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私達の馬車が止まった。家の前だ。
ドキドキしてきた。
だってね…。
昨日のことは内緒になってる。
私は一昨日に救出されたんだけど、曖昧にごまかされて伝わってるはずだ。
表向きにはだけどね。
場合によっては、両親に言わなくてはならないんだ。
なんだか、ね、だよね…。
デュークさんが私を見た。
「着いたな」
「うん」
急に引き寄せられて、キスされた。
「俺といて、幸せか?」
「もちろんだよ?どうして?」
「だったら、もっと幸せそうにしろ?いいな?」
「あ、そうだね。ごめん」
「わかればいい」
デュークさんの言う通りだ。
私はデュークさんと離れたくない。
それを分かって貰わないといけないんだよね。
馬車のドアが開かれる。
先にデュークさんが降りて、私はその手に導かれて降りた。
玄関には皆がいた。
ルミナスの王を迎えるために、だ。
デュークさんは腕を差し出す。
私はその腕を掴んで一緒に歩く。
私の背はデュークさんの胸ほどしかない。
お父様が1歩、歩み出た。
「陛下。この度は我が娘エリフィーヌをお救い頂き、なんとお礼申し上げればよいかわかりません」
「ハイヒット殿。気に留めずともよい」
「しかし…」
膠着状態だ。
私が何か言えばいいのかなぁ。
そうだろうな…。
「お父様、ただいま戻りました」
そう言って私はデュークさんの元を離れて、お父様に抱きついた。
「お帰り。フィー」
「うん、お父様、ごめんなさい」
「フィー?」
「ごめんなさい…」
お母様が私の手を握った。
「フィー、とりあえず中に入りましょう?陛下、宜しいでしょうか?」
「構わない」
私はお母様に手を握られたままで、居間に向う。
デュークさんは座ろうとしない。
だから、誰も座れない。
「デュークさんが座らないと誰も座れないよ?」
「だがな、ハイヒット殿の許しを得なければ座れない」
「私の許しですか?」
珍しく、デュークさんが言葉に詰まる。
「あ、ああ。その、だ」
「陛下?」
お母様が私の手を握ったまま、デュークさんを睨んでいる。
どうして?って、気づいたんだ、お母様…。
「まさか、フィーと?」
私達は顔を見合わせた。
「すまない」
「陛下、エリフィーヌはまだ14ですよ!そんな関係になるなんて、…。まだ子供じゃないですか!」
「俺が待てなかった」
「だからと言って…」
私は握られた手を振り払って、デュークさんの前に立った。
「私が望んだの。そうして欲しいって、私が、望んだの」
「言うな、おまえは黙っていればいい」
「嫌だ。デュークさんだけが悪者になるのは嫌なんだから」
「カナコ…、いや、エリフィーヌだっだな。悪いのは俺だ」
お父様がお母様の手を握った。
「ヴィクトリア、もう、やめなさい」
「けど、あなた…」
「陛下にエリフィーヌの救助を願った時から、この結末はわかっていただろう?」
「あなた…」
サー姉ちゃん達は、黙って見ていてくれてる。
お父様がデュークさんを見て、言う。
「陛下。私達はこの娘がどんなに陛下をお慕いしているか、知っているつもりです」
「おまえ達は知っているのか?」
「はい、」
私の顔は赤くなる。
そんなこと、言わないでよ。恥ずかしい。
「ただ、私は陛下のお気持ちがわからなかった。陛下がこの娘を愛しているのか、わかりませんでした」
「ハイヒット殿?」
「先ほど、馬車から降りたとき、エリフィーヌを見る陛下の瞳は、優しかった。それほどまでに陛下は、我が娘を想ってくださっているのですね?」
「もちろんだ。生涯をかけて、愛し続けよう。これから俺の側には、常に、エリフィーヌがいる」
私はデュークさんの手を握った。
「安心してくれ、必ず幸せにする。俺が全てから守る」
デュークさんの顔を見上げた。
綺麗だ、と思った。
「ハイヒット殿」
デュークさんがお父様に頭を下げた。
「陛下、そ、それは…」
「すまなかった。俺が王でなければ、殴りたかったと思う。ちゃんと謝らなければ、俺の気持ちが治まらない」
「陛下…」
ゆっくりと頭を上げて、デュークさんの手が私の腰に回される。
家族の前で、ちょっと、恥ずかしい。
「正直に言おう。俺と妃の仲は最悪だ。互いに殺し合いかねん。そんな中にエリフィーヌを連れて行くことになる。だから、当分は別の場所で暮らす」
「別の場所?」
「いずれ城に戻るがな、取りあえず落ち着くまでだ」
「そうですか…」
「いつでも会いにきてくれていい。ハイヒット家の者は私の身内。毎日でもエリフィーヌに会ってくれていいからな」
マリ姉ちゃんが喋る。
「本当ですか?」
「ああ、本当だ。マリー。いつでもいいぞ」
「良かった」
「ほら、おまえの自慢の姉達のところに行かないのか?」
デュークさんは、そっと私の背中を押した。
「うん!」
デュークさんを見て、そして、マリ姉ちゃんを見た。
「マリ姉ちゃん!」
「フィー!」
私達は抱き合って、泣いた。
「お姉ちゃん、気づいてくれてありがとう。マリ姉ちゃんが気づいてくれなかったら、私、戻って来れなかったんだよ?」
「フィーこそ、私を頼ってくれて、ありがとうね」
「ううん…」
ジャック兄ちゃんが、頭を撫でてくれる。
「フィー、おまえのお陰で俺は学院に残れることになった。ありがとうな?」
「それはジャック兄ちゃんの実力なんだから!」
「いいや、おまえが道を示してくれたんだ。感謝してる。いつでも学院に来い?俺の助けが必要ならば、いつでも言うんだぞ?」
「わかった、ジャック兄ちゃん」
「あら」
サー姉ちゃん。
「学院には私もいるのよ?フィー、ジャックだけじゃなくて、私にも会いにきてね?」
「うん、行く。デュークさん、行ってもいいでしょ?」
「ああ、いい」
「私は城に行かせてもらうよ?」
「うん、アンリ兄様」
「楽しみだな…」
兄様、ナンパには利用しないで下さい。ね?
てか、お兄様、その生活状態は色々と大丈夫なのでしょうか?
そのウチに刺されるよ?
暫くは話が続いたが、相手は王だ。
当然、途切れる。
仕方ない、慣れてもらうしかない。
「デュークさん、もう、大丈夫」
「そうか?」
「うん」
私はみんなの方を見た。
「じゃ、行くね」
「フィー…」
「マリ姉ちゃん、落ち着いたら、連絡するから。待ってて」
「わかった」
帰る時間になる。
私は少しの物を持ち、デュークさんの後についていく。
「陛下、」
「なんだろう?」
「娘を、よろしくお願い致します」
「わかっている、決して泣かせない」
私達は馬車に乗り込む。
「体を大切にね?」
「うん」
「連絡、頂戴ね?」
「はい、お母様」
「元気で」
走り出した。
デュークさんが、手を握ってくれてる。
何も言わない。
こんな時、優しい。




