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気づいたとき。


知らない部屋にいた。

三つ編みだった髪は解かれて、服までも違っていた。


慌てて確認する…、下着は、同じだ。

安心していいのか…、…。

いい事にしよう。


慌てて幕を張った…。


あれ?

魔法が、使えない。そんなことってあるの?




私の動揺を見透かしたように、ドアが開いた。


「お目覚めですか?」


リックだ。 


「リック!なんでこんなことを?それに、魔法がきかない、どうして?」

「いっぺんに、お訊ねにならなくとも、ご説明いたしますよ?」

「なんで、服が変わってるの?誰がやったの?」


笑う。

その笑い方は、私が知ってる彼の笑い方ではなった。


「気になりますか?」

「当たり前じゃない!」


私が怒鳴っても、全然平気そうだ。


「ここの侍女にやらせましたよ」

「ほんと?」

「ええ、信用して下さい」

「信用?こんなことする人を?」

「私を信用するしか、ないんですよ?」


昔のリックじゃない。目が違ってる。

背筋が寒くなった。


「信用なんて、出来ない」

「今に悟ります」

「どうして?なんでこんな事するの?」


リックは嘗め回すような、粘っこい視線を私に向ける。

なんて目で私を見るんだ?

そんな目でみるな!


「私はね、自分に正直に生きることにしたんです」

「正直?」

「あの時に、貴女がいなくなって、気づいたんですよ。私は貴女を愛していた」


何を言ってんだ?

リックが?私を?


「そ、そんな…、気のせいでしょ?」

「気のせい?カナコ様、貴女らしいですね」

「やめようよ?」

「いやですね。前のときは、陛下が先に出会ったので諦めました。が、今は私が先に出会った。誰にも渡しません」


渡すとか、渡さないとか、私は荷物か?


「そんな言葉、14歳の少女に向っていう言葉じゃないよ?」

「年齢がなんでしょうか。カナコ様がここにいるのですから」


なんだ?やる気なのか?

おいおい、もう、私の言葉なんて聞いてないよ、この人。

やばいよ?


お姉ちゃん!お兄ちゃん!助けてよ! 

デュークさん!


なんて、心の中で言っても、聞こえやしないよね。

いいよね、魔法使っても、もう、いいよね?

って、なんで魔法が使えないんだ?


私の心の中が見えるのか、リックはニヤリと笑う。


「ずっと、貴女が欲しかった。そして、貴女が私の前に現れた。その運命に従うのが当然です」

「そんな都合のいい運命なんてない」

「ありますよ?」

「ない、よ」

「じゃ何故貴女が現れたのですか?」

「それは、デュークさんの側に戻りたかったから…」

「それも、都合の良い運命ですね?」


そうだよ、悪いか?

私は、あの神もどきと交渉してきたんだ。

勝ち取ったんだぞ。


「なんで、私が欲しいの?」

「欲しいからです」

「でも、私は嫌だ」

「そんなこと、知りません」


はぁ?

なんだ?


「ああ、その顔ですね?」

「なにが?」

「間抜けた顔です」


馬鹿野郎!私は怒ってんだ!間違えるな!


