75
馬車が走る。
私の目の前に、ルミナスの景色が広がる。
こうやって、デュークさんと2人で見るのは久し振りだけど、やっぱり、楽しい。
「私達、どこに行くの?」
「カナコが良く知ってる場所だ」
「?」
馬車はあの丘に私達を連れて行ってくれた。
相変わらず、綺麗だ。
丘からルミナスの街を見る。
そこには、城が見える…、見えるんだ。
「どうした?」
私の僅かな変化に気づくって、愛?
「どうして?」
「少し、さっきと違う」
「私を見てくれてるの?」
「おまえしか見てない」
「なんだか、嬉しい」
私はデュークさんにキスをした。
軽いキスを。
「で、どうかしたのか?」
「あのね、エリフィーヌになってから、城を見るたびにね、あこにデュークさんがいるんだ、って思って見てたの。その時の城は、壮大で輝いていて、」
そうなんだ、あの時の城は、私にとってデュークさんそのものだったんだ。
「けどね、今、一緒に見る城は、普通の城なんだ。城にデュークさんがいないから。うまく、いえてるかな?デュークさんの側にいるってことが、嬉しくて堪らないんだ。だって、本当に戻ってこれるなんて思わなかったし、こうして、また、デュークさんと一緒にいられるんだもん。これって、凄いことだよね?」
「そうだな、凄いことだな」
「私の想いが叶ったんだ」
「俺もだ。見ろ、あれを」
デュークさんはあの丘に屋敷を建てていた。
屋敷だよ!
「凄い!」
「カナコが帰ってきたら、必ずここに住もうと決めていた。しばらくはここで暮らす」
「けど、魔物が来るよ?」
「大丈夫だ。城よりも安全だから」
おいおい、ルミナスの城って、そんなに物騒なのか?
「城って、どうなっているの?」
「おいおい、分かる。さあ、入ろう」
私達は中に入る。
「お帰りなさいませ」
ジョゼが既にいる。
出迎えてくれる。
この建物は素晴らしい。
平屋の造りになっているのは目立たないため。
建物自体の色も周りに溶け込むようになっている。
そして、なんといっても、素晴らしいのは居間。
大きなガラスの向こうには、あの景色が広がる。
私は大きなソファに座って、雄大な景色を、ただ、眺めていた。
「凄い…」
「カナコが好きな景色だ。一緒に眺めたかったんだ」
「一緒じゃなきゃ、意味がないものね」
「そうだな」
そういってキスしてくれて、執務室に籠もるんだ。
仕方がない、お仕事があるんだもの。
しばらくして、ザックが訪ねてきた。
「やぁ、カナコ」
「ザック?どうしたの?」
「陛下に呼ばれたんだよ。」
「そう…」
ザックはリックの双子の弟だ。
本当に久しぶりに会ったのに、ズッと一緒にいた気分になる。
その位、似ている。当たり前か。
「兄が、すまなかった」
「ザックが悪いわけじゃないから、」
「けど、身内だ」
「いいの。リックのことがなければ、まだ、意地を張ってたかもしれないし…」
ザックは悲しそうに笑う。
「リックは?」
「来週、処刑される」
「処刑?」
「妥当な刑罰だ。ガナッシュにカナコを拉致して亡命したんだからな」
「けど…」
一瞬、躊躇した私は、まだ、ルミナスの人間になれてないのかもしれない。
「カナコ、陛下に会えて、良かっただろう?」
「うん。ザックのいう通りだった。ごめんなさい」
「おいおい、無暗に謝っちゃいけないよ?」
「けど、謝らないで後悔したくないもの」
「そうか…」
そこへ、デュークさんが現れた。
「ザックか?」
「はい、お呼びと聞きました」
デュークさんが私の腰を抱いた。
「リックのこと、あれで良いな?」
「はい。兄も納得しております。どうぞ、厳正なる処罰を」
「わかった」
デュークさんの手に少し力が入る。
どこか、まだ、迷っているのかもしれない。
「失礼いたします」
知らない男の人が入って来た。
ルミナスでは珍しい眼鏡をかけた男性だ。
「2人に紹介しよう。この度、左大臣になったポポロ・ライゲルだ」
実直そうなだな。
彼は私に向って微笑むと、挨拶をした。
「カナコ様、お初にお目にかかります。ポポロ・ライゲルと申します。ポポロとお呼び下さい」
「初めまして」
あ、私の名前はどう紹介したらいいのなぁ?
今度、デュークさんに聞いてみよう。
「カナコ、ポポロには、おまえの事情は説明済みだ」
「そうなの?」
「カナコを王妃にするために、色々と仕事をしてもらう。頼んだぞ、ポポロ?」
「は、畏まりました」
ザックは優しい口調でポポロに話しかけた。
「ポポロ、やっと頭角を現したな?」
「ザック先生。先生の兄上の失脚をもっての左大臣登用です。なんだか…」
「気にするなよ、それもポポロの実力だ」
「はぁ…」
ルミナスには緑の髪と白い髪の人が存在する。
ポポロは白い髪の持ち主だ。
「ポポロ、問題は山積だ。頼んだぞ?」
「はい。1日も早くお戻りいただけるようにいたしますので」
「任せた」
ポポロは会釈をすると、城に戻るために出て行った。
「さて、ザック。呼び立てたのはカナコのことだ」
「え?私?」
「ああ、そうだ。これからは、間違いなく命を狙われる。遠慮なく魔法を使え」
「いいの?」
「もちろんだ。できるならば、魔物征伐も一緒に行きたい。そうすればおまえを襲っても無駄だとわかるだろう」
「そうですね。早くにわからせた方が、カナコのためにもいい」
「ザック?今、呼び捨てたな?」
「あ、申し訳ありません」
あ、涼しい顔してる。
仕方ないなぁ、ザックのために、おねだり攻撃、発令!
「デュークさん、ザックにカナコ様って言われるとなんか変だから、いいでしょ?ザックだけ呼び捨てでも?」
顔が変わったぞ?
案外、デュークさんもチョロイなぁ。
「あ、わかった…」
デュークさん、陥落。
「だが、カナコ?」
「なあに?」
「その仕草は、使用禁止だ。いいな?」
「え~~~!」
ザック、苦笑いするな。
「陛下、その方がいいですよ。カナコのことだ、都合が悪くなると、誰にでもその仕草を使うに違いない」
おいおい、あんまりじゃないか?
今まで、お父様とデュークさん以外に使ったことないぞ?
泣く振りして、健気な私を発令することは良くあったけど…。
これは、奥の手に取っておこう。
「その通りだな。カナコ、禁止だ」
「つまんない」
その笑顔、卑怯だ。
デュークさんこそ、誰にでもその笑顔を見せないでね?
お願いだからね?
「じゃ、早いうちに魔物征伐に出かけよう。いいな?」
「うん、いいよ」
「カナコの魔法を見せてもらおう」
「わかった」
「だから、俺が濃銀になったら、介抱してくれよ?」
「あ、もう…」
キスするなんて、恥ずかしいよ、もう…。
ザック、ゴメン。
私達、ほら、まだ会えたばかりだから、人前でも遠慮がなくなるんだ。
許して?




