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私たちは寝室を出て、広い部屋に移った。
ここは居間みたいだ。
ゴージャスなことには変わりない。
まるでヨーロッパのお城の中の部屋みたいな煌びやかな室内。
落ち着きません。
日本人なら、畳に障子…。
和ですよ、侘び寂びですよ?
あ、いや、家は普通のフローリングでした。
現代の住宅でした、すみませんね。
この世界の椅子はビロードの布地。
手の込んだ模様です。
高いんだろうな…。
くどいようだが落ち着かない。
座り心地はいいけど落ち着かない。
だって、緑の人が睨んでいるから。
私は椅子に腰掛け、緑の人は窓の側で立って私を見ている。
いや、ため息ついて、睨んでいる。
美形で緑の髪して赤い目の人。
ちょっと聞いていいですかぁ…。
怒ってるんだろうなぁ…。
けど聞いちゃえ。
だって、わからないことだらけだもん。
「すみません、聞いてもいいですか?」
「なんだ?」
「その、リリって人も魔法が使えたんですか?」
「当然だろう?」
「じゃ、私も使えるんですかね?」
「やってみろ、無理だから」
「え?」
「目が赤紅じゃない。魔量が足りてないんだ」
魔量ってなんだろう?
魔法を使うためのエネルギーでいいのかしら?
ちょっと聞いてみようと、と…思ったけど、まだ睨んでる。
いや物凄く無愛想だ、怒ってる。
緑の人にはこれ以上聞けそうにない。
なんで、私、睨まれて怒られなきゃいけないの?
なんだかな…。
仕方ないけどちょっと真似してみるか。
この指でやっちゃえ、やっちゃえ。
あの壁に穴が開くか試そうっと
開いたら魔法で閉じれば良いんだしね。
ヒョイっと左の人指し指をクルクル回して、壁に穴開けと念じるよ。
はい!
バッコーーーーン!!
開いたね。
人間が10人程通れる位の穴が…。
私って凄い。
「おまえ、化け物か?化け物なのか?」
緑の人が思わずって感じでいう。
失礼な奴だよ、まったく。
「え?あなたが、やれっていうから、やったのに、酷くないですか?」
「魔量がないのに、なんで魔法が使えるんだ?ありえないだろう?」
「しりませんよ。大体、魔法が使えるって何なんですか?ファンタジーじゃないんですから、おかしいですよ」
「知るか!いいか、そこから動くな。今、人を呼ぶからな」
「まさか、捕まえて牢屋にでも入れる気ですか?牢屋は嫌です。私、悪いことしてませんから、お願いします!」
そうだよ、牢屋なんて嫌だ。
「五月蝿いな、なんなんだよ。リリはこんなに五月蝿くないんだ。リリと同じ顔してリリの服を着てお前誰だよ!」
緑の人は泣きそうだった。
そうだよね。この人の恋人がこの体の人なんだもん。
この人からみたら、私、悪い人だよね…。
うん、もう一回謝っておこう。
「ごめんなさい。大人しくします」
「分かればいいんだ」
「だから、牢屋だけは勘弁してください、お願いします」
思わず深々と頭を下げたよ。
一生牢獄なんて嫌だ嫌だ。
「心配するな、牢屋には入れない」
「ほんと?良かった!」
いやー、良かった。
少なくとも酷い目には合わないみたいだ。
ちょっと安心した私は、緑の人の観察を始めてしまいます。
改めて見ても、スマートだ。
いや~いい男。
髪は深い緑、マッシュルームカットでお似合いです。
白い上品なシャツの袖のボタンを留める仕草なんか好みです。
いや、所詮他人の男ですから、惚れません。
貞操観念はしっかりしてます。て、か、しっかりしすぎて彼氏なんていませんでしたから。
あ、赤い瞳っていいですね。赤紅って言うみたいです。
ワイルドな色気って言うんですか?ビジュアル系にはぜひいて欲しい人材です。
時々、疑うように私に視線をよこして、しばらく見つめた後ため息をつきます。
心の機微が読み取れます。
本当にリリという人じゃないんだと確認してる訳ですね?
これでも、小説を読むのは好きです。週1くらいで文庫本を読んでます、いや、読んでました。
あ、あの本の続きどうなったんだろう?
いいところだったのになぁ…。
もう、戻れないのかなぁ?
晩御飯、鍋だったよなぁ、美味しかった。
もう食べれないのかしら?
話を戻して。
緑の人は何処かに電話してます。
電話は固定電話ですね。
スマホはないのかな…。
「おい、」
「はい、なんでしょうか?」
緑の人に対する口調が上司に対する口調になってます。
仕方ないです。
私の人生を左右するのはこの人っぽいので。
「今から大臣がくる」
「だ?大臣!そんな偉い人に会うんですか?」
「はぁ?大臣だぞ?どこが偉いんだ?」
「えええ?大臣なんて、テレビでしか見たことないですよ」
「てれび?なんだそれ?」
あ、テレビがないんだ…。
「動く紙芝居の箱、です」
間違ってはいない。
合ってもいないだろうけど。
「ふーん」
緑の人は何度も私を眺める。
わかるよ、そうだよね。
急に中身が変わったって言われても、信じられないよね。
私だって、信じたくないんだ。
「リリは、いないのか?」
「いないみたいですね」
「何処に行ったんだ?」
「わかりません」
「そうか…」
緑の人は誰なんでしょうか?
「あの、貴方様は、誰でしょう?」
間抜けているが知りたいんだもん。
「俺を、知らないと?」
「すみません、なにせ、ここは初めてでして」
「おまえ、は、いったい?」
ええ、日本人ですよ?
ごくごく普通の、行き遅れの、これからも嫁ぐ予定のない、しがない事務員の女です。
アナタはいったい、私を、どうするおつもりですか?




