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私はアンリ兄様に尋ねる。
「アンリ兄様、陛下に挨拶って?」
「うん?」
気のせいか?
一瞬場が止まった気がしたぞ。
なにか機密事項でも話してたのか?
「父上、フィーに話しても構いませんね?」
「あ、そうだな」
「何?」
アンリ兄様がチラリとお爺様を見た。
「今度、私がスタッカードを継ぐことになったんだ。その挨拶さ」
「え?ハイヒットは?どうなるの?」
アンリ兄様が継がないで、誰が継ぐの?
何がなんだか分からない。
お父様が、話し出す。
「フィー、心配はいらないよ」
「けど、お父様、ジャック兄様とサー姉様は学院に残るだろうし、って、まさか?」
「まさかは、マリーに失礼だろう?」
「あ、ごめんなさい。けど…」
アンリ兄様が可笑しそうに笑う。
「カルロスを覚えているかい?」
覚えてるよ。
女しか連れてこない兄様が、唯一連れて来た男友達だもん。
「ええ、お兄様の唯一のお友達だもの…、あ、ゴメンなさい」
兄様は咳払いした。
「えっと、家に連れて来たことがある男友達は、カルロスだけだから間違いではないよ」
名誉のために、言い訳するんだな?
認めよう。
「そのカルロスが、マリーと結婚するんだよ」
「マリ姉ちゃんが?結婚?」
「そう、しかも、おまえよりも早くにだ」
ここで反応するデュークさん。
「ワザと遅くしてる訳じゃないぞ?まだ色々と取り除くことが多くてな…」
誰に言い訳してるの?
あ、…。
「それは、この年寄りにも、わかっておりますよ」
「そうか?それなら、いいんだが…」
デュークさん、お爺様が苦手か?
仕方ないないなぁ。
私はデュークさんの隣に立って、手を握ってからお爺様に反論したんだ。
「お爺様、あんまり陛下を苛めないで?私は陛下の味方なんだから、わかってくださる?」
デュークさんったら、握り返してくれた。
可愛いんだ、ホントに。
ラブラブ振りが伝わったのか、苦笑いのお爺様だ。
「フィーの頼みならば、仕方ないな。わかったよ?」
「ありがとう!お爺様、大好き!」
もう一度お爺様に抱きついておいた。
しかし、驚いた。
マリ姉ちゃんが結婚するのか…。
けど、カルロスさんなら、お似合いだ。
もしかして、カルロスさんが家に遊びに来てたのって、このためなのかな?
アンリ兄様って策士過ぎてややこしいわ。
その策士アンリが涼しげな顔をしてデュークさんに報告を続ける。
「2人の式は早いほうがいいと思いまして、来月の安息の日に執り行います」
マリ姉ちゃんが、人妻か…。
「ハイヒットの屋敷で行うのか?」
「その予定でおります」
出たいなぁ、物凄く出たいぞ。
デュークさんを見た。
「デュークさん?私、マリ姉ちゃんの式に出でもいい?」
ニッコリと笑ってくれる。
「ああ、いいぞ」
「良かった!」
「俺も出るからな」
「え?陛下?」
お父様が驚いている。
いや、みんなビックリしてるよ。
王様が出席するんだよ?
そんなに無いことなんだよ?
「貴族の式ではございませんから、」
お父様が遠まわしに発言する、が。
「身内の式ではないか?俺が出ると拙いのか?」
そうじゃなくて、準備が大変だと言いたいんだよ、お父様は。
察しろよ、そこを。
しかし、だ。
「エリフィーヌが出席するならば、俺も出る。頼んだぞ?」
ああ、聞く耳持ってませんよ?
お父様、諦めましょう。
「まぁ、父上。陛下がご出席となれば、ハイヒットに箔が付きます。良かったではありませんか?」
アンリ兄様、人事ですね?
