プロローグ
「イザナギー」
幼女にぎゅっと抱きしめられる感触を感じながら、俺は自分の前世を思い出した。
前世の最後の記憶は、車の事故に遭ったこと。
救助の到着が遅れたことで、圧迫された状態が長く続き、最後は息ができない状態になって、俺は死んだ。
「ハ、ハハッ、自分が死んだときのことを覚えているなんて、どうしてるんだ俺?」
突然前世の記憶を思い出したことで、俺は呻いてしまう。
「もう何言ってるのイザナギ。死んだのはイザナギじゃなくてお父様よ。しっかりなさい」
「あ、ああ、イザナミ」
俺に語り掛けてくる幼女の声で、意識を前世での最後の記憶から、現在へ向けた。
俺の名前はイザナギ。
グランノルス帝国にあるオノゴロ伯爵家現当主の次男にして、今は3歳の子供だ。
銀色の髪に青い瞳をしていて、自分でも愛らしい顔立ちをしていると思う。
そして先ほどから俺に語り掛けてくる幼女は、双子の姉であるイザナミだ。
俺と同じ銀色の髪に青い瞳をしていて、一卵性だからか、見た目は俺と瓜二つ。
性別は違うけど。
双子なのでイザナミも俺と同じ3歳。
女性としての発育なんてあるはずがなく、平坦な胸をしている。
この年で胸が膨らんでいる幼女がいたら、発育が早すぎるなんて問題で済まないだろう。
とはいえ、イザナミは将来絶対に美人になる。
双子である俺が、絶対に保証する。
……っと、いつまでもシスコンを発揮していても仕方ない。
今日は、俺の父であったオノゴロ伯爵の葬式の日。
俺とイザナミは幼過ぎるため、注目される場所にいないものの、伯爵の葬儀の場には、各所から集まったお偉方が勢ぞろいしていた。
そんな大勢の人々に見送られながら、伯爵の葬儀が粛々と執り行われていく。
「父は偉大な人物であり、オノゴロ伯爵家を栄えさせた内政の手腕はもとより、帝国に対して多大な貢献をなした人物であり……」
壇上では喪主である伯爵の長男。つまり俺の兄が弔辞を読み上げているところだ。
年齢は60代半ば。
前世基準であれば、兄どころか父親を飛び越えて祖父の年齢になってしまうが、この世界ではアンチエイジング技術が進んでいるために、人の寿命は200年近くになっていた。
そのため60代であるのに、見た目はまだ20歳になったかならないかの若さに見える。
とはいえ、この世界基準でも、兄弟にしては年齢がかなり開いていた。
「てか、親父が犯罪者過ぎる……」
前世の記憶が戻ったことで、俺は自分の立ち位置がいろいろ見えてきて困った。
兄は60代だが、親父である伯爵は齢170にして、後妻として迎えた妻を妊娠させ、子供を出産させた。
その後妻の現在の年齢が20代前半。
子供を作ったときの年齢は、まだ10代だった。
それから3年で親父は死んで、本日葬儀が粛々と執り行われている。
しかし、170の爺さんが10代の女の子を妊娠させるなんて、完全に犯罪だ。
この世界でも、150を過ぎれば確実に外見にも老化が現れる。
老人が若い生娘に手を出していた。
いいのかそれで?
しかも、それで生まれた子供が俺とイザナミなのだが……
俺は犯罪臭漂う親父の所業を思いつつ、隣に座っているイザナミに腕をギャッと握られたまま、葬儀は進行していった。