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嫌な空気が残った。
窓開けて空気の入れ替えしたい!
って、そこは魔法か?
そうだ、そうだ。
ヒョイ!
爽やかミントの香りにしてみました。
自分でやっておいてなんだが、いい香りだ。
しかしだ。
「失礼致します」
戻ってきたジョゼは、怒りを纏っている。
言葉が、怖いぞ。
おっさん、あんた、ジョゼを怒らせたな?
受話器を取り、電話を掛けてる…。
誰に?
あ、デュークさんにか。
「陛下、先ほど、リチャード様がこちらへ」
なんか、聞こえるよ…。
受話器の向こうの声が聞こえるよ。
なんだと!
「申し訳ありません」
いい、カナコは?
「ご無事です。ただ、お顔を見られてしまい…」
何!
「如何いたせば宜しいかと…」
あの…、いったい!…、
デュークさん、何を言ってるのかわからない。
けど、怒ってるよ。
どういうこと?
あのオヤジは問題アリなのか?
…。
だろうなぁ。
日本にもいたよね、一見柔らかそうな感じで、実はどうしようもないおっさん。
だって、凄くいやらしい目つきしてたもん。
どの世界にでもいるんだぁ…。
ジョゼ、電話を終えた。
受話器を置いて、私の方へ振り向いた。
「ジョゼ、あの、おっさん、誰?」
「リチャード様ですか?」
「うん」
「あの方は陛下の父君、先王の弟です」
「デュークさんに、似てなかったね?」
「そうですね、陛下は母君に似ておいでですから」
「ふーん」
デュークさんのお母さんって、綺麗な人だったんだな。
「いずれ分かることですので、前もってご説明致します」
「うん、お願いするわ」
食事は終ってる。
お腹、一杯です。
ありがたい。
ジョゼは片付けると、侍女を呼んで引き上げさせた。
「今、お茶を」
「ありがとう」
ジョゼの入れてくれるお茶は美味しい。
そして、ジョゼが話してくれた。
リチャードは、先王の15歳下の異母弟だ。
ちなみに、先王には他に姉がいる。
このリチャードは側室の子。
彼が7歳の時にはもう、デュークさんが生まれたので、王位継承権は持ってはいるが、蚊帳の外だったらしい。
人当たりがよくて、言葉が上手なリチャードは、たくさんの側室を持ち、既に3人も子供がいる。
デュークさんが亡くなれば、その子供達に王家が流れることになる。
まったく王座には興味がない振りをしていたのに、実は着々と狙っていたらしい。
そして、彼の野望は半ば達成した状態となっている。
それなりに支持者もいるってことだ。
だが、彼の問題は、女だ。
病気的なほどに、女に手が早い。
特に、デュークさんの妃には、必ず、手を出す。
あ?
なんといいました?
「え???」
「彼は、王家の恥です」
「デュークさんはそれでいいの?」
ジョゼは、なんと言ったらいいのか、諦めの境地に立ったような、顔になる。
「リリフィーヌ様は、ご自分のなさりたい事をなさりました。それはデューク様ですら止めることは出来ませんでした」
「リリさん…」
「あの方は、生まれながらの娼婦でございましたから」
生まれながらの娼婦って、ね…。
過激な表現ではありませんか?
「デュークさんは?それで良かったの?」
「盲目の愛ほど怖いものはありません。陛下は、だたただ、リリフィーヌ様を見ていたかったのです」
「そんな…」
「いくら私どもがお諌め致しましても、陛下は結局はお許しになられました」
そうだね、愛してたと思うよ。
あんなに怒っていたんだもん。
なんで、リリじゃないんだって、ね。
あ、あの時の言葉だ…。
「拒まない拒絶、か…」
「拒まない拒絶?」
「昔、デュークさんが、そういったの。リリさんは他の男に抱かれても、それでも、デュークさんに抱かれるからね。気持ちがどこにあるかわからなかったんだよ。寂しいね。どんなにデュークさんが愛しても、応えてはくれなかったんだ」
「そうかも知れません。陛下もまだお若くて、それでも王として寛大でありたいと思われたのでしょう」
「けど、それは間違った方向に寛大だよね?」
「そうですね。けれども、カナコ様に出会われてから、陛下はお変わりになりました」
「そう?」
「ええ、真っ直ぐに愛される喜びを、初めてお知りになった、と、ジョゼは推察致します」
なんか、照れるなぁ。
いや、私が不器用なだけかもしれないよ?
「ですから、カナコ様が亡くなれてから数年、女性を一切寄せ付けず、ひたすらに魔物討伐に向われていたのです」
「約束したんだ。私がいなくなっても、ルミナスの王でいてねって」
「そうでしたね…」
「デュークさんて、可愛いね」
「まぁ、?」
「え?変なこといった?」
「陛下を可愛いなんて言えるのは、カナコ様だけです」
「へへへ…」
そうかな?
可愛いよ?
「で、なのに、魔物征伐の後でドリエール様に嵌められまして…」
「そうだった」
「ご結婚なさった訳ですが、事実をお知りになった陛下はドリエール様を遠ざけました」
けど、濃銀になることがあるんだよね。
「濃銀になった時は?ひたすら悦楽の館通いですか?」
「そうなります」
「それも…、仕方ないけどね」
まぁ、ね。
それに焼もち焼いたって、どうにもならないしね。
で、だ。
ドリエールさんは寂しかった、と?
「そこに当然、リチャード様が接触なさりまして。まぁ、リチャード様に落ちるのは早かったですね」
「本当に、それでいいの?ルミナスは?」
そうだよ、モラルって概念はルミナスにもあるって、デュークさん、いってたよ?
この話だと、まったくないじゃん?
どうなっているんだ?
その時だ。
ドアが開いて、デュークさんが帰ってきた。




