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日にちを改めて、私の練習のための魔物征伐が行われた。
この世界は、魔物征伐には2種類ある。
計画的に行われるものと突発的に行われるもの。
どちらについても、事前事後に国に報告がなされる。
それをデータとして蓄積していけば、色々と判るからだ。
今回は計画的に行われる。
方法は簡単だ。
以前のピクニックに行った時みたいに、強い魔法を放てば魔物が現れる。
現れた魔物は死ぬまで存在し続ける。
そして、討たれて死んだ魔物は他の動物と同じで腐敗して地に戻る。
空気中に漂う意志を持った微粒子が集まって魔物になるのは、何となくわかるけど、一体なにが媒体になるのか不思議だった。
けど、ザックの説明によると、強い魔法が持つエネルギーが媒体になって微粒子を結合させるんだそうだ。
まぁ、実際に目の前で魔物になっていくのを見たんだ。
そうなんだと思うしかない。
魔物が現れるようになって、魔法が使える人間が増えていったそうだ。
じゃ、魔物がいなくなったら、魔法が使えなくなるんじゃない?
そうじゃない?
そんな私の考えを打ち消すように、デュークさんが声を掛ける。
「カナコ、心の準備はいいか?」
「うん」
私、デュークさん、ザックは、3人で平野に立っている。
私達以外には誰もいない。
これはザックの判断だ。
この地域は、3人でも大丈夫と、判断した。
魔法学院の学院長が言うんだ。
信じるよ。
ルミナスの美しい景色。
それが、今から、戦場に変わるんだ。
「行くよ?」
「わかった」
ザックが幕を外した。
緊張する。
だって、魔物の血は赤い。
討てば血まみれになる。
「さぁ、魔法を打つぞ」
デュークさんは躊躇いがない。
空に向って、魔法を放つ。
ドーン!
と、空気が震えた。
凄い、改めてデュークさんの魔量の多さに驚く。
暫しの時間が過ぎ、空気が変わる。
黒い霧が集まりだし、それが固まりに代わり、魔物になっていく。
何匹いるだろうか?
まず、大きいのが2匹、姿を見せる。
そいつらは、ゆくっりと地面に降りていく。
前に見たことのある、一つ目の魔物だ。
意外に恐怖感が少ない。
きっと、今の私は、デュークさんを信頼しているから。
だって、何があっても、絶対に守ってくれるもの。
私もデュークさんを守るけどね。
こっちに気づいたみたいだ。
大きい2匹がなにやらこちらを指差した。
そろそろか?
こっちに向って走り出した。
本来なら、距離を測るんだろうけど、私に距離は関係ない。
やる時は全力だ。
「行く!」
私は雷を落とした。
ドオオーーーーン!
範囲は2匹を収める大きさだ。
2匹が丸焦げになる。
焦げ臭い。
が、肉を焼いた臭いだ。焼肉だ。
ここの魔物は豚を焼いた臭いがする。
まぁ、内臓やら色々も一緒に焼くから、美味しそうな臭いではない。
「相変わらず、凄いな…」
「陛下とカナコがいれば、ルミナス全体の魔物の全滅も有り得そうです」
お世辞かい?
「体は?違和感はないか?」
「うん、大丈夫。この程度なら何度も練習してきた」
「どこで?」
「家の裏庭」
デュークさんの目が大きくなった。
もしかして、呆れてるの?
え?
「裏庭って、…。カナコにかかれば、なんでもありか…」
「どういう意味?」
頑張ったんだよ?
わかる?
デュークさんと一緒になる為なんだよ?
「頑張ったんだよ?」
「わかっている。カナコは凄いな?」
それ、褒めてくれているんだね?
そういうことにするよ?
「俺と一緒に戦うか?」
「もちろん!」
「わかった」
デュークさんが指示を出す。
「ザック、次に現れる魔物は俺達3人で片付ける。いいな?」
「はっ!」
黒い霧が、次々に固まっていく。
さっきから見ると、その塊も小さい。
「ああやって、小さい塊しか出なくなると、そろそろ終わりだ」
「そうなんだ?」
「ええ、場のエネルギーがその程度しか残されていないので、形成できなくなるんですよ」
「この場所はかなり削いだからな」
「そうですね」
あ、魔物になった。
「行くぞ?」
「はい!」
「先頭を!」
小さいとはいえ、50匹はいる。
そこへ、ザックが切り込んでいく。
やはり学長だけある。
「カナコ、」
「わかった!」
私はピンポイントの炎の魔法で、1匹ずつ倒す。
ギャー!と言う絶叫が聞こえる。
それも、段々と慣れていく。
久し振りに使う浮足で、戦場を駆け回り、次を探す。
サックが風で切り裂いた魔物も焼いた。
焦げた匂いが充満していく。
息が苦しい。
この臭い、好きになれない。
それでも、倒す。
魔物は逃げ惑う。
1匹づつ仕留める。
デュークさんはあくまでも、私のサポートに回っていた。
1時間程度で、終った。
実践は初めてだ。
「えらく俊敏に動けるな?」
「え?浮足のお陰かな?」
「なんだ?俺に教えろ?」
「わかった、…」
もう、言葉が続かない。
こんなに長時間も、征伐するなんて、初めてだ。
疲れ果ててしまった。
眠い。
私は魔量が減ると眠くなるようだ。
とにかく、眠い…。
「どうした?」
「眠い…」
「体は?」
「大丈夫、おもくない」
「そうか、なら、眠れ。俺が抱いてやるから」
「うん」
私はなだれ込む様に、デュークさんの腕の中に倒れ込んで、眠ってしまった。
「上出来だ」
その声を子守唄代わりに、だ。
焦げた魔物はどうなるんだろうか?
食べられるのかしら?
まぁ、食べたくないけど。




