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フラレ男の英雄出世街道~もしくはただのシュラバ珍道中~  作者: 正月 楓
武闘家の独白と一騎打ち
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第二十四章 パートナー

「…………んん……なんだ、この騒ぎは……」

「……あっ、起きましたかギル団長。すいません、騒がしくて」


 倒れた団長を膝枕して介抱していた副団長のアメリアは、起きてすぐ意識がはっきりしているギルを見てホッとした。

 外傷もほとんどないし、身体に支障を残す心配はないだろう。


「……私は、負けたのか?」

「今回は相手が悪かったですね。あんな逸材がグリー傭兵団に入っていたなんて……。それに彼、まだ余力が有るようでしたよ」

「……これは、なんの騒ぎだ……」


 ギルは頭を振りながら眼前の光景を見遣る。そこには赤く巨大な竜が空を舞い、それをシュトラ傭兵団の団員たちが見上げ、大歓声を上げている光景が映っていた。


「……あいつら、私の心配もせずにお祭り騒ぎか。……あれが、話に聞く古竜だな」

「ええ、グリー傭兵団が連れてきた少女、サラさんが古竜に変身した姿です。急に巨大化した時は驚きましたよ。彼女が竜人だとは思いませんでしたね」


 可愛らしい赤髪の少女が変身した姿らしい古竜は、力強く空を舞っていた。

 空を羽ばたく姿を見るだけでも、いかに古竜が強靭な種族なのかが伝わってくる。


 ギルがその姿をまぶしそうに見つめながら、なんとも言えず嘆息する。


「……やはり古竜と盟約を結べないのは、かなり惜しいな……」

「……もう少しだけ、交渉をがんばってみましょうか――」


 ―*―*―


 一騎打ちが終わり、草原に響いていた歓声がだんだんと収まりギャラリーの熱が冷めてきた頃、さて、これからどうしようかという話になった。


 その時ギルさんを介抱していたアメリアさんが、「団長が目覚めるまで待ってもらえますか」と言うのでしばらく暇になった俺達は、「じゃあわたしが古竜のことを紹介するよ!」と元気に言って竜の姿に変身したサラの、飛ぶ姿を見上げていた――。

 

 もともと、古竜がどういう種族なのか知ってもらうためにサラについて来てもらったので、予定通りではあったのだが……。


(……まさかこっちでも、こんなに好意的に受け入れられるとはなぁ……)


 空を舞うサラの姿を見上げるシュトラ傭兵団の傭兵たちは、もう大熱狂だ。

 ときどき炎のブレスを吐くサラに、両手を振り上げ歓声を響かせる傭兵たち。

 完全にお祭り状態である。


 ……ノリ良すぎだろ。明らかに、さきほどの一騎打ちより興奮している傭兵たち。


 なんだかなあと思いながらもその光景をぼんやりと眺めていて俺は、ギルさんが目を覚ましたという声を聞き、そちらに向かうことにした。


 フラフラながらもすでに立って歩けるまで回復していたギルさんは、アメリアさんに肩を借り俺の方に歩いて来ていた。そのまま声をかけられる。


「……お前、エルストと言ったな。最後の一発は、かなり効いたぞ。次に戦場で会った時は、必ず借りを返して…………あ痛つつッ」

「ほらほらギル団長、起き上ったばかりで無理しないでください」


 アメリアさんに甲斐甲斐しくギルさんが介護される様子を、近くにいるうちの団長がうらやましそうに見ている。……グリー傭兵団、女性の団員いないからなあ。


「……次に戦場で会った時も、俺が勝ちますよ」

 だからもう、襲いかかってきたりしないでくださいね、絶対に。


「……まあ、これも一騎打ちの結果だ。負けたことは素直に認めよう。それで、それを踏まえたうえで、こちらからもう一度グリー傭兵団に交渉を申し込みたい。いいか、グリート」

「――ほう、まっ、聞くだけ聞いてやるよ」


 ギルさんと団長の間で言葉が交わされる。どうにか、丸く収まってくれるといいんだが……。


 

――数刻続いた交渉の結果、シュトラ傭兵団はグリー傭兵団よりは立場的に低いが、うちと同じように古竜の里と盟約を結ぶ運びとなった。

 古竜の里を通さずこちらで勝手に決めてしまったが、ある程度裁量権を与えられているらしいサラの許可も出たので、たぶん大丈夫だろう。


 うちと同規模のシュトラ傭兵団をパートナーとして仲間に加えるのなら、もともとこういう形が望ましかったのかもしれない。よかったよかった。


 しかし交渉が終わり、天幕内の皆が一息ついたところで、団長がまた余計なことを言い始めた。


「しかしギルさんよ、初めからそういう殊勝な態度で交渉にのぞんでいれば、一騎打ちなんてせずとも済んだのにな~。エルストにこてんぱんにやられて、ようやく身の程をわきまえたのか~」


 ……なんでそう、蒸し返すようなことを言うかなあ……。


 ニヤニヤと視線を向ける団長に、ビキビキと、ギルさんのこめかみに青筋が浮かんだ。


「おい、あまり調子に乗るなよデカブツ、お前に負けたわけじゃない。熊みたいにでかい図体して、近くにいるだけで暑苦しいことこの上ない。不快だ。この天幕から、さっさと出ていってもらえないか」

「あ゛あ゛! なんだとこの口だけインテリ野郎が! テメエ戦場で腕ブン回すしか能がねえくせに、口調だけさかしらぶっても意味ねえんだよ!」

「――いいだろう、表に出やがれ。矯正してやる」

「ハッ、ヘトヘトのお前にやられたら末代までの恥だぜ!」


 またこの繰り返しに、副長とアメリアさんがほとほとあきれた視線を向けていた。


「まったく、お互い苦労しますね、アメリアさん……」

「ええ、もう少し、年相応の落ち着きを持ってもらいたいんですけど……」


 周りのあきれた視線など関係なしにヒートアップする団長たちを尻目に、俺は静かに天幕をあとにした――。

 付き合いきれないです。

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