表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/192

44

6歳のある日のこと。

お母様が私とマリ姉ちゃんを呼んだ。



「お母様、なに?」

「貴女達に、お願いがあるのよ」

「なに?」


お母様のお爺様はルミナスでは有名な公爵みたいだ。

どの程度有名なのかは、怪しい。

何度あっても、ひょうきんなお爺様なんだ。


で、そのお爺様の遠い親戚の貴族の結婚式があるんだけど、私とマリ姉ちゃんにフラワーガールを、とのお誘いがきた。


「フラワーガールって、なにするの?」

「花嫁のベールを持ったり、お花の籠を持ったりするのよ」

「なんか、楽しそう」

「え?いいの?」

「もちろんよ、先方もね、是非にって仰ってるから」


お爺様の遠い親戚ならば、家とも遠い親戚なんだろう。

この位の年齢の女の子が私とお姉ちゃんしかいないから、声が掛かったんだろうね。


「綺麗なドレスが着れるの?」 

「そうよ、マリー」 

「美味しい料理がいっぱいある?」

「ええ、あるわよ、フィー」


私達姉妹は飛び跳ねて喜んだ。

喜びどころは全然違ったけどね。

まぁ、いいじゃん。






その日。

良く晴れた日になった。






こんな日に結婚できたら、いいな。

青い空、白い雲。


真っ白なドレスにブーケはピンクがいいな。

そしたら、デュークさんは照れながら言うんだ。


『似合ってる』って。


…。






「フィー!行くよ!」


お姉ちゃんの声がした。

正気に戻る。


冷静になれ、私。

今のデュークさんと、そんなことになったら、不倫だぞ。

もう、無理なんだぞ。


モラルに反することは出来ないんだぞ。


『モラル?』

『倫理感ですかね、人のモノを取っちゃいけないでしょ?』

『潔癖だな?』

『普通ですよ、私のいた世界では貞節を守るのは常識でした。でも、守らない人もいましたけどね』

『ルミナスもそうだ』

『なんだ、同じ。良かった』

『けど、王は何人側室がいても許される』


また、声を思い出した…。


なんでこんな時に、思い出す?

なんだよ、側室なんか1人もいなかったくせに。


忘れろ!

馬鹿な私、忘れるんだよ!



「マリ姉ちゃん、待って!」

「早く!」

「あら、あなた達、走るなんてはしたない!」

「ごめんなさい」

「ごめんなさい」


私達はまるで双子に見えるようだ。

同じドレスのせいだよね。


マリ姉ちゃん、綺麗だ。

私も多分綺麗なはず。


だって、皆が褒めてくれるもの。




式は一通り無事に終了。

私達も解放されて、好きにしていいことになった。


マリ姉ちゃんはお友達を見つけて消えてしまう。

1人、つまんない。


けど、仕方ない。

私は、美味しいものを食べよう。


パーティは外だ。

今日の天気は晴れ。だけど、そんなに暑くないから、良かった。

綺麗な庭園の中にテーブルがセットされて、美味しそうな料理がズラリと並んでいる。

メインから、前菜、スープ、パンや、デザート、果物!

全種類制覇は無謀かしら?


どれどれ、何から食べようかな?

あ、チーズ!ルミナスのチーズはワインに合うんだよな。

ジュースじゃ、違うな。

おいおい、枝豆があるじゃん。

サヤはないですよ、もちろん、既に剥いてあります。

そこんとこは、お上品なパーティですね。

飾りに使われているんだもん。


あ、そう言えば、あの時のピクニックはサヤつきだった。

あれ、王様が食べるのにサヤつき?

きっと、その方が美味しいってデュークさんが思ったんだろうな。

じゃ、私に美味しいもの食べさせようとしてくれたんだ。

優しいなぁ…。


…。



ああ、美味しい。

食べることに専念しろ?




その時だ。

大きな声が聞こえる。



「陛下のお出ましだ!」

「なんだって?」


え?嘘?

