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また、日々が過ぎる。

今の季節は冬なんだ。


冬と言っても、雪が積もるわけじゃない。

そりゃ、降ることは降るけど、直ぐに消えてなくなる。

ホワイトクリスマスなんて、ない。

雪もないけど、宗教もないんだ。


まったく、ルミナスの人たちは逞しい。


それでも、寒いことには変わりない。

地下はあんまり気温の変化がないから、たまに地上に来て、その寒さに風邪をひいたりするらしいよ。

その分、地上の料理は季節の影響を受けて、バラエティーに富んでいる。

今の季節は、シチューみたいな煮込み料理が多いんだ。


そうそう、ここルミナスでは、お惣菜のお店が多い。

特に地上は多いそうだ。


昔は2000万人程いたらしいけど、魔物のせいで人口が1/4に減ったルミナス。

大半が地下に潜って、地上には100万人ほどが暮らしている。

その100万人でこの国のいろんなものを動かしているので、働き手は慢性的に不足しているんだ。

だから、女性も当たり前に働く。

もちろん、産めよ増やせよ、なので、育児に対しても、国の政策は手厚い。

とにかく産んだら、仕事しても育てていけるんだ。


魔物の事もあるから、母子家庭も多い。 

アリのところなんか、そうだもん。


で、そこで、お惣菜が活躍してる。


お金持ちの家は違うけどね。

ハイヒットは家に調理人がいたから、私はお惣菜が珍しくて堪らなかった。

学園の帰りに、時々、マリ姉ちゃんと一緒に買い食いをした事もあったんだ。

あれは、楽しくて美味しかった。



あ、話が逸れてる。



とにかく、今は冬だ。

そして、丘の上の屋敷で、私はデュークさんと暮らしている。

私の毎日は、意外に退屈しないで過ぎる。

テッドとお米の入手方法から調理法までを話し合い、爺とは大根おろしの作成で意見を交わした。

デュークさんという後ろ盾を得て、抑えていた日本食への懐かしさが爆発中なんだ。


なにも無いところから、日本食を求めるとなると、やはりお金が掛かる。

ようやく、動き出せるんだよ。





そして、ついに、鍋に手をつけた。


もちろん土鍋が無いので、銅の平鍋で代用。

問題はコンロだって思ってたんだけどね。

気づきました。

魔法で煮込めばいいじゃん。

まだ、日本人の感覚が抜けないのか、それとも、必要のない生活をしているせいなのか。

私は、魔法の利便を享受しきれてない。

この魔量は、もったいない気がしてるんだ。



で、とにかく、鍋だよ、鍋!


デュークさんと2人でつつくんだ。

野菜は葱があってくれて、嬉しい。

肉は骨付きの鶏肉、あと、白菜。


ポン酢は作った。

醤油がないから、塩味のポン酢だ。

たっぷりの大根おろしを入れる。


「なんだ?これは…」


1人分が皿に乗ってくる料理しか知らない王様にとっては初体験だろうな。


「鍋。日本では普通に食べるの」

「この鍋の中のモノを?どうするんだ?」

「見てて」


私は鍋から鶏肉と野菜を綺麗にポン酢と大根おろしが入った小皿に入れて、デュークさんに渡す。

まず、箸に驚いている。


「棒を使って挟むのか?器用だな?」

「そう?これは箸といってね、フォークとナイフの代わりよ。慣れたらこっちの方が使いやすいと思うんだ。はい、このソースをつけて食べると美味しいよ」


美味しいって言葉に、半信半疑、って顔。

私が自分の分を美味しそうに食べたのを見てから、食べる。

慎重だな?それとも、猫舌か?ああ、そうに違いない。猫だもん。


けど、一口食べて、笑った。


「カナコ、美味いよ」

「でしょ?」

「この酸っぱいソースがいいな?」

「ポン酢っていうの、どれだけでもいけるでしょ?」

「ああ」


美味しそうに食べる。

良かった。

そして、私を見て微笑む。


「なに?」

「懐かしいか?」

「懐かしいわ。特に食べ物って不思議よね。無償に食べたくなるから」

「それもあるが、ニホンが懐かしいか?」

「どうだろう…。時間が経ち過ぎたのかもしれない。ううん、今が一番幸せだから、あまり懐かしくない、かも」


あ、お母さん。

すっかり存在を忘れてました。

親不孝でごめんなさい。

けど、ルミナスで楽しく生きてるから、安心してね。


「そうか…」

「どうしたの?」

「ニホンの料理を食べている時のカナコは幸せそうだから、な」

「え?そう?」

「ああ、ちょっと、嫉妬した」

「料理に?」

「そうだ、悪いか?」

「デュークさん、可愛い…」


赤くなるなよ?


「王に可愛いって、な…。おまえだけだぞ、そんなことを言っても許すのは…」

「照れてる?」

「五月蝿いなぁ、」


拗ねてる君も、可愛いぞ?


あっと言う間に鍋の具が終る。

ここからだ。


「なぁ、これだけじゃ、少し物足りない…」


だろう、そうだろう?ワザとだよ。


「これからが本番なの」


うどん、ですよ。

テッドにお願いして打ってもらったんだ。

テッドも感動していた。


「なんだ、それ?」

「小麦粉の麺よ。これをシメといってね、このスープを味わいつくすの」


うどんを入れ、軽く塩コショウ。

煮込むぞ。

麺の固さは柔らかいのが好みなんだ。

中火くらいの強さで持続するように、魔法を掛ける。


上手くいった。

これは、便利だ。


ああ、ここまできたら、大豆文化も生み出したい。

醤油、味噌、豆腐、納豆!


あ、うどんが出来上がった。


「さぁ、食べて?」


あらかじめ、味が分かっているせいだろう、デュークさんのフォークは進む進む。


「カナコ、これはいい。体が暖まる」

「美味しいね?」

「ああ、美味しいな」


鍋って大人数で食べた方がいいんだよ?

文化的に無理だろうけど。


けど、デュークさんと鍋つつけるとは思わなかった。

日本酒飲みたい。





この鍋は、デュークさんのお気に入りとなった。

よかった。

一つが成功すると、次への野望が膨らんでいくんだ。


そう、豆腐が欲しい。


豆腐ってどうやって作ったかなぁ…。

テレビで良く目にしてた気がするけど、思い出させそうで、出てこない。

この残念な頭をどうにかしたいよ、まったく。



どこかに日本料理のレシピ集売ってないかな?





あああ、もう!お金なら、あるのよ!







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