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それよりも…。
今の私は、腑抜けだ。
「どうした?」
「立てません…」
「カナコだなぁ、仕方ない。掴まれ」
私はデュークさんにしがみ付いた。
軽々と抱えられる。
帰り際に、隣の部屋にいた2人に声を掛ける。
「ザック、ジョゼ、邪魔したな」
「陛下?」
「なんだ?」
「カナコ様のこと、お願いいたします」
「ジョゼ、すまなかった。おまえのお陰だ」
「お気になさらずに。私の忠誠は陛下とカナコ様にありますから」
「ありがとう」
ザックが私を見た。
「落ち着いたら、学院にくるんだぞ?」
「うん」
私達はいつもの部屋に戻った。
私はデュークさんに抱かれたままだ。
「立てるか?」
「うん、もう大丈夫」
下ろされた。
けど、デュークさんの腕は私の腰に置かれたままだ。
凄く近くにいる。
もの凄く、恥ずかしかった。
だって、デュークさんが私を愛してるって言うんだよ?
なんか、そんなのって、初めてのことなんだ。
この人生でも、日本の人生でも、生まれて初めてなんだよ?
考えただけで、顔が赤くなる。
思わず俯いた。
「どうした?」
照れ隠しに話を違う方向へ持っていくことにした。
「え?あの、デュークさん、今日はお仕事は?」
「こんな日に、仕事なんかしない」
こんな日って?
今日は一体、どんな日なんだ?
「へ?」
「あいつはアルホートへ送り返したし、今のところは急な用事もない」
「あの兄は生きてましたか?」
「あいつか?生きてた、残念だがな」
「じゃ、戦争にはなりませんね?」
「ならない、互いに魔物征伐でそれどころではないからな」
そうなんだ。
あ、赤紅の瞳だ。
やだ、見ないで。
「どうしたんだ?顔が赤いぞ?」
だから、見ないでよ?
「なんか、恥ずかしくて…」
「今さら、何を?」
今さらって、ね…。
「私、恋をしたことはあるけど、人を愛したり愛されたりしたことがなかったんですよ?」
わかってる?
「初めてなんです、いわれたことも、思ったことも…」
「カナコは、本当に初めてなのか?」
へへへ…、そうだよ。そうなんだよ?
だから、ド素人だって、言っただろう?
「日本の人がいった言葉があるんです」
「なんだ?」
「初恋があるなら初愛もあるはずだ、って」
「初愛?」
「初めて人を愛すること」
そうだよ。
デュークさんが、私の初愛の人だ。
「それは、俺のことか?」
どうしよう、照れる。
頷くんだ、本当だもん。
「…、はい…、って恥ずかしいよ」
「カナコの初愛は俺なのか?」
「うん、そう」
デュークさんが私を抱きしめた。
苦しいくらいに、抱きしめた。
そして、ゆっくりと離すと、私の瞳を見つめた。
「俺でいいのか?」
「だって、愛してしまったんだよ?」
「カナコ、おまえは、なんて凄いんだ」
「どうして?」
声は耳元で囁かれる。
「こんなに胸が震えた事はない」
「デュークさん?」
デュークさんの唇が私の唇に触れた。
本当に、震えてる?
「震えてる…」
「そうだ、体中が震えている。おまえが欲しくて、止められない。いいか?」
「うん、けどね…」
「わかってる、優しくする」
抱き上げられた私は、デュークさんにしがみ付いた。
離れたくない。
「カナコ、俺は何処にもいかないぞ?」
「いっちゃ、嫌だ」
「そんな心配するな、俺だけを見ろ、いいな」
「うん」
ベットに寝かされて、顔が近づいた。
「愛してくれる?」
「もちろんだ」
唇に触れる。
体が、熱くなる。
溶ける、余りにも熱くて、溶ける。
カナコ、と呼ぶ声が、遠くから聞こえる。
それよりも、デュークさんの指が、唇が、私の体に触れる刺激が、直接過ぎる。
体が反り返るくらいに、応えてしまう。
「あ、」
「俺に委ねろ…」
言われるがままに、私は私の全てをデュークさんに委ねた。
私の体中にデュークさんが刻まれていく。
もう、他の人では満たされない、私はデュークさんのものだ。
そう思うことが嬉しい。
「いいか、触れても?」
「いい、私に触れて…」
デュークさんが、触れた。
熱が加速する。
「熱いよ、ああ、」
「もっと熱くなれ、もっと感じろ」
「怖い、」
「俺がいる、抱いている」
「あ、あああっ!」
力が抜けた私をデュークさんが抱きしめる。
「綺麗だ、カナコ、俺を愛してるおまえが、綺麗だ」
「うん、愛してるよ?デュークさんだけだ」
「ああ、俺もおまえだけだ」
「来て?」
「いいか?」
「うん、今度は私が…」
ゆっくりと私の中に入ってくる。
あ、感じる。
「カナコ…!」
「あ、いい…」
「ああ、」
果てたデュークさんが私の上に落ちてきた。
熱い。
愛おしいくらいに、熱い。
「カナコ…」
「何?」
「こんなに熱いのは初めてだ」
「ほんと?」
「ああ、おまえは、最高だ」
嬉しい、愛おしい、好きだ、愛してる。
「デュークさん、愛してるよ」
「カナコ…」
デュークさんが私の髪を撫でてくれた。
大きな手だ。
「カナコ、まだ足りない」
「え?」
「まだ、お前を愛し足りない」
「デュークさん…」
「いいな?」
「うん、いい」
「今度はゆっくり愛するから、な」
「うん」
大きな手が私の頬に触れる。
「だから、キスしてくれ」
「私から?」
「そうだ」
「いいよ」
私はデュークさんの顔を引き寄せた。
唇が触れる。
そのまま、深みに嵌った。
愛の海は深い、そこが見えない。
覚えているのは、デュークさんの口づけと汗と指先と…。
私の体は全部、デュークさんのモノだってことだ。
私は、嬉しかった。
一体何時に寝たんだろう?
わからないんだ。
あ、ご飯、食べてない…。




