76 あなざーさいど 11
ポポロ・ゲイネルの視点
私は、自分の名前があまり好きではないんです。
だって、ポポロですよ?
なんでこんな名前付けたかなぁ…。
初めて会う人は、どこか含み笑いをして私の顔を見るのはこの名前のせいだと思ってます。
間違いないでしょう?
それでも、です。
私はありがたいことに魔法が使えて、魔法学院の特選クラスに入学にできました。
そこでザック先生やその兄であるリックさんと知り合えましたしね。
名前のお陰で、覚えて貰えたのも、嫌ですけど、事実です。
やがて、リックさんの下で私は仕事を始めました。
リックさんは実に有能な方です。
一を聞いて百を理解する人だから、陛下の信頼も厚い方です。
なのに。
なのに、なんで、あんなことしたのかなぁ…。
しかも、後釜が私だなんて…。
けれども、陛下のためならば、私は懸命に仕事をするつもりですよ。
もちろん、この国の王であるから、当然のことなのですが、、理由があるんです。
陛下は私の名前を聞いても顔色を変えずに普通に接してくれた、唯一の方なんです。
私にとっては、それだけで、尊敬に値する方なんです。
さて、リックさんに話を戻します。
私がリックさんの下で働きだしたのは、まだリリフィーヌ様が生きていらした頃です。
もちろん、私などがお目にかかれるはずもありませんでしたよ。
ただ不思議だったのが、リリフィーヌ様が亡くなられた時のことでした。
あのリックさんが、泣いていたのです。
確か、リリフィーヌ様の行動に眉をひそめていたリックさんでしたが、自分の政務室で静かに泣いていたのを見たのです。
その後、時折、独り言をもらしていました。
自分だったら、死なせなかった。
そう何度も繰り返して。
聞いていない振りをするしかありませんでした。
どういう意味なのかを追求してはいけないと思ったのですよ。
ええ、私は臆病な人間ですから。
やがて、陛下がガナッシュのドリエール姫と結婚することになった時のことです。
リックさんが、どこか晴れやかな顔をしておいでたので、聞いてみたのです。
「なにか良いことがあったのですか?」
「ありましたよ、実にいいことがね」
「差し支えなければ、教えて下さいよ?」
「ポポロ。陛下のご結婚ですよ?これ以上の良いことがありますか?」
そういったリックさんの顔は、清々しいまでに嬉しそうでした。
そして、続けて言ったのです。
「あの方が幸せになるなど、許せませんからね…」
「え?」
「なんでもありません。さぁ、この書類を回して下さいね」
そのことは、それっきりになったのです。
その後のまさかの展開に、私はリックさんが何を考えているのかわからなくなりました。
まるで陛下を嵌めるように行動をする、あの方が、です。
続いての姫様の誕生のこともです。
どう考えても計算が合わないのです。
あの時分の陛下は城には殆ど戻らずに魔物征伐に明け暮れておりました。
いないのに、どうやって陛下のお子を身ごもったのか?
噂が巡ります。
リチャード様の子だ、とか、リックさんの子だとか…。
ところがです、当の陛下がご自分の子供としてお認めになってしまった。
事態は収まったかに見えました、が、何も解決はしておりません。
それでも、時は過ぎていきます。
この頃のリックさんは、実に生き生きしていたように見えました。
が、それは私の思い違いだったのですね。
やがて、私はリックさんの元を離れました。
これ以上は見ていられなかったのです。
ゆっくりと変わっていくリックさんを、見てるのが辛かったのですよ。
私は右大臣を勤めていたトーマスさんの下、雑用から始めました。
トーマスさんの下での仕事は事務的でしたが、楽でしたね。
彼はリックさんと違い、陛下に意を汲んで仕事をするというよりも、淡々と進める人です。
変な思惑がなく、過ごしやすい仕事場でした。
リックさんとはあまり接触しませんでしたね。
いつの間にか、リックさんはドリエール様の専任大臣になってしまい、
仕事はトーマスさんの下に全て押し付けられる形になっていました。
それでも、文句も言わずにトーマスさんは黙々と仕事をこなし、私も鍛えられていきました。
当然、陛下もトーマスさんを重用するようになり、
それに刃向かうかの様に、リックさんとドリエール様の蜜月が囁かれるようになっていきました。
去年の今頃だったでしょうか。
城の陛下の部屋も側で、ばったり、リックさんに会いまして。
まぁ、珍しいことではなったのですが、この時の彼は、目の輝きが違っていました。
いきなり私に話しかけてきたのです。
「ポポロ、仕事は順調かい?」
「はい、トーマスさんにも良くして頂いております」
「そうか、君は有能だからな。実に楽しみだよ」
「ありがとうございます」
「私も、安心して動けるというものだ」
「は?」
「いやね、長年の夢が叶いそうなんだ。いや、叶えてみせる」
「それは、叶うといいですね?」
「そうだね、まぁ、その時はここを去ることになるな。私はね、もうここには未練がないんだ」
「それは…」
「いや、しゃべり過ぎたようだ。それではな?」
それっきり、でした。
病気がちになって出仕もままならないとの噂が流れ、そしてです。
長年の夢って、その、カナコ様との再会だったんでしょうね。
拉致して、自分の下において、眺めているだけで、満足だったのでしょうか?
私には理解出来ないことです。
また、ドリエール様も理解出来ません。
ご自分は陛下を裏切っておいでるのに、反省もしていない。
リチャード様とも、リックさんとも関係を持っている。
それなのに、陛下の最愛の方の拉致に協力するという気持ちが、わかりません。
まだ、陛下のことを、愛していらっしゃるのでしょうか?
ただの嫌がらせではないか、と思うのは不敬なのでしょうかねぇ…。
これから、忙しくなります。
やっと陛下が本気を出しましたからね。
一つ一つ、潰していくしかありません。
陛下とカナコ様のためです。
あんなに仲睦まじいお姿を拝見すると、頑張ろうと思いますよ。
いいですよね、私も妻を大切にしようと思います。




