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その夜。
私はマリ姉ちゃんと一緒に寝た。
と言うより、も、喋り明かした。
私の恋バナを、だ。
照れるぜ。
キラキラした瞳で私を見ないでよ…。
「で?陛下のどこが好きになったの?」
で、って、いきなりじゃん。
「えーと、どこだろう…」
抱かれたからか?
いや、違うと思う。
そうじゃない、どこだろう?
いつから、好きになったんだろう?
いや、うーん。
「毎日話しても飽きないところ、かな?」
「そんなの、家族と一緒じゃない?」
「あ、そうか、…」
じゃ、どこかな?
「うーんっと…」
「じゃ、ね、陛下ってどんな人なの?」
「えっとね、強引でね、ちょっと怖くて、けど、優しくて、可愛いんだ」
「可愛いの?」
「うん、猫だもん…、あ」
やばっ!
これは最高機密だった。
マリ姉ちゃんにいったことが、デュークさんにばれたら、大変だぞ!
「猫?」
「いや、そうじゃないんだよ!」
「なによ?」
思い出せ、なんか、違うエピソードを!
あ、あれがあった!
「あ、あのね、私が普段着る服が、全部リリさんの物だったの。けど、そんなのって嫌でしょ?」
「それは、嫌だわ、許せないわ」
「でしょ?だから、デュークさんに、私の服が欲しいっていったらね、」
「うんうん、なんて?」
「私の欲しいものは何でも買え、って!」
「凄い…さすが、王様ね…」
「でしょ?けどね、そんな贅沢に慣れてないからいいよ、っていったの」
「ほうほう」
「そしたら、なんていったと思う?」
「焦らさないで、いってよ!」
はいはい…。
「俺は惚れた女には弱いんだ、っていうの!可愛いでしょ?」
マリ姉ちゃんは、口を開けている。
「どうしたの?」
「これが、惚気っていう奴ね?」
「そっか、これって、惚気だね、やだぁー!」
私はマリ姉ちゃんの肩を叩いた。
「痛いじゃない、もう」
「ゴメン」
けど、マリ姉ちゃんは笑っている。
「それで、優しいのは?どこ?」
「全部、だよ」
「え?だって、強引で、ちょっと怖いって、いったじゃない?」
「それはね、最初の時ね。なんでリリさんじゃないんだって、怒ってたから…」
そうそう、ドアに八つ当たりして、バッターンって閉めて出てったりしたもんね。
「そっか、やっぱりリリフィーヌ様のこと、好きだったんだね」
「そうだね、物凄く、愛してた。そう思うよ。だから、」
「なに?」
「中身が私になっちゃって可哀想だった。いつも、なんで違うんだって、いってた」
マリ姉ちゃんは、私の頭を撫でてくれた。
「そんなの、フィーのせいじゃないのにね」
「お姉ちゃん…」
なんか嬉しかった。
あの時、ジョゼは安心させてくれたけどね、誰も慰めてくれなくて、寂しかった。
けど、その時のことを、お姉ちゃんが慰めてくれる。
「ありがとう」
「どうしたの?」
「嬉しいもん、お姉ちゃんがわかってくれて」
「そう?どうしたの?」
「だって、最初の頃、寂しかったんだ」
そうだったよね。
そんな状態なのに、毎日一緒なベットで寝てた…。
変な話だよ。
しかし、デュークさんは何時から私を愛してくれてたんだろうか?
気づけなかったなぁ。
だって、喧嘩ばっかしてたもんね。
「デュークさんもわかってくれなくて。だから、いつも喧嘩みたいにいい争ってしまって」
「陛下と喧嘩したの?」
「うん、分らず屋だったから」
驚いている。
なんで?
「やっぱり、フィーは陛下の側にいたんだね?」
「なんで?」
「陛下を分らず屋なんて、いえないよ…」
「そうなんだ…」
しかし、マリ姉ちゃん、瞳が、まだキラキラだよ?
そんなに聞きたいか?人の恋バナを?
「で、ど こ が、優しいの?」
「え?」
そりゃ、抱かれてる時だよ…。
言えるかよ…、それに、今の私はまだ処女だもん。
子供が言える話じゃないぜ、まったく。
「えーっと、いつでも、だよ」
「やっぱり、そういう事したんだ?」
結局、そこか?そこなのか?
「…、聞きたい?」
「もちろん、教えなさいよ?」
てか、マリ姉ちゃん、処女だよな?
「マリ姉ちゃんは、経験あるの?」
姉ちゃん、真っ赤になった!
「ないわよ!あるはずない!」
「だよね~」
「フィーは?」
「私はないけど、カナコはあるよ。当たり前でしょ?」
「そうだよね、で?」
まだ、聞くか?
「でって…」
「それって、気持ち、いいの?」
「あ、うん、そりゃ、いいよ。だって、さ」
「うん?」
「だって、愛してる人としかしないもん。それに、とっても大切にしてくれるから、…」
ヤバ、顔赤いだろ?
「フィー、真っ赤だ」
「だって、恥かしい…」
「陛下は優しいんだ?」
「うん、とっても、優しいよ」
「そっか…」
急にマリ姉ちゃんが天井を見た。
テンプレのように、ため息。
「どうしたの?」
「いいなぁって」
「そう?」
「だって、いつかは陛下のところに行くでしょう?」
「それは、」
わかんないよ。
少なくとも、今は行くつもりないし。
「行かない、だって、行けないもん」
「馬鹿ね、生まれ変わってまで側にいたいなんてね、物凄く珍しい出来事なのよ?そんな体験してまで会いたいって思うなんて、ね、いい?それは運命の人だからなんだから、ね?」
「デュークさんと?私?運命の人?」
「そうよ、そうに決まってるわ…」
マリ姉ちゃんは、またため息をついた。
「いいなぁ。私には、そんな、運命の人なんていないもの」
「わかんないよ!」
思わず、マリ姉ちゃんの手を握った。
「マリ姉ちゃん、美人だもん。それに気が利くし、優しいし、絶対に、素敵な人に会えるよ!」
「フィー?」
「私達ハイヒット兄弟は世界最強の兄弟だよ?マリ姉ちゃんの幸せに為なら、なんだってやるよ?そうでしょ?」
「フィー、ありがとう。そうだよね、私には皆がいるもんね」
「そうだよ!」
マリ姉ちゃん、泣き笑いはやめようよ。
移っちゃうから。
随分と夜遅くなってから、私達は手を繋いで眠った。
その次の日から、同じ毎日が続いた。
これからどうなるか、なんて、分からない。
いや、実のところ、私は何かが起こる可能性を見たくなかったんだ。
だから、そんな私を見てた家族も、それ以上のことは考えないでいてくれた。
何もおきないと思い込んでいた。
そうでありたい、と願っていたんだ。




