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春の花が咲き誇っている。
なんで春の花には黄色とピンクが多いんだろう?
ハイヒットの庭に大きなテントが張られたそうだ。
今日はマリ姉ちゃんとカルロスさんの結婚式。
私が、久し振りに家に帰る日だ。
本当なら、式の前に帰って、マリ姉ちゃんの支度を見ていたかった。
だって、楽しそうだもの。
けど、だ。
駄目だって言われた。
そんな訳で、私は当日、デュークさんと家に向った。
私が動くときには、隊長が付いて来てくれる。
何も、不安はないのに…、なんで泊まっちゃ駄目なんだ…、まったく、もう。
「着いたぞ?」
「うん」
今日、白はマリ姉ちゃん達の色だ。
だから、私はデュークさんの濃紺の上着に合う、青みがかったピンクの撫子色のドレスを選んだ。
フリルは多め。でも、アリが作ってくれたドレスは似合ってると思うんだ。
「似合ってる」
「ありがとう」
馬車から降りると、お父様とお母様が出迎えてくれた。
「ようこそ、我が屋敷に御出でくださいました」
「今日は無理を言った。すまない」
「いえ、陛下がお越しくだされば、若夫婦にも箔が付きます」
デュークさんはお母様を見た。
「ヴィクトリア殿、もう、怒ってはいないか?」
意外に根に持つタイプだよ、この王様は。
「ええ、もう。娘を見てればわかります。どれだけ大切にされているかが」
「そう言ってもらえると、ありがたい」
「良かったね、デュークさん?」
「これ、フィー、そのような言葉遣いなど…」
「今日の俺はハイヒットの名誉兄様だから、礼儀は適当でいい」
「名誉兄様?」
お父様に言ってなかったのか、姉ちゃん?
「マリ姉ちゃんがね、デュークさんにお願いしたのよ、ハイヒット家の名誉兄様になって、って」
「まぁ、マリーが?」
「だって、そうしないとデュークさんが一番下の義理の弟になっちゃうから」
「あ、そうね…」
「そ、そうだな…」
両親とも、気づいてなかったのか?
なんだ?呑気だな、ハイヒットは。
「さぁ、中へ。皆、待っております」
王様は一番最後に訪れるものなんだそうだ。
それが、決まりなんだって。
だから、私達が到着したら、式が直ぐに始まる。
花嫁衣裳を纏ったマリ姉ちゃんは、美しかった。
カルロス義兄様の顔は、もうこれ以上表現できないってくらいに、嬉しそうだった。
司祭の言葉に、カルロス義兄様とマリ姉ちゃんが頷く。
人前での堂々たるキスも見せてくれた。
もう、本当にご馳走様だ。
2人は夫婦になったんだ。
ハイヒットの庭には見たこともない程、大きいテントが張られていた。
春の日差しも、乙女の柔肌には天敵ですもの。
招待客は400名程度。
これでもかなり絞ったっていう話だ。
だって、ルミナスの王も参加するんだよ。
ハイヒットの勢いはヒュイヒュイと右肩上がり、だろうな。
係わりたい人、大多数。
お父様もお母様も、忙しそうだ。
一番の上座は主役。
マリ姉ちゃんとカルロス義兄様は輝いている。
義兄様はこれが終ったら、ガナッシュへ出張だから、なんか、ラブラブ度が倍増している。
お姉ちゃんのウエディングドレスはもちろん、アリ特製だ。
磨き上げられたお姉ちゃんの、透明で少しピンクな白い肌に合うような白の色が選ばれている。
この姿をみたら惚れる男性続出だと思うけど、もう、人妻だから、駄目だよ?
だけど、その隣に私達が座っていいのかな?って、聞いたら、デュークさんが言った。
「俺達がここに座らないと、皆が困るんだ。だから、いいんだよ」
そう優しい瞳で、耳元で囁くんだ。
こそばゆいよ…。
私達の日常は、そんなに人前では披露していない。
もうちょっと格式ばっていないと、拙いんじゃないの?
王様だよ?
周りの人達は、なんて思うのかな?
まぁ、いいっか。
私もマリ姉ちゃんに負けないくらいに、幸せなんだから、ね!
私達の料理は家の侍女が運んでくれる。
だって、今日はザックとジョゼはお客様なんだ。
カルロス義兄様の恩師夫妻でございますから。
けど、今日のジョゼは綺麗だ。
私の支度を終えてから、急いで支度したんだろうけど、赤いドレスが似合ってる。
おいおい、2人で食事を分けて食べてるよ?仲の良いことで。
ここからでも、見えるんだぞ、わかるよ。
アンリ兄様は…。
どうして、3人もの女性がお兄様を囲んでいるのでしょうか?
グレイス義姉様はどこなの?
あ、アンリ兄様が3人に挨拶をして飲み物をグレイス義姉様のテーブルに運んで行きますよ。
まぁ、仲良さげに微笑み合ったりなんかして。
こちらも、ちゃんと見せ付けておりますわ。
おおおお、あの3人が睨んでおります。
お兄様。
グレイス義姉様との結婚が決まっても、その内に、修羅場がお兄様を待っていると、妹は予言します。
「どうした?」
デュークさんが心配そうにしてます。
私、アンリ兄様を睨んでましたか?
「だって、ほら見て?あの3人。グレイス義姉様を睨んでるよ?大丈夫かな?」
「ハハハ、アンリなら大丈夫だ。そんな心配は止めて食べろ?」
「もう!」
言われなくても、食べてます。
今日はデザートが沢山出るんだって。それが楽しみ。
ジャック兄ちゃんは特選クラスの友人達と談笑中。
もちろん、その中心はザックとジョゼ。
アンリ兄様の女性を分けてもらった方がいいんじゃないか?
ジャック兄ちゃんは…。
あ、マリ姉ちゃんとカルロスがダンスを踊りだした。
とても華やかだ。
お似合いだよね、良かったね、マリ姉ちゃん。
ダンスを終えたマリ姉ちゃんが来た。
「フィーも踊りなさいよ?」
「え?」
そこに、お父様がやってきた。
「陛下、久し振りに陛下のダンスがみたいものです」
お父様、そ、そんな事を…。
娘を窮地に追い込むおつもりですか…。
「そういえば、以前、おまえと踊ったのが最後だな…」
「そんな、昔なんだ。覚えてる?」
「俺よりも、カナコが、な…」
ところが、だ。
なぜか、自信満々なマリ姉ちゃん。
「大丈夫よ、名誉兄様」
「そうか?」
「兄様が上手に操るわ」
絶句です…。
「ハハハ!マリー、おまえには俺達も叶わないな、なぁ、フィー?」
「同意するわ…」
笑い声が響いた。
私は、デュークさんの差し出す手を掴んで、立ち上がった。
ゆっくりと中央に進んで、ポーズを決める。
音楽は私達を待って奏でられた。
私達は青空の下、音楽に乗って踊り出んだ。
デュークさんのリードが上手だから、傍からみると私も上手に見えてると思う。
「楽しいか?」
「うん、デュークさんと踊れて、嬉しい」
「俺はカナコが笑顔でいてくれるなら、何でもするぞ?」
「ホント?」
「ああ、惚れた女には弱いって言っただろう?」
「そうだったね」
「覚えとけ?」
「うん」
丁度音楽が終る。
拍手が聞こえた。
良かった、なんとか様になっていたんだ。
「カナコ?」
「なに?」
引き寄せられて、軽くキスされる。
身内がいるのに恥ずかしいじゃん!
人はこんな私達を、なんと呼ぶのだろう?
日本なら、馬鹿ップル、だよね、間違いなく。




