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気づいたら、涙が零れてた。

その涙を、デュークさんが指で拭ってくれる。



「どうした?」

「会いたくなったの…」


デュークさんは私の手を握った。


「会わせてやるよ」

「ほんと?」

「もちろんだとも」

「ありがとう!」


少し、心が落ち着く。


「けど、マリ姉ちゃんって、城に来たんだ?」

「そうだ、なぜ、おまえを助けないんだと、いってな」


そりゃそうだ。

いくらなんでも、ガナッシュに、ルミナスの王が潜入するなんて、ありえない。

見つかって、捕らえられても、言い逃れは出来ない。


「大粒の涙を零されて、陛下に懇願なさってました」

「いろんな使者を見てきたが、マリーが一番立派だったぞ?」

「だって、私の自慢のお姉様だもん!」


やっぱり、ハイヒット兄弟は最強だ。


「カナコ」

「なに?」

「エリフィーヌに生まれて、良かったか?」

「もちろん!家の家族は最高に素敵なんだ」

「そうか、良かったな?」

「うん!」


デュークさんの目は申し訳なさそうだ。

どうして?


「どうしたの?」

「俺は、その最高の家族から、おまえを引き離す…」

「デュークさん、私、離れたくないよ?側にいることを望んだのは私だよ?」

「俺も望んだ。後悔はさせない」

「それで、いいから」

「わかった、もう、言わないでおく」


ジョゼが微笑んでいる。


「カナコ様は、エリフィーヌ様になられて、お強くなりましたね?そう思われませんか、陛下?」

「そうだな。ずる賢くなった」


笑うな、そこは笑うところではない!


「だって、いっぱい、我慢してきたんだから!」


デュークさんの手は大きい。

大きくて暖かくて、安心する。

その手が私の頭を撫でた。


「そういえば、昔、誰かの結婚式で、カナコに会ったよな?」

「え?気づいてたの?」

「今になってみたら、そうだったのか、と思い出した」

「そっか…」

「俺にしがみ付いて泣いた、そうだろ?」

「うん、泣いた。なんで子供なんだろうって、腹が立ったから」

「けど、その時に、俺は気づけなかった。まさか、おまえが生まれ変わって小さい子供でいたなんて、考えもしなかったんだ。カナコは大人のままで俺に会いに来ると、そう勝手に思い込んでいた。せっかく会えたのに、気づいてもやれなかった。俺は、馬鹿だな…」


馬鹿なんかじゃないよ?

ゆっくりと、振り返るように、ジョゼが話し出した。


「あの頃の陛下は、荒れておいででしたから」

「え?」

「意に染まぬ御結婚と姫様の誕生で、城を顧みることなく、ひたすらに魔物征伐ばかりを繰り返しておられました。そうしないと、生きていけないような、そんな刹那的な日々でした」

「そうだったな…。あの程度の事で荒れるなど、俺も、まだまだだった」

「しかしながら、陛下、あのような騙まし討ちで、御結婚を迫るなど…」

「それが、リックの策だったのだから、仕方あるまい」


話が見えない。


「何があったの?」

「話してやれ」

「畏まりました」


また、ジョゼが語りだす。


デュークさんとドリエールさんの結婚は、以前から何度も申し入れがあったが、断られていたらしい。

私との約束を信じてくれていたんだ。


ところがだ。


デュークさんが濃銀になった時に寄った悦楽の館に、ドリエールさんがいた。


いいのか?ドリエールさん?仮にも王女だろ?

娼婦の真似、いや、娼婦としてデュークさんに抱かれるなんて???


デュークさんは彼女とは知らずに、抱いた。

濃銀の辛さは見てたから、知ってる。


そんな時を狙うなんて、リックはえげつない。


子供が出来たと、全てのカラクリを明かして、結婚を迫ったそうだ。

デュークさんは、ドリエールさんが哀れに思えたらしい。

根負けして、結婚を承諾した。


ところが、子供の話は嘘だった。


当然、デュークさんは怒った。

ドリエールさんを罵倒し、リックを責めた。

けれども、もう遅かった。

全てが終わった後だったからだ。


それ以来、デュークさんはドリエールさんに触れていない。


「え?じゃ、デュークさんの子供って?」

「いない」

「じゃ、あの姫様は?」

「俺の子ではない」

「そんな…」


ジョゼが続ける。


「もうはっきりとさせた方が、いいのでは?」

「いや、いい」

「どうして?」

「アレに関わることすら、嫌なのだ」


けどさ、放置するのは、重大過ぎる話でしょう?


「いいの?それで?」

「いい。カナコが子を産めばいいだけだ」

「へ?」

「間抜けた顔をするな?…、あ、おまえのその顔、久々に見た。懐かしいな…」


へんな郷愁に浸るなよ…、少し凹むんだから…。


「可愛いな」


照れるだろう…。


「馬鹿…」


やっぱり、デュークさんは馬鹿だ。

でも、私も同じ、馬鹿だよ?

そして、この惚気に顔色一つ変えない、ジョゼ。

あんたはプロだ。


「おまえは、本当に生まれ変わってきたんだな?」

「うん、」

「どうやったら、生まれ変われるんだ?」

「えーと」


私は、あの神もどきの話をした。

リリさんはあの時が寿命だったこと。

私の上条加奈子の人生はまだ、30年あったので日本に生まれ変わるところを、無理やりにルミナスで生まれ変わらせてもらったこと。

生まれたときから、カナコの記憶を持っていたこと。

魔法は相変わらずな事。


「そうか、リリは死んだんだな…」

「だから体が持たなかったの」

「そうか…」

「今は、魔法を使っても大丈夫」

「わかった」


デュークさん、そんな目で見つめないで。

惚れ直すよ?


「カナコとこうしていられる奇跡に、感謝する」

「私も」


ジョゼが本日の予定を告げる。


「さて、陛下。今日は、何があってもハイヒット様のお屋敷に伺いませんと?」

「そうだな、カナコ。いいな?」

「いいの?」

「ああ、ちゃんと許しを貰わないといけないだろう?」

「そうだね、怒られるかな?」


苦笑いのデュークさん。


「俺が代わりに怒られてやる」

「けど…」


ジョゼは澄ましていう。


「お叱りを受けるのは、陛下の方ではないですか?」

「そうだな、もし、俺がハイヒットの当主ならば、立てなくなるほどに殴り倒すな」


そうだよな、ハハハ。


「さようです、お覚悟下さい」

「ああ、わかった。連絡を頼む」

「畏まりました」



私達は仕度をして出かけた。





家に帰ることが、出かけることになった。

なんか、感慨深い。




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