17話 やっと会えた
「…実はね、悠人が記憶喪失になった理由、
私もちゃんとはわからないの。」
「えっ…?」
予期せぬ言葉に言葉を失う。
「悠人が記憶を失う前日まで、
私たちは普通に生きてたの、
悠人が頭を強く打つとか、
ショッキングな出来事があったとか
そんなことは全然なくて、」
「そうだったのか…。」
「でも、心当たりというか、
なんて言うか、予感みたいなものはあるの。」
あぁ、僕も何となく予想してた、
きっとどこかで考えないようにしてた、
真実に目を向けるのが怖いから、
自分の弱いところだ。
「悠人が、記憶失った日、今日、
多分、生前の悠人が完全に塞ぎ込んだ日
だったんじゃないかなぁって。」
「僕も、少しだけそんな気がしてた。」
「やっぱり、考えてること、いっつも同じだね。」
「本当に、すごいよな。」
少しの沈黙が歩く。
「なんでここまでのこと話したかわかる?」
「この世界の悠人が知らなくていいと思ったから、
ずっと話してこなかった。」
「でも今日、悠人は記憶を無くした、
その悠人にいままで話してこなかったことを話した。
最初は本当に記憶喪失になったのかと思った。
でも、話して、一緒に歩いて、すぐわかった。
わかったというか、
最初は感覚的に予感したって感じだけど、
悠人はいままでのことは忘れちゃってたけど、
記憶喪失になった後の悠人は不思議と懐かしくて。」
光莉の瞳が、光に反射した。
「君、私が時間移動する前の、
私が本当は助けたかった悠人でしょ?」
さっきより潤んだ瞳が僕を見つめる。
「うん、そうだよ。」
その言葉を聞いた瞬間。
さっきよりも沢山の涙が飛び出した。
僕は光莉を抱きしめる。
「さっきあんなに泣いたばっかりじゃないかー。」
「だって、だって…。」
そのあと光莉は涙でまたしばらく話せなくなった。
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「涙枯れちゃうよ…。
こんなに泣いた日、いままでの人生ないよ…。」
「僕も、こんなに泣いた人を知らない。
大丈夫?頭痛くない?」
「いまはまだ大丈夫。
そのうち痛くなっちゃうんだろうなー。」
夜空を見上げる、
光莉もつられて見上げる。
光莉が話し出す。
「最初のきっかけは、
超理論だな。って悠人が言った時。」
「あの時に?なんで?」
「あの時は口癖って言っちゃってたけど。
あの後考えてたら、この世界の悠人が言ってた
記憶ないなぁ…。って気付いて。」
「なるほど。」
「でも言ってたかも、私の勘違いかも、
って思って確信までにはならなかった。」
風が歩く。
光莉の匂いを運んで
僕の鼻まで届ける。
「確信になったのは本当にさっき、
鯨波展望台駅に着いて、
ここに向かう時に悠人が呟いた言葉。
本当に小さい声だったけど、聞き逃さなかった。
いや、聞き逃せなかったのかな。」
「何か言ったっけ?全然心当たりがない…。」
光莉は大きく息を吸う。
「きっと、全部大丈夫になる。」
ドキッとした。光莉がその言葉を発することも
知っているとも思わなかった。
「確かに…。言ったかは覚えてないけど
心では思ってた記憶はある。」
「この言葉、悠人が私と大きな喧嘩した時に、
電話でも、会って話してる時でも、
自分に言い聞かせるみたいに言ってた。」
「うん…。喧嘩の時、言ってた自覚はあった、
まさかその時言ってたとはなぁ…。」
「私も、悠人を探してる時、
過去に戻るために色々してる時、
頑張りを辞めるつもりはないけど、
つらくて仕方がない時、いつの間にか呟いてて、」
「嬉しかった、悠人が私の中に居るみたいで、
悠人が生きてる時はきっと会えるって希望を持ててた。
