59 あなざーさいど 5
ザックの視点、視点再び。
やっとジョゼに、カナコのことが、バレた。
これで安心だよ。助かったよ。
これ以上、ジョゼに嫌われたくないからね。
あの疑われた目で見られたら、ああー怖い。
ところで、カナコはジョゼが頼んでも、陛下には会えない、と言い張ったそうだ。
本当にカナコは強情すぎる。
参ったね。
しかしさすが、ハイヒット家の美人姉妹の片割れだ。
学院内を兄弟を探して歩いているだけで、噂が流れてる。
一番上のサーシャも美人だと思うが、マリーとエリフィーヌの2人は本当に絵になる。
背格好も似ていて、まるで双子のようだと言う者まで現れた。
私から言わせると、それは違う。
マリーの方が芯がしっかりしている。
フィーと呼ばれているカナコはどこか抜けている、聞かれたらおこるだろうなぁ。
そんな美人が妹とバレたジャックには、妹との仲を取り持ってくれるようにと男が殺到してる。
けれども、彼は面倒臭そうに、あしらっているらしい。
ジャックは私が学院に残すと決めた人物だ。
将来の私の後釜候補ってことになる。
彼は、魔量は少ないが、実は、癖を見抜ける人間なんだ。
口外はしないでくれ。
本人もまだ、気づいていない。
そんな事があるかって?あるんだよ。
私だってそうだった。
キッカケが必要なんだ。
だが、まだそのキッカケを示す時ではない。
まぁ私の場合、そのキッカケは余り良いものではなかったんだけどね。
ジャックの時は、良いことであるように、祈っているよ。
しかし、ハイヒットの兄弟は仲がいいね。
あれならば、カナコが陛下に会いたくないと言う筈さ。
で、この話は、彼の書いた論文を見て衝撃を受けて、学院に残そうと決めた頃の話だ。
そう、まだ、カナコのことが、ジョゼにバレる前のこと。
ジャックが私の部屋を訪れた。
「学院長、頼まれておりました書面です」
「ありがとう」
彼の仕事は早いし正確だ。
とても、優秀だ。
「ここに置けばよろしいですか?」
「ああ、そうれでいいよ」
私は彼に、冷たいジュースを勧めた。
美味しそうに飲んでくれて安心だ。
「ところで、ジャックの妹達は評判だね?」
「そうですかね?あれが美人だなんて、変な話です」
本当にそう思ってないようだ。
「ジャックは、そう思わないのかい?」
「思いませんよ、妹ですからね。それに、マリーは文句いいだし、フィーは変わってますから」
「一番下の妹さんかい?変わっているの?」
「ええ、あの年で陛下のことしか見てないですから」
家族がそこまで言い切るって、カナコ…。
「え?」
「変でしょ?」
「まぁ、そうだな。けど、どうして、そう思うんだ?」
「小さい時からなんです。家に飾ってある陛下の肖像画を眺めてブツブツ言ったり、陛下が結婚すると分かったら泣き出したり。本当に変な奴です」
「…、そうなんだ」
なんだ、会いたいんじゃないか。
相変わらず強情だ。
なんで、会わないんだろうか?また、強情を拗らせて間に合わなくなったら、どうするんだ?
「それで、その話を聞いた母方の祖父が、昔に一度、フィーを陛下に会わせたことがあったんですよ」
「え?会った??」
しまった、思わず大きな声を出した。
ジャックも驚く。
「学院長?」
慌てて、取り繕い、話を続けるように言う。
「いや、それで?」
「どうも、こうも、陛下にしがみ付いたままで泣き出してしまったそうで、祖父も慌てたらしいです」
「泣いたんだ…」
泣く程会いたかったんだ。
けど、陛下は気づけなかったんだな?まぁ、まさか、小さい少女がカナコだとは思わなかったんだろう。
「ええ、けど、なんで、こんな話を?」
「い、いや、美人の妹さんの話だ。聞きだろう?」
「そんなものなんですかね?」
「そうさ」
ところで、ジャックの祖父?誰だ?
「その祖父って、どなたかな?」
「スタッカード公爵です」
「あの…」
私の微妙な反応に、ジャックは、ちょっとはにかんだ顔をする。
「みなさん、祖父の名前を出すとそう言うんですが、私達にとってはいい祖父ですよ」
「いや、良い方だよ。ただ、ある意味、伝説だからな」
「あの頑固さは、妹達に受け継がれましたね」
「そうか…」
カナコは良い家族に恵まれたんだな。
私は、物凄く安心した。
いや、救われた気がした。
まだ、カナコの死が自分のせいであると思っているから。
それにしても、スタッカード公爵の孫娘か…。
ある意味、伝説。そして、最強の娘だな。
火落としの逸話は、ルミナスを震撼させたからな。
やはりカナコはカナコだ。
只者ではなかった。
それならば、早く陛下に会えばいいのに。
けれど、私もカナコに言ってないことがある。
カナコには、今の城のことは伝えてないんだ。
これはジョゼとも同意した。
今、情報だけを与えても、カナコにとっていい事は何もないからだ。
ただ、今の陛下のお姿だけは伝えたほうがいいんじゃないか、って私は思う。
それをこの間、カナコに伝えようとしたのだが、無理だった。
それを言うには、カナコは余りにも真っ直ぐすぎる。
その真っ直ぐさが、カナコなんだがな。




