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4歳になったよ。
緑の髪はオカッパ頭にしてる。
結構お気に入りさ。
サー姉ちゃんのお陰で、一通りの生活魔法が使える。
やっぱり、基礎って大事。
でも、必死で隠してる。
だって、言葉もちゃんと喋れないのに魔法は、おそらくお父様よりも使えるなんて、バレルのはまだマズイ。
あ、フラッシュバック?
声が聞こえるんだよ…。
『離して下さい、ちょっとヤバイです』
『ヤバイってなんだ?』
『ドキドキするから、マズイです』
『どきどきすると、美味しくないのか?』
デュークさん。
ねぇ、私、ここにいるよ…。
て、あれから、もう何年経ったんだろう?
私のこと、覚えてるかな?
覚えてるよね?
自惚れじゃないよね?
私はね、忘れてないよ。
デュークさんに会いたくて、戻ってきたんだから。
だけどね、直ぐには行けない。
まだ、小さいし、それに今の家族が大好きだから。
我が儘で、ゴメンね。
1人、泣いた。
泣いたら、スッキリした。
とにかく頑張ろう!今しかできないこと、沢山あるんだから。
ああ、そうだった。
この年になって、ようやく兄弟の年がわかった。
サー姉ちゃんは11歳。
アンリ兄様は9歳。
ジャック兄ちゃんは7歳。
マリ姉ちゃんは5歳。
魔法学院は1年生は10歳から。
6年生まであって、そっからはいろんな進路に別れるみたいだ。
サー姉ちゃんは優秀だから、その次のクラスに行きたいと言ってる。
あ、学長は、やっぱり、ザックだった。
サー姉ちゃん、口利こうか?
なんてね、冗談だよ。
けど、そんなのはサー姉ちゃん嫌いだもんね。
アンリ兄様も来年は魔法学院に入学だ。
出来る姉の後って、大変だよ?
比べられるからね。
この日、私は、マリ姉ちゃんとお菓子を食べてた。
お母様は料理なんてしない。
お父様のお仕事を助けているから、そんな暇が無い。
これは、この家のコックが作ってくれたババロアだ。
口に入れるとプルンってする。
一つ一つが小さいから、私は3つくらい食べちゃう。
全部味が違うんだもん。
「まりねえちゃん、おいしいね!」
「フィーは食いしん坊なんだから」
「だって、おいしいよ?」
「まぁ、おいしいけど…」
マリ姉ちゃん、素直じゃないなぁ。
そこに、お母様が帰ってきた。
「ただいま、いい子にしてた?」
「してた!」
私はお母様に抱きつく!
だって、お母様っていい匂いがするんだもん。
「まぁフィーは甘えん坊ね?マリーは?」
「うん、フィーのめんどう見てたわ、お母様」
「さすが、お姉様ね?」
「うん!」
姉ちゃん、一緒にお菓子食べてただけじゃん…。
私の視線に気づいて、照れてるの。
マリ姉、可愛いよ。
本当に分かりやすいんだから。
お母様は何か包みを持っている。
なんだろう?
「ほら、お土産よ」
「なになに?」
「なに?」
お母様は包みを解いた。
肖像画だった。
そこには…。
嘘だ。
それは、デュークさんと知らない女の人の肖像画だった。
「ほら、陛下と今度御結婚なさる方よ。お美しいでしょ?」
そんなこと、聞いてないもん…。
私、知らないもん。
なんで?どうして?
「お母様、何処の方?」
「ガナッシュ国の王女様。ドリエール様よ」
いたよな、そんな女。
「でもね、お母様、前の王妃様の方が綺麗よ?」
マリ姉ちゃんが言った。姉ちゃん、偉い。
この家にはデュークさんとリリさんの肖像画がある。
だから、リリさんの顔を知っているんだ。
飾るのはお母様の趣味。
元貴族だからなんだろうか、この家には色んな肖像画が飾られている。
で、ルミナスの王の肖像画も何点かあるんだ。
それに気づいてから、私は誰にも見られないように、その肖像画を見ていた。
デュークさんたら、ちょっと怖そうな顔をしてるんだよ。
だから『そんなんじゃ、駄目じゃん。もっと笑ってよ?』って話しかけたりしてた。
「マリー、そんなことを言うもんじゃないのよ?前の王妃様を亡くされてから、ようやく、陛下が御結婚なさるの。それに、ドリエール様の初恋の方が陛下なんだから、微笑ましいでしょ?」
冗談じゃない。ふざけるな。
デュークさんは、私の初愛の人なんだ。
私が初めて愛した…、私の男なんだ。
そんでもって、私はデュークさんが最後に愛した女なんだ。
だって、だって、デュークさんが、そう言っただもん!
そう、最後に言ってくれたんだ…。
私は、声を上げるのも忘れて泣いていた。
その泣き方は4歳の泣き方ではない。
カナコの泣き方だ。
フィーを取り繕うことも忘れていた。
「フィー?」
あ、でも、止まらない。
「フィー、どうして泣いてるの?」
「フィー?」
言葉が出ない。
なんて言えばいいのか、わからない。
だから、私は部屋に逃げ込んだ。
1人になって、声を上げて泣いた。
ワァーーーーーーン!、ワァーーーーン!
どうして、どうして!
なんで私はまだ4歳なんだ!
なんでここにいるんだ。
なんで、見つけてくれないの?
こんな時に、いや、こんな時だから、声を思い出してしまう。
『カナコ、愛してるんだ。おまえも、俺を愛してくれ』
『ねぇ、デュークさん、本当に、私が愛してもいいんですか?』
『ああ、いい』
『嬉しい、私、愛しちゃいますよ?』
『それでいい』
そうだよ、言ったでしょ?
デュークさん、愛してるって言ったじゃん!
お前を愛してるって、言った!
獅子を猫にしたのは、私だ。
私を犬呼ばわりするのは、デュークさんだ!
連れて行ってくれるっていったくせに!
もう一つのとっておきの場所に、連れて行ってくれるって!
なのに、私じゃない女と結婚するんだ…。
生まれ変わったら、また会ったら、抱いてくれるって、言ったのに…。
けど、所詮、4歳だ。
まだ、たった、4歳なんだよ。
泣きつかれた。
眠たくなった。
そこへお母様が来る。
「フィー、大丈夫?どうしたの?」
本当の事を言っても信じてもらえない。
でも、言いたい。
デュークさんが好きだって、誰かに聞いてもらいたい。
「お、かあさま…」
「うん?」
「わたし、へいかと、けっこん、しかたかったの…」
「そうなの?」
「ずーと、おもって、たの、へいか、が、ね、…」
「陛下が?」
「すき、なんだもん」
「そう、お母様も知らなかったわ」
「だって、だれにも、いわなかった、もん」
「そう、我慢したの?」
あ、そう、我慢したよ。
いっぱい、我慢した。
「うん、がまんしたの、」
「偉いわね」
「うん、えらいもん」
「フィー、そんなに好きな方がいるなんて、素敵なことね。大切にしなさい。たとえ叶わなくたって、想うのはフィーの自由よ?」
「そう?」
「そうよ」
「うん」
「さぁ、涙を拭いて。お母様が本を読んであげる」
本か、まぁいいか。
「うん、ありがとう、おかあさま」
戻ったときには、その肖像画は無くなっていた。
お母様、空気読んでくれてありがとう。
変な4歳児でごめんなさい。




