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ジョゼにばれてしまった。
これは、色々と動く予兆だろうか…。
拙い。
時々、学園に学院長の奥さんが現れる。
この間なんか、あの服を貰った。
今の私に合わせて直してくれてある。
何時着るんだろう、あんな派手な服…。
それが、何回か起きた後、学園から帰ってきた私とマリ姉ちゃんは、家の居間でお茶してた。
「ねぇ、フィー?」
「なに?」
「なんで学院長の奥さんと仲がいいの?」
マリ姉ちゃん、そんなこと、聞かないでくれ。
言える訳ないんだから。
「え?わかんないよ?向こうが優しくしてくれるから…」
「けど、フィーも甘えすぎだよ?」
「うっ…」
どこで観察してるんだ?
何を見ているんだ?
「フィーは自覚がないみたいだけど、フィーは目立つから人の噂に上りやすいの」
「え?どうして?」
「綺麗だからに決まってる」
綺麗ってのはな、リリさんみたいな人のためにある言葉なんだよ。
私とは違いすぎるんだ。
「けど、マリ姉ちゃんの方が綺麗だよ?」
「それをお世辞っていうの」
「違うよ、本当だよ?」
マリ姉ちゃんは、殆ど変わらなくなった背丈の私の頭を撫でてくれた。
「フィーは優しいわ」
「マリ姉ちゃん?」
なんか、マリ姉ちゃんが変だ。
「どうして、フィーの周りにはいろんな大人が集まってくるんだろう?」
「どうしたの?」
「このままいったら、フィーが私の妹じゃなくなるみたい」
「そんな、」
「だって、ね。みんな、フィーのこと、良く知ってるみたいに話すし、フィーだって、あんなに甘えて魔法まで掛けてもらってる」
そこ、マズイ。
確かに拙かった。
「本当は、フィーはあの人達と暮らしたいんじゃないの?」
「なんで、そんな事いうの!」
私は思わず立ち上がった。
カップが揺れる。
「だって、アリまで、フィーの為だけに服を作ってたじゃない!あのアリがよ?どうして、フィーを特別扱いするの?」
「マリ姉ちゃんの馬鹿!」
「馬鹿じゃない!」
「馬鹿だ!」
違う、マリ姉ちゃんは馬鹿じゃない。
なんで、こんな事を、私は言うんだろう?
「フィーが馬鹿よ…」
マリ姉ちゃんが、ポツンと言った。
「隠し事して、隠せてるって思ってる。けどね、みんな、なんとなく、気づいているんだから…」
「え??」
「フィーは生まれる前の記憶、持ってるんでしょ?」
姉ちゃん…。そこ、気づいちゃったわけ?
「きっと、陛下の近くに居たんでしょ?」
そこまで、気づいてた?
「だから、陛下の側にいた人達と仲がいいんだよね?」
「お姉ちゃん…」
「だから、だから、行っちゃうんだよね?私たちを置いて、行っちゃうんだ」
それは、違うんだ!
「デュークさんのとこになんか、行かない!行くわけない!」
あ、やってしもうた…。
言ってしまったよ…。
マリ姉ちゃん、言葉に詰まって、何にも言えない状態です。
「どうした?」
「アンリ兄様…」
不思議そうな顔をしてアンリ兄様が入ってきた。
今日は女連れてない。
「兄様、兄様だって、言ってたわよね?フィーは生まれる前の記憶を持てるんじゃないかって?」
「あ、ああ。そうだな」
「フィーが私達を置いて、いなくなっちゃうって!」
「マリー?」
「だって、フィーったら家族じゃない大人と、家族みたいに仲がいいんだもの。家にいるより、楽しそうだもの」
「そんなことない!」
「ある!」
アンリ兄様は私達の間に座って、手を握ってくれた。
「2人とも、落ち着くんだ。可愛い顔が台無しだよ?」
よ、乙女殺し…。
「マリー、私がフィーに聞くから。黙っていてくれるかい?」
「ええ、兄様」
アンリ兄様、見ないで下さい。
「フィー、覚えてるかな。私達がフィーにペンダントを送ったことを」
「うん、覚えてる。嬉しかったから」
「そう。よかった。実はあの時から私とサー姉様は疑っていたんだ」
そんな、早くから?
そっか、サー姉ちゃんとアンリ兄様は、賢いからな。
「4歳の子供が、陛下の肖像画の前で、話しかけてる。それも毎日。フィー、それだけで充分に疑わしいよ?」
「アンリ兄様…」
「その後の事も、魔法の事も、全ての辻褄を合わせるには、そう考えるのが自然だ」
「…」
「私達の考えは、合っているかい?」
そんな風に聞かれたら、答えるしかないじゃん。
降参します。
「うん、合ってる」
アンリ兄様は握った手を、もう一度強く握った。
「そうか…。よほど陛下の側近くで、生きていたんだね?」
「うん、愛してたの」
「そうか、陛下はお優しかったかい?」
「優しくて、強くて、格好良くて、けど、可愛くて。毎日を分け合って過ごそうって言ってくれた」
マリ姉ちゃんが、目を丸くした。
「リリフィーヌ様だったの?」
どう答えたらいいんだ?
でも、もう、粉飾回答はやめようと、そう思った。
「マリ姉ちゃん、アンリ兄様。ちゃんと答える。けど、みんなの前で答えたい」
「わかった。マリーもそれでいいな?」
「…、うん。」
「じゃ、私が、召集をかけよう」
アンリ兄様は立ち上がって、部屋を出た。
私とマリ姉ちゃん、2人きりだ。
「マリ姉ちゃん?」
「なに?」
「私は、リリフィーヌ様じゃないんだ。けど、リリフィーヌ様だった」
「?」
「わかんないよね?だから、ちゃんと最初から話す。聞いてくれる?」
「もちろん」
「良かった!」
私達は笑って、残りのお菓子を食べた。
「美味しいね!」
「うん、美味しい」
マリ姉ちゃんは私よりも食べた。
いつもは、そんなに食べないのに、たくさん食べた。
やっぱり、マリ姉ちゃん、大好きだ。




