始まりの記憶
12/15 書き直しました。
ミストラル大陸の片隅にある小さな町。
その町を見渡せる、水を引くための風車が点在する小高い丘。
緑の草原であるその丘には、木剣を持ち転げ回る二人の子供がいた。まだ家の手伝いも満足にできないくらい幼い子供たちだ。
一人は金の髪に青の瞳を持つ溌剌とした少女。切れ長でつり上がった瞳は、ともすれば少女の勝ち気な性格をよく表している。
もう一人は蒼い髪に鈍い赤銅色の瞳をした少年。どうやら二人は木剣で打ち合いをしているようだが、この少年の方は少女と打ち合うたびに簡単に転がされていて、正直情けないという印象が大きい。
「お~い、どうしたエルスト~~。もうちょっと粘ってくれないと、あたしの練習にならないじゃんか」
「ふぐっ……この、おとこおんなめ……」
「ふっふっふ…………あ゛あ゛っ!? よく聞こえなかったけど、ねえ!!」
「――うっ、あやまるから、剣を振り上げるのはやめて……。だけどグレイ、メンチ切るの堂に入りすぎでしょ。五歳の女の子のセリフじゃないよ」
後半に行くほど小声でブツブツとつぶやく少年。やはり情けない。
しかし、どうやら少女にはばっちり聞こえていたようだ。
剣先で少年を指し示す。
「ふん、あたしはこれ一本で生きていくって決めたんだ! 近所の子たちとままごとなんてするくらいなら、一人で素振りしてる方がまし!」
そう言って五歳児とは思えない速度で木剣を振る少女。こっちは随分男らしい。
「あっ、でもエルストは普通に近所の子たちと遊んできなよ。あたしに無理して付き合う必要はないからさ」
素振りの速度はさらにぐんぐんと上がっていく。まだ周囲は気付いていないが、彼女は剣の才能の塊であった。
「でも、僕もグレイと二人で練習してる方がいいかな」
「ふ~ん、なんで?」
「グレイと一緒にいられるから」
訂正。この少年なかなかやるな。
少女は赤く染まった頬を照れくさそうにかきながらあさっての方向に目を逸らす。と思ったら、すぐに視線を戻しニヤッと笑った。
「あんた、あたしのこと好きなの?」
途端に言葉に詰まる少年。どうやら少女の方が一枚上手のようだ。
少女は木剣をかるく肩に乗せ、挑発的な笑みを浮かべながらこう言う。
「まっ、あたしと付き合いたいんだったら並の男のままじゃダメね。腕っ節ひとつで成り上がれるくらいの強さはないと」
「成り上がるって、小領主とか?」
「馬鹿ね、目指すなら大陸統一よ」
無駄にスケールのでかい少女だった。
「なんにせよ今のエルストじゃ全然足りないし、今のうちから鍛えてあげる。大人になる頃には、あたしの求めるくらい強い男に成っていてもらわないとねっ」
「――うん……まあ頑張るけど……」
ぼそぼそと小さく答えながらも、少年はしっかり木剣を握りしめ、確かな足取りで少女へと向かっていった。
これは始まりの記憶。エルスト・ルースカインが武を鍛え、訓練に明け暮れるようになった最初の理由。
やわらかな風が草原を駆けるある晴れた日に、少年は好きな女の子のために体を鍛え始めた。