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リックさんと2人きりだ。
空気が穏やかになった。ホッとする。
怒られてばかりで疲れてるんだよ。
さあ、魔法のこと聞くぞ。
「ところで、私の魔法の件ですが?」
「ああ、そうですね」
「なんで、私魔法が使えるのでしょうか?」
リックさんがため息をついた。
その意味はなんだ?
「どうしてでしょうね。残念ながら、わかりません」
「え?」
「それは私よりザックの方が詳しいので、お待ちいただけますか?」
「え、まぁ」
時間はたっぷりあるよ。帰れないんだから。
しかなく私は食事を進めた。
やっぱりイングランド料理だ。朝食が美味しいもの。
今しっかり食べておかないと後の料理は…。
いや、イギリスが悪い訳じゃないけど、ね。
「良くお食べになられる…」
リックさんが呆れた調子で言う。
失礼ではないか?
「だって、後の料理が美味しいとは限らないでしょ?」
しみじみと私を見た。なんだ?
「貴女様はカナコ様ですね、リリフィーヌ様ではない」
「そうですよ?しがない事務員ですから」
「はぁ…」
「どうしました?」
「やはり、見た目がリリフィーヌ様ですから、衝撃が強いのですよ」
「私も、慣れません」
「ハハハ、そうですね」
食事が終った。
朝食が美味しいんだイギリスは。
そうだって本に書いてあった。
もちろん行ったことなんかないよ。
ここまでの料理に対する評価は妄想と呼ばれても仕方ないわぁ。
「カナコ様はなんという国から来られたのですか?」
「日本という国です。ここと同じ島国ですよ。平和だけど平和すぎてボケてる感じの国です」
「平和だけど平和すぎる?」
「はい、要は平和に甘えているんですよ」
「平和に甘えるんですか?」
「人間って勝手ですよね…」
話が途切れた。
どうしたものか…。
けど、このイケメンと2人きりか…。なんか幸せ。
「リックさんて、いい男ですね」
「カナコ様?」
「はい?」
「まだこちらに来て日が浅いので仕方ありませんが、そのような言葉は言ってはなりません」
「へ?」
「貴女様は王妃様の体を使っているのです。自覚して下さい」
あ、そうだったね。空気は読めるつもりだよ。
「は、はい、そうでした。すみません」
「謝らないでください」
「けど、私が悪かったので…」
「いいえ、知らないのが悪いのです。これからはお教えしますので」
「大丈夫ですか?」
「カナコ様は分かれば対応します。賢い方ですよ?」
「褒めても何も出ません」
「出さなくても結構です」
リックさんは笑った。
「貴女は面白いです」
「はぁ?」
「これからも見ていたいですね」
「はぁ、」
私はパンダ扱いなのか?
だとしたら見るたんびに拝観料が欲しいな。それでここで食べていけるかなぁ?
ドアが開いた。
人が入ってきた、うん?
「兄さん、用事?」
「ああ、ザック。この方の話を聞いてくれ」
「この方ってリリフィーヌ様じゃないか?しかし珍しいな、リリフィーヌ様は俺を毛嫌いしてたのに…」
「いや、ザック、この方はリリフィーヌ様ではない」
「え?リリフィーヌ様って、双子なの?」
ザックと言う人はリックさんと同じ顔の人間だ。瓜二つだ。
白い人なんだ。
そして、目が赤い。
「同じ顔してる…、リックさん、この人誰なんですか?」
リックさん、苦笑い。
そして、話は混線状態に突入する。
「この人、リリフィーヌ様じゃないな?」
「ザック、だから違うと言ってるでしょう?」
「ねぇ、なんで?そっくり!不思議だわ!」
「そりゃそうだよ、私達は双子だもん」
あれ、この人、話しやすい。
「えっと、なんて名前なのかな?」
「私?カナコよ」
「うん、わかった。カナコ。で、何を知りたいの?」
「なんで私が魔法を使えるのかを知りたいのよ」
「そう、じゃとりあえずなんか魔法使って?」
「え?わかんないわ」
「わかんない?」
「うん、私何を使えるの?」
ザックは遠くを見た。
それからリックに告げる。
「兄さん、カナコは分からないで魔法が使えるの?」
「ああ、どうやらそうらしい」
「それは最悪だな」
失礼な。なんだその目は?
