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2周目 6 予言

多分加筆すると思いますが、ざっくりとした流れだけ。

 それから、ディーラネスト侯爵令嬢と何故か仲良くなった。


 彼女は思ったよりもさっぱりした気質で、そしてアホだった。

 黙って口を閉じておけば憂いがあるミステリアス美人で済んだのに、口を開いてしまえば勉強はできるのに、直情的で貴族的ではない。


 恥じらいながら「私、友達って初めてなの・・・」と宣う。自宅に招待してくれたが、家族や使用人に伝え忘れた様で、侯爵家はその日蜂の巣をつついたような騒ぎになってしまって、大変居心地が悪かった。ラヴィーシャ自身の感性としては自身は平民に近いものの、世間はそうは思わない。ましてやマトモな部類のディーラネスト侯爵家ならば言わずもがな、である。突然国の大物を連れて来られて火をつけたような騒ぎになったし、一方で当の本人は「忘れちゃった~☆彡(テヘペロ」と言って、しこたま怒られていた。


 そして、貴族的ではない彼女は、自分の感情を素直に表現してくれる。


「ラヴィーシャと仲良くなれて嬉しいわ。」

 などと彼女は、はにかみながら言ってくれる。


 驚くべきことに、彼女は前世持ちだという事を、しばらく経ってから教えてもらう。

 そして、その事がネックとなり家族とうまくいっていなかったが、漸く最近になって家族にも告白出来たのだという。

 「まだ、ぎこちないけれど、お父様とお母様ともちゃんと話せるようになったの。」

 何よりも嬉しそうにそう報告してくれる彼女が愛おしい。


 それにしても人生2周目の私でも、『前世持ち』とは文献で数度程度しか目にした事がないレアケースだ。

 実際に前世持ちの人は初めて見る。

 そして、彼女の全てを失ったかのような顔は、前世に由来していた物だったのか・・・と腑に落ちる。

 思い込みは恐ろしい。

 1周目で、彼女に感じた自分の反感は、現状を表面上見て分かった気になっていただけだというわけだ。

 つくづく1周目の自分は浅はかであったと思う。




 罪悪感を抱きつつも、彼女が居る学園生活は楽しかった。

 そう、・・・楽しかったのだ。


 遥か昔、の友達を思い出した。

 そう言えばあの頃も、こんな感じでお互いによく話したと気づく。

 思えば1周目において、友達は彼女だけであった。

 今世では会わないようにしていたし、会う機会もなく実家を離れてしまったから、今の彼女がどうしているのかも知らない。


 ただ、幸せでいて欲しい。

 