「私もすでに45を越えました。残りの人生も僅かです。その人生をここで貴女と暮らします」

「嫌だ!」

「なんとでも言ってください」


側に来ようとする。

思わず後ずさりしてしまう。


「近寄るな!」

「言っときますが、ここはルミナスではありません」

「え?」

「ここはガナッシュなんですよ。ガナッシュでは、緑の髪は目立ちますよ?」

「なんで?どうして、私、ガナッシュにいるの?」

「王妃様と取引をしたのです」

「取引?」


皮肉な笑い方をする。


「陛下がこの世の中で一番深く愛した女性を、私が連れて逃げる代わりに守って欲しいとね」


そんな…。


「あの方はガナッシュに広大な領地を用意してくれました」

「どのにあるの?」

「いえませんよ、」

「いえよ!」

「いったら、私のモノになりますか?」

「冗談じゃない!」


リックは、なぜか、満足そうに笑った。


「時間はあります。少しづついきましょう」





私はガナッシュで囚われの身になった。






日々が過ぎる。




不思議なことに、リックは私には手を出さなかった。

出されても困るけど。


魔法が使えない原因は、着ている服にあった。

ガナッシュでは捕らえた魔法を使う魔物の肝を薬として利用するので、魔法が使えなくなる網で捕らえるらしい。


そんな物があることも知らなかった。


その網に使われている鉱石を粉末より細かくして、糸に練り込んで、布にして、服にしてるらしい。

どうりで、ワンパターンの白いドレスしかない筈だ。



裸になって魔法をかける気力がなかった。




それと、私の周りには、時がわかるものが一切ない。

朝、昼、夜。

その繰り返しがどれだけあったのか、数えなかった。


起きているあいだ、毎日、リックと顔を合わせる。


彼はいろんなことを喋る。

それは私が逃げ出せないことを知っているからだ。


私がカナコだと気づいたのは、ジョゼが頻繁に学園に通うようになったからだそうだ。

ジョゼは当然、訳を言わなかった。

けど、リックにはそれで充分だったらしい。


そして、ドリエールさんに進言したそうだ。

嫉妬深い彼女は、即答でガナッシュに土地をくれた。

そこに、この屋敷を建てた。

準備は念入りに、慎重に、時間をかけて行われた。


リックがドリエールさん…、いや、あの女の信頼を得たのは、あの女を正妃にしたのが彼だったから。

だ、そうだ。

聞きたくもない。


しかし、ふざけんな!

こんな手の込んだことをして、閉じ込めて!

家のお姉ちゃんやお兄ちゃん達が知ったら、タダじゃおかないんだから!






けど、誰も、助けには来てくれない。





ガナッシュって、遠いの?

地理を勉強してなかった私の馬鹿。


毎日が、つまんない。





「ねぇ、そろそろ、普通の服が着たい」

「無駄です」

「毎日同じ服だもの、飽きた」

「飽きても構いません。私は飽きませんから」


なんか、マズイ。

このまま、暮らしていけば、なに?なし崩し的?


「なんで、何もしないの?」

「何かされたいのですか?」

「いや、されたくない!」

「やるとすれば、合意の上で、やりたいですからね」

「そんなの、ない」

「後、何年、我慢できますかね?」

「…」


そうなんだ、囚われているだけ、服と外出以外は自由。

それが、惰性で、当たり前になるのが、怖い。


まさか、当たり前に抱かれる日が来るのか?

冗談じゃない。

私はデュークさんの側にいるために生まれ変わったんだ。


ああ、そうだ。


意地なんか、張ってた自分が悪い。



何が起こるかわからないって、前の人生でわかった筈なのに。

馬鹿だ、私。


デュークさんに邪険にされても、私が会いたいなら会えばよかった。

6歳の時も、ちゃんと、カナコだって言えばよかった。


ザックにもジョゼにも、散々言われたのに。


全てが手遅れになってから、気づくなんて。

最悪だ。


まだ、リックの方が正直だ。

嫌だけど。




みんな、もう、会えないのかな?

マリ姉ちゃん、心配してる?

怒ってるだろうな…、あ!




昔、マリ姉ちゃんに掛けた魔法、まだ使えるかな?

あれは、魔量を持ったままの状態で使えるはず。

泣けばいいんだ。泣けば、マリ姉ちゃんには私の居所がわかるはず。


大声で叫んだ。


「マリ姉ちゃん!会いに来てよ!会いたいよぉ…。サー姉ちゃん、アンリ兄様、ジャック兄ちゃん!どうして、どうして、来てくれないの?フィーは疲れたよぉ!」


涙は止まらなかった。

次々に溢れた。


「デュークさん、来て?お願い、抱いてよ…」


泣きつかれて、眠った。





どうなるんだろう、私…。





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