22話 2人の星
ゲートを越えた先は大きな広間だった。
その中心には遠くからでも見えた
巨大な望遠鏡の接眼鏡があった。
「あった…!。」
音声が流れる。
(見たい方角を座標で入力してください。
わからない場合は星座か星の名前をを
入力してください。)
座標…。座標か…。
「座標は確か…。魚座の結び目ちょっと左辺りだね。」
「うん。懐かしいね。魚座のエピソード。
いまでもその理由でその位置に飛ばした悠人に
尊敬してる。すごい。本当に星が好きなんだね。」
「俺は小学生の頃からずっと、
星座とか星関連の本読んでたからね。」
僕はモニターを見つめる。
「座標は…。魚座に合わせようか。
概略位置の赤経1の赤緯が+15だね。」
モニターに入力をする。
(座標を確認しました。
接眼鏡から確認してください。)
「光莉、先に見なよ。
来たいって言ったの光莉なんだし。」
「いいの?ちょっと緊張する…。」
光莉は恐る々々、接眼鏡を覗き込む。
「わぁ!悠人!すごい綺麗だよ!
いつも見えない星がたくさん見える!」
「俺には見えないよ…。
でもいいなぁ、早く見たい。」
「あ、そうだった…。」
また光莉の天然が炸裂した。
「魚座の結び目の左側…っと。」
光莉がうーんと言いながら星を探す。
「5等星だから…。あの星かなぁ…?」
光莉はしばらく眺めて言葉を続けた。
「でもひとつにしか見えないよ?」
「え、うそ…。」
自分で確認するでもなく。
結果を知ってしまうことに少しがっかりした。
光莉が接眼鏡から目を離して
こちらを見る。
「自信ないから悠人も確認して…?」
そう言われ、僕も光莉と入れ替わり
接眼鏡を覗き込む。
接眼鏡の向こうの景色はまるで万華鏡ようだった。
肉眼じゃ見えないところまでの星が
視界全体に散りばめられ。
この星の遠い遠い場所にはこんなにも
沢山の星々があることに感動せざるを得ない。
「すごい…。本当に綺麗だ…。」
「悠人!2人の星!」
「あ、そうだった。」
目の前の景色に視界も心も奪われていた。
ここまでたくさんの星が見えると
魚座の形を見つけ出すのも一苦労だ。
やっとの思いで魚座の位置を確認する。
結び目の左側に、意識を集中して見る。
たくさんの星があるが、
自観星の独特の緑色の光を探す。
「あった…!」
「本当!?ちゃんと2つ?」
確かにひとつ、緑色の光が見える。
その近くに緑色の光がある様子はない。
「いや…。1つだけだなぁ…。」
「やっぱり…。」
光莉はしょんぼりとした声を発した。
光莉を慰めるように話す。
「でも、ひとつになったってことかな?
それならそれで本望だなぁ。」
「そうだけど…。」
光莉は納得がいってないようだ。
何か言葉以外で
機嫌をとれるようなものがないかと
あたりを見回す。
すると近くに
係り員呼び出しと書かれた
受話器が置いてある。
「そこの電話で係りの人に相談出来るみたいだ。」
「そっか…。」
光莉は抜けた返事をした。
「ちょっと2人の星について聞いてみようか。
もしかしたらわかるかもしれないし。」
「そうだね。」
光莉が少し黙り込む。
光莉の機嫌が悪くなる前にと、
気持ち急ぎ目に行動する。
受話器の前に立ち深呼吸する。
しかし、
受話器を取ろうとすると手を握られた。
僕は驚いて光莉の方を見る。
「どうした?」
「大丈夫?わたし以外の人と話せる?」
あまりに突拍子もないことに面を食らう。
しかし、光莉の表情を見るに
本当に心配しているようだ。
「俺を何だと思ってるの…。」
「だって、記憶がこっちの悠人とくっついてきたとはいえ、
生前から含めたら7年近く人と話してなかったんだよ?
起きてからは私としか話してないし…。
ましてや他人だと心配するよ…。」
確かに…。不安がないといえば嘘になる。
こっちに来てからは
1番信頼してる人、光莉としか話してない。
何ならこっちの世界に来てから
誰かと話すは初めてだ。
世界の常識が異なるかもしれない。
「ありがとう。
でも、ずっと誰とも話さないわけにはいかないから
いまからでもやってみるよ。
そう言うと、
光莉がこっちをみて少しニヤッとした。
「いま、頑張ってみるよって
あえて言わないようにしたでしょ?」
「え?何でわかるの?」
「実は私、悠人のこと、よく知ってるからね。
頑張るって言葉あんまり好きじゃないから、
全くではないけど、使わないように努力してる。」
「そこまで気付かれているとは…。
恐れ入った。」
えっへんと、光莉がドヤってる。
可愛い。
受話器を取る。
かけるときはこのボタンを押してください。
と書いてあるボタンを押す。
受話器から音が鳴る。
2コール目で電話に出た。
(お待たせしました。
鯨波展望台カスタマーセンターです。
ご用件をお伺ってもよろしいですか?。)
受話器から感じの良さそうな男の人の声が聞こえる。
「あの、いま昔に打ち上げた自観星の観測に来てて、
確認していたんですが、自観星を2つ並んで
打ち上げたんですが、ひとつにしか見えなくて…。)
拙い言葉で出来るだけ伝えようと努力した。
(なるほど…。いま望遠鏡が向いてる方向に
その自観星がありますか?)
「はい。そうです。」
受話器の向こうで
係りの人は何かをしているようだ。
しばらくして言葉を続ける。
(こちらがお二人様の自観星ですか?)
モニターにさっきまで見ていた星が
映し出される。
「はい、多分そうです。」
(確認します、しばらくお待ちください。)
通信が一旦切れたあと、
光莉が透かさず尋ねる。
「悠人、あの位置で間違いないよね?」
「たぶん間違いないと思う…。」
「それよりも悠人が普通に話せてよかったぁ…。」
「だから何だと思ってるの…。
子供の電話を心配する母親みたいだな…。」
通信が返ってくる。
(えーと、恐らく、お二人様の自観星は
連星になってると思われます。)
鯨波展望台での観光客向けの解像度では
確認できないのですが。
こちらでより倍率を高めて確認しました。
その映像が、こちらです。)
モニターに映像が映し出される。
そこには2つの星が並んで、
お互いの重力に惹かれ合い。
干渉しあって回っている連星。
それがいまの2人の星。
「すごい…。すごいね悠人!やったよ!
2人の星、ちゃんと残ってた!」
きょう会って、1番喜んでいる光莉の姿に
見ているこっちも嬉しくなる。
もちろん、連星になった事実も嬉しいのだが。
光莉の喜ぶ姿を見る方がもっと嬉しい。
光莉は笑顔で言葉を続ける。
「しかも連星だって!
お互いがお互いに惹かれ合ってるんだよ!」
そう、連星は互いの重心を軌道として回っている。
光莉が言ったように、
2人はお互いに惹かれあっているのだ。
これ以上はないだろう。
「本当に嬉しいよ。
連星なんて、もう、出来過ぎた話みたいだ。
それこそ、まるで夢みたい。」
「本当にそうだね。」
光莉が手を取って見つめる。
「今日という1日は、
人生で忘れられない日になったね。」
「そうだね、生前も含めたら本当に色々あった。」
真っ直ぐ光莉を見つめる。
「でも、もう離さないから。」
僕は光莉を抱き寄せた。
もう離さないように。
何があっても光莉がどこにもいかないように。




