55 あなざーさいど 3
アリの独り言という話。
あの少女は何者なんだろうか。
大体、だ。
太っていた頃の私は、もう、10年以上も前のことだ。
その事実をわずか11歳の少女がしる筈もない。
それでも、私は戸惑っている。
いや、私を痩せさせたあの一言を告げた方ならば…、と。
しかし、だ。
そうとなれば、生まれ変わりだ。
生まれ変わりなど、この世の中に、あるんだろうか?
そして、もし、あの方の生まれ変わりだとするならば、姉がどんなに喜ぶかを、私は知っている。
これを姉に告げるべきかどうか、私は悩む。
姉はあの方をまるで妹か娘のように大切に思っているのだ。
私と姉は2人姉妹だ。
姉が働きだした頃に両親が相次いで亡くなった。
それから、私は姉の稼ぎで育ててもらった。
私という存在が姉の幸せを奪うことにならないか、と私は心配していたのだが、無用だった。
私も姉も、人よりも背が高い。
その為になかなか出会いがないのだが、あの姉を口説き落とした人物が出てきた。
ザックさんだ。
彼は人当たりが優しい。
見ていると、2人はいつも喋っている。
飽きもせずに、ずっと。
一度、ザックさんに、姉のどこがいいのか、聞いたことがある。
「どこかな?もちろん、全部なんだけど、それでも足りないんだよね。ジョゼは素晴らしいから…」
惚気を初めて、生で聞いた。
幸せになった姉をみて、私は安心した。
私も幸せになれる、と思えたから。
姉は侍女としては大変に優秀だ。
普通ならば、侍女は一生で一つの家に仕える。
が、姉は結婚を機に、呼ばれれば短期間その家で勤めるという働き方を始めた。
それは姉が優秀だから成立したことで、どこの貴族からも引っ張りだこだった。
そして、姉の事が陛下の耳に入り、リリフィーヌ様がルミナスに嫁いで来られた時に是非にと城入りしたのだ。
普通は侍女くらい連れてくるものだが、なぜかリリフィーヌ様には、誰一人、アルホートからついて来なかった。
その時点で察することはできた。
姉も何度も忠告をしたり諌めたりしたが、聞き入れなかったそうだ。
リリフィーヌ様は自由に生きた。
私はそれを自由とは認めたくないが…。
そんな暮らしが1年も過ぎた頃。
ある時、私は姉から奇妙な話を聞いた。
リリフィーヌ様の中身が別人になった、と。
生まれ変わりではなく、入れ替わりだ。
まさか、と思ったが、姉の真剣な表情をみて、嘘ではない、と思えた。
その事を私に告げたのは、その方の服を私に仕立てて欲しいから、だった。
その方はカナコ様と呼ばれていた。
あの陛下が、リリフィーヌ様ではなく、そのカナコ様を愛しているとは驚いた。
リリフィーヌ様と結婚したかったのは、陛下の方だったと言うのは有名な話だからだ。
そして、カナコ様が私の店に現れた。
初めてお会いしたカナコ様は、リリフィーヌ様とは違った意味で自由だった。
周りに誠実であろうとしているし、なにより、陛下だけを愛しておられた。
その上で、自分を貫こうとしている。
当然、私も一度会っただけで虜になった。
なによりあの方は私を奮い立たせてくれた。
それは、何気ない一言だ。
『アリって器用だね』
『そうですか?』
『だって、お店にあった服はあんなに繊細でしょ?この手から生まれるって、凄いなぁ。どうやったらアイディアが浮かぶの?自分で試着できないのに凄いなぁ…』
私の体には、衝撃が走った。
私は太っていた。
あの頃の自分は、見てみない振りをしていたが、決して、美しい人間ではなかった。
それに、私は自分がデザインしたものを着たことがなかった。
恥ずかしい話だが、太りすぎていて、着れなかった。
だから、自分は体型を隠し、尚且つ楽な服ばかりを着ていた。
売るための服は、スタイルの良い人形で仮縫いし、目で見て、着ることもなく、提供していた。
しかしだ、それでは、駄目なのだ。
自分が創った物を自分が着ないでどうする?
着て初めて分かることだって、あるのだ。
着心地が悪い服など、着たくないものだ。
自分だってそうなくせに。
私はカナコ様に教えられた。
創り手が怠けてどうする?
その日から、私の創る服が似合うようになるべく、努力を重ねた。
が、食べることが唯一の楽しみであった私には辛い日々でもあった。
何度も挫けそうになり、実際、挫けてもいた。
ところが、だ。
カナコ様が、亡くなったのだ。
あんなに、幸せの絶頂にいた、あの方が…。
美しいお姿に、愛される喜びを纏ったあの方が…。
どんなにか、生きたかっただろうか。
どんなに、悔しかっただろうか。
そう思うと、こんなことで挫けている場合はなかった。
私は医師にかかり、専任のコックを雇った。
金に糸目をつけずに、努力した。
やがて、私自身が広告になったのか、私の店は以前とは比べ物にならないくらいに売上を伸ばした。
すべてはカナコ様のお陰だ。
だから、もし、あの方が生まれ変わりだとしたら。
生まれ変わる理由は一つだ。
カナコ様は陛下に愛されるために、この世に戻ってこられた。
何を迷っているんだ、私は。
私はご恩返しのためにも、姉に知らせるべきだ。
急いで、姉の元に行くことを決めた。