死んでしまった後は、
私の中に生きているって言い聞かせてた。」
ふとした疑問を投げかける。
「でも、この世界の悠人が
言う可能性だってあるでしょ?」
光莉は即答する。
「この世界の悠人がこの言葉を
知ってるはずないし言うはずないの、
だって、小さい喧嘩はあっても、
過去に起きてた大きい喧嘩だけは
起こらないようにしてきてたから、
この世界の悠人の心を絶対に傷つけないって誓ってたから。」
何度か見た目だ、
この時の光莉の目は強くて、
揺るぎないとか、覚悟って言葉を感じるような、
強い力で、真っ直ぐ僕を見つめる。
「うん、知ってるよ。
記憶喪失になってもデートの予定を実行して、
2人が喧嘩することなく
当たり前のようにここまで来てる。
実は当たり前じゃなくて、
知らないところで光莉が沢山の気遣いとか、
努力があるからいまがあると思うと、
本当にすごいよ、光莉は。
本当にありがとう。」
「悠人褒めすぎ、
何も出てこないよ?」
「もう、十分すぎるくらいもらってるよ。」
光莉はわかっていたように首を横に振る。
そこはどこまで説得しても納得してもらえなそうだ。
光莉は話を続ける。
「今日は私が時間移動する前の世界の
悠人が塞ぎ込んで
この世界からの繋がりを絶った日、
そんな日に、どんな理由か因果かわからないけど、
私のせいで傷ついて1人で泣き続けて、
世界も私を恨むことさえも出来なくて、
ただ1人、自分を許せずに悔やんで、
奇しくも発展した医療技術のせいで
すぐに死ぬことさえも許されず
6年間も生きてその生涯を終えた、
あの世界の悠人がここに来た。」
「本当に、何でもお見通しなんだな。
いつも光莉には敵わないな。」
「悠人の知らない世界の技術の進歩はすごいんだよ
その分の対価や代償が多いんだけどね、特にお金とか。」
おどけたように光莉が笑う、
「きっと、この世界の悠人とひとつなったのでしょう?
少しずつ思い出してるってことは。」
「そうなんだろうね、自分のことじゃないはずなのに
自分のことのように思い出してる。
自観星を打ち上げた日のこと、
元の記憶もあるからこそわかる、
光莉、あの世界で失ったもの
全部取り返そうとしてたね、
本当に、光莉らしいや、嬉しいよ、ありがとう。」
光莉は表情を変えないまま
一筋の涙を流した。
「だから、そういうことなんでしょう?
まさか本当に会えるなんて思ってもなかったけど、
やっと出会えたね。悠人。」
「そうだね光莉、
僕は一度死んだけど、
人生、何が起きるかわからないものだ。」
「あの日まで一緒に居た悠人が嘘だとは思わない。
あの日までの悠人も間違いなく悠人だけど、
私が救いたかった悠人に会えるなんてね。」
「本当、人生ってわからないな。」
光莉がこっちを向く。
面と向き合う。
「悠人、あの時はごめんなさい。
過去に戻ったって私と悠人の記憶の中にある限り
過去に起こったことはなかったことにならないし。
今更、私が何をしても許されないし、
何言っても言い訳だし、
愛の言葉も嘘と言われたらそれまでだし。」
「でもね、いまなら少しでもわかってるつもり。
悠人が私にくれてた愛の大きさのすごさが、
ここまで人を想うことも、
誰かを想って行動することも。
想ってるだけで行動に出来てなかった私は、
時間移動して、あの日の悠人を姿思い描いて、
必死で追いかけて、生前の悠人みたいに
いまの悠人を好きでいたくて。」
「うん、俺よりも全然すごいよ、光莉は、
俺が気付けてないところ沢山気付けて、
気遣い出来てる、師匠超えてる。」
「師匠って、また茶化すんだから。」
星の川が流れる下で
2人は笑い合う。




