5
白い美形と2人ですよ。
大臣さんがどこかに電話してます。
「ええ、ガーネットの間に。直ぐに持ってきて下さい。あと、ザックを呼んでください。ええ、同じです」
見れば見るほど美形の大臣さんですね。
白い髪が揺れてます。理知的です。
福眼です。ありがたや、ありがたや。
「ええと?なんと御呼びしたら良いでしょうか?」
「あの、名前をいってしまったら帰れなくなるとか、下僕に成り下がるとか、そんなのないですよね?」
「?」
そんな目で見ないで。
痛い人ではないんです。
「変なこといってます、よね?けど、なんかそんな設定もあったし…」
そんな設定の小説があったよね。
なんか酷いなぁと思ったの覚えているもん。
「設定?」
「え、いや、とにかくですね、名前をいって私に不利になることは無いですよね?」
「無いですよ。私が保証しましょう」
「えっと、大臣さん、お名前は?」
「これは失礼しました。私はリック・リトルボーダーです。この国の左大臣を勤めております」
こうだよ、こうこなくちゃね。
ようやく名乗りますよ、たいした名前ではありませんがね。
「私は上条加奈子です。あ、この場合は加奈子・上条になりますね。きっと」
「では親しい方々の間ではカナコと呼ばれらしたのですか?」
「はい」
「では、カナコ様。この国の事情をお伝えいたします。長くなりますから、食事しながらとなります。よろしいですか?」
「お願いします」
お腹、空いたなぁ。
食事ってどんなんだろう?
なんかヨーロッパっぽいからフレンチかイタリアかなぁ。
ピザもいいよ、お上品なスープも大歓迎。
ウエルカムよ。
侍女さんが料理を運んできた。
うんうん。
いい匂い、お腹がなるわぁ~~。
うん?
どうやら、フレンチではない。イタリアンでもない。
もちろん、和食であるはずがない!
これは…ン。
イングランド風朝食ですか?
イギリス????
わぁ~~~~。
「どうかなさいましたか?」
「あの、お聞きするんですが、この国って島国なのでしょうか?」
「よくお分かりになりましたね?」
「ってことは、フィッシュアンドチップスなんて料理があったりして?」
「うん?それは芋と魚のフライですか?」
「あ、そうです」
「民には人気の食べ物ですよ」
「うなぎはぶつ切りでゼリー寄せとかパイになります?」
「うなぎ?あの蛇みたいなヌルヌルしてる魚ですか?」
「ええ」
「あんなものを好んで食べるのは労働者だけですよ?確かにぶつ切りですが…。カナコ様、一体どこで?」
あ、なんか拙い方向へ行ったよ。
これは修正しないと。
私の拙い知識は出さないでおこうっと。
変な誤解は破滅の元だもん。
「島国っぽい料理だなぁと」
く、苦しいぞ。変な言い訳だ。
頼む、これ以上追求しないでくれ。
「なるほど」
大臣さん、いや、リックさんの目がキランと光った。
見なかったことにしようっと。
「それでは、お召し上がり下さい」
「はい、頂きます」
思わず拍手を打ってしまった。
日本人だもん。これは外せないよね?
リックさんは気づかない振りしてくれてます。
「さて、何からお話しましょうか?」
「えっと、この国のことですかね?」
「わかりました」
リックさんは親切に説明してくれた。
この国は、島国だそうだ。
島が3つ並んでいて島ごとに国になっている。
左端にあるのが、この国ルミナス。
真ん中がガナッシュ、右端がアルホートという国だそうだ。
一番大きいのがこのルミナスらしい。
人口も多いんだそうだ。
で、先日このルミナスの王デューク・シレン・ルミナスと、アルホートの王女リリフィーヌ・ジャンヌ・アルホートが結婚した。
緑の人と私の外見の人のことだ。
なのに私が現れたんだ、そうか…。
それは辛いだろうな…。
けど私のせいじゃないもん。不可抗力なんだよ?
