー」


 背中をがっちりホールドされているので、俺は後ろにいるイザナミの顔を見れない。

 でも、きっとにやけ切った顔をしているだろう。

 この姉は、どうしたことか俺のことを超絶大好きだ。


 このブラコン姉め、仕方のない奴だ。

 でも、そのうちイザナミも、弟と一緒なんてイヤだと言い出して、段々俺から離れていくかもしれない。

 姉弟なんて、そんなものだからな。


 そんなことを思いつつも、俺はこれから早朝のランニングに行きたい。

 早朝訓練だ。

 なのに、イザナミにガッチリとつかまれているため、身動きが取れない。


「イザナミ―、いい加減に起きろー」

「イヤだー」

「てか、起きてるだろ!」

「抱き枕が勝手に動いちゃダメ!」


 結局、俺はいいようにされてしまい、ベッドを抜け出せずに本日もイザナミの抱き枕にされてしまった。





 そうして朝になる。

 イザナミが起きてくれたので、俺もベッドからようやく抜け出せる。


 屋敷に仕えているメイドたちに服の着替えを手伝ってもらい、髪も整えてもらう。

 前世と違って使用人が全てしてくれるので、とても楽だ。


 人に全てのことをされるなんて、前世の俺だったら考えられなかったことだが、前世を思い出した3歳の時からずっとこうだったので、もはや完全に習慣化している。

 人に傅かれることに、慣れてしまっていた。



「イザナミ様、ご姉弟とはいえ殿方と着替えを一緒にされるのはいけません」

「イヤだー、イザナギと私は一心同体だからいいのー」


 ところでイザナミは、起きてからも俺の傍から離れようとしない。

 メイドに言われても、まったく言う事を聞きやしない。


「イザナミ、服を着替える時くらい、別室でしような」

「ムーッ」


 8歳になるのに、頬を膨らませて俺の傍から離れようとしない。

 俺の説得も全く聞いてくれない。


「そんなに俺にベッタリだと、結婚できなくなるぞ」

「いいもん。イザナギのお嫁さんになるから問題ないの!」


 ブラコン姉は、相変わらずこんな感じだ。

 いつまで、こう言ってくれるんだろうな?

