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92 あなざーさいど16

サーシャの話になります。

かなり暗い話になりますので、苦手な方は飛ばして下さいませ。

飛ばしていただいても、本編に支障はありません。

サーシャの独り言。




ハイヒットの美人姉妹。




最近、世間はそう噂しています。

だけど、そこに私は含まれていません。


世間には、私は、認知されていないんです。


昔は気にもなりませんでした。

妹達は可愛くて、守ってあげないといけない存在でしたし。

ハイヒットの子供は、上の3人が魔法を使えて、下の2人は使えない。

その代わりに、下の2人は人より美人に生まれたんだ、って思ってました。


それで、私のバランスが取れてました。

私は兄弟の中で一番魔法が使える、そのことが、長女の誇りでもあったんです。



それが、崩れたのは、いつからでしょうか?

遡ったって無意味ですが、いつ?


そうですね、多分、フィーが魔法を使えるとわかった日ですね。

幼いフィーが私達兄弟の前からいなくなった時、


『今まで、優しくしてくれてありがとう。私、みんなが大好きだったよ』 


そう言って、凄いスピードで消えたあの日です。



私はフィーを引き止めることもしませんでした。

一番早く反応したのは、意外にジャックだった事を覚えてます。


「姉ちゃん、フィーを探さないと!」

「あ、そう、ね」


あのアンリも、呆然としてました。

あれは私とは違う意味で驚いていたんでしょう、きっと。


「姉様、僕たちでは無理だ。お父様に相談しよう」

「ええ…」


私は、弟達に引っ張られるように、家に戻りました。





あの時にすでに、始まっていたんだと、そう思います。




その後、フィーが前世の記憶を持っていることがわかり、それが原因で誘拐されて、そして、陛下の元に去ってしまいました。

あの時はまだ、私は私で、学院での仕事が楽しかった時期です。

全然、気にならなかった時期です。


一度、陛下と家に戻ってきたフィーは、輝いていました。

陛下のフィーを見つめる瞳…、あれが愛する人を見つめる瞳なんだ、と思いました。

これまで学院でお会いした陛下とは全然違ってましたから。

陛下の寵愛を一心に受ける寵妃。

そういう存在に、妹がなってしまったんです。



一段と美しくなった妹を見て、羨ましいと、初めて思いました。



気づいたら、私は、…、妬んでました。

なんで、でしょうか。




私は学院長の下、幾つかある研究チームの一つを任されていました。


時期は、フィーが陛下の元に去った頃の事。

私達のチームは城の中の浄化を任されました。

その陣頭指揮は学院長が自らがお取りになりました。

私は、学院長と一緒に仕事が出来て、とても、嬉しかったんです。


それは陛下と新しく妃になる方のための仕事です。

そうです、妹のエリフィーヌの為に行われた仕事です。


もちろん、学院長の信頼に答えるべく、私達は城をくまなく調べました。

以前この城を支配していたリチャード様は、姑息な程、魔法による仕掛けをあちらこちらに施していました。

それほどまでに、デューク王が憎かったのでしょう。


城の浄化が概ね終った頃、私は、自分の想いに気づいてしまいました。



いや、想いを止められなかった、という方が正しいです。

学院長に信頼されても、決して愛されないことに、我慢できない自分がいることを、です。

フィーのように愛されたかったんです。

それは、近くて一緒に仕事をすればするほど、強く願望として残りました。


そうです。

私は幼いころから、魔法学院の低学年の頃から、学院長が好きでした。

もちろん、奥さんがいらっしゃることは知ってます。

それでも、想いは別でした。

だから、報われないのであれば、片腕になりたい、そう願ったんです。

だから、自分から願って研究チームに入りました。

側にいたかったんです。




お爺様が口うるさく、女がそういう所にいると間違いが起こると引き止めましたが、私には見えてませんでした。





私は、もう処女ではありません。

母は気づいているかもしれないけれども、それ以外の家族には知られていなでしょう。

知られたくもないんです。



だって、好きでもない人間が、初めての相手だったんです。

それは余りにもフィーとは違いすぎますから。


相手は、学院の特選クラスの同期です。それだけの関係の男です。

どんな関係であれ、魔量が尽きた濃銀の男に、簡単に近づいた私が、馬鹿だったんです。


あの日。

どうしても、彼に書いてもらわなければいけない書類があって、それを持って部屋を訪ねました。

仕事が続いていて、魔量が尽きるころだって、なんとなくわかってはいたんです。

けど、私は大丈夫、と思ってました。

驕りです。


ドアが開いて、私だとわかると、いきなり部屋に連れ込まれ、押し倒されました。

魔法を使う間もなく、抑えられ口を塞がれて…。

もちろん、必死で抵抗しました。

嫌で嫌で、…。

けれども、無駄でした。

頬を叩かれ、彼だけが満足し、私には惨めさと、痛みだけが残ったんです。


愛などありません。

大切にもされませんでした。


「わかってて、来たんだろう?」


満足げな男はそう言いました。

私は何も言えなかった。

涙を堪えて、ただ黙って、床を見つめて…。


「酒でも飲むか?」


男の言葉で、ようやく気を取り直し、クシャクシャになった服を身につけ、書類を置いて、無言で部屋を出ました。




そのまま、家に帰って、自分で自分の痛みを治し、独りで部屋で泣きました。

あまりにも妹と違い過ぎる、惨めな自分の経験に涙が止まりませんでした。

その夜はご飯も食べずに、そのまま眠ってしまいました。


「サーシャ?大丈夫?」


翌朝、お母様が様子を見に来ました。


「大丈夫、気分が悪いだけ。少し寝ていれば大丈夫だから」

「そう?ねぇ、サーシャ?」

「なに?」

「そろそろ、魔法に拘らなくても、いいんじゃないかしら?あなたにも幸せになって欲しいの…」


お母様に悪気が無いことは、わかっています。

心配してくれている事も、です。

けれども、その言葉は、私の痛みに触れてしまいました。



もう、遅いわよ…、間に合わなかったのよ!



そう、私の心が叫びました。

母には言えませんでしたが。


「私、気分が悪いの、出て行って…」

「サーシャ…何があったの?」

「出てって、独りにして!」


しばらく、お母様は留まっていたけれども、結局は部屋を出て行きました。


しばらくは、そのまま、家に閉じこもりました。

どこにも行きたくいなかったからです。

毎日家にいる娘を心配したお母様が、買い物に誘ってくれたり、劇でも見ましょう?と誘ってくれました。

けれども、もう、私は捻くれていました。

子供の頃から、そんなのはマリーとフィーが行くもので、私など誘ってもくれなかったのに、と思ってました。


素直に、お母様の言った通りに、この時に学院を辞めて家に戻れば良かったんです。




誰にも会いたくありませんでした。


1週間、学院にいきませんでした。

職場放棄です。

心配した同僚が様子を見に来てくれたらしいですが、会いませんでした。

学院長も心配してる、って伝言を聞いても、空しさを感じただけです。


気づけば、家中の人間が腫れ物に触るように私に接するようになりました。

それはそれで、気分が滅入るんです。

私は段々と不機嫌になっていきました。

自分を抑えられません。





いったい、どこを間違えたんでしょうか?






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