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丘の上の屋敷に、マリ姉ちゃんとカルロスさんがやってきた。
今日は結婚することを報告にきたんだそうだ。
丘の上は花が咲いている。
マリ姉ちゃんが好きな花を摘んで、私は屋敷に戻る。
摘んだ花は居間のテーブルに飾った。
いい香りがする。
「陛下、カナコ様、マリー・ハイヒット様とカルロス・フェラーラ様がいらっしゃいました」
「わかった」
「今、行くわ」
私達は玄関に向かう。
デュークさんが一緒に来てくれるなんて、珍しい。
エントランスにマリ姉ちゃん達がいる。
明るくて薄い緑色のドレスが似合っているよ。
隣はもちろん、カルロスさん。
お姉ちゃんは、いつの間に綺麗になったんだろう?
私なんか、叶わないなぁ。
私とデュークさんは並んで出迎えた。
「マリー、久しぶりだな?」
「陛下、ご無沙汰しておりました」
いつの間にか、大人びた挨拶もそつなくこなすようになっていた。
マリ姉ちゃんは着々と成長中だ。
ハイヒットは安泰。
アンリ兄様の策に間違いはない。
そして、お姉ちゃんは余所行きの声で私にも挨拶する。
「エリフィーヌ様、お元気そうで、安心したしました」
だから、私の答えも余所行きだ。
「ありがとう」
そう言ってから私は、ちょっと笑ってしまった。
お姉ちゃんも笑ってるよ。
やっぱり、私達には似合わないね。
私は私だし、お姉ちゃんはお姉ちゃんだ。
私達は2人を居間に案内した。
「素敵だわ!」
マリ姉ちゃんは初めて見た居間に驚いている。
ここは私達が寛ぐ場所だからって、ちょっと良い物をおいてあるんだ。
ソファは、もちろん特注だ。
私はもちろんだけど、デュークさんの体もスッポリ覆ってくれる丁度いい硬さと大きさがある。
そして居間の窓には大きなガラスがはめ込まれている。
このソファに座ると、目の前にあの景色が広がるんだ。
何も考えないで、ただ、この景色を見るのが、好き。
隣にはデュークさんがいないと嫌だけどね。
「お姉ちゃん、見て。私の一番好きな景色なんだよ?」
お姉ちゃんとカルロスさんが立ち尽くしている。
そうだろ?感動するだろう?
「素晴らしい景色!ね、カルロス、そう思わない?」
「本当だね、マリー。素晴らしいな」
「でしょ?」
私は嬉しくなって、デュークさんを見た。
デュークさんのちょっと自慢げな笑顔。
もう、惚れ直すよ。
「ここはね、前に、2人でピクニックにきた場所なんだ。デュークさんが、私の好きな景色を覚えててくれたの。そうでしょ?」
「もちろんだ。もう一度、一緒に見たかったからな」
「まぁ、じゃ、陛下。この屋敷はフィーのために?」
「そうなるな。戻ってきたら、一緒に住もうと決めて建てた」
お姉ちゃんたちは、顔を見合わせた。
驚いた?そうだよね?
ごめん。
だって、王様だから、許して。
「さすが、陛下です。スケールが違います」
「あら、カルロス。私には屋敷を建ててくれないの?」
「マリー、それは私が仕事を覚えて、義父上に認めていただいてからだよ?」
「そうね…」
「マリーは待ってくれるだろう?」
「わかったわ」
あらあら、こちらも、ラブラブですこと!
負けてはいられない…。
って、何を競うんだ?
落ち着こう、私。
「2人の式の日取りはいつだったかな?」
「今度の安息の日に、です。陛下とフィー様のお越しをお待ちしておりますので」
「そうか、晴れるといいな?」
「はい」
カルロスさんは私のことをフィー様と呼ぶことにしたらしい。
どう呼ぶかで、だいぶ考えたらしいけど、そこに落ち着いたんだって。
じゃ、私はカルロスさんのこと、どう呼んだらいい?って、平凡でも普通がいいよね。
「カルロスさん、お義兄様と呼んでいいのよね?」
「いえ、カルロスとお呼び下さい」
「駄目だよ、マリ姉ちゃん、そうでしょう?」
「そうね、義理の兄になるんだから、それでいいんじゃない?」
「ね、カルロス義兄様。お姉様のこと、ハイヒットのこと、よろしくお願い致します」
諦めたように笑った。
「勤まるよう、努力いたします」
ホント、真面目な人だ。
けど、気の強いマリ姉ちゃんにはピッタリ。
ハイヒットも安泰だよ。
けどね、お似合い度は、私とデュークさんの方が上だからね?
「どうだ、カルロス。ハイヒットには慣れたか?」
「どうでしょうか…、けれども、マリーが助けてくれますので、安心しております」
「わぁ、惚気だ…」
「なによ、いいじゃない?」
お姉ちゃんは、陛下の前でも、お姉ちゃんだ。
そういうところ、好きだよ。
けど、カルロスさん、少し慌ててる。
「マリー?」
「なに?」
「やはり、陛下の前なんだから、もう少し…」
「え?あ、そうだけど、…」
「今はいいんじゃない?だって、身内しかいないし、そうでしょう、デュークさん?」
話を振られたデュークさんは、なんでか嬉しそうだ。
「マリーか?今さら何を言っているんだ?」
「そうだよね?」
「陛下…、申し訳ありません」
「カルロス、俺は気にしたことも無いぞ?マリーはエリフィーヌの姉なんだからな」
そう言って、私を見るんだ。
「なぁ、エリフィーヌ?」
デュークさんはハイヒットの家族の前では、エリフィーヌと呼んでくれる。
「なあに?」
「俺はおまえと結婚したら、マリー達の弟になるんだな?」
分かってた事なのに、3人で固まる。
だって、一番年上で、王様だよ?
それは、無しにしてもらいたいよね?
ね、お姉ちゃん?
「あ、えっと、そうだね…」
「兄と姉が出来るのか…、楽しみだな?」
私とマリ姉ちゃんは、互いに目を合わせて、拙いぞ感を共有した。
「デュークさん、それ、冗談よね?」
「陛下、それは…」
私達姉妹の拙そうな声に、苦笑いするんだよ、ここの王様は。
「そうだな、すまなかった、ハハハ」
笑うな、皆、ビビッたんだから。
「デュークさん、驚かせないで!」
「皆、悪かった。けどな、俺には兄弟がいないから、賑やかなハイヒットが羨ましいんだよ」
そうだったね。
デュークさんには兄弟どころか両親もいないんだ。
「そっか…」
しんみりした雰囲気が漂う。
「なら、」
とマリ姉ちゃんが言うんだ。
キラキラとした顔でね。
「陛下、私達兄弟の名誉兄様になって下さいませんか?」
「名誉兄様?」
なんだそれ?
「陛下が兄様なら、怖いものはありませんもの」
そりゃ、そうだ。
マリ姉ちゃんは最高だな、相変わらず。
「マリー、気に入った。俺はハイヒットの名誉兄様に就任するぞ?」
「よろしくお願い致します、名誉兄様」
なんだか、納まった。
デュークさんはご機嫌だ。
まったく、可愛い奴だ。
可愛すぎて、どうしたらいいのか分からなくなるんだよ。




