No,1:始まりのNEWライフ
『はじまり』
それは
あらゆる全てのものが
必ず通る
スタート地点
ゼロからイチの
第1歩
花畑。
見上げると透き通るようなきれいな青空。
僕はそこに立っていた。
彼女もそこに…立っていた。
「ねぇ見て。この花。」
彼女が僕に呼びかける。
“……何?……それは?"
「これは『ダイヤモンドリリー』。花言葉は…“再会”」
風が吹き、彼女の髪を揺らす。
“……さい…かい?……”
「そう、私たちは今日でお別れ。
でもこの花を持ってさえいれば、またきっと会えると思うの。」
彼女の言葉はまるで透き通った光のように僕の耳に届いた。
“本当に? ……本当にまた会えるの?”
「大丈夫。お互いの想いがあれば必ず……」
その途端彼女の言葉をまるで閉ざすかのように、すべてが真っ白になる。
「………!」
…何も無い
音も無く
光も無く
匂いも無く
何も感じることの無い
僕だけが色を持った世界。
ここには何一つ無い……
目を開けるとそこにも真っ白な画面が……いや、天井が僕の眼には写っていた。
「……………ッ」
また、あの夢か……
なんなんだ?あの真っ白な空間は?……
扉の取っ手が嫌な音を響かせながら扉がひらいた。
そこには白黒のボーダー柄のエプロンを身にまとった未羅さんがニッコリ笑いながら立っていた。
「おはよう。零。」
いつものあいさつに
「おはようです。」
と言う。
毎日の習慣だ。
「今日もいい朝だね!」
「………はぁ」
僕は曖昧な返事をかえしながら部屋を出て、洗面所に向かった。
「急ぎなよ~。今日から学校なんだから~!」
階段の方から声が聞こえた。
……そうか。僕は今日から“学校”に行くのか……
……ここから始まるのか…
* * *
夕ヶ丘高校まで徒歩で約15分。
短くもなく長くもない距離。
学校に近づくにつれて同じような格好の人間も増えてくる。
1人のもの。
友達といるもの。
朝から恋人と歩くもの。
本を読んでいるもの。
……色々な人間がいる。
僕はどんな人間になればいいのだろう?
どうなれば不自然じゃなくなるのだろう?
そんなことを考えていると、リズムの良い振動が肩から伝わってきた。
「あの……これ、あなたのですか?」
夕ヶ丘高校の制服を着た髪の長い女子が、僕に青色のハンカチを見せてきた。
そんなハンカチ、持っていない。
「いや……違う。」
「えっ!? あっ……スミマセン!」
彼女が急いで謝り、あわててまわりに目を向けている。
僕には関係ない……
そう思い、再び、学校への道を歩き出す。
なぜ彼女は人が落としたハンカチを拾ったのだろう……
拾う必要などなかったはずだ……
見なかった振りをすればいいのに。
……理解不能だ。
彼女のことは忘れよう。
僕の人生に必要のない存在だ。
校門で数人の先生方が挨拶をしている。
挨拶は人間関係の始まりだと、未羅さんに聞いたので、しっかり挨拶をしよう。
そう考えているうちに、さきほどの彼女達の顔や存在は、僕の記憶から消えていった。
* * *
朝一番の予鈴が鳴り響く。
その途端に上の階にある足音がふいに大きくなった。
女性の先生と一緒に三階にある1年D組の教室に向かうらしい。
おそらくこの人間が担任なのだろう。
三階に着くと先生が
「ここで待ってて。」
と僕に言ってきた。
待っているあいだ、フッと廊下の端にある窓が気になり、近づいて外を見ると、雲がかった青空がそこにあった。
まだ9月なので草木は青々としている。
D組の教室から騒ぎ声がしたと思うと、
【1-D】の札のある教室から先生が顔を出し、ジェスチャーで僕に来るように示した。
僕しかいない廊下は足音がよく響く。
教室に入ると一斉に大量の目が僕の方を向いた。
女子の声の方が多い。小声でなにかしらを喋っている。
何を喋ることがあるんだろう?
