97
楽しかったダンスが終って、席に戻る。
意外に体は覚えていた。
凄いな、自分。
安心していた所にだ。
「素晴らしい踊りでございました」
と知らない人達が、やってきては私達に声を掛ける。
けれども、決して嫌な顔はしてはいけない。
常に、微笑む。
だって、話し掛けても失礼に当たらない人達なんだ。
無視もできない。
「ええ、まったくです。素晴らしかったです」
「ありがとう、陛下がご一緒に踊って下さったので、安心して踊ることが出来ました」
「さすが、エリフィーヌ様。素晴らしいのは踊りだけではありませんな?」
「いいえ、それは、陛下が導いて下さったからですの。そうでしょ、陛下?」
へへへ、どうだ?完璧だろ?
と、自慢げにデュークさんを見た。
「エリフィーヌ、おまえが俺の踊りやすいように動いてくれたからだ。楽しかったな?」
「はい、陛下の仰る通りです」
あ、私、自分でハードル上げてる?
墓穴掘ったかな?
「本当に仲がお宜しい」
「一日も早く式を挙げていただいて、早くお子が見たいですな?」
「まぁ、そればかりは、なるようにしかなりませんぞ?」
「その通りですな」
賑やかな一団が過ぎていった。
疲れた。
デュークさん、心配そうに見ないでくれる?
「カナコ、おまえ、色々と、自分で基準を上げて、大丈夫か?」
「不安…」
「気取らなくてもいい。このままのカナコでいいんだから」
「けど、それって、いいの?」
「俺が愛した女だ。それだけでいい」
「馬鹿、…、けど、ありがと」
キスされた。
人前だって、忘れてるわ…。
マリ姉ちゃんと目が合った。その口が動いた。
ご ち そ う さ ま
あ、すみません。
主役よりラブラブで…。
皆さん、今はこんなんですが、ちゃんと仕事は出来てますから、安心して下さい。
ルミナスの王様は、国のために頑張ってますからね!
ようやく宴も落ち着いてきた。
一通り食事が済んだ人達が、それぞれに挨拶を交わし交流を深めている。
けれども、私達の所には余り人は来ない。
いつの間にかデュークさんの侍従がブロックしてるんだ。
だからこそ、私達はこの宴を楽しめている。
ちょっと暇になった私は、また、周りを観察しちゃう。
あれ?サー姉様が見当たらない。
最初の頃は、いた筈なのに?
どうしたんだろう?
美味しいものたくさんあるのに、勿体無いぞ。
探すことを決意だ。
「ちょっとレストルームに行ってくる」
「早く戻れよ?」
「心配症!」
「なんとでも言うがいい」
「馬鹿…」
目配せされる。
当然、隊長が付いてくれる。
わかってるよ、独りになれないことぐらい。
私は、家に入って、サー姉様の部屋へ向った。
「エリフィーヌ様?」
隊長だ。
「中へは、私がお供しましょう」
「ううん、2人して?姉に会うだけだもの」
「では、ここでお待ちしてますが、何かあれば入ります」
隊長なら、仕方がない、な。
「わかったわ」
「畏まりました」
ドアをノックした。
「サー姉様、私、フィーだよ?入っていい?」
「…、どうぞ」
隊長がドアを開けてくれる。
「サー姉様?」
カーテンが閉められて、外の明るさとは正反対の部屋。
そんな中にサー姉様はいた。
そのカーテンを見つめて椅子に座っていたんだ。
「フィー、久し振りね?」
「うん」
「あなた、綺麗になったのね…」
サー姉様は、やつれているように見えた。
「姉様、大丈夫?」
「心配してくれるの?」
「もちろんだよ、私の大事なサー姉様だもの。心配だよ」
「そう、ありがとうね」
静かに笑う。
そんな笑い方をするサー姉様を初めて見た。
「何か、あったの?」
「何も、ないわよ」
「けど、」
「大丈夫なのよ」
「そう、」
「心配なんて、いらないわ。私は大丈夫なんだから」
私のこと、眩しそうにみるの?
ううん、そうじゃない、違う。目が違うの。
「姉様、一緒に、マリ姉ちゃんの所に行こう?マリ姉ちゃん、綺麗だよ?」
「嫌よ、行かないわ」
少しサー姉様に近づく。
「どうして?今日はマリ姉ちゃんの結婚式じゃない?お祝いに来たんでしょう?」
「お祝い?そんな気分じゃないの。独りにしてくれないかしら?」
「けど、今日は…」
「五月蝿いわね!わかってるのよ!」
ビックリするよな大きな声だ。
さっきまで静かな声で話してたのに…。
なんだろう、不安定な感じがする。
大きな声に、隊長が反応した。
すばやく部屋に入ると、彼女はなんの迷いもなく、私とサー姉様の間に立っていた。
「カナコ様?」
私の盾になってくれたんだ。
「ええ、大丈夫よ。ありがとう」
きっと私は戸惑っている顔をしている。
実の姉から私を守るという判断を、隊長が取った。
その事に戸惑っているんだよ。
けれども、そんな私達に対して、無関心な態度をとるんだ、サー姉様は…。
「今日だって、来いって言われたから、来ただけよ」
「なんでそんな事いうの?マリ姉ちゃんの結婚式だよ!」
ふっと、サー姉様が私を睨んだ。
姉様が、怖い…。
どうして?私は、どうしてそう思うんだろうか?
「フィー、あなたは、そうやって護衛を引き連れて歩く身分。マリーは豪商ハイヒット家の跡取り。いいわね、2人とも何の心配事もなくて。そうよ、きっと、自分が幸せなら他人も幸せだと、そう、思っているんでしょ?」
「姉様…?」
「ああ、長女って損よね。一生懸命、面倒見てきた妹達は勝手に幸せになるのに、置いてきぼり食らって、損ばっかりよ。何にもいい事なんて、ないの」
その声は段々と独り言みたいになっていった。
「弱そうな振りをして、魔法も使えない振りをして、そうやって男に守ってもらえるんだもの。卑怯よね。必死に頑張ってきたのに、何の評価も得られないなんて、惨め過ぎるわ。私だって、ハイヒットの娘なのに…」
知らない女性に見えてきた。
そんな僻んだ言葉を吐き散らかす女性ではなかったんだ。
私のサー姉様は、自慢の姉様だったんだ。
「あなた達を見てると、疲れるの。出て行ってくれない?」
「…どうして、…?」
サー姉様は口を閉ざした。
私は、どうしていいのか分からずに立ちすくんでいる。
隊長が言葉を出した。
「カナコ様、これ以上は…」
私は、隊長に促されるままに、無言で部屋を出てしまった。
とても、とても、寂しかったんだ。