「そ、そうだな…」
可哀想な程に動揺しているお父様です。
あれ?お爺様はニヤニヤしてる…。
まぁ、当事者じゃないからだろうな。
アンリ兄様の報告は続く。
「陛下と妹の式までには、ガナッシュは片付けますので」
「頼んだぞ?」
「はい」
うん?なんで、ガナッシュなんだ?
「聞いていい?ガナッシュってなんの話?」
「今度、ガナッシュに支店を出すことにしたんだよ」
「ハイヒット商会の?」
「そう。なので陛下にご挨拶を。陛下、ご配慮、ありがとうございます」
ハイヒット商会の支店を?ガナッシュに?
だって、ガナッシュだよ?
「それって、大丈夫なの?」
「フィー、商人は商売になれば何処へでも行くものさ」
「おまえが心配するような事にはならないから、大丈夫だよ」
「けど、お父様。誰が行くの?」
「アンリとカルロスだよ」
お兄様が?
色々と不安だ。
まぁ、カルロスさんがいるなら、大丈夫か。
「お兄様、大丈夫?」
「フィー、心配してくれて嬉しいよ。けどね、意外に強いんだ、私は」
知ってるよ、特選クラス出身じゃん。
そっちじゃねーよ…。
いかん、言葉が乱れた。
「そう…」
デュークさんが肩を抱いてくれる。
「あまり心配するな、それよりも、お腹空いてないのか?」
何、その心配…。
いや、空いてますけど。
「そりゃ、お昼だもの…」
「皆で食事をしよう。用意させてある。まぁ、昼なので簡単なものしかないが、許してくれ」
いろんな『?』が残ったままだったけど、私達は食堂に移動した。
和やかになってるんだから、それで良しとしよう。
食事は意外に賑やかに進む。
そして、アンリ兄様が意地悪だったことが判明。
「で、陛下、4歳の子供が毎日陛下の肖像画に向って、ブツブツ言っている訳です」
「ほう?」
「これは何かあると思うほうが自然でしたね」
「アンリ兄様…」
あんたはこれ以上私を怒らせない方が、いい。
「なんだい?フィー?」
「これ以上の暴露、妹としては許しませんよ?」
そうだよ?なんだったら、魔法をぶっ放そうか?
「アンリ、やめておけ。こいつは最近、俺と一緒に魔物征伐に出かけていてな。魔法に慣れてきた」
「フィーがですか?」
お父様、ご安心を。
現地では、私の最愛の人が私を守ってくれますから。
「大丈夫よ、陛下がご一緒だし、ザックもいる時にしか出ないから」
「エリフィーヌは、ルミナスでは一番の魔量の持ち主だ。心配はいらない」
なんか食い違ってない?この説明?
まぁ、いいっか…、いいのか?
けど、アンリ兄様は笑っているんだ。
「そうですね、フィーの魔量の凄さはわかっているつもりですから。フィー?兄は自重するよ?」
「アンリ兄様。フィーは嬉しゅうございます」
なんだ、お爺様?
まだニヤニヤしてるんだから…。
「お爺様、どうしたの?」
「いや、孫娘が幸せな姿は良いものだと思ってな…」
「お爺様…」
すかさず、意見する王様だ。
「公爵、俺がエリフィーヌを大切にしていることを分かってくれたか?」
「もちろんですよ、ですが、釘を刺すのはまた別のこと」
「相変わらず、食えん」
「そうでなければ、陛下の下で働けません」
「そうだな」
2人だけでしか分からない会話をするなよ…。
つまらん。
けどね、デュークさんは凄いんだ。
ちょっと不機嫌な私に直ぐ気づいてくれるんだよ。
「どうした?」
「なんでもない」
「そうか?なら、もっと食べろ?」
私は大食いキャラか?
まぁ、食べるのは好きだから、いいけど。
その後も話は続いて、そして、食事会は終った。
お爺様達は、屋敷をあとにした。
安心してくれたみたいで、私も嬉しかった。
それにね。
デュークさんも、楽しそうだった。
その姿を見てるだけで、私も嬉しくなっちゃうんだよ?




