No,2:〜助っ人エスパー
『救世主』
絶体絶命
その時に助ける者を
我々は
救世主と呼ぶ
それが善人でも
悪人でも
「ただいまもどりました。」
零はいつも帰るとこう言うようにしている。
未羅さんに昔、普通は「ただいま」と言うと教わったが、なぜだかこっちの方が僕には合っているらしく、意識をしないとこう言ってしまう。
あっちの世界の癖がまだ直らないのだろうか?……
「おかえりー。手洗ってきなよ!」
洗面所に向かい、体温より低い水で手を洗う。
「学校、どうだったー?」
唐突に聞かれ、少し早足でそのまま居間に行く。
「特に何も。あの程度だったら誰でも解けますよ。僕でも理解できました。」
「そりゃあ、私が教えたんだから当然でしょ♪………って勉強の話じゃない!!」
…………?
まったく見当違いの答えが帰ってくる。
学校とはまだ歳をとっていないうちから学力を身に付けるために行くのではないのか?
ほかの目的?……
「自己紹介とかだよ!友達は!?できた!?」
目の前で喋られ、なおかつかなりの音量で言ってきたので目をつぶってしまう。
何だ……そんなことか………
「自己紹介は未羅さんに言われた通りにしました。
友達はできてません。
帰ろうとした時、男女5人組に話しかけられたぐらいで、人とはほとんど話してません。」
そう言うと未羅さんはかなりの勢いで僕の肩を掴んできて、
「何て言われたの!?」
「………『一緒に帰らない?』と。まぁ、断りましたが。」
未羅さんはそれを聞いて「あっちゃー。」と言い、手を額に当てた。
「なんで断っちゃったのよ!!」
「……一緒に帰る理由がなかったので。」
「理由なんていらないのよ!そんな風に断ってたら不自然に見えるよ!」
……不自然………そんなことで不自然に見えるのか?……
どうやら僕はまだ、この世界に溶け込めていないようだな………
そこで俺はあるひとつのことに気が付いた。
もし、今日の僕の行動すべてが不自然だったら………
もうすでに僕はおかしな奴として見られている可能性があるのか……!
おかしな奴=普通の人間と違う=超能力者とばれる=警察に通報され=実験体
……………!!
「たしかに少しまずいですね。……いやかなりまずい……」
未羅さんは満面の笑みを見せ、
「そのとおり。だから明日からはちゃんと人と喋って、友達の誘いも断らないようにしようね!」
「………はい。そうします。」
少し抵抗があったが自由のためだ。しかたがない。
自分の部屋に戻る。
体が少し疲れていると判断し、ベッドに横になり、考える。
今日の僕の行動に不自然な点はなかっただろうか?
おそらく授業中は大丈夫。他の人間と変わりはなく、質問にも答えられた。
……問題は休み時間か。
特に、今日の最後に話しかけてきた大男。あいつが今日一番接触した人物だからな。可能性は高い。
自然に、あやしまれずに生きなければならない。
普通の人間と同じく、普通の学校生活を送らなければならない。
普通の人間にとっては当たり前でも、僕にとってはようやく手に入れた普通の人生だ。
手放すわけにはいかないのだ……
* * *
「ごちそうさまでした。おいしかったです。」
今日もいつもとまったく同じ感想を言われ、
「そう。それはよかった!できるだけ早く寝なよ。」
と、まったく同じ言葉を返す。
零にとってこんな毎日、同じことを繰り返すという日常が幸せなのだろう。
彼が階段をのぼる足音を聞きながら思い出す。
彼と出会った日々のことを……
零と私は親子ではない。
彼は「飛山 零」。私は「夜野 未羅」。
血の繋がりのない他人。もちろん、恋人などという関係でもない。
それならばどういう関係なのか?
なぜ一緒に住んでいるのか?
その経緯を今から話そうと思う。
* * *
出会いは一ヶ月前。
ちょうど夏の暑さが終わる時期で雨が降っている夜のことだった。
私は買い忘れがあることに気づいて、夜十時頃、コンビニに行こうと家を出た。
歩き始めると雨足はいっそう強くなってきた。
雨水が地面を叩きつける音が一面を支配している。
タイミング悪かったかな~……
なんて思いながら公園の横を通ろうとしたとき、突然公園から一人の男がいきなり悲鳴のような大声を出して走り去っていった。
おそらく今のはホームレスだろう。この公園は夜になるとホームレス達のたまり場になっているということは近所の人なら誰でも知っている。
暗闇で生活をしているホームレスの人間が驚くぐらいだ。
さすがに気になった私は公園に目を向けてみた。
すると人が一人、ベンチの座るところを背もたれにし、ぐったりしているのを見つけた。
ホームレスだと思いよく見てみると、まだ高校生ぐらいの男の子だった。
「ちょっと!君!大丈夫!?」
呼び掛けても返事はない。
驚いて大きな声で言ってしまったがこの雨だ。近所迷惑にはなってない。
私は持っていた懐中電灯を当ててみた。
身長は170cmあるかないかぐらい。
病気じゃないかと疑うぐらい真っ白な顔をしていて、いやこの時は病気だと思ってた。
頭の方をよく見ると頭から血を流していた。
少し戸惑いつつ彼を揺すってみたが、反応はない。
私はそれでもどうしたらいいか判断できず、もう一度光を体全体に当てていると、私は彼の服に見覚えのあるマークがついていることに気が付いた。
そこからの私の行動は早かった。
傘を閉じ、彼を背負って家に連れて帰夜道を戻り始めた。
以外と体重はないんだな……
そんなことを思っていると雨水が顔に当たり、視界が狭くなる。
あっという間に靴の中は雨の割合の方が多くなっている。
途中、会社帰りの女性に見られたが何をしているのか理解できなかっただろう。
私はそんなこと気にせずにとにかく走った。
今はそんなことよりほかに考えることでいっぱいだった。
“なぜここに超能力者がいるの!?”