 お互い大人ではなくてすれ違ってしまったけれど、私は確かに1周目で彼女に沢山救われていたのだから。





 そして『聖女』様になってからは、もちろん友達なんてできなかった。

 好意は沢山寄せられたけれど、あくまで私が上、という関係だった。

 軽口を言える部屋付きの下級神官は何名かいるけれど、友達というよりも仕事仲間という側面の方が強い気がする。

 兄ですら、神殿では兄という形態をとれない。

 でも、ただ側に在ってくれて、味方で居てくれる。

 それはすごくうれしい事だし、安心感が違うのだけれども、兄に甘えたいなと思う事が無いわけでもない。



 彼女(キャロ)の隣は、楽しい。

 学年は違うけれど、私は2周目で精神年齢が高いし、何故か私の方が姉の様な雰囲気になってしまった。


 腹芸が出来ない彼女は、・・・いや、元々する気も無いのかもしれない。

 彼女は、意外と強い。


 誰かに嫌味を言われても特に怒った様子もなく、やり返す気配もない。

 だがしかし、家族の事について触れれば徹底的にやり返し、かつ惚気だして家族自慢が始まるので、当てられて相手は居なくなってしまう。

 もっとも、彼女への嫌味はシスコンと化したローランド様と、彼女との仲を深めたいリュケイオン様が手を回している様だけれども。


 そんな彼女を以前の私の様に徹底的に嫌っている者ももちろんいるし、惹かれるものも多い。

 特に女子は、ロマンチストが多いから、ミステリアスだった彼女が、貴族の子女たちが憧れてやまない愛情を溢れんばかりに家族に注ぐのを見て、いちいち感動する子も多い。

 貴族である以上、家族の愛情が薄い子も多いから、なおの事なのかもしれない。

 兎角、前回の中庭事件で、彼女が裏表のないサバサバとした性格だ、という事が周囲に分かったのだろう。

 彼女は割と女子には好意的に受け入れられるようになっていった。


 意外な事に男の方が彼女を嫌っている者が多い様な印象だ。


 いや、貴族としては当たり前なのかもしれない。

 男とは戦うものであるし、貴族は食うか食われるか、綱渡りの様に常に足を引っ張り合うという魔窟の世界なのだ。

 彼女自身に好感を覚えたとしても、弱点を見つければ同じ派閥であっても隙あらば取って食おうとするのが貴族の姿勢としては正しいのかもしれない。


 女性は、その点、自分の感情を優先する傾向にある。

 派閥や家ももちろん大事だが、まずは自分が好きかどうかに重点が置かれがちだ。

 よって自らの弱さと願いを晒した彼女は、どちらかといえば女性の方に好かれていた。

 もっとも、今だに腹黒金髪男を狙っている女子たちは裏で酷く悪口を言っていたのだけれども。





「ラヴィ!ご飯を一緒に食べよう!」

 そんな事は意に介さず、彼女は今日も学園で昼食に誘ってくれる。


「ちょっと!聖女様はご遠慮ください!姉さん!僕と昼食を取りましょう!」

「遠慮するのはお前だ!ド腐れシスコン野郎!ディルキャローナ嬢!そろそろ俺にもあだ名呼びを許せや!」

「あははははは!お前らバカだバカだと思ってたが相当な馬鹿だな!おい、キャロキャロ!俺にその肉団子頂戴。」

「「殿下に言われたくないですよね!!!」」

「あ、聖女。そのオレンジ色の何?」

「「話を聞けや!!」」

「これは・・・恐らく、ニンジンの色でございますね?小麦の粘り気だけを取り出したものに、ニンジンをすりおろして混ぜた物でございましょう。」

「いらね。」

「健康にようございますのに。」

「・・・あーそっか!麩かぁ。」


 などと、毎日の様にじゃれ付いている。

 護衛の兄さんなど、やんごとなき人たちの酷い平常運転に目を丸くしていたが、あまりにいつもこの調子なので慣れてしまった。

 最近では苦笑するだけにとどめている。

 もっとも、彼らも他人の目がある所ではやらない。

 ・・・殿下はいつでもどこでも同じ様子だけれども。

 私は、どうやらいつの間にやら彼らにとって安全牌となっているのだろうか?

 前世とはまるで違う扱いや、彼らの違う顔に戸惑いを隠せない。

 隠せないのだが・・・こっちの方が気やすく息がしやすく、嬉しいと思うのは何故だろうか。


「ラヴィ、ねぇラヴィ?何でいつも嬉しそうなの?」

 そう、彼女が笑いながら私に聞いてくる。


「嬉しいわ。だって、あなた達が笑っているもの。」


「ああ!もう!ラヴィったらいい子!!!」

 むぎゅぅーと彼女のその豊かな胸に抱きしめられる。

 ほのかに、甘い女性のいいにおいがする。

 女性にこんなに抱きしめられたのはいつ以来だろう?

 何となく母の事を想い出す。


「うらやま!」

「あー!ねぇさん!ぼ・・・僕も・・・(ごにょごにょ」

「流石にそれはキモいぞ、ローランド。」

 あはははと、殿下は笑っている。


 みんな、笑っていている。

 とても嬉しい、1周目には考えられなかった未来。


 しかし、私が罪を犯したあの事件―――

 そろそろあの時期がやってくる。



「・・・皆様にお話ししたいことがございますの。」

 そう、私が真面目に言うと、

 全員が、きょとんとした顔でこちらを向いた。


 ※



 人払いができ、かつ魔術で盗聴防止が出来る部屋を用意して、そこで内密なお話がしたいと告げると、恐るべきことに、ディーラネスト侯爵家の客室を用意して頂けた。

 あの日以来、初めて踏み込むディーラネスト家・・・感慨深い。

 紅茶が配られ、兄を残してメイドなどの人払いが済むと、世間話を交えた後に本題を切り出す。


「私の聖女の実績は、ご存知ですか?」


 まず、私の事をどの程度理解しているか、どの程度信用してもらえるのか、そこから知らなければならないので、そこから踏み込む。

 自分の問いかけにアハハハハハと笑いながら殿下は


「知らん!」

 と言い切る。流石だなぁと思って苦笑してしまう。


「あんた馬鹿ですか!・・・ああ、すみません元々バカでしたね!」

 失敬な!という殿下を無視して、リュケイオン=メルベク様がふうむと考えこむ。相も変わらず、外見だけは美しい男であり、どちらかといえば筋肉付きのいい殿下よりも細身で、こちらの方がキラキラと王子然としている。


