19話 好きという言葉
また、風が歩き出す。
光莉の後頭部に当たり髪が広がる。
そんな姿さえも好きだと思えた。
光莉が夜空を見上げながら話す、
「………そろそろ、鯨波展望台に行こうか。」
「そうだね、閉まったりしないの?」
「365日24時間、いつでも入れるよ。
パーソナルクロークのおかげで誰も居ないし。」
「よかった、制限で行列に並ぶことになったら
どうしようかと思ってた。」
「公園着いたときに看板ちょろっと見たけど
ここから歩いて5分くらいだったかな。」
「さすが光莉、ぬかりないね。」
「ちょっと嫌味っぽく聞こえるんですけどー?
調べたかったですかー?」
「いいや?この時が終わっちゃうのが
本当に嫌だなぁって。
ずっとこの流星群と天の川を
光莉と見ながら話せたらいいのになって。」
光莉は少し面食らったように
驚いた顔をした。
ほぼ同時に笑顔に変わってゆく。
「そうだね、本当に綺麗な夜空だもんね。」
「それだけじゃない、光莉と居ることも大きな理由だよ。」
僕は空に手を伸ばす。
光が何億年もかけてたどり着く距離にある。
でも、いまにも届きそうだ。
手は空を掴んで、また放つ。
指の間から流れ星が溢れ出る。
忘れたくない、
もう二度と、光莉を失いたくない。
光莉をみる、
僕の考えてることを全部わかってるような、
少し笑ってるような気がする。
僕は立ち上がる。
そして光莉に手を差し出す。
「行こうか、このままだと、
幸せすぎて、朝まで居ちゃいそうだ。」
光莉は驚いたように目を見開て
差し出された手を見つめる。
そして満面の笑顔に変わる。
「そうだね、朝になったら見れなくなっちゃう。」
そう言って差し出された手を取る。
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「いまさら気づいたんだけど、
鯨波展望台って、あの山のてっぺんにあるあれ?」
「私も来たことないけど…。
方向的に多分そう。」
「この高さで、あのてっぺんで
この天気なら遮るものもなさそうだから、
綺麗に見えそうだね。」
「楽しみだなぁ。
全く不安がないといえば嘘になるけど。」
「そうだね、でも、きっとあるよ。
正反対って、お互い理解し合ってたけど、
それでもお互いじゃないとダメで、ここまで来たんだから。
僕は信じてるよ。」
「うん、不安であるけど、
私も心のどこか絶対大丈夫だって信じてるから。
楽しみにしてるの。」
歩きながら光莉が僕に身体を寄せる。
「うん、僕も楽しみにしてる。」
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その後、
珍しく会話もなく歩いて行く。
繋いだ手から流れてくる君の気持ちに
悲しみや後ろめたさは感じない。
きっと悪い沈黙ではない。
最低限の街灯が照らす道を歩く、
綺麗に舗装された道だ。
ここが遥か上空にあることを
忘れてしまうくらいだ。
ふと、考える。
好きという言葉がある。
その言葉ひとつで
その人の想いの全てが伝わることはほとんどない。
でも僕も君もその言葉に頼ってしまう、
君への想いを限りなく全て伝えるためには
一体どうすればいいのか。
23年生きてきてきて、未だ見つからない答え。
こんなに言葉で示しても、
行動で示したつもりでも、
時にすれ違って、喧嘩する。
お互いがお互いを好きで居て、
大切で、離れたくないはずなのに。
きっと、
答えは僕1人だけじゃ出せない。
君と2人でお互いを理解した上でしか
そこにはたどり着けないのだろう。
それなら、
やるだけやってみるだけだ。
長いようで短い人生なのだろう。
君とだから探し出せる気がするんだ、
一緒に隣を歩いて欲しい。
出来ることなら手を繋いで。




