11 童貞散る
俺とイザナミは13歳になった。
去年は海賊退治や、カイと知り合って決闘したりと、かなり濃密な経験をした。
カイはイザナミの手下に可愛がられた結果、機動騎士のパイロットとしての実力を高めたが、同時にイザナミのことを『姐さん』と呼び、俺のことを『兄貴』と呼ぶようになった。
イザナミと手下たちが、カイに何をしたのか分からない。
知らない方が絶対にいいことだから、そのことを気にしないでおこう。
「ウフフッ」
だって、尋ねた時のイザナミの顔が、物凄い笑顔だったんだ。
あれは聞いたら、まともな世界に戻れなくなる笑顔だった。
俺の双子の姉が、チートなだけでなく、猟奇的な性格をしていて怖い。
俺の前ではあまり猟奇的な面を見せないけど、海賊をすんなり手下にしているのがイザナミだ。
荒くれものの犯罪者が従順に従うようになるなんて、一体何をしたんだ。……知りたくないけど。
「ううん、イザナギー」
さて、去年1年のことを考えていた俺を現実に引き戻したのは、俺のベッドで眠るイザナミの声だった。
イザナミは相変わらずで、毎日のように俺のベッドの中に潜り込んでくる。
寝る時は別の部屋だったのに、気づいたら俺のベッドの中に侵入しているのだ。
毎日の事なので、もはや言うことが何もない。
屋敷にはセキュリティーもあるが、そんなセキュリティーを平然と突破して、毎日俺のベッドに潜り込んでいる。
「イザナギー」
寝言なのか、目を閉じたまま俺の傍で名前を呼ぶイザナミ。
13歳になったことで、以前にもましてイザナミは大人らしさが加わり、美人になっている。
日本人に比べて、この世界の住人は成長が早いようで、俺の感覚だとイザナミは15、6歳くらいの年齢に見えてしまう。
日本人が外人を見ると、実年齢以上に見ることがあるので、それと似たようなものだろう。
毎日見飽きるほど見ているイザナミの顔だが、大人びてきたイザナミは、ますます綺麗になっている。
もはや、子供だと言っていられるレベルでない。
「ああ、やっちまった……」
そんなイザナミの美人な姿を間近で見ながらも、俺はブルーな気分になっていた。
13歳と言えば女性も成長するが、男の方だって体が成長していく。
ただのお子様から、大人の男として必要な成長だ。
俺の息子さんもただのお子様から、いよいよ大人の仲間入りを果たした。
昨日の晩のことだ。
「イザナギの初めては、私のもの。私はイザナギのものだけど、イザナギも私のものだからね。ウフフッ」
ベッドに忍び込んできたイザナミは、きれいな顔に妖艶な笑みを浮かべていた。
「だ、ダメだ。今日はダメ。女の子が来ちゃダメだ」
「ウフフッ、カグラお姉さまに教えてもらったの、男の子って大人になるときに出てくるんだよね」
あのおばさん、イザナミに一体何を教えたんだ!
それより、この日の俺はいよいよ大人の第一段階として、息子が大人の息吹を初めて上げようとしていた。
こんなところをイザナミに見られてはダメだ。
男の沽券とかではなく、女の子が見ていい物ではない。
「大丈夫、我慢しなくていいから?」
「ヒャッ、やめ、イザナミ、そこを触るな……ウウッ」
「こうしたら、男の人って喜ぶんだよね。フフフッ」
「ウッ、グッ、アアッ」
「もう、イザナギったら感じちゃって。私もゾクゾクしちゃう」
……
なんてことがあった。
とってもピンク色な世界なので、これ以上は思い出さないでおこう。
ただ俺はよりにもよって、姉弟と。実の双子の姉に手を出してしまった。
正確には俺でなく、イザナミから襲ってきたのだが、そんなことはただの言い逃れに過ぎない。
イザナミにいいようにされた俺は、理性が完全に吹っ飛んでしまった。
結果、昨晩イザナミとやらかしてしまった。
……ああっ、どうしたらいいんだ。
俺は、犯罪者じゃないか!
そんなブルーな気分で、俺はベッドで一緒に寝入るイザナミの顔を改めて見直す。
すごく綺麗だけど、昨日のイザナミは夜の魔物だった。
って、違う。そうじゃないだろう、俺!