先生が黒板に「飛山 零」と書き、
「じゃあ、一言。」
と言った。
大丈夫。未羅さん言われた通りにやればいい。
たしかこの場合は……
「初めまして。飛山 零です。よろしくお願いします。」
拍手が起こる。
「じゃあ、飛山君は一番後ろの空いてる席ね!」
まだ、多くの目が僕の方を向いているなか、僕は席に着いた。
窓の外を少し見ると、先程と変わらない青空が広がっていた。
風が吹き、髪を揺らす。
新たな人生の始まりだ。
* * *
「今日、転校生が来ます。」
と、担任の塚本先生が言うと、静かだった教室が一瞬にして、騒がしくなった。
転校生が男子で帰国子女だと先生が言うと、男女関係なく、一段と声が大きくなる。
……転校生か。
………どんな子だろ?
私が誰とも喋らずに窓の外を見ていると、
「ねぇ、理香は気になんないの? 転校生がどんな人か。」
と、前から親友の瑞希が話し掛けてきた。
ショートカットでボーイッシュな雰囲気の瑞希。二ヶ月前に、水泳をやってて邪魔だからという理由で髪の毛を短くしたばかりだ。最初は見慣れなかったけど、今はこの髪型以外考えられない。
「別に気になんないわけじゃないけど見た目なんて見てからじゃないとわかんないじゃん。」
「ふ~ん。まぁ理香はそういうのには奥手のほうか。」
……それって少しディスってない?
そう言おうとしたけど、どうやら先生が転校生を呼んだようで、クラスの騒ぎ声が一段と大きくなり、私は言うタイミングを失った。
教室に入ってきた転校生の第一印象は……肌が綺麗……!
っじゃなくて!朝、私が落とし主間違えた人じゃん!!
いや、でも肌が綺麗なのは否定しない。白くて透き通っているようだった。
イケメンといえばイケメン。
女子からは人気のある顔だろう。
クラスの女子がみんな小声で話しているのが何よりの証拠。
先生が黒板に「飛山 零」と書き、
「じゃあ、一言!」
と言った。
彼は少し考え、無表情のまま、
「初めまして、飛山 零です。よろしくお願いします。」
オーソドックス?……というか…なんか棒読みっぽい?
「じゃあ、飛山君は一番後ろの空いてる席ね。」
……え?……え、私の隣……??
えっ?えっ、どーしよう……
小説とかだったら、
「あっ!!お前はさっきの!!」
とかになるんだろうけど現実で起きたら、あれかなり迷惑だよ!!
どーしよ、どーしよ、どーしよ!!
まわりの女子は「いいな~」みたいな顔で見てきてるけど全然よくないからね!!
そうこう考えてるうちに転校生はこちらに向かってきて席に座った。
彼は私の方を少し見て、無表情のまま黒板の方を向き直った。
……あれっ?……覚えてないのかな?
安心しつつ、少しガッカリしている自分がいる……
私も意外と乙女チック?……
* * *
放課後。
僕は身長が高く、やたら声の大きいやつに話し掛けられた。
もっと詳しく言うと、その声の大きい男も含めた男子二人と女子三人に……
「ねぇ、零君! 一緒にかえろーぜ!!」
僕が黙っていると、
隣の眼鏡をかけた奴が、
「いきなり名前呼び……不自然じゃないか?」
と笑いながら言い、
それに反論するかのようにもう一人の女子が、
「そーやっていちゃもんつける尊が一番不自然だよ~。」
と言った…
「ッ……安心しろ……いつも通りだ。」
後ろでその会話を見て、笑っているやつもいる。
そんなに面白いことかな?
友達というのは不思議だな。
どんなに小さなことでもお互い笑いあえる……
「どう? 帰ろうよ!」
「……遠慮しておく。」
丁重にお断りして、奴等の顔や反応も見ないまま、すぐに教室を出た。
学校というのは騒がしい。
なぜそんなにも騒ぐ必要がある?