「市井では”癒しの聖女”殿ですかね?5歳の(みぎり)より、神殿に上がられ無辜(むこ)の民を平等に癒すと聞きますね。政治的には、やはり”予言の聖女”、といったところでしょうか?」

「5年前の魔物災害を食い止めた事件ですね。」

 そう、リュケイオン様とローランド様が言ってくださる。


「”予言”?」


 小首をかしげるキャロが可愛い。

 今まで貴族社会について無視してきたから、私のことなど知らないのだろう。


「そうです。私は、”予言”を(もとい)に魔物災害を予知し、5年前にこれを食い止めました。市井では伝えられてませんが、貴族の間では有名な話かと思います。」


「”予言”ねぇ・・・」

 そう皮肉気な声を出すのはリュケイオン様だ。

 恐らく予言など信じていないのだろう。


「信じられないのも無理はないかと思います。そして・・・大分(わたくし)の見た未来が違えてしまいましたので、恐らく私の最後の”予言”をお伝えしにまいりました。」


 息を飲むローランド様とリュケイオン様。

 そして、意味が分かっていないのか平常運転のキャロと、殿下。


「今となっては未来が変わりすぎたので、どの程度起こりうる事なのか分かりませんが・・・来たる日。ローランド様が呪いを受けます。」


「聞き捨てならないな・・・。」

「僕・・・?」

「ダメよ!!!そんなの!!」

 何でそんな酷い事を!誰が!と声を荒げるキャロだ。


「ローランドはどうなるの?ラヴィ!ねぇ助かるの?助かるのよね?!」

 そう矢継ぎ早にキャロが私に詰め寄ってくる。

 ああ・・・彼女は本当に家族を想っているんだなと思うと、自分の事の様に嬉しさがこみ上げるし、ローランド様も若干ニヤついている。・・・こんなにシスコンな方だとは存じ上げなかった。もっと彼が正直に生きていれば、1周目も2周目もここまで家族関係が(こじ)れることはなかったのに・・・と思うのだが、それはキャロも一緒か。


「そして、かけられる呪いはラブサスの呪い毒。」

「また、マニアックなものを。」

 そう、リュケイオン様が毒づく。

 私に詰め寄ってきていたキャロの手を取り、そっと包み込む。

 キャロの手を温める様に。そして、私自身の心を鼓舞するために。


「私が見た未来は、キャロ。あなたが単騎で暴走してダンジョンに突っ込み、瀕死で解除アイテムを採って来たと人伝手に聞いただけ。そして、その瀕死のキャロを救ったのがリュケイオン様で、二人はその事件がきっかけに真実の愛を深められたと・・・」


「ダメでしょう。」

 今度はローランド様がキレる。一体()()()()()キレたのかが怖くて聞けないので、サラッと無視する事にする。

 貴族的教育を受けていて本当に良かったと思う。


「ローランドは助かったの!?」

「ええ。」

「よかったぁ~・・・。」

 自分が瀕死になったり、婚約者と愛を深める云々はいいのかしら?と思い首を傾げつつも、やはりブラコンの彼女は、まずローランド様の安否を気になる模様だ。


「誰が?一体何のために?」

 冷たい声色で、小さくだがしかし鋭く私に問い詰めてくるリュケイオン様。

 その彼の様子にキャロがビクッ!とするが、彼自身はそれに構う余裕がない。


 私は、その彼の様子を嬉しく思う。

 予定より早くではあるが、彼はちゃんとキャロの事を想うようになってきている気がする。


 ずっと気になっていたのだ。

 私は自分の好き勝手に行動してしまったが、その結果が二人の仲を引き裂いてしまっていたらばどうしようと。

 この分だとゆっくりであるが、二人の仲は深まっていけるのではないか。

 そうなってほしい。

 私は彼女に今度こそ貴族の子女として、普通に幸せになってほしいのだ。


()()・・・とだけで言うならば、主動はおそらくブーバリス家でしょうか?黒幕がいるかどうかは私は存じ上げません。私にはその情報は入ってこなかったので。何の為にかも分かりかねます。私が見た未来は、私が聖女じゃない未来。そこまでの権威ない、ただの平民の小娘の一人にすぎませんでした。」


