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楽しかったダンスが終って、席に戻る。

意外に体は覚えていた。

凄いな、自分。



安心していた所にだ。


「素晴らしい踊りでございました」


と知らない人達が、やってきては私達に声を掛ける。



けれども、決して嫌な顔はしてはいけない。

常に、微笑む。

だって、話し掛けても失礼に当たらない人達なんだ。

無視もできない。


「ええ、まったくです。素晴らしかったです」

「ありがとう、陛下がご一緒に踊って下さったので、安心して踊ることが出来ました」

「さすが、エリフィーヌ様。素晴らしいのは踊りだけではありませんな?」

「いいえ、それは、陛下が導いて下さったからですの。そうでしょ、陛下?」


へへへ、どうだ?完璧だろ?

と、自慢げにデュークさんを見た。 


「エリフィーヌ、おまえが俺の踊りやすいように動いてくれたからだ。楽しかったな?」

「はい、陛下の仰る通りです」


あ、私、自分でハードル上げてる?

墓穴掘ったかな?


「本当に仲がお宜しい」

「一日も早く式を挙げていただいて、早くお子が見たいですな?」 

「まぁ、そればかりは、なるようにしかなりませんぞ?」

「その通りですな」


賑やかな一団が過ぎていった。

疲れた。


デュークさん、心配そうに見ないでくれる?


「カナコ、おまえ、色々と、自分で基準を上げて、大丈夫か?」

「不安…」

「気取らなくてもいい。このままのカナコでいいんだから」

「けど、それって、いいの?」

「俺が愛した女だ。それだけでいい」

「馬鹿、…、けど、ありがと」


キスされた。

人前だって、忘れてるわ…。


マリ姉ちゃんと目が合った。その口が動いた。



ご ち そ う さ ま



あ、すみません。

主役よりラブラブで…。

皆さん、今はこんなんですが、ちゃんと仕事は出来てますから、安心して下さい。

ルミナスの王様は、国のために頑張ってますからね!





ようやく宴も落ち着いてきた。


一通り食事が済んだ人達が、それぞれに挨拶を交わし交流を深めている。

けれども、私達の所には余り人は来ない。

いつの間にかデュークさんの侍従がブロックしてるんだ。

だからこそ、私達はこの宴を楽しめている。



ちょっと暇になった私は、また、周りを観察しちゃう。



あれ?サー姉様が見当たらない。

最初の頃は、いた筈なのに?

どうしたんだろう?

美味しいものたくさんあるのに、勿体無いぞ。


探すことを決意だ。


「ちょっとレストルームに行ってくる」

「早く戻れよ?」

「心配症!」

「なんとでも言うがいい」

「馬鹿…」


目配せされる。

当然、隊長が付いてくれる。

わかってるよ、独りになれないことぐらい。




私は、家に入って、サー姉様の部屋へ向った。


「エリフィーヌ様?」


隊長だ。


「中へは、私がお供しましょう」

「ううん、2人して?姉に会うだけだもの」

「では、ここでお待ちしてますが、何かあれば入ります」


隊長なら、仕方がない、な。


「わかったわ」

「畏まりました」


ドアをノックした。


「サー姉様、私、フィーだよ?入っていい?」

「…、どうぞ」


隊長がドアを開けてくれる。


「サー姉様?」


カーテンが閉められて、外の明るさとは正反対の部屋。

そんな中にサー姉様はいた。


そのカーテンを見つめて椅子に座っていたんだ。


「フィー、久し振りね?」

「うん」

「あなた、綺麗になったのね…」


サー姉様は、やつれているように見えた。


「姉様、大丈夫?」

「心配してくれるの?」

「もちろんだよ、私の大事なサー姉様だもの。心配だよ」

「そう、ありがとうね」


静かに笑う。

そんな笑い方をするサー姉様を初めて見た。


「何か、あったの?」

「何も、ないわよ」

「けど、」

「大丈夫なのよ」

「そう、」

「心配なんて、いらないわ。私は大丈夫なんだから」


私のこと、眩しそうにみるの?

ううん、そうじゃない、違う。目が違うの。


「姉様、一緒に、マリ姉ちゃんの所に行こう?マリ姉ちゃん、綺麗だよ?」

「嫌よ、行かないわ」


少しサー姉様に近づく。


「どうして?今日はマリ姉ちゃんの結婚式じゃない?お祝いに来たんでしょう?」

「お祝い?そんな気分じゃないの。独りにしてくれないかしら?」

「けど、今日は…」

「五月蝿いわね!わかってるのよ!」


ビックリするよな大きな声だ。

さっきまで静かな声で話してたのに…。

なんだろう、不安定な感じがする。


大きな声に、隊長が反応した。

すばやく部屋に入ると、彼女はなんの迷いもなく、私とサー姉様の間に立っていた。


「カナコ様?」


私の盾になってくれたんだ。


「ええ、大丈夫よ。ありがとう」


きっと私は戸惑っている顔をしている。

実の姉から私を守るという判断を、隊長が取った。

その事に戸惑っているんだよ。


けれども、そんな私達に対して、無関心な態度をとるんだ、サー姉様は…。


「今日だって、来いって言われたから、来ただけよ」

「なんでそんな事いうの?マリ姉ちゃんの結婚式だよ!」


ふっと、サー姉様が私を睨んだ。

姉様が、怖い…。

どうして?私は、どうしてそう思うんだろうか?


「フィー、あなたは、そうやって護衛を引き連れて歩く身分。マリーは豪商ハイヒット家の跡取り。いいわね、2人とも何の心配事もなくて。そうよ、きっと、自分が幸せなら他人も幸せだと、そう、思っているんでしょ?」

「姉様…?」

「ああ、長女って損よね。一生懸命、面倒見てきた妹達は勝手に幸せになるのに、置いてきぼり食らって、損ばっかりよ。何にもいい事なんて、ないの」


その声は段々と独り言みたいになっていった。


「弱そうな振りをして、魔法も使えない振りをして、そうやって男に守ってもらえるんだもの。卑怯よね。必死に頑張ってきたのに、何の評価も得られないなんて、惨め過ぎるわ。私だって、ハイヒットの娘なのに…」


知らない女性に見えてきた。

そんな僻んだ言葉を吐き散らかす女性ではなかったんだ。

私のサー姉様は、自慢の姉様だったんだ。


「あなた達を見てると、疲れるの。出て行ってくれない?」

「…どうして、…?」


サー姉様は口を閉ざした。

私は、どうしていいのか分からずに立ちすくんでいる。

隊長が言葉を出した。


「カナコ様、これ以上は…」


私は、隊長に促されるままに、無言で部屋を出てしまった。






とても、とても、寂しかったんだ。







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