21話 鯨波展望台
鯨波展望台に入ると、
空園ビルほどではないが
少し広いエントランスが広がっていた。
円状のエントランスの
正面奥には望遠鏡に通ずるであろう大きな階段がある。
おそらくエントランスには
係りの人が立っているのだろうけど、
パーソナルクロークのおかげで見えない。
夜遅いからそもそもいない説もあるが。
「どうやって望遠鏡まで入るんだ…?
無料で見れるわけないだろうし…。
パーソナルクローク切りたくないんだけど…。」
すると、光莉が指差す。
「あそこに券売機があるよ。」
「あ。」
ほぼ目の前に当日券と書かれた券売機がある。
「悠人、どうしたの?
もしかして、早く見たくて焦っちゃってる?」
「かもなぁ…。我ながら恥ずかしい…。」
光莉がニヤニヤした顔でこっちを見る、
繋いだ手を強く握ったり優しく握ったりする。
「なんだよ〜。意地悪だなぁ〜。」
「えー?何に言ってないけどー?」
「わかってるくせに。」
「あー、拗ねちゃって、可愛いの!」
プイっとそっぽを向いてみせる。
券売機に向かう。
「想像よりちょっと高い。」
「文句言わないの、
悠人だって納得した上で来てるんだから。」
「わかってる、ちょっと思ってることが
口に出ちゃっただけ。」
光莉が財布を取り出す。
「奢ってあげようか?」
「絶対嫌だ。」
「そういうところ、気にするんだからー。」
「自覚ないけど、こういうところ、
じいちゃんに似てるのかもなぁって、
昔気質ってかんじ。」
「別に悠人、男尊女卑とかしなくない?
昔気質っていうか、頑固なところは昔っぽいよね。
奢れるの嫌なのは、
単純に申し訳ないなーって気持ちな気もするし。」
「なんか、自分のことを目の前で
考察されるとなんか、変なかんじ。
しかも、光莉にされてるってのがさらに変な感じ。」
「でも、いつも悠人のこと考えてるよ?
これが好きなんだとか、あれが嫌いなんだとか。」
光莉が考え込む仕草をする。
「でもそっか、改めて口にすると確かに変かもね。」
「考えすぎかな。何よりちょっと恥ずかしい…。」
話しながらも僕は
券売機に2人分のお金を入れ、
大人2人のボタンを押す。
「きっとさ、私にしかわからない悠人が居るよね。」
「確かに、俺にしか分からない光莉…。」
「なんかその言い方恥ずかしい。」
「同じこと言っただけじゃん…。」
「悠人の気持ちがいまわかったよ…」
光莉が頭をかく。
券売機から2枚のチケットが出てきた。
「はい、これ。俺の奢り。」
「あ、ずるい!私が話に夢中になってる間に!」
「んー?何のことやら?」
僕は両手をひらひらとしておどけてみせた。
「もう…。でも、ありがとう。今度何か奢るから!
ほらあれ!トイレ行ってる間に会計済ませちゃうやつ!」
「漢気だねぇ…。今度ご飯行くときは
光莉にたくさん飲み物飲ませないとな〜。」
「すぐそんなこと言う。」
光莉がほっぺを膨らませる。
これ以上は機嫌が悪くなりそうだ。
「ごめんごめん。からかいすぎたね、
今度、楽しみにしてるよ。
何食べようかなぁ〜。」
「そりゃ、悠人の好きな、寿司かとんかつでしょう?」
「え?いいの?」
「あったり前〜。やっと仲直りできた記念。
しばらく奢ってあげたいくらい。」
「お互いの生活があるんだから、
俺も早く就職しないとな…。」
ゲートに向かって歩き出す。
大きな階段を2人並んで登って行く。
空園ビルも同じような不思議で綺麗な素材だ。
色は黒いが、まるで天国への階段のようだ。
「そうだよ、5年も大学通った挙句、
就職しないなんてどんな太い精神してるの?」
「ごめんて…。それはあっちでも
ずっと謝ってたじゃん…。
でも、やりたくもない仕事に
一生付きまとわれるのも嫌なんだよ。」
光莉は指を振る、
「甘い、悠人は甘ちゃんだよ。」
「わかってるよ…。
光莉が言ってることが正しいよ。」
僕は言葉を続ける。
「でも、心が命じたんだもん。仕方ない。」
「ほんと、いつもそれ言う。」
「自分でもこれって決めたら曲げられないんだよ。
理性とか世間体じゃ曲がらなくて。」
光莉は少しため息をつく、
「まぁ、わかってると思うけど、信じてるよ。
これからもずっと一緒にいるために。
音楽関係の仕事だよね。
絶対悠人なら上手くやれるよ。」
光莉が眩しく笑う。
いつも思う、
この笑顔が好きだ。
根暗な僕を照らす太陽のよう。
いまだって、またフラれても
君を嫌いにはなれないだろう。
ほんと、敵わないよ。光莉。
「ありがとう。頑張るよ。」
ゲートの目の前に来た。
「ほら、もうすぐだよ。」
「ついにだね…。」
光莉の横顔を見る、
いつになく真剣というか、
真面目というか、緊張しているのだろう。
僕は光莉の背中をさする。
「ありがとう、悠人。」
「天井電車の時のお礼だよ。
もちろん、これからも助け合うために。」
「うん。いこう。」
改札のようなゲートにチケット入れる。
ゲートが開いた。
光莉が先に行く。
僕は後を追うようにすぐゲートを抜けた。