で、この結婚、両端の国には良かったんだけど、真ん中の国ガナッシュにとっては都合が悪かったみたいだ。
リックさんによると、ガナッシュの王女のドリエールって人も緑の人が好きらしい。
で、リリさんに嫉妬中と。
「なので、リリフィーヌ様ではなく、カナコ様だと分かってしまうと、色々と良くないのです」
「そうでしょうね。そのアルホート国にも言い訳ができませんものね」
「さようです」
「はぁ、そうなると、しばらく私は、そのリリフィーヌさんの振りをしなければならないのしょうか?」
「飲み込みが早くて助かります」
なんて、無謀な話なんだ。
「けど、絶対にバレますよ?」
「なんとかしますよ」
「だって、目の色が違うのでしょう?」
「あ、赤紅と濃銀ですからね。けれども、リリフィーヌ様の魔量が尽きたときは濃銀になりましたから、大丈夫でしょう」
「はぁ」
私の頼りないため息に、リックさんの目つきが鋭くなった。
「やっていただかないと。ルミナスの命運が掛かってます」
「命運を掛けられても…、私はしがない事務員ですから…」
「じむいん、とは、なんでしょうか?」
「そうですね、リックさんは大臣ですからいろんな仕事をすると思うんですよ」
「そうですね、いろんな仕事を致します」
「その時に雑用が出ますよね?書類を整理したりお茶入れたり」
「はい、出ますね」
「その雑用をこなすのが仕事でした」
「なるほど」
「簡単な仕事です。誰でも出来る仕事ですから私じゃなくてもいいんです…」
そうだよね、私がいなくなっても誰も困らないんだ。
代わりの人だって直ぐに見つかるだろうし。
あ、そういえば営業の上田さん、いい人だったなぁ。
暖かくて優しくて顔は普通だったけど、結婚するならこの人がいいなんて思ってた。
ちょっとは脈あったのかな?
こうなるんだったら、後悔の無いように告白しておくんだった。
出来なかったけどね。
「どうしました?」
リックさんが覗き込むように私を見つめている。
「え?いや、ちょっと考え事を…」
私の気持ちに気づいてくれた。
「そうですね、不安でしょうね」
「不安ですよ、とっても」
そして、静かに言うんだ。
「カナコ様は元の場所に帰りたいですか?」
「ええ、今すぐにでも帰りたいです。だって、読みかけの本もあったし、ドラマの続きも気になるし。そうそう、漫画の最新刊、明日発売だったんですよ?ねえ、リックさん、続き気になるでしょ?」
苦笑いしてる。
だよね、次元低いよね。けど、それが私の生活だったんだ。
「そうですね。気になります」
「でしょ?それに、…」
「なんでしょう?」
「お母さんと喧嘩したままで…、まだ、謝ってないんですよ」
そうなんだ。ふて腐れて布団に潜り込んでスマホ弄ってた。
何やってんだろう、私。
もう33だっていうのに。お母さんの言うとおりだった。
子供だよ馬鹿みたい。
「それは、辛いですね?」
「わかります?」
「私も母を亡くしました。時々思います。なんでもっと優しくしてあげなかったのだろうとね」
「うっ…」
やだ、泣いた。
…、年のせいにしとく。
リックさんは無言で少しの間泣かせてくれた。
彼ははいい人だ。
ようやく落ち着いたよ。
「もう、会えないのかなぁ…」
「そうですね…」
そうだよね、リックさんだってわかんないよね。
「いつか、会えますよ」
「ホントですか?」
「ええ、だって、貴女も貴女のお母様も、死んではいないのでしょう?」
「そうです」
「なら、いつか会えます。そう思います」
そう言って微笑むんだ。
リックさん…。
私、ついていきます。あなたに。
なんてね。
けどね、そのくらい感謝してます。
「リックさんって、優しいですね」
「そうですか?」
「はい、なんか落ち着きます。良かった、リックさんがいてくれて…」
いやだ、そんなに見つめないで下さい。
「どうかしました?」
「いや、リリフィーヌ様のお姿でその声で、そう仰られると…」
「あ、変ですかね?」
「いえ、カナコ様は素直で面白い。一緒にいて楽しいです」
「私もリックさんと話せて楽しいです」
「それは、良かった」
少し落ち着いた。
安心できるって大切なんだな。
心が弱っているのかな。
優しさが身に染みるよ。