18話 痛いよ
「これが、私の話、
悠人はこの状況になった経緯って覚えてる?
きっかけとか…。」
怖い記憶に向かい合う。
少し痛む心の傷を光莉が押さえてくれてる気がした。
「そうだね。僕は…。
僕は死んだんだ。」
「うん、知ってる。」
「でもどうしてか、死んだはずなのに意識があった。
真っ暗の中、これが死後の世界か、
地縛霊になったのならこれから何をしようかな。
なんて考えてたら
どっからか、僕を呼ぶ声が聞こえて、
少しずつ眩しくなって、
目が覚めたら青い病院で寝てた、
そして隣に光莉がいた。」
「なにそれー?本当?
嘘みたい、夢とかドラマとか漫画みたいな話だね。」
「俺も未だに信じられてないところもあるよ。」
「でも、いまが現実だもんね、
全部嘘じゃない。
ずっと会いたいと思ってた人に会えたんだ。」
「ね、僕は…。
正直、まだ呆気にとられてるかな…。
1度に沢山の情報が入ってきたし、
僕をフッたひとが次の人とどのくらい続いて、
どんな風に結末を迎えたかわからないけど、
別れたあとに、僕を想い続けて、
何年も僕を探して、タイムマシンを使って、
僕との恋愛をやり直そうとまで思って、
それを行動して、実行に移すことがすごいなって。」
「不思議、と言うか、そこまでの男じゃないよって、
思ってしまう。」
光莉が怒りと悲しみが混ざった表情をする。
「僕と別れたあとに何があったら、
ここまでのことが出来ると思えたのかなって。」
「うーん…。」
光莉は考えこむ。
僕は答えを待たずして
言葉を続ける。
「だって、あの時、
あんなにその人にゾッコンだったじゃん。
同僚で、話も、何にしても面白くて、
男なのにちゃんとしてて、
女子力が高くて、仕事でも、性格でも、
尊敬できる人で、」
思い出すように言葉を放つ、
未だに傷跡になってない、
傷口をなぞる、また傷がを開くように、
強く押しながら。
もう2人には必要のない話なのに、
光莉をただ傷つけるだけの言葉なのに。
動く口を止められない。
「あの日僕が『別れたら死ぬ。』
って、言ったって、あの人を選んだ。
そりゃ、嘘に聞こえるかもしれない。
でも、あの日までの2人に限って
それが嘘なはずがないくらい、
光莉だってわかってたはずなのに。」
いまでも鮮明に思い出す。
君が話した言葉の数々。
「他の誰よりも君に似合う男である自信は、
正直あったよ、付き合いが長かったし、
誰よりも光莉をわかってるつもりだったし、
光莉のためを思って行動し続けてたし、
君が喜ぶことだけで生きてたと言っても過言じゃない。
だから、僕よりも、光莉を幸せに出来る人なんて、
居ないって思ってたし、
いまだって、
光莉がその人の何が僕より優ってたかなんて
わからないし…。」
「すごく悲しかったのはね。
君がその人に僕と決着をつけると言って
来たって聞いたこと。
その時、あぁ、僕はもう君の中には居なくて、
君の中にはその人がいて、
僕は排除しなければならない、のけ者なんだなって…。
あと、次の日その人と遊んだあとに
光莉の家で過ごすって聞いた時かな。
男ならそういうことって何と無く察しがつくし、
その人の気持ちが透けて見えるようで、
つらかったし悲しかった。
ひどいこと言うと吐き気がした。」
光莉はまだ何も言わない。
表情一つ変えず、ただ僕をじっと
見つめている。
「あとあの惚気かな。
仕事で怒られてるのに、
あの人に怒られてるのにニヤニヤしちゃってるとか、
7、8年の付き合いの僕よりも良いと思える人なの?
って聞いたら、そう思わせるような人だよ。
って答えたときとか。」
そこで動く口が止まった。
また光莉を見る。
歩く風も、虫のせせらぎも、
草木の歌だって、
光莉と見つめ合った時には
僕に届かず消えてしまった。
光莉は小さく息を吸う。
「ごめんね、悠人。
いまここでどんな言葉を言っても
抱きしめても、キスをしても、
身体を重ねてみたって、
きっとまやかしでしかない。」
全く視線が動かない。
いままで1番真っ直ぐな瞳を見た。
「だから私は、
その人と別れてから悠人を探し始めたときから
過去に戻って8年くらい過ごしたいままでの
行動の全てで、証明しようと思う。
いまなら思い出せるでしょう?」
敵わない、1番最初に思い浮かんだ言葉はそれだった
君は本当にすごいよ、光莉。
わけもわからない泪が流れ出す。
「ごめん…。ごめん……。
疑ってるわけじゃない、
ずっと信じていた、いまも昔もずっと。
でも、つらかった、苦しかった。
やり場のない気持ちが自分の中で
溢れて破裂して、それでもどこにも行けなくて。
死にたかった。
早くこの苦しみを終わらせてくれ…。
そう考え続けた毎日だった…。
いまごろ、光莉がほかの男の人と笑い合って
生きていると思うと心が苦しくて。
いま光莉を傷付けるだけの言葉を
話してしまったのはただ…。
きっとあの日の気持ちの矛先が
欲しかっただけなんだ…。」
「大丈夫だよ、悠人。
私はもうどこにもいかないよ。」
光莉は僕の手首をそっと取る。
もう片方の手で同じ手を握る。
「約束なんかしない、これもう誓いだよ。」
「光莉がその曲を知ってるとは思わなかったよ。」
「悠人大好きだったアーティストだから
色々聞いてたから、知ってるよ。」
「考えは真逆だったけど、
趣味嗜好は似てたもんね。」
「そうそう。」
光莉は僕の泪を指で拭いながら笑う。
「信じてるよ。大丈夫。
さっきはひどいこと言ってごめんね。」
「事実なんだから、仕方ないよ。
私がしたことがひどいことなのは変わりないし。
それでも、いまは悠人だけだよ。
あの日の悠人と同じ。」
「ありがとう、光莉。」
僕は光莉の両手を取る。
「おかえり」
「ただいま、悠人。
帰るのにこんなに時間かかっちゃった、
ごめんね。」
「大丈夫だよ、最後は僕の側にいてくれれば。」
「なにそれ、私の真似ー?」
「バレた?」
「悠人がその言葉を使うなんて
思わなかったよ」
また2人は笑い出す。
夜空の川の流れは
止まることなく2人に降り注いだ。