“しかも…あのマークは特殊部隊のものだった……!”
“つまりは………あっちの世界から来たということ……!”
正直、連れて帰っていいかはわからない。
でも、全く事情の知らない人間に保護されるよりはマシだと思った。
とにかく連れて帰って “何者なのか” “なぜここにいるのか” そして、“何が目的なのか”
……聞かなければならない。
その時、私は考えることでいっぱいだった。
家に帰りとりあえず彼の手当てをし、彼が目を冷ますまで家事をして待ち続けた。
彼が特殊部隊ということは「騎兵国家クランティア」の者。
「クランティア」……私と同じ国………!
彼も兵士として戦争に使われてたのだろうか?
そして、彼が目を冷ましたのは丸一日たった次の日の夜だった。
彼は目を開いた瞬間にまわりを見渡したあと、私の方を見た。
まるで恐ろしいものを見て警戒している猫のように……
警戒心を解いてもらおうと私は笑顔を作りながら、
「はじめまして、私は…」
「ここはどこだ?……」
名前を言おうとしたら彼がいきなり話し掛けてきた。
……警戒心は解けていないようだ。
「ここは私の家。」
「……貴様は何者だ?何が目的だ!?」
今度は口調を強くして、体の向きをこちらに向け、戦闘体勢になった。
超能力者独特の体勢だ。手のひらを相手の方に向けるのはいつでも衝撃波や物を浮かすことができる通常、重力操作を放つことができるようにするため。
私が聞こうとしたことを逆に聞かれたが、警戒心をおさえてもらうためにも素直に答える以外はなさそうだ。
「私は夜野未羅。一般人よ。目的は……ないわね。」
彼の眉がピクリと動いた。
「……一般人…?そんなわけあるか!!」
目がよけい鋭くなった。
あ~ららっ。どこで警戒心を強くしちゃったんだか。
「一般人といえば一般人かな…君こそ何者なの?服の紋章を見たところによると騎兵国家クランティアの兵士……しかも、特殊部隊の者でしょ。」
私の言葉を聞いた途端に驚きの顔みせ、目を大きく見開いた。
私がなぜ特殊部隊のことを知っているのか戸惑っているのだろう。
「やはり警察部隊の者か……!僕を捕らえにきたのか…?」
警察部隊……懐かしい名前ね……特殊部隊を育成する部隊。……正直もう聞きたくない名前。
それより……捕らえるとは……?