私は皿を持ったままで、固まった。

陛下って、陛下って?





どうやら私は会場の端っこで食べていたみたいだ。

人ごみで、様子が分からない。


それでいい。

いい、見ないでいい。

見たら、止まらないから。


「どうしたの?」

「あ、お母様」


何しにきたの?


「フィー、陛下に会いたくないの?」

「え?」

「お爺様がね、可愛いフィーのために、お呼び下さったのよ」


無駄な実行力。

どんな顔して、どんな態度で会えばいいんだ…。

てか、あのお爺様、そんな実力者だったんだ。

有名ってのは本当だったんだ。


「私は、いい」

「フィー?」

「いい」


お母様は決して無理に物事を進めない。

けど、お母様が起こした物事は、向こうからぶつかってくるんだ。

お爺様がこちらに来た。


「おお、フィー!」

「お爺様?」


その隣の男性は、ダレデスカ…。


「ほら、陛下だぞ?どうです、陛下、私の孫は美人でしょう?」

「スタッカード公爵。その通りだ。美人だな?」


あ、あの時より、ちょっと年取ったね。

髪伸ばしたんだ。似合ってるよ。

お願い、そんな、よそ行きの顔しないで。

笑って?ねぇ、あの時みたいに笑ってよ?

私だよ、私なんだよ?


きっと、今、私、引きつってる。

慌てて下を向いた。


「どうした?お会いしたかったんだろ?」


お爺様の馬鹿!


「フィーと言うのか?」


デューク、さん、だ。

目の前に、デュークさんが、いる、んだ。


「…、はい」

「可愛い名だな?」


デュークさんは大きな手で私の頭を撫でてくれた。

駄目だ、泣いちゃう。


私は大粒の涙を流した。


「どうした?」


デュークさんは少し慌てた。


「きっと、嬉しくて泣いているんでしょう。そうじゃな、フィー?」

「そうなのか?」


デュークさんはしゃがんで目線を私に合わせてくれた。


『俺を、この赤紅の俺を愛してくれ』


いつも目の前にいた、赤紅がそこにあった。

私を優しく見つめたデュークさんの瞳だ。


「そんなに俺に会いたかったのか?」


うん、会いたかった。

その為に、生まれ変わってきたんだよ?

会いたくて、会いたくて、会いたくて…。


もう駄目だ、我慢できない!


私はデュークさんにしがみついて泣いた。

でも、何も言わない、言えないから。

ただ、子供の力だけど、思いっきりしがみついて、泣いた。


だって、会いたかったんだよ。

それを願っていたんだ。


慌てたようなお爺様の声が届いた。


「陛下、申し訳ありません。こんなに取り乱すなど…」


私のしたいようにさせてくれたデュークさんは、優しい声で言った。


「スタッカード殿、いい。こんなに慕われると、俺も嬉しいからな。気にするな」

「なんと言ったらいいのか…。フィー?もうその位にしなさい。陛下がお困りだ」


そうだよね。ようやく私はデュークさんを離した。

けど、顔を見ることはできなかった。俯いたまま、小さい声で挨拶をする。


「…、はい、お爺様。陛下、申し訳ありませんでした…」


それが、精一杯だった。

それ以上は無理だった。


私は、その場から逃げるように走った。


そして、気づく。

デュークさんの服、私の涙でグチョグチョ…。拙いよね?

一度だけ、一度だけ、サラサラにしよう。

スペシャルバージョン、私の考えたデュークさんの香り付き。

一度だけ、いいよね?


立ち止まって、振り返って、私に背を向けてるデュークさんに魔法をかけた。


それから、慌てて、逃げた。

私は馬車に飛び乗った。


「先に家に帰るって、お母様に伝えて」


お母様の侍女は素直に頷いてくれた。

1人で家に帰る。


その日、家に戻った私は部屋から出なかった。






そして、何も起こらなかった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