84 あなざーさいど 13
ポポロ・ライゲルの視点
憂鬱です。
憂鬱なことが、続きます。
先日、急に、陛下から丘の上のお屋敷に来るように、呼び出しが掛かりました。
自宅に、いきなりです。
「ポポロ、悪いが今すぐに来てくれ」
まぁ、簡単な呼び出しです。
取るものもとりあえず、家を飛び出し、馬車で駆け付けました。
一体何事かと思えば、まぁね、待たされました。
申し訳なさそうな、ジョゼさんが私に紅茶を入れてくれました。
「今朝方早くにリチャード様から、こちらの屋敷に来たいと連絡が入り、陛下がポポロさんを呼び出したんですが…」
「はぁ、で、肝心の陛下は?」
「申し訳ありません、カナコ様とご一緒で…」
「あ、まぁ、それはジョゼさんのせいではないので…」
「仲がよろしいのはいい事なので、大目に…」
ジョゼさんの困った様子に、笑ってしまいました。
「ポポロさん?」
「いえね、私はリリフィーヌ様にお会いしたことはないのですが、お噂だけは伺っておりました。陛下を手玉に取ってやりたい放題だとの噂でしたが」
「そうでしたね、リリフィーヌ様はそうでした」
「そこに、カナコ様が現れたんですよね?」
「ええ、いきなり、入れ替わられてしまいました」
「時々ね、思うんですよ。どうして陛下がカナコ様を求めるのかなぁとね」
「そうですね、どうしてなのでしょう?」
「その当時、まだ18歳でしたね、陛下は?」
「18歳でしたね」
「ご両親を早くに亡くされて、お若くて、けど、ご家族といえば、あのリチャード様だけ。リリフィーヌ様を求めたのはお綺麗だったから」
「身も蓋もない話ですが、まぁ、事実ですから…」
ジョゼさんも苦笑いだ。
「ところが、カナコ様は必死に陛下を愛された。今を見てればわかります。カナコ様は不器用なほどに陛下を愛される。なんの見返りも求めないで」
「そうなんです、それが、カナコ様なんです」
「生まれて初めて、愛を知ったんじゃないでしょうか?」
「陛下がですか?」
「そうです。愛されることを知ったんです。リリフィーヌ様に愛を注いでも、あの方は砂漠のような方でしたのでしょうから、満足されたことは無かったのでしょう。しかし、カナコ様は返してくれる。愛を注げば注ぐほど、陛下を愛するのがカナコ様です」
「なるほど、良くわかります。陛下が愛すればカナコ様も愛するし、カナコ様が愛すれば陛下も応える、その通りです」
そうなのだ、カナコ様に出会って、生まれて初めて陛下は愛されたんですよ。
「ええ、いろんな愛をカナコ様が陛下にもたらしたんじゃないかと、思うんです」
「いろんな?」
「男女の愛、家族の愛、両親の愛、友人の愛、国への愛。もっとあるかもしれません。そして、知ったんですよ。それは楽しい事だって」
「楽しい?」
「ええ、最近の陛下は良くお笑いになります。もちろん、カナコ様が奇跡的に戻られたからですが、いつも楽しそうにしてらっしゃる」
「そうですね、以前に比べると、格段にお優しくなりました」
「ルミナスにとっては良いことです。そうではないでしょうか?」
「間違いありません」
「だったら、待たされることなど、我慢しなくては、でしょう?」
「そうですね…」
私達は笑ってしまった。
それから、差しさわりのない会話を続けていたところに、リチャード様の来訪を伝える侍従が現れたました。
「仕方ありませんが、陛下に連絡致しましょう」
受話器を取って、陛下に告げます。
「陛下?リチャード様がお見えになられました」
「ああ、わかってる。すまないが待たせておいてくれ。直ぐに行く」
「畏まりました」
私は、あのリチャード様を迎えに行きました。
嫌でしたが。
「ようこそ、リチャード様。陛下はもう直ぐ参られます」
彼は、陛下とは似ていません。
緑の髪、赤紅の瞳、そして、緑の顎鬚。
品がいいのですが、どこか、だらしなく見えるのは、その生き方のせいでしょう。
「君は、なんという名前だ?」
「申し遅れました。ポポロ・ライゲルと申します。先日、陛下より左大臣を承りました」
「ふーん、リックが失脚したから、お鉢が回ってきたんだな?」
「さぁ、どうなのでしょう。私は申し付かっただけですので」
「まぁ、いい。案内してくれ」
陛下は既に会見の間にお出ででした。
ところが、です。話の内容は、どうでもいいことばかり。
挙句に中座した上に、勝手にカナコ様の部屋に入るなど…。
目的は、カナコ様でしょう。
彼が帰ったあとで、陛下はこう仰りました。
「カナコが魔法を使えることは、曖昧にしておこう。使えないと思って油断させた方が良いかもしれない」
「そうですね、では、そのように」
かなりイラついて、隊長を招集することを告げて、また、お戻りになりました。
カナコ様、なんとか、あの機嫌を直しておいてください。
そして、今日です。
とっても、憂鬱ですよ。
そりゃそうでしょう?