「何が最悪なのよ?」
「基礎が出来てない奴は伸びない」
「ふーん。そうなんだ。そうよね、やっぱり私なんか大したことないんだ」
私の言葉にリックさんが慌てた。
何を慌てる必要がある?
魔法が使えるって言ったって大したことないんでしょ?
「ザック、この方は普通じゃないんだ」
「え~?大したことなんだろう?」
「だよね、そんな簡単に魔法が使えたら、苦労しないもんね?」
「カナコは、わかってるじゃないか!」
「そりゃ、しがない事務員だもん」
「じむいんって、なんだ?」
「えーと、」
このままだと私とザックはずっと喋り続ける。
リックさんが止めてくれた。
「カナコ様、穴、開けて下さい」
「穴でいいの?」
「いいです」
「わかった、どうせ大した事じゃないしね…」
はいはい、穴ね、ヒョイヒョイ、穴開けっと!
バコーーーン!
開いたよ。
開いちゃった。
さっきより大きいか?
「あ、兄上…」
あ、ザックのリックさんに対する敬称が上がってる。
これって凄いの?
「この人、化け物?」
「ちょっと!」
「なに?」
「私はしがない事務員なんだから化け物はやめてよ!」
「けどね、濃銀の状態でこれだけの魔法を使える人間はいないよ?」
「へ?」
「カナコみたいに魔法が使える人間はこの世界にはいない、ってことさ。」
「断言するんだ…」
ザックがリックさんを見てる。
「兄さん、カナコに何処まで話していいんだ?」
「隠し事なく全部だ」
「わかった」
そうか全部教えてくれるんだ。
あ、穴、閉じておく?
「あの、穴、閉じますか?」
「え、出来るの?」
「たぶん、ね。いいかしら?」
「やってみて」
「じゃ」
穴閉じるんだね。
ヒョイっと穴閉じろっと!
ドーーーーーーン!
閉じたよ。
やったね。
「兄上…、ルミナスは化け物を買ったのですか?」
ふざけんな。
私はザックの頭を殴ってやった。
「いた!!」
「当たり前だ、乙女だぞ、私は」
マウンテイングだ。
私の方が位は上だ、上なんだ。
「すみませんね」
「わかればよろしい」
勝った!
清々しいぞ。
「で、ザック。私は何者?」
「えっと、少し確かめたいことがあるんだ」
「いいわよ」
リックさん、驚いてます。
「カナコ様、急に偉そうになられましたが…」
バレました?
「すみません、これが私の地です。やっと地が出せます」
「ハハハ…」
「兄さん、見た目はリリフィーヌ様で中身はおばさんですか?大変だな、これは」
「ザック、おばさんってどうなのよ?」
「あ、すみません」
躾けないと、こいつ。
「ところでカナコ、自分の限界を知りたくない?」
「限界って、何の?」
「魔法だよ」
「知りたい!」
「じゃ、後日、場所を用意するから待っててくれる?」
「いいよ!」
そうだよ、私の魔法ってどこまでできるのかな?
あ?もしかして?
「ねぇ、リックさん、魔法で元の場所に戻れるかも?」
「可能性はあるかもしれません。けど、止めててくださいね。カナコ様程の魔法を使える人間はルミナスにはいないので、いなくなられると困ります」
「え?私、役に立つの?」
「もちろんです、こちらからお願いしたいくらいです」
「じゃ、食べていける?」
「もちろんですよ、保障します」
「リックさん、嬉しい!」
やった!これで安心できるよ。
この世界で食べていけます。
私、上条加奈子、このルミナスで魔法使いやります!
私の心の声を聞き取ったのかリックさんが笑う。
いや、笑うといい男度が5割は増すね。
「カナコ様?」
「はい?」
「何度も言うようですが、貴女様はリリフィーヌ様のお体のままなのです。つまり、他人から見ると王妃殿下という事になります」
「はぁ…」
「なので、私のことはリックと呼び捨ててくださいませ。よろしいですか?」
「けど…」
「この城にはいろんな人間がおります。ささいなことでリリフィーヌ様ではないとバレてしまうのは良くないのです。お分かりいただけますか?」
なるほど、それは何となくわかる。
「良く、わかりました」
「やはり、カナコ様は聡明ですね」
聡明だなんて照れますよ?
リックさん、いや、リックは褒め殺しが上手い。
「それでは、私はこれで、失礼致します」
そういってリックが出て行ったよ。
改めてザックを見る。
同じ顔なのに、リックの方がイケメンって、不思議です。