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起きた。
なんか、目が重いな。
結局泣きながら寝てしまったんだ。
寂しいな…。
だって、いつもの声がなかった。
馬鹿だよ。
当たり前じゃないか、いつもの部屋じゃないもの。
あ、そうなんだ、1人だ。
これからは、1人で、このルミナスで生きていくんだ。
どうしよう…。
しかも、着てる服はあのフリフリのドレス。
最悪だよ、まったく。
私、洋服を買うお金もないんだ。
ジョゼにお金借りるしかないよね。
ああーあ。
住む所はどうしたらいいんだろう?
治安って、いいのかな?
女の独り暮らし、大丈夫な世界なのかな?
どうやって、仕事見つけようかな?
なんか出来る仕事って、あるんだろうか?
考えてたら、不安が募るんだよね。
もうちょっと、不貞寝しよう。
あ、帰りたいなぁ……、デュークさんのところに…。
馬鹿か?私。
馬鹿です。間違いありません。
ドアがノックされた。
「カナコ様?」
「うん?」
「入っても宜しいですか?」
「うん…」
ジョゼはもう仕事モードだ。
自分の家のときぐらい、普通でいいのに…。
「おはようございます」
「おはよう、ってか、昨日はありがとう」
「気になさらないでください」
あ、朝だ。
腹が鳴った…。
ジョゼがちょっと笑う。仕方ないじゃん…。
「お食事に致しますか?夕べは何もお召し上がりになりませんでしたから、ね」
「うん、食べたい。いい?」
「もちろんです」
「けど、さ。私、もう王妃じゃないんでしょ?いいよ、無理しなくても」
「カナコ様?」
「だって、デュークさんに嫌われてるもの」
ジョゼが笑った。
「お腹が空いては、ろくなこと考えませんよ?さぁ、お食事にしましょう」
「はい、ありがとう」
素直に従う。
そうだよね、お腹空いてたらイライラするしね。
ジョゼの作ってくれた朝食はとっても美味しかった。
スクランブルエッグ、ウインナー、ふかふかのパン、オレンジジュース、サラダ!
ホテルのバイキング朝食みたい。
出来立てで、温かくで、心がホッした。
ザック、いいなぁ、いつもこんな朝食で。
そのザックのお喋りも、ありがたかった。
「カナコ、学院に来いよ。それだけの魔量だから、なんでも出来るし、給料も払うよ?」
「いい?本当に嬉しいよ!どうやって生活したらいいのかわかんなくって…」
「なら、学院が引き受けた。一緒に魔法を追求しよう!」
「いいねぇ!」
頑張ろうっと。
どこでも、生きていかないといけないもん。
戻ってきたジョゼがザックに声を掛ける。
「ザック、ちょっといい?」
「ああ、カナコ、ちょっと失礼するよ?」
「ええ、」
1人だ。
嫌だな、色々、考えごとするじゃん。
デュークさん、何してるんだろう?
1人で寝て寂しくないのかな?
いや、悦楽の館があるか…。くそ。
こっちは、悶々としてるのにな。
急に声がした。
「なに、間抜けた顔をしてるんだ?」
え?
振り返ると、デュークさんがいた。
なんで?
「へ?」
「食事は済んだのか?」
知らない、返事なんかしない。
「…」
「済んだのか、と聞いている」
なんで、笑うの?
ここは笑うところじゃないんだよ?
けど、返事しちゃう。
「済みました」
いきなり腕を掴まれた。
「帰るぞ」
「え?」
「帰ると言った」
「だって!」
「俺のところ以外、どこに帰るつもりだ?」
「だって…」
参ったよ。
なんでそんなこと、言うの?
色々と嫌なんだよ?
「リリさんの代わりは、もう、嫌だ…」
「誰が代わりだと言った?」
「いつもいった。リリになれ、っていった…」
どうして、そんなに優しい目で、私を見るの?
「それは、カナコに触れるのが怖かったんだ。俺なんかがカナコに触れたら、おまえが穢れそうだったから…」
「え?」
「知っているか?互いに魔法を掛け合うのは、愛しているということなんだ。キスよりも深い意味がある」
「嘘だ。だって、ジョゼも掛けてくれるよ?」
「それは親子の親愛だ。ジョゼもおまえも、お互いを家族同然と思っている。そうだろう?」
「まぁ、そうだけど…」
「そもそも、他人とは愛し合ってなければ出来ないんだ。互いが許し合っていなければ、魔法は掛からないんだぞ?」
「うそ?」
「嘘なんかじゃない。俺に魔法を掛けられるのは、俺が許した人間だけだ。この世界では、カナコ、おまえだけなんだ」
デュークさんは照れている。
だって、顔が赤いもん。
「俺はおまえがわかっていると思ってた。だから、言わなくてもいいと思ってた。けど、違ったんだな?」
「なに?わかんないよ?」
顎を掴まれた。
近いよ?物凄く、近いんだ。
「カナコ、愛してる。リリじゃない。おまえが、カナコが欲しいんだ。わかるか?」
え?????
今、なんていいました?
あなた、本気ですか?
「デュークさん?」
「なんだ?」
「私、ド素人の行き遅れの30過ぎの女ですよ、そんなこといわれたら、惚れますよ?」
「惚れていい」
ほんと?
我慢しなくても、いいの?
「後悔しませんか?」
「後悔などするか。カナコとの人生は退屈しない」
「デュークさん?…」
「なんだ?まだ足りないのか?」
「いえ、足りすぎて、どうしたらいいのか、わかりません」
「おまえらしいな」
そう言ってデュークさんは、私に深い口づけをくれた。
体の芯が溶ける、そんなキスを、だ。
「カナコ、愛してるんだ。おまえも、俺を愛してくれ」
「ねぇ、デュークさん、本当に、私が愛してもいいんですか?」
「ああ、いい」
「嬉しい、私、愛しちゃいますよ?」
「それでいい」
デュークさんの胸は大きくて温かい。
この胸に顔を埋めてもいいんだね?
デュークさんを独り占めしても、いいんだね?
嬉しいよ?
私、一生、ルミナスで生きていきます。
桁外れの魔法使いとして。
あ、アルホートと戦争になったら、前線に行った方がいいでしょうか?