物凄く気まずくなって、俺はそっとベッドから抜け出そうとした。
「……イザナミ」
「1人にしちゃイヤだよ、イザナギ」
寝ていると思ったら、腕を掴まれて逃げられなくなった。
もちろん、このままイザナミの手を振り切るなんてできない。
「イザナミ、あれはじ……」
「それ以上は言わないで」
俺の唇にイザナミの人差し指が当てられて、それ以上言葉を出せなくなった。
ベッドから抜け出した俺は全裸だったが、イザナミも一糸まとわぬ姿で、ベッドから起き上がってくる。
「私、イザナギと結婚するの。絶対に」
「ウグッ」
イザナミは俺の唇に、自分の唇を重ねてきた。
完全に流されてる。
だけど、俺はイザナミの唇を振りほどくことができなかった。
ああ、またしても理性がぶっ飛んで、無意識にイザナミの背中に腕を回して抱きしめてしまう。
このまま2人で、ベッドに再突入だ。
「イザナミ、イザナギ、2人とも昔から賢い子だと思っていたのに……」
俺とイザナミが、2人そろって童貞を卒業した。
してしまった。
そのことは既にコトアマツ兄上の知るところとなっていたようで、俺たちは2人して兄上の所へ呼び出された。
なお、俺たちは2人とも指を絡めて歩きながら、ここまで来た。
相変わらずのバカップルだが、これはなにも昨日の夜が特別だったから浮かれているわけでなく、いつも通りの事だ。
指を絡めるか、腕を組んで歩くのは、日常の事だ。
イザナミが弟ラブから卒業できないでいるのと一緒で、俺もそれに流され続けて、気が付けば完全に姉ラブになっていた。
とはいえ、それで手を出してしまったのだから、大変マズい。
俺たち2人を見るコトアマツ兄上の視線が、冷ややかだった。
「コトアマツお兄様、私はイザナギのものなの」
「それは昔から聞いているよ。だけど、君たちは姉弟だ。決して許されることでは……」
お説教、なんて優しい態度でなく、コトアマツ兄上は声まで冷ややかだった。
だが、そこで突然部屋のドアが乱暴に開かれる。
「でかしました、イザナミ。いい子ですね」
「カグラお姉様!」
ドアを開けて登場したのは、俺たち姉弟の長女カグラおばさん。
なんでこの人が、いきなり出てきたんだ?
「カグラ姉上?」
コトアマツ兄上も、予想外の人物の登場に驚いている。
「コトアマツ、2人は古い貴族の伝統を守ったのです。くだらない倫理だの、血が近すぎるなどという話は必要ありません。2人は、貴族として正しい行いをしたのです」
「カグラ姉上、何を言っているのですか、そんな無茶苦茶な論法が通じるはずが……」
「お黙りなさい。私はイザナミとイザナギの2人を将来結婚させるつもりです。手を出すのが少々早いですが、問題は何もないのです」
「……」
なぜかわからないが、カグラおばさんが俺とイザナミの味方をしてきた。
「イザナミ、よくやったわね」
「2人ともおめでとう」
「コトアマツのことは私たちに任せておきなさい。私たちは、2人の味方だからね」
さらにぞろぞろと、カグラおばさん以外の姉上集団も到来する。
「ちょっ、カグラ姉上だけでなく、どうして姉上方が……」
「お黙りなさい。2人は愛し合ってるのです、それを邪魔するなんてコトアマツ、あなたは私たち姉に喧嘩を売るつもり?」
「そうよそうよ、こんな面白いこと……ゴホン。2人の恋路を邪魔するなんて信じられないわ。私はコトアマツが赤ん坊だった時に、乳母がオシメを変えているのを見ていたこともあるのよ。そんな私に逆らうつもり」
「コトアマツ、弟のくせに私たちに逆らえると思っているの。大人しく、私たちに従いなさい。いいわね?ほら返事はどうしたの。『はい姉上、分かりました』でしょう。昔から、私が命令したことに素直に頷いていたじゃない」
喧々諤々、姦しい。
入れ代わり立ち代わり、姉上たちがマシンガンのようにしゃべりだして、コトアマツ兄上が何も言えなくなってしまった。
「あ、姉上方、これはそういう問題では……」
「そういう問題なのよ!」
4人の姉が、一斉に兄上の前にあるテーブルをドンと叩いた。
その拍子に、コトアマツ兄上が思わず後退する。
「コトアマツ、あなたがイエスと言うまで逃がしませんよ」
「あなたが1歩退いたら、こちらは5歩進みますからね。さあ、姉の言うことにうんと頷きなさい」
「昔からなんでも、私の言うことに分かりましたと言っていたじゃない。物わかりのいいコトアマツはどこに行ったのかしら?ねえ、どこ、どこにいるの、コトアマツ。ほら、分かりましたと言いなさい」
オノゴロ伯爵家は、俺とコトアマツ兄上を除けば、あとは全員女の姉弟。
男の立場がすさまじく弱く、コトアマツ兄上は何も言えなくなってしまった。
「お姉様たち、私とイザナギを応援してくれてありがとう」
そんな姉たちに、イザナミは感動するようにお礼を言った。
これでいいのか、オノゴロ伯爵家?
やらかしてしまった片割れの俺が思うのも間違っているが、この家の姉たちは本当にこれでいいのか?
あとがき
主役とヒロインの名前のせいで、2人が未知の惑星に不時着して、そこで日本神話を始めてしまいそうですが、多分そういうイベントは発生しないと思います。
2人の子供が岩戸に引きこもって、"引きこもりの大御神"になるなんて展開も、多分ないと思います。