………“友達”という存在があるからか。
昇降口を出ると、十人ぐらいの坊主頭が何やら準備をしていた。
“部活”というやつか………
僕も何かしら“部活”にはいるのだろうか?……
朝から変わらない雲のない青空を見ていると、
まるで僕に何かを呼び掛けるような、
カラスの声が僕の耳に響いた。
* * *
海斗は思った。
どうして断られたんだろう?俺だったら絶対一緒に帰るのになぁ。
「やっぱり名前で呼んだのが悪かったかな~? なぁ、理香。」
隣を歩く理香に聞いてみると、少し考えるような仕草をした。
「………う~ん。…海斗がフレンドリー過ぎるのかもよ?」
フレンドリー過ぎる……それ、悪いことじゃなくね? 逆にいいことじゃね?
あっ、一つ言っておくが理香とは恋人とか、そーいう関係ではない。あくまで友達だ。
そこに嘲笑うかのような学の声が聞こえる。
「あの飛山って奴が人見知りだったら海斗は天敵だな」
「自分も最初、そうだったからわかるんでしょ?」
「あ~。そういうこと。尊、最初、すっごい無口だったもんね!」
尊の発言を瑞希と陽葉莉の女子二人がかき消す。いつも通りだな。
と海斗は心の中で思った。
今一緒に帰ってる四人は、高校で同じクラスになり、仲良くなったメンバーだ。
部活がない日とか、部活の終わるタイミングが一緒の時は、こうやってよく五人で帰っている。
「なんでお前ら五人って仲良いの?」
フッと、クラスの男子友達に言われたことを思い出す。
まぁ、よく聞かれること。俺はその度に同じことを思う。
“それは俺にもわからない”
趣味や特技、性格が似ているというわけではない。
十人十色。まったく違うと言っても過言ではない。
俺はサッカー部に入ってて運動系。自分で言うのもなんだけど明るい性格。
理香は園芸部に入っている天然女子。植物のことだけはやたらと詳しい。
瑞希は水泳部に入ってるしっかりした奴。こいつとは中学からの仲で一番俺のことを知ってるんじゃねーかな?
尊は将棋部に入っている真面目君。人見知りで文句ばっか言うけど、頭は良い。
陽葉莉は天文学部に入ってる理系女子。星とか空の話になると目を輝かせて語ってくる、かなりの天文オタク。
ちなみに尊と陽葉莉は幼稚園からの幼馴染みらしい。
と、まぁ、こんな個性の塊のような奴等が集まる理由は……
俺が知りたいぐらいだ……
おっと、話が逸れすぎたかな。
転校生の話だった。
あっ、そうそう、俺は一つ、気になってたことがあるんだ。
「なぁ、みんな。なんか、転校生の零君、機械っぽくなかった?」
「「機械?」」
瑞希と陽葉莉の声が重なる。タイミングを計ったんじゃないかって思うぐらいピッタリだ。
「またバカがなんか言い出したぞ」
尊が笑いながらちょっかいを出してくる。
まぁ、いつものことだし、言い始めるときりがないから、無視。
「まぁ、たしかに。ずっと無表情だったし。」
「冷淡って言うのかな?ほとんど喋ってなかったよね。」
みんなも似ていた意見を持ってて、少し安心。
……あれっ?……さっきから一人忘れてるような。
すると後ろから声がした。
「彼さっ、肌綺麗だったよね~。」
………理香がいきなり全く違う話をふってきた。
さすが天然。
まぁ、これもいつも通りか………
「理香、そーゆとこしか見てなかったの!?」
そう、それ!さすが瑞希!みんなが聞きたいことをよくわかってらっしゃる。
「いや、ちゃんと、無表情だなーって思ったけど、それ以上に肌が白くて綺麗っていうほうが印象的じゃなかった?」
全然……印象的じゃねぇよ。
めずらしく尊も同じ意見なのか、首を横に振りながらひとつため息をつき、
「やっぱり理香は天然か……」
と捨て台詞を口にした。
理香が頭にいくつもクエッションマークを頭に浮かべている顔をしているので、話はさらに盛り上がる。
今日みたいに他愛のない会話をしながら帰る。
この何気ない時間が俺には楽しかった。
明日、もう一回。零君、誘ってみよっかな♪