今日はリックさんの処刑の日です。
立ち会えなんて、なんで、私なんでしょうかね?
聞いてみました。
リックさんの希望だそうです。
そりゃ、左大臣なんですから、その位見届けますよ。
初めてじゃあるまいし。
けどね、一応上司だった訳で、お世話になったと思う訳ですよ。
最期ですか…。
なんで、あんなことしたんですかね?
陛下の最愛の方を拉致して、こともあろうか、ガナッシュに亡命するなど。
けれども、陛下も陛下です。
たった10名でガナッシュに乗り込むなんて…。
私もトーマスさんも、直前に陛下から知らされた時には、心臓が痛かったです。
もし何かあったら…。
けれども、陛下を止めることはできませんでした。
あの陛下の姿を見ると、言えませんでした。
結果が良かったのですから、それで、良いことにしましょう。
処刑場に着きました。
今回、処刑は非公開、方法は毒殺です。
毒は即効性の強いものをとの、希望です。
久しぶりに見た彼は、少しやつれてはいましたが、清々しさすら漂わせていました。
「やあ、ポポロ。久しぶりですね?」
「ご無沙汰してました。この様な場所ではお会いしたくなかったです」
「そうだね。私も再びルミナスに戻るとは思っていなかったよ」
「なぜ、どうして、あのようなことをしたんですか?」
リックさんはここで笑うのです。
「なぜ?後悔したくなったからだよ。以前のように、カナコを失いたくなかった。私がカナコの側にいるべきだったんだから」
「あれほどまでに、あの、お2人は愛し合っているのにですか?」
「そんなことは私にはどうでもいいことだ」
「カナコ様の気持ちは、どうなるんです?」
「気持ちなど、変わる。年月さえあれば変えてみせた」
「その年月が無かったことが、全てを物語っていると、そう思わないんでしょうか?」
この人は、まだ笑うのです。
「私に運がなかったと言いたいんだね?」
「いえ、違います」
「じゃ、どういう事だろう?」
「カナコ様の運命に、貴方はいなかったのです。そう考えますが?」
「私が、いない?」
リックさんの顔色が赤くなりました。
鬼の形相ですね。
「そんなこと、あるはずない!」
そんなに睨まなくてもいいんじゃないか、と思いましたが、黙りました。
なにせ、もう直ぐ死ぬ方ですから。
「そんな馬鹿なことが、あってたまるか!」
「まぁ、今となっては、事実が残っただけですからね。どう思おうと貴方の自由です。ですが、」
「なんだ!」
「貴方は反逆者だ。王といずれ王妃になられる方に仇名す存在だ。その烙印を押されたままで旅立って下さい。都合の良い言い訳など、誰も信じません。それでは、準備を」
看守が毒薬の入った杯を彼の目の前に置きました。
私と2人で見届けます。
彼はジッと杯を見つめ、小さい声でいいました。
「都合の良い、言い訳など…」
それでも、やはり、左大臣まで登り詰めた方です。
「私は、反逆者で構わないよ。王も弟のザックも、カナコを殺した全ての人間に復讐したかったんだからね。途中までだったが、やらずに後悔するよりは、いい。良い人生だったんだよ、私の人生は…」
そう言って、杯を飲み干し、私を睨んだのです。
私も、睨み返しましたが。
彼の命は処刑場で、潰えました。




