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Eはここにある  作者: 剣崎月
第三章

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109/208

【108】弟妹、姉に会う方法を考える

――リリエンタールの城


「サーシャから聞いたんですけど、あんた、サーシャに自分の銅像を回収させるそうですね」


 クローヴィスとバイエラント大公領から別行動を取ることになっていたサーシャ。彼はこの任務も任されていた。


「そうだ」

「なんで?」

「なんとなく……こう……よく分からんが、その……見られたくないのだ、イヴに」


 銅像の撤去に関してだが、サーシャも同意――大陸のあちらこちらに銅像が建っている人間と結婚というのは、庶民は想定していないので、素知らぬ顔で撤去しておくのが良いだろうと。


「恥ずかしいんだ」

「恥ずかしい……のかも知れんな」

「この無感動な男に、羞恥まで芽生えさせるとは。妃殿下は素晴らしい御方ですね。それは分かりましたけど、あんたの銅像どうするの?」

「一箇所に集めておく」

「悪魔も絶対に近寄らない場所を作り出して、どうするの?」

「銅像は処分する」

「どうやって? 誰にやらせるの? そんな可哀想な作業」

「共産連邦にくれてやる。アレたちは、わたし(ルース皇族)の銅像を溶かす大義名分があるから、発見したら(・・・・・)喜んで持ち帰り、溶かすであろう」


 占拠していない街中にある銅像を撤去したり、持ち帰ったりはしないが、人目につかないところに集められているのであれば、戦利品として持ち帰る。まして帰りは、積荷は軽い――


「相変わらず、あんたに良いように使われますね」


 潜んでいる共産連邦の彼らが、立ち寄る場所の近くにひっそりと――彼らがやってくる前に。


「嫌ならば持ち帰らずとも良いし、溶かさずとも良いのだが、わたしの銅像を溶かすのは、よきプロパガンダになるからな。その溶かした銅で、自分たちの銅像でも造れば良かろう。それもわたしの銅像よりも、遙かに大きなものをな」

「誰の銅像を造るかで、殺し合いになりそうなんですけど」

「そうならぬよう、わたしが間引いてやる」

「えっとヤンヴァリョフを残すんでしたっけ?」

「そうだ。わざわざ殺しに出向かずとも、大勢の部下を戦死させるために、率いてやってきてくれる逸材だ」


 リリエンタールは連合軍を率いた三月戦争の際、ヤンヴァリョフを殺害することはできたが、その才能を惜しみ――ものは言いよう――彼が責任を問われぬような奇抜な作戦で部隊を壊滅させ、なんども大軍を率いらせた。


「褒めてない……」

「褒めてはいるぞ。お前には到底無理だぞ、ベルナルド」

「それはね。三万の兵士、全員落とし穴に落ちて死なせた時とか、すっごい顔してたけどさ」

「用兵のなんたるかを知り、過去の戦いを学んだ結果が、ヤンヴァリョフ隊全滅だ」

「うわ……」


**********


 クローヴィスが故郷から旅立つ少し前――デニスは仕事が休みの平日に、三つ揃いの背広を着て、務めている鉄道会社本社へと赴いた。

 本社は中央駅から程近くの、煉瓦造りの三階建て。

 正面玄関から入り――本社勤務の顔見知りと合流し、


「デニス。よく来たな」

「ウルヤナ、久しぶり」

「まあな。そうそう、お姉さん、大尉へ昇進おめでとう」

「ありがとう」

「聞けば、武官として海外に赴くとか?」

「うん。補佐武官に任命されたんだ」

「凄いな。エリート街道のど真ん中を、猛スピードで走ってるようなもんじゃないか」

「うん。ただし両親はあまりの出世の速さと、海外赴任に若干やつれ気味」


 雑談しながら目的の部署へと向かった――デニスは両親がやつれている理由の一つである、クローヴィスの婚約については知らないが、実際両親がやつれた理由の二つは当てていた。


「お前が海外研修に興味を持つなんて思わなかったぞ、デニス」

「興味はあったよ。でも研修受けると、駅員から配置換えになるからさ」


 本社勤めの一握りの社員――いわゆる幹部社員は、鉄道技術を学ぶために、海外に派遣される。

 もちろん費用は会社が負担するため、派遣する人員は、社内の規定を満たし、小論文を提出し、面接を経なくてはならない。

 この時代の鉄道会社は軍ではないが、軍の管制下に置かれているため、出世するためには、軍と同じく海外研修が必要になる。


「それはな。一駅員に海外研修受けさせるほど、金ないからな」


 海外研修を受けた社員は、駅のホームで「切符を」という作業はしない。


「うん」

「さすがにムストネン本部長も、海外研修を受けたお前を、駅員に戻す力はないと思うぞ」


 デニスは本来ならば、幹部として本社勤めだったのだが、継父ポールと、亡き実父の仕事仲間であった弁護士たちの助けにより、幹部採用でありながら一駅員として配属されていた――普通はコネで現場ではなく、本社勤務にしてもらうものだが、デニスの場合は逆だった。