「君。どーゆうこと?捕らえるって!君は一体…」
「しらっばっくれるな!!」
まだ私が話している途中なのに彼は大声を上げながら重力操作を私に向かって打ち放ってきた。
恐らく私を弾き飛ばして距離をおこうとしたのだろう。
ただ私も超能力者。瞬時に私も重力操作を放ちぶつけあわせ、力の分散させた。
机の上にあった分散した重力操作の力に当たり、宙に舞う。そして、この地球のルール通り床に落ち、割れた。
彼の表情にほとんど変化は見えない。まぁ驚きっぱなしということか。
けれど警戒心が薄れたのか、こちらを見る目はにらむものではなかった。
「超能力者だったのか……!つまり、警察部隊ではない。ならば貴様は何者なんだ……?」
ようやく冷静に質問してきてくれたか…
よかった♪もし警察部隊に超能力者がいない規則がなかったら、私はまだ怪しまれてるところだった。
「私は約十五年前。クランティアにこの世界へ追放された超能力者の1人よ。」
「…………!!」
今までのなかで一番驚いた顔を見せ、戦闘体勢を解いた。
「これでわかったでしょ?私は君に危害を加えるつもりはない。なぜ君をここに連れて来たのかというと、助けたかったから。」
「……?…助ける…?なぜだ?自分ではなく、他の人間に任せればよかったんじゃないのか?なぜ赤の他人の」
ふぅー。人助けって言っても彼はちゃんとした心もないみたいだし。恥ずかしいけど言うか。
「もし君が普通の人間に保護されたら、君はどうしてた?」
また眉がピクリと動いた。少しは察しているようだ。
「おそらく、さっき私にしたように答えられるはずもない質問をして重力操作を放つでしょ?そうなると事件沙汰になると思うの。」
彼は少し考え、
「なぜだ?重力操作を放つならば捕まえるか保護して警察部隊に引き渡せばいい。」
どうやら彼は地球についてよく知らないようだ。
私は1つため息をつき、
「地球では超能力者がいることは空想上のもので信じられていないの。当然重力操作や警察部隊なんてものも存在しない……とされている。」
「なっ………!」
つい驚きの声を出してしまうくらいの驚きだったのだろうか。
まぁ、当然。私も初めて知った時は彼の倍は驚いたもの。
「事件沙汰になったら捕まって実験とかに使われるかもよ?私の予想が正しければ君はクランティアの研究施設から逃げ出して来たんでしょ?」
少し動揺している。図星のようだ。
「捕まったらまた自由が失っちゃうと思う。だから私が保護したの。」
彼は一呼吸おき、少し考えると、
「なるほど……たしかにあなたの言う通りだ。」
と言って落ち着いた表情に戻った。
「あなたが敵ではないということは理解した。ただ一つ不可解なことがある。あなたは十五年前にクランティアから追放された。もうあっちの世界とは関わりたくない筈だ。なのになぜ俺を助けた?もう超能力者なんて関係ないだろ。」
ようやく警戒心を解いてくれたようだ。その証拠に二人称が「貴様」から「あなた」になっている。
「……私はあなたに自由を手に入れてほしいのよ。」
「………?」
彼の眉間にシワが寄る。
「私にはあなたの気持ちがわかるのよ。地球に来た理由は違うとしても来たばかりの気持ちは同じだと思う。」
彼は黙ってこっちを見たままだ。
「ここがどこなのかも分からず、怖くて、寂しい。」
私は少し口調を強くして言った。
「クランティアにいたころは戦争の道具としてしか使われてなかったと思うけど、君にだって自由になる権利はある。少なくともこの国では戦争はない。わからないことや困ったことがあったら私が手助けをする。君にも普通の人間と同じように自由な人生を生きて欲しいの!」
彼は私の話を途中から俯き加減に下を向き、聞いていた。
この角度だと……顔は見えないかな。
……私、なんか余計なことしちゃったかな?
彼は下を向いたまま1分間ぐらい動かなかった。
「……うっ………」
彼の体が鈍く動き始めたかと思うと、微かな嗚咽が聞こえた。
彼は下を向いたまま、
「…今まで……あなたみたいに…仲間でもない人に助けられたことなんて……なかった。」
床にポツポツと涙が落ちる。
「超能力者であの2人以外にも……まだこんなに優しい人がいたのか……」
彼は涙を拭い、私の方を向いて言った。
「……ありがとう。」
彼が少し笑っていたから私も笑って頷いた。
グゥ〜とどこからともなくお腹のなる音がした。
私ではない。つまり……
彼を見るとお腹に手を当てている。
「待ってて。今ご飯持ってくる。」
台所に向かい、あることを思い出す。
「そーいえば私、まだ君の名前知らないんだけど。」
彼はあっと言って少しためらいながら言ってきた。
「名前は……覚えてない。自分の名前だけ記憶に無いんだ。」
……名前を覚えていない。時空を移動してきたからそういうこともあるか。
「う〜ん……名前がないとめんどくさいから………君はなんだかんだ冷静そうだし……よしっ!決めた。君の名前は今日から『飛山 零』ね!」
「零………飛山…零……わかった。」
「そう。よろしくね。零。あーあと私は命の恩人であなたより年上なんだから、一応敬語使いなさいよー。」
「……わかりました。」
「よろしい♪」
こうして私は零をかくまうことにした。
これが私と零が一緒に住んでいる経緯だ。
少しずつ……と言ってもさすがに超能力者。のみこみは早い。
日常的な行動や勉強など、色々な事を教えってて、普通の高校生に近づけていった。
私は零を保護して本当によかったと思っている。
零は、まだ完全に心を開いてくれていないようだけど、いつかまた、あの『ありがとう』と言ってくれた笑顔を、零が自分から見せてくれようになるまで私は助けて続ける。
あの人が私たちを助けてくれたように……
※「騎兵国家クランティア」
零が逃げてきた国の名前。あっちでは戦争が勃発しており、零はその兵士として使われてた。
※「特殊部隊」
零が入っていた戦闘団の名称。超能力者のみが入ることができるエリート集団。
※「警察部隊」
騎兵国家クランティアの上層部。主に特殊部隊の育成を行っている。
※「重力操作」
超能力者が使える技。物を浮かしたり、はじき返したり、引き寄せたりもできる。