 嬉しいような寂しいような、複雑な気分になる。



 とはいえ、その後すったもんだあったものの、なんとかイザナミは別室で着替えてくれた。


「イザナギー、ちゃんとそこにいるー」

「……いるよ」

「勝手にいなくなったらダメだよー」

「……」


 ただし、イザナミが着替えている部屋の前で、俺は強制待機させられる羽目になった。




「ああ、空が青い」


 姉の愛が重すぎる。

 いつもベッタリされているので、ちょっと黄昏気分になってしまった。


 窓から屋敷に入り込む日差しが暖かくて、つい現実逃避が入って外の景色を眺める。



 空は青一色の晴天。

 そこを小型の宇宙船(シャトル)が、地上から空へと向かって飛んで行った。



 この世界は、銀河系に文明が進出している世界。

 前世でいうところのSFの世界だ。


『前世知識使って、異世界チートしてやる!』


 なんて叫んでも、中世ファンタジー世界でなく、超未来の世界なので、前世知識を使ってチートなんてできるはずがなかった。

 手押しポンプを作って井戸に取り付けたところで、意味がない。

 そこなことをすれば、そこら辺にいる人たちから奇異な目で見られるだけで終わってしまう。


 まあ、手押しポンプの作り方なんて知らないけど。



 とはいえ、3歳で前世の記憶を取り戻したおかげで、本を読んだり勉強を進めたことで、俺は同年代に比べて知識量では勝っていた。

 異世界チートは無理でも、知識は生きていく上での武器になる。

 チートは無理でも、これくらいのことはしておくべきだろう。



「おまたせー」


 そんなことを考えていたら、イザナミが着替え部屋から出てきた。


「早速、剣術の稽古よー!」


 動きやすい服装をしている。

 この姉は3日坊主になることなく、あの後もずっと剣術の稽古を継続していた。







 さて、剣術の訓練となる。


 本日の訓練内容は、レーザーライフルの弾をレーザーソードで弾きましょう、だ。

 大事なことなのでもう一度言う、レーザーライフルの弾をレーザーソードで弾きましょう、だ。


 遥か未来のジェダイよろしく、この世界ではレーザーソードを使ってレーザーライフルの弾をはじき返すことができる。


 光の速度で進むレーザーを、どういう反射神経で弾いてるんだという疑問があるが、剣術の師であるアワジは、見本を俺たちに見せてくれた。


「いいですか、ライフルの銃口を見ていれば射線が分かりますので、そこに剣を合わせれば簡単に弾くことができます」


 そう言って、発射されたレーザーライフル弾を、レーザーソードであっさりはじき返すアワジ。

 人間技じゃない。


「早すぎだろう、目で追うのがやっとだ」

「簡単そう」

「ええーっ」


 俺の動体視力ではなんとか見えたというレベルなのに、我が姉が恐ろしいことを口にする。


 この3年の間にマラソンで体力をつけて、この姉と並べるだけの体力を得たが、相変わらずこの姉はおかしい。


「では、まずはイザナミ様からやってみましょう。これは訓練用のレーザーライフル弾ですが、それでも当たると痛いので気を付けてください」

「オッケー」


 超余裕といった感じのイザナミ。


「行きますよ」

「さあ、早く来なさい」


 力むこともなくレーザーソードの柄を握るイザナミ。

 直後、レーザーライフルから弾が飛んだかと思うと、イザナミはあっさり剣で弾き飛ばした。


「さすがはイザナミ様」


 その手際の良さに、アワジも関心の声を上げる。


「一度で成功させるなんて、相変わらずチートだろう」


 この姉に、俺の男としての威厳を見せつけたいが、姉がチート過ぎるせいで、未だにできないでいる。

 かなり悔しい。


「これならもっと数があっても大丈夫かな。そうだ、10人くらい同時に相手してあげるから、どんどん撃ってきなさい」


 チートが極まりすぎて、この後イザナミは10人からレーザーライフルを撃たれまくったのに、そのすべてを難なくレーザーソードではじき返した。


「これ、結構面白いかも」


 まるで蝶が舞うかのように動き回るイザナミ。

 余裕過ぎて、笑いながらレーザーソードで弾き続けていた。




「では、次はイザナギ様です。一応言っておきますが、初回でレーザーライフルを弾ける人間なんて滅多にいませんから」

「ああ」


 イザナミがあれだけ簡単に弾いていたが、俺もイザナミが超人レベルの存在だと理解している。

 昔は俺の体力がないのがいけないのかと思っていたが、単にイザナミが規格外だっただけだ。


 だから、レーザーを弾けなくても当たり前で当然だ。

 そう思いたいが、ここは男として、やはり負けていられない。


「こいっ!」


 俺は剣を構えて、レーザーライフルの攻撃を待った。


 そして、ライフルから放たれたレーザーが見えた。

 集中していたおかげか、思った以上にレーザーの速度が遅く見え、レーザーソードを振るのも間に合う。


「お見事!」


 俺は見事にレーザーライフルの弾を弾いた。


「イザナギやったねー」

「ああ、俺だってこれくらいできるんだ」


 イザナミがあれだけしていたので、あまり威張れないけど、それでも俺は男としての最低限の威厳は見せたはずだ。


「じゃあ、次は私と同じ数をやってみようか」

「えっ……」


 イザナミはニコニコしていた。

 多分、私にできたんだから、イザナギもあれくらいできて当然だよね、と思っているのだろう。


 だけど、俺にイザナミと同じことができるはずがない。

 一度に10人が放つレーザーライフルなんて、捌ききれるわけがない。


「や、やってみせる」


 ……だけど、男の威厳のために、俺は無謀にも挑戦することにした。

 ここで退いては、男の沽券にかかわってしまう。


「イザナギ様……」

「アワジ、何も言わないでくれ」


 アワジも、俺とイザナミの実力差なんて分かっている。

 俺を止めようとしてくれたが、それでも引き下がるわけにはいかなかった。


「承知しました。屍はちゃんと拾いますので」

「……」


 退かないわけにはいかないが、アワジの言葉に、俺は心内で物凄く後悔したくなった。



「アギャ、ウギャッ、グハッ……」


 その後は予想通りというべきか、俺は10人が撃ってくるレーザーライフルを雨あられと受けまくり、最後はその場にぶっ倒れる羽目になった。

 訓練用だけど、本当にレーザーが痛かった。


「イザナギー、しっかりしてー」


 地面に倒れた俺を、最後はイザナミが膝枕して、開放してくれた。


「だ、だいじょう……ぶ」


 口ではそう言ったけど、俺の意識がそこで真っ暗になってしまった。


「イ、イザナギー!」


 俺の耳に慌てて叫ぶイザナミの声が聞こえたけれど、その後は視界だけでなく音まで全く聞こえなくなってしまった。


 俺、ここで死ぬか?

 思わず、そんなことを思ってしまった。

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