 給与待遇なども、一駅員のもので、幹部の給与からすると薄給だが――デニスは給与が欲しくて働いているわけではなく、また、慎ましやかに生活する分には、駅員の給与で充分なので、なんら不満はなかった。


「それは諦めるよ」

「でも本部勤務になって、部品の改良とか受け持ってもいいんじゃないか? 石炭の買い付けとか」

「ダイヤグラム編成を狙っている……選抜試験を通過できるかどうか分からないけどね」

「いや、受かるだろ。ムストネン本部長もだが、ヌオリヤルヴィ准佐も、総司令官閣下への直通ルートが欲しいみたいだから」


 ヌオリヤルヴィ准佐は軍からの出向している人物で、有事の際はヌオリヤルヴィ准佐が鉄道を預かり、総司令官の指示に従うことになっている。


「ああ、姉さんね。准佐は士官学校出てないから、新しい総司令官閣下とは、顔なじみじゃないんだっけ?」

「そうそう。総司令官に士官学校出の人が就くなんて、誰も思ってなかったからな」


 ロスカネフ王国において、総司令官の地位は王族、または有爵貴族当主が就任していたため、貴族への伝手(コネ)が重視されていたのだが――いきなり総司令官に、士官学校卒で、貴族とは全く関係のない、人物が就任したため、関わり合いのある半官半民会社は、伝手(コネ)を得るためにかなり頭を悩ませていた。


「総司令官に士官学校卒業の人が就いていないってのも、不思議だけど」

「リリエンタール閣下は、アディフィンの幼年学校卒だったか?」

「うん! なにをしていたのかは知らないけれど、幼年学校の成績はトップ独走」


 そんな話をしながら、海外研修担当者に元へと向かい、詳しい話を聞いた……のだが、


「資金の関係上、研修先がブリタニアス君主国からアディフィン王国に変更になった」


 産業革命と植民地統治が上手くいっているブリタニアス君主国は、その繁栄によって物価が更に高騰し、研修費用を賄うのが難しくなったため、ロスカネフ王国の鉄道会社は、近場の技術大国に研修先を変更――


「アディフィン王国ですか。じゃあ、この話は結構です。お手数をおかけいたしました」


 海外赴任した姉が心配なので、駅員の地位を捨てて――中枢幹部になるだけだが――海外研修を……と考えていたデニスだったが、行き先が変わったのならば、デニスにとって用はなかった。


「姉さんだから、全く心配はないと思うんだけどね」

「そっか」


 デニスは付き合ってくれてありがとうと、ウルヤナをランチに誘い、


「じゃあ、今日はありがとう」

「どういたしまして。悪かったな、ちゃんと調べてなかったせいで、無駄足を踏ませて」

「いいや、そんなことはないよ」


 食事を奢って帰っていった。

 デニスの後姿を眺めながら、


――ムストネン本部長、明日、報告を聞いて肩を落とすんだろうなあ


 ウルヤナは近い未来を予見しながら、本社へと戻った。


 ムストネン本部長とヌオリヤルヴィ准佐の落胆など我関せず――デニスは、遅めに夏期休暇を取って、クローヴィスの様子を見に行くことにした。

 クローヴィスが出発した後、


「もともとブリタニアスには行ってみたかったし。研修だと、自分のタイミングで帰ってこられないしね」


 両親にそう言い、長期休暇を取りやすい時期に狙いを定め、旅程を組み――両親は背後にリリエンタールがいることは知っているし、リリエンタールのほうが完璧なのも理解しているが、信頼度ではデニスのほうが高く、


「イヴが不自由していたら、これで」


 デニスのブリタニアス君主国行きを止めず、継母は貯蓄からかなりの額をデニスに渡した。


「うん、分かった」


 ただ、その話を聞いたカリナが、


「兄ちゃんずるい! カリナが夏休みの時に連れていってよ!」

「兄さん、その時期、長期休み取れないんだよ」

「ずるい! ずるい! カリナも、海外で頑張ってる姉ちゃんに会いたい! ずるい!」


 毎日のように「一人で行くなんてずるい」と――こうなることは分かっていたので、デニスは研修でブリタニアス君主国へ行こうとしていたのだ。


「ずるい、ずるい。カリナだって、姉ちゃん大好きなのに」

「大好きなのは知ってるよ。でもカリナはまだ子どもだから、継父(とう)さんも母さんも心配なんだよ」

「カリナ、もう大人だもん!」


――”大人だもん”って叫んでいるうちは大人じゃないよ


 デニスは年の離れた可愛い妹が駄々をこねるのを宥めながら、遅めの夏期休暇を取るための調整の段取りを考えていた――頃、クローヴィスの乗る列車は脱線横転する。



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