「ブーバリス家なら、第一王子過激派による嫌がらせ・・・か。」

 そうリュケイオン様が独り言ちる。


「私の知っている未来は、魔物災害が起こった未来。今と状況は違いますが、同じ所もございます。特に魔物災害が起こらなかった分、どの領も貴族も余裕がある。国境周辺も今の所動きが無い。となれば・・・」

「聖女の見た未来よりも、もっと大きな何か動きがあってもおかしくはない。」

 そう、自分の言葉を被せて言ってくるリュケイオン殿だ。

 さすが、殿下の腹心。私の言いたかったことをすぐに理解してくださる。お父上(ラステッド様)とはまた違うが、頭脳派なのだろう。


「内乱、ですか。」

 そうローランド様が続く。彼もやはり嫡男であり、政治的目を培われているのだろう。

 やれやれ、と殿下がため息をつく。

「本人たちの知らぬところで勝手に担ぎ上げ、喧嘩を始めるから困ったものだ。そんなに喧嘩をしたいのなら、正々堂々と自分達だけでやればいいものを。」

「楽して儲けたい者がする事ですから、正々堂々なんてしないでしょうよ。」

「ですね。」

「えっ!?えっ!?内乱?!!!」

 ひとり、キャロだけが混乱をしている。


「私は、内密に薬箱としての役割も賜っております。」

「フォルトゥーナ卿か。」

「はい。殿下に牙を向ける可能性もございます故。」

 本当に何で、第1王子派内部が分裂してて、第2王子派と第1王子派が仲がいいんでしょうね?などとローランド様が軽口を叩いている。

 ただ単に今の政治の中枢と大勢は第1王子派というだけに他ならない。派というものの、貴族の大多数が第1王子派なので、不穏な輩が出てくるのも単にここから出てくるというだけなのだ。

 殆ど者は第1王子が次期王になると疑っていない。そして第2王子派は、派閥という形態はとっているものの王から頼まれたという側面が強い。しかも、第2王子は騎士への道に就くことがほぼ決まっている。騎士団内部での争いはあるものの、本人の気質から変わり者の王子は赤でも青でもなく白に出入りしている。逆に言えば平民寄りの白では、より政治的意味合いも薄い。殿下が意図して行ってるかは知らないが、完全に政治に関わらない意思表明に貴族からすれば見える。そして第2王子派は辺境に所領があるものや、騎士団へ流す物流を支える所領、そして武家の所領が多い。今更第2王子派に政治のゲームを覆そうなどと言うものはおらず、第1王子が王になった後、円滑に所領や事業を回すことを皆念頭に置いている。第2王子を事業の主軸とした第1王子派、と言われた方がしっくりくるのだ。


「どうしましたか?殿下?」

 自分が考え込んでいる間に、殿下も珍しくうーんと考え込んでいたようだ。その様子に気づいたリュケイオン様が殿下に声をかけられる。


「なんで、お前はそんなに寂しそうなんだ?」

 私をじっ・・・と見つめてくる殿下に、胸を突かれる思いがする。

 その殿下の行動につられて揃って他の方々もこちらを視線で射貫いてくる。


 ・・・ああ、本当にこの人は、1周目でも、2周目でも。

 人の本質を見る慧眼を持ってらっしゃるのだな、そう思う。



 少し目を閉じ、考える。


 保身など・・・今更自分の事はどうでもいいが・・・

 恩義があるフォルトゥーナ卿に迷惑をかけぬ程度に、どの程度明かせばいいのだろう?


 そう思う。


 あまり真実を言いすぎても、信じてもらえなかったら本末転倒である。

 だけど、・・・その思いは自分が嫌われたくないという保身ではないか、そう思ってしまう自分が居る。


 ――――難しい。


「全てを(つまび)らかにお伝えしたいのですが・・・私一人の事ではないので全てを明かすわけにもまいらぬのです。ですが、私が寂しいのなら、全て自業自得とだけ・・・。」


 彼女と、彼らと仲良くなれて大変に嬉しい。


 でも。


 ―――仲良くなればなるほど、自分の罪を嫌という程思い知らされる。


 



 ※


 私の『予言』を受け、ディーラネスト侯爵家では対策を取ったらしい。

 こっそりキャロが後で教えてくれた。

 前回の魔物災害の抑止によって、私の予言はある程度の信ぴょう性をもって信じてもらえるからありがたい。



 ディーラネスト家ではラブサスの呪い蔦だけでなく、他の似た系統の毒に対しても備えを厚くしたとか。

 そして、それ相応の呪術師を囲う可能性があったので、それとなく、そういった人材の流れの監視の目をも厚くした。

 案の定、それ相当の流れの呪術師がこっそりとブーバリス家に雇われた事が分かった。


 そして、やはりというかなんというか薬事院からラブサスの呪い蔦が盗まれた。

 予め大体の日取りが分かっていたので、足が速い隠密の者が何人も薬事院に派遣され監視の目を強めていた。

 それに気づかぬ不埒者に蔦を盗ませ、後をつけさせたところ、やはりブーバリス家に帰っていったのだという。

 もはや、呪術師を雇い、薬事院の窃盗にまで手を染めたブーバリス家の没落は避けようもなく、現段階では他に主動したものがいないか・・・共犯者はいないのか泳がしている状態で、その点の洗い出しに力を注がれていた。


 予め呪いがかけられると分かっていれば、対応するのは容易い。

 ましてやかけられる日取りや術に大方の目星がついてるので、なおのことである。


 事件推定日にあった生徒会の役員会議は、出張などの適当な理由を作って延期された。

 ローランド様が1周目で呪いをかけられた前の日あたりから、ローランド様や、呪いをかけられそうなリュケイオン殿、殿下、キャロ、侯爵本人などがディーラネスト家に集まっていた。

 そして、私も万が一の呪いの解除要員として、呼ばれることになる。

 実際は情報を流した者としての褒章か、キャロの友達として多少は認めてくださって関係者扱いしてくださっているのだと思う。

 私がいなくても、派遣されている宮廷魔導士のメンツを見れば、十分に事足りていることが分かる。

 サロンには呪いの術式解除のための魔法陣が用意され、ラブサスの呪い蔦をメインに、何個か組まれている。


 そして、その時間がやってきた。

 時間近くになると、突然苦しみだしたローランド様が使用人の手によって迅速に魔法陣まで運ばれ、解除の儀が王城から派遣してあった宮廷魔導士達の手で行われる。

 元々顔が怖い侯爵と、リュケイオン様の瞳の険が増したのが分かる。

 あれは、「うちに喧嘩を売ったからには覚えてろよ」、という顔だろう。

 少なくない時間、彼らに囲まれて生活していたので、何となく感情の機微が分かるようになってしまった。


 ―――パリン


 1周目にあれだけ絶望させられた呪いだというのに。

 彼女の命までかけさせたというのに。


 まるで小さいガラス細工を割るようなあっけなさで、呪いの蔦が空中に消えていった。


「呪い蔦の解除、及び、反呪の儀は全て滞りなく終了致しました。」

「大儀であった。」

 そう重々しく、ディーラネスト侯爵が自派閥の宮廷魔導士を労わる。


「う~・・・思ったより気分悪いし痛かったぁ・・・・!」

「ローランド!大丈夫?!何か変わったことが無い?」

「姉さん!・・・大丈夫だよ!おかげさまですっかり元気!」

「よかったぁ・・・。」

 ほっと、ため息をついて涙に濡れる瞳で弟を見やるキャロ。

 そして、そんな姉の姿を見て若干ニヤついているローランド様だ・・・。

 ここまでシスコンな方だとは、存じ上げなかった・・・。本当に・・・。

 大変残念過ぎる姿だ。


 リュケイオン殿はその様子を見て、そっと部屋を出ていく。侯爵殿も退出されたので、これから大捕り物に向かうのだろう。


「お!俺様も一緒に行くぞ!」

 お二人が退出されたのを目ざとく殿下が見つけてしまわれる。


「殿下を敵の本丸なんかに、お連れできるわけないじゃないですか!」

 先ほどまで呪われていたというのに、もう元気にローランド様が殿下を窘めている。

 キャロは二人のいつものやり取りに苦笑を浮かべている。


「何でだ!ローランドは俺の側近だろう!側近の事は俺の事!俺様に喧嘩を売られたからには、自分が出張らなくてどうする!」

「いや、まずあなた王子ですよね!!!普通に喧嘩しようとなさらないでください!!!」


 いつもの調子でガンガン言い合う二人に、安堵してしまう自分がいた。


 だから安心して、忘れていたのだ。


 いや。


 ・・・知らなかったのだ。

 自らが罪人として拘束されていたので、細かい情報が無かった私は、大きな危機が迫っていることにまだ気づいていなかった。



キャロがどんどんアホになり、ローランドがどんどん残念になる問題。


そして、次の話あたりから更新があきます。ごめんなさい